この世に偶然は無い。 在るのは必然、だけ。 One Night DreamT それは、ティーダがこの世界の真実を知る−−随分前の物語。 場所は秩序の聖域エリア。「吹っ飛べ!」 ティーダが繰り出すスパイラルカットを、ジェクトはギリギリのところで大剣を使って受け流す。舌打ちは二つ。ティーダは内心で派手に毒づいた。相手がジェクトであるせいもあるが、こんなに苛立たしい戦いをしたのは初めてかもしれない。「ちくしょうっ!」 どういう経緯だったか−−とにかくティーダとジェクトは、戦場のド真ん中にいて戦っていた。理由は、要らない。親子だろうと敵同士ならば関係あるまい。 そもそもはクジャとジタンが戦っていた場所に、自分とジェクトが双方の援軍に来たのだ。その二人はていえば既に力つき、聖域の水に体を浸してぐったりしている。 水辺を染め上げる赤。二人の身体から流れ出る血潮は止まる気配がない。一刻も早く治療しなければ命に関わる事は明白だった。だが、生憎自分もジェクトも魔法はからっきしの剣士タイプ。そして自陣に仲間を連れ帰るには−−目の前のその男を、倒さなければならない。 ティーダは焦っていた。多分ジェクトも。このままでは大事な仲間が死んでしまう。助けたい。でも、焦りのせいか思うように力が出ず、ズルズルと戦いは引き伸ばされるばかりだ。 本当なら。潔く撤退を選べば済む話なのかもしれない。しかし敵が敵。親子は揃って超のつく負けず嫌い。このまま背を向けるにはどうしてもプライドが許さないのだ。 どうすればいい。焦れば焦るほど過ぎる時間。混乱しつつある思考。どうすれば。どうすれば。どうすれば。ぐるぐるぐる。 そんな時だった。「!?」 突然、頭の上から降って沸いた光。あまりの眩しさに顔の前を覆うティーダ。一体何が起きたのか。 条件反射で飛び退いた親子の間に、ドサドサと重い音が積み重なる。さらに続いて小さく響くは幼い悲鳴。 やがて眩しいばかりの光が収まった時−−目の前の光景に、親子は揃って絶句したのだ。「痛…っなんなんだ一体」 「吹雪鬼道重いっ!お願いどいてー!死ぬー!!」 「わっ…ごめん円堂君!大丈夫!?」 突然何もない空から落下してきたもの。それはなんと−−三人の小さな子供達であったのだ。見た目からして多分オニオンと同じくらいの年の。 戸惑っているのはあちらも同じのようだ。自分達が見慣れない場所にいると気付いたのだろう。どこか訝しげに顔を見合わせ、さらには常ならぬ様子で対峙しているティーダとジェクトを見比べた。 一番最初に動いたのは、明るい茶髪のドレッドヘアーにゴーグル、青いマントという奇抜な格好をした少年だった。「あなた方は…どちら様ですか。それにこの場所は…?」 ティーダもジェクトも、その手には剣を握っている。丸腰の−−それもどう見たって戦士には見えない−−子供からすれば、警戒されるのは当然だ。 だが、警戒といえばこちらも同じ。どちら様だって?こっちが聞きたい。何故突然宙から降ってきたのか?一体誰なのか?何の為にやって来たのか? もし彼らが、コスモスかカオスの呼んだ新しい戦士だとしたら−−。「ああっ!」 別の、ボールを持った銀髪の少年−−顔立ちだけでは分かりにくいが声の高さから察するに−−が、突然驚きの声を上げる。今度は何だ。彼の目線の先を辿るより早く、少年は走り出していた。 瀕死の傷を負い意識を失っている、クジャの元に。クジャと、少し離れた場所で倒れているジタンを見て、銀髪の少年は泣きそうに顔を歪める。「この人…酷い怪我だよ!そっちの子も……このままじゃ死んじゃうよっ!!」 「ほ、本当だ!」 最後の一人−−焦げ茶の髪にオレンジのバンダナの少年が、真っ青な顔で駆け寄っていく。 ティーダは唖然としていた。目の前には剣を持ち殺気立った男が二人。見知らぬ土地にたった三人だけで放り出された子供達。 それなのに彼らは−−本気で、見ず知らずの他人の怪我を気にかけている。「…今がどういう状況かは存じ上げませんが」 やがて、最初に喋ったドレッドヘアーの少年が口を開く。「彼らを助けるのが最優先ではないのですか?見たところそちらの方とその方、こちらの方とこの方は味方同士でらっしゃるのでしょう?」 どうやら瞬時に状況を判断したらしい。ジェクトