“大切なのは諦めない心。” ブレイブ・ハート 〜戦士よ、誇り高くあれ〜 四十:デス・ブレイク「これで役者は揃ったね」 ボールを奪い合う染岡と『ヒロト』を見ながら、ミストレが言う。「だけどバダップ、君体力全然戻ってないでしょ。残り少ない後半は乗り切 れても、その先は保証ないよね?」「ああ」「何か策があるのか。後半だけで勝負を決める方法が」エスカバが状況に気を配りながらも尋ねてくる。作戦会議の時間も無きに 等しい。だからバダップは言った。「二撃決殺。…これで決める」はっとしたように二人が顔を見合わせる。彼らには伝わった筈だ−−本来 ならばかの雷門戦で使うつもりで、しかし歴史への影響を鑑みて封じられた 必殺技。「…確かに、あの技ならディフェンス連中をまとめてブッ飛ばせるけど… …」 難しい顔になるミストレ。「でも…いいの、あれ雷門の前でやっちゃって。だって本来あの技は、雷門 イレブンがフットボールフロンティア世界大会で習得する筈じゃないか」オペレーション・サンダーブレイクの前に。雷門の過去・未来における試 合の様子を頭に叩き込んだ自分達。バダップも無論例外ではない。件の技は−−その雷門が主軸となった日本代表チーム、イナズマジャパン のオリジナルを拝借したものだった。破壊力、突破力。それはサッカーのみ ならず通常戦闘でも有用だと上が判断した為である。しかし。それは本来なら彼らが未来で、自力習得する筈のもの。パクった 自分達が先出しする事で大きく未来が変わってしまう可能性は否定出来な かった−−それも、良くない意味で。よって封印されたのだが。「円堂守は絶対的確定要素だ。忘れたか?」「そりゃそうだけど…」「それに」あの時とは状況が違う。円堂に関わる事象をいくら未来の自分達が引っ掻 き回したところで確かに過去は変わらない。だが、その代わりもはや彼らは 自分達にとって“赤の他人”ではなくなってしまった。悪影響が出るかもし れないと知っていれば二の足を踏むのも当然だろう。「それに俺は…俺達がどう動いて、未来がどう変わろうと。円堂達ならば乗 り越えられる…そう、信じている」 バダップは思う。 誰かを心から信じる。信頼し、信用し、大切なものを託せる。全ては円堂達と、オーガの皆が教えてくれた事。知る事ができた自分は本 当に幸せだ、と。「そうだね。…ここまで来たら、今更って気もするし」「腹括るっきゃねーか」苦笑気味に言うミストレとエスカバ。どうやら彼らも理解したらしい。他 に方法はない、という事も。「お前は病み上がり。俺らは満身創痍。失敗したら後はねぇ…そう思っとく べきだな」強大な敵と、体力の限界という壁が大きく立ち塞がる。だがそれを恐れて いる者は一人もいない。そればかりか、笑みすら浮かべている。 きっと、何とかなる。何とかできる−−自分達なら。「円堂!」 バダップは声を張り上げる。ゴール前にいる円堂に向けて。「俺達が必ず、決勝点を決めてやる」 それは、宣誓。 彼らへの。そして自分自身への。「見せてやる。我々オーガの本気をな!」ついこの間まで敵同士で。こんな風に手を取り合う時が来ようとは思って もみなかった。自分達はサッカーを悪だと教え込まれていたし、その元凶た る円堂を憎んでさえいたのだから。きっとあの時の自分達が見たらひっくり返るだろう。こんな馬鹿な事有り 得ないと否定するかもしれない。だが有り得ない筈の事が有り得たりする。起きない筈の奇跡が起きる事も あるのがこの世界だ。全てはそう、自分達の心一つ。 バダップは学んだ。そして今確信している。運命に自分達は試されているのだ。未来の為に−−戦う勇気を持てるかど うか。真の勝利者になれるかどうかを。「おう!」バダップの言葉を受けて、円堂がニカッと笑った。向日葵が咲いたような 笑顔で。「お前らなら“絶対できる”!信じてるからな!!」 ああ、今また。彼は無意識に魔法を使った。絶対できる。その一言だけで本当に、何とかできる気がしてくるから不思 議だ。「行くぞ!」「「サー、イエス、サー!!」」 バダップの声に、完璧に答える二人。染岡も粘ったが、ボールは『ヒロト』 に奪われてしまった。『ヒロト』がパスしたのは『ゴウエンジ』−−向こう も決める気だ。「エスカバ!」「了解ッ!!」 バダップの意図を瞬時に把握し、エスカバが『ゴウエンジ』の元へ走る。 自分達三人の脚の速さはさほど変わらない。ここで大切なのは数字ではない のだ−−どんなプレイを得意とし、どんな特徴を持っているか。スピードは同じだが、三人の中で一番小回りが効くのがエスカバだった。 さらに後の展開を考えればここでボールを奪うのは彼であるのが好ましい のである。「くっ…!」エスカバはショルダーチャージで牽制しながら、素早くターゲットの前方 に回りこんだ。『ゴウエンジ』の脚が止まる。エスカバの役目はボールを奪 うと同時に、彼を足止めする事にもあるのだ。時間稼ぎ−−自分とミストレが彼らを追い越し最前線に駆け上がるまで の。「邪魔をするな…!」「いーや、邪魔させて貰うぜ」 キッと睨みつける『ゴウエンジ』の眼も何処吹く風と流すエスカバ。「なぁお前…この試合に勝ってどうしたいよ?」「!?」 突然のエスカバの問いに、『ゴウエンジ』が戸惑うように眉を潜める。「復讐とか。憎しみとか。そういうのを否定するつもりは無ぇ。