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 懺悔します。
 私は平和を愛しました。私は未来を愛しました。
 だから私は殺しました。全てを鳥篭に閉じ込めました。
 それが護る事だと、信じていました。
 
 そして一枚、その羽根をもぎました。
 羽根をもがれた蝶は地面に落ちました。
 地べたに這い蹲り、それでも彼はもがいていました。
 
 
 
 
 
野薔薇が僕等の世界と繋ぐ4
〜混沌よ、崩れるなかれ〜
 
 
 
 
 
 過去のカオス神殿。そのエリアの一角に、カオス陣営のホームはある。
 普段は結界が張られている上、イミテーションが護りを固めていて近付く事す
ら危険なその場所。しかし今は−−。
 轟々と唸りを上げる火の手に包まれ、屋敷からは生きてる者の気配がしない。
あちこちに、イミテーションの残骸と思しき硝子片が大量に散らばっている。
 虚ろな紛い物の瞳。その一つと目を合わせてしまい、ティナは即座に後悔した
。
 何故。
 どうして。
 首と肩だけ残して砕けた“かりそめの獅子”−−その眼が、泣きながら訴えて
いるように見えたから。
 
「何が…起きてんだよ…!?」
 
 ティーダが呆然と呟く。
 
「一体誰がこんな事…」
 
 三人が三人とも混乱していた。自分達は戦争している。それを考えれば、どち
らかのベースが壊滅するような事態も有り得なくはない。だけど。
 自分達はほんの少し前まで、呑気にお菓子を食べていつものように喧嘩してい
た。そんな馬鹿馬鹿しくも当たり前な日常だった筈だ。スコールとクラウドを除
けば全員がベースにいたわけで、カオスの陣地に攻め入れた筈もない。
「まさか……クラウドかスコールが?」
「マジかよ!?」
 可能性としては−−低くない。この場合スコールではなくクラウドの方だろう
。正気を失ったまま、犯人を捜して屋敷に来て−−カオス陣営の誰かと戦闘にな
ったとしたら。
 いや、いや−−待て。
 そもそも、セフィロスを殺したのは誰なのか。クラウドである可能性も無くは
ないが−−正宗がなくなっていた理由が説明できない。それに、あの死に方にも
疑問が残る。
 もしかしたら、カオス陣営の方でも何か異変が起きていたのかもしれない。連
中が一枚岩で無い事はなんとなく気付いていた。安易な発想だが、仲間割れ−−
という可能性もなくはない。
 駄目だ、情報が少なすぎる。
 クラウドとスコールは何処に消えた?
 誰がセフィロスを殺した?
 誰がカオスの屋敷に火を放った?
 
「……クジャ!?」
 
 立ち尽くしていたジタンがハッと目を見開く。そして突然、燃え盛る屋敷の中
に飛び込んでいってしまった。
 
「クジャ!何処だ!クジャ−−ッ!」
 
 兄の名前を叫びながら。
 
「ジタン!駄目っ!」
 
 慌てて制止したが、間に合わなかった。伸ばした手は盗賊の尾を掠めただけで
終わる。ジタンの足は早い。あっという間に見えなくなってしまった。
 そしてティーダも−−。
 
「お、オヤジ!」
 
 父の存在を思い出したのだろう。火の粉が肌を焼くのも厭わず、駆け出す。
 
「ま、待ってティーダ!バラバラになったら…!」
 
 この時ほどティナは自らの鈍足を呪った事はない。今度すぐにティーダの後を
追ったが−−がむしゃらになって走り出してしまった彼に、ティナが追いつける
筈もない。運動能力の差は歴然だった。
 既に火の海になっている屋敷の中。煙のせいで視界も悪い。ティーダの姿もジ
タンの姿も見失ってしまい−−しかし途方に暮れている場合ではなかった。
 二人とも冷静さを失っている。自分が何とかしなくては。二人を連れ戻し、ク
ラウドの事も探し出す。やるしか、ない。
 
「ジタンっ…ティーダ…返事して…!」
 
 煙に蒸せながら、そして足元の瓦礫に気をつけながら歩を進める。
 その時、無線が大きなノイズ音を発した。連絡が入ったと気づき、ティナは慌
てて無線を取り出す。今連絡して来るとしたらフリオニールしかいない。そうい
えば、衝撃的な出来事が立て続けに起こったせいで、定時連絡をすっかり忘れて
いた。
 
『連絡はちゃんとしろって言っただろうティナ!』
 
 ややノイズ混じりに響いて来る義士の声は、怒り半分呆れ半分だ。明らかに自
分達に非がある。ティナは素直に謝った。
「ごめんなさいフリオニール。実は…大変な事になってるの」
『大変な事…?何があったんだ?』
「かいつまんで話すわ。時間が無いの」
 ゆっくりと歩き出しながら−−安全面からすればあまり誉められた行為ではな
いのだが、やはり焦りはある−−簡潔に今の状況と予測された事態を説明する。
 クラウドとスコールが依然行方不明な事。セフィロスの遺体を発見した事。カ
オス陣営の屋敷から火の手が上がっている事。ジタンとティーダの二人が、身内
を捜して先走り、見失ってしまった事−−。
 
「……ッ!」
 
 ティナの足が止まる。膝から崩れ落ちそうになり、どうにか壁に手をついて耐
えた。涙が出るのは恐怖と悲しみだけではない。混乱しすぎて−−パニックが限
界を超えようとしているからだろう。
 どうにか、そこまでは冷静に判断できた。できたけども。
 ああ−−どうすれば、いいのか。
 
「……報、告…。今…見つけた…」
 
 喉が引きつる。どうしよう、すっかり涙声だ。ちゃんと伝えられるのか。
 
「ケフカと、暗闇の雲が……死んでる……!殺されてる…!」
 
 一階のホール。そこで、二人が倒れている。暗闇の雲はケフカを大事そうに抱
きかかえて事切れていた。ケフカはその腕の中で冷たくなっている。
 炎のせいで焼け死んだわけでも、煙に巻かれて死んだわけでもないのは明白だ
。ケフカはこめかみに魔法矢を突き立てられて即死しているし、暗闇の雲は同じ
凶器が背中に大量に突き刺さっている。
 赤い絨毯の上でも分かるほど、夥しい血。焦げ始めた臭いと鉄臭さが混じり、
ティナは思わず口元を押さえた。
 ケフカが死んだ。その事に感傷を感じる余裕すらもはや失われている。ギリギ
リのところで理性を保ちながら、フリオニールに見たままを報告した。
 あの魔法矢には見覚えがある。自分も戦った事があるから分かる−−あれは、
アルティミシアのものだ。
 
『……思った以上に、とんでもない事になってるらしいな。…ティナ。落ち着い
て聞くんだ』
 
 落ち着いて。それは多分、自分自身にも言い聞かせているのだろう。息を一つ
ついて、フリオニールは言った。
『十分だ。ティーダとジタンとクラウドとスコール…誰も見つからなくても、十
分たったらその場を離れろ。それ以上長居するのは危険だ』
「で、でもっ…フリオニール…」
『ティーダ達を見捨てるつもりはない。こっちから応援を出すって言ってるんだ
。君は屋敷から離れたら、辺りを調べてこっちに一回戻って来い。詳しい話も聞
きたいし。ティーダ達だって立派な戦士なんだ。炎の中に長居するのが危ない事
くらい分かってる筈さ。君より先に自力で脱出するかもしれない』
 それは口実だろう、とティナにも分かった。自分を危ない目に遭わせないよう
に言ってくれているのだと。
 同時に、非情なようだがフリオニールはけして間違った事は言っていない。ミ
イラ取りがミイラになっては本末転倒なのだ。二次災害は少しでも防ぐべき。
 分かっている。分かっているけど。
 
『…見捨てるつもりなんかない。見捨てたい筈がない。…信じてくれないか、テ
ィナ』
 
 ティナの迷いを見抜いたのか、フリオニールが言う。静かに、しかし強い声で
。
 
 
 
『俺の夢は…野薔薇の咲く世界は。みんなで見なきゃ意味ないんだ。誰一人欠け
たっていけない。俺は…ティーダ達にも、君にも欠けて欲しくないんだ』
 
 
 
 一人で見る夢じゃない。だからこそ意味があるんだよ、と。
 義士は語りかけてくる。力強く、それでいて慈しみをこめながら。
 
『俺が必ず、助ける。“みんなで”見る夢を守り抜く。…だから君も、今君にで
きる精一杯をして欲しい』
 
 唇を噛み締めるティナ。伝わる、温かくて強かな想いが胸に響く。フリオニー
ルが心からその想いを貫こうとしているのが分かる。
 だから。
 
「…分かった」
 
 自分は、自分にできる精一杯を。
 
「十分で…みんなを見つけ出せばいいって事だね…」
 
 フリオニールが皆と見る夢を護るなら。
 
「未来を…私が護ってみせる」
 
 自分は、皆と生きる未来を護る。
 
 
 
 
 
 
 
 ジタンは走っていた。時折足下に転がる瓦礫や、イミテーションの残骸や−−
死体に躓きながら。
 そう、死体。
 ゴルベーザが死んでいた。戦いに巻き込まれたのか、煙に巻かれたのか−−多
分、前者だろう。兜が一部砕けて、茶色い髪が覗いていて。そこから血が流れて
いた。
 セシルの兄だからというだけじゃない。いつも彼には世話になっていた。カオ
ス陣営でありながら、迷った時は道標になり、皆を導いてくれた優しい人。なの
に、その素顔すら見たことがなかった事に今更気付く。
 
−−礼の一つすら、ろくに言ってないじゃねぇか。
 
 後悔しても遅いのに。時間はけして、戻らない。
 
−−畜生…セシルに何て言えばいいっ…!?
 
 やや異常なほど、依存し合った兄弟。幸せに見えてどこかが捻れた愛情。天秤
のごとく、どちらが欠けても成り立たない二人だと、ジタンは気付いていた。自
分とクジャの方がまだバランスがとれているのではと思うほどに。
 兄を溺愛しているセシルがどれだけ悲しむか。もしかしたらクラウドのように
壊れてしまうのではとすら思う。
 悲しくて仕方がない。誰かが死ねば、死者も生者も皆悲しい。ならば戦争なん
て起こさなければいいものを−−どうして人は争いをやめられないのだろう。
 この戦いだってそうだ。何故カオスとコスモスは争わなければならなかったの
か。どうして自分達は身内と殺し合う羽目になったのか。
 今まで押し殺してきた疑問が次々と溢れ出る。今更真実を知ったって、遅すぎ
るかもしれないけれど。
 自分達はただ。ただ生きたかっただけなのに。誰もがそうだった筈なのに。
 どうしてそんな当たり前な事が赦されない?
 
「クジャ!いるなら返事しろっ!」
 
 叫ぶ。叫びがら、崩れかけた階段を駆け上る。飛び散る火の粉が熱くて仕方な
い。肌が焼けそうだ。
 
「俺だ、ジタンだ!助けに来たんだ!!」
 
 助けに。ああ、そうだ。助けたいんだ。あの時のように−−また。
 間違えてばかりだったかもしれない。クジャも自分も、種類こそ違えど大きな
罪を犯したのかもしれない。
 だけど。自分達は確かに、兄弟として生まれた。家族として生まれる事ができ
たのだ。それはきっと何物にも代え難い奇跡のようなモノで。
 憎まれていた理由を、今やっと思い出す。そうやって憎むしかできない己の弱
さを、クジャ自身が誰より悔いていた事も。
 兄が思い出していないなら。自分は憎まれたままかもしれない。
 それでもいい。助けたい。今度こそ一緒に生きたい。奪われてしまった時間の
分も、残された僅かな時間も。
 やっと、兄弟に戻るチャンスを与えられたのだから−−!
 
「クジャッ!?」
 
 屋敷の屋上に出た。そこはまだ火が回ってきていない。それも時間の問題だろ
うが。
 クジャが倒れている。血の海の中で。ジタンは叫びながら走り寄った。ジタン
に気付いたクジャが、倒れたまま手を伸ばす。虚ろな目でジタンを見て−−涙を
流して。
 
 
 
「ジタン…ごめん、ね」
 
 
 
 その手がゆっくりと−−地面に落ちた。
 
 
 
 
NEXT
 

 

燃え盛る憎悪が、全てを呑み込んでいく。

BGM
『Requiem for XXX』
 by Hajime Sumeragi