人の心は自 由だ。それを他人に決めつけられたり踏み込まれるいわれは無ぇからな」 だけどな、と彼は続ける。「お前らの…復讐ってヤツはどうしたら終わるんだ?終わったとして…そ の後どうしたい?絶対途方に暮れるだろ。お前らの話聞いてっと、未来への 展望ってのがまったく見えてこねぇんだよな」はっとしたような顔になる『ゴウエンジ』。きっと彼も彼らも、考えてこ なかったのだろう。否、考えられなかったのかもしれない。 復讐の後の、未来だなんて。目的を失った後どうやって生きるかなんて。「俺らにはあるぜ。この試合終わったらなぁ…」 ニヤリ、と笑うエスカバ。「俺らは間違ってねぇって、証明出来る!いつ処分されんじゃねぇかって怯 える事もねぇ…きっと堂々と表歩けるようになるんだ!そしたら、まずバダ ップをブン殴って…」ブン殴る、のくだりで思わず笑ってしまう。確かに、自分はみんなから一 発ずつは鉄拳制裁をくらわないといけないだろう。 でも、今はそれすら嬉しいと感じる。不思議な気分だ。「そんでまた…みんなでデケェ花火見て、サッカーすんだよ!やりたい事い っぱいありすぎて困るぜ」やりたい事。それがほんの些細な事でもいい。それだけできっと自分は生 きていける。力を貰える。「だから俺らは強ぇ。そんな力の無ぇお前らに負けるかよ!」『ゴウエンジ』の瞳が揺れる。揺れる。いつの間にか魔法は円堂だけの専 売特許ではなくなっていたらしい。人は望めばいくらでも魔法使いになれるのだ。黒き魔術師にも、白き魔術 師にも。−−準備、完了。自分達が計算された位置に着き、バダップが心の中で呟くと同時に。それ を図ったがごとくエスカバが必殺技を放っていた。「デーモンカット!」蹴り技と同時に地面から吹き上がる黒いオーラ。それはある者には闇色の 焔に見え、またある者には巨大な悪魔の顔に見えただろう。エスカバの言葉に動揺していた『ゴウエンジ』は、あっけなく吹き飛ばさ れた。それでも受け身をとって転倒を免れたあたり流石だが、ボールは既に エスカバに渡っている。「バダップ!」パスが通った。バダップはボールをトラップし、頷く。魅せてやればいい。 自分達の、本当の力。本物の強さというヤツを。「ミストレ!」「オッケィ!」バダップとミストレは、同時にボールへ向けて蹴りを繰り出した。凄まじ い力の奔流。紫色のオーラがボールを中心に集まり、渦を巻いていく。その光に魅力された己に気付いた時はもう遅い。バダップは囚われた者達 に向けて、高らかにその技を叫んだ。「キラーフィールズ!!」 悲鳴を上げて、イービルダイスのディフェンスメンバーが何人も吹き飛ん だ。光が弾け、竜巻のように相手フィールドを襲う。手加減した為物理的な 怪我は大した事もないだろうが、暫く目が光にやられた上の脳震盪で動けな い筈だ。残ったのはGKの『エンドウ』のみ。その『エンドウ』の唇が動いた−− そんな馬鹿な、と。「絶望に堕ちた者よ…覚悟するがいい」 さぁ、勝負をしよう。 既に結末の見えた勝負を。「これがお前が捨てた…俺達のサッカーだ!!」 ミストレとエスカバと共に。バダップは宙へと舞い上がった。束の間の風 の中、面白いものだ、と思う。サッカーを捨てろ。自分があの試合で繰り返し円堂に向けて叫んだものだ った。計画通りにいかない苛立ち、初めてと言っていいかもしれない挫折。 植え付けられた憎悪と憤怒に任せて−−ああそれは、イービル・ダイスの彼 らに通じるものがあるだろう。 立場はひっくり返ったが、同じだ。 望まずして悲劇のレールを走らされた彼らと。 知らず知らず大人達の強いた道を歩かされていた自分は。あの試合の中。何度倒れても立ち向かってくる者ほど恐ろしいものはない −−あの時円堂と戦って痛感させられた。負けない強さより、負けて立ち上 がる強さの方が貴い時もある、と。 今、思うのである。サッカーを捨てろと叫んだ自分が。円堂達が捨てなかったもののおかげで 生き長らえている。彼らはサッカーを捨てなかったからこそ今がある。イー ビル・ダイスのメンバーは彼らのサッカーにおいてとても大切なモノを−− 幸せになる為に前を向いて戦う勇気を−−忘れてしまったから、絶望に溺れ てしまった。それでも完全にサッカーを捨てきれなくて此処にいる。全ては、必然。自分達が、あの試合に負けて良かった。円堂達がサッカー を捨てずに戦ってくれて本当に良かった。その結果が今、この場所に在る。「デスブレイク!!」 まるで歯車が噛み合うように、今という瞬間に導かれた。今の自分ならば、 闇に堕ちた彼らに言える。「サッカーを、捨てるな」 それは、君達の誇り。「それは君を…君達を幸せにする魔法なのだから」放たれた、三人の連携技。オーガ最強のシュートを前に、一瞬怖じ気づい て−−しかし『エンドウ』は射殺すような眼でそれを見、構えをとった。「イジゲン・ザ・ハンド…改ッ!!」 土壇場で技を進化させた『エンドウ』。叩きつけた手を中心に発生した衝 撃波のバリアが、シュートを阻む。だが、バダップは分かっていた。心を揺らしているのは彼も同じ。彼もか かり始めている−−円堂の、自分達のサッカーという、魔法に。 ガラスの割れるような音。それはまるで心の壁を破るような。黄金のバリアは粉々に砕け散り、シュートはゴールネットに突き刺さっ た。 NEXT |
死を、破壊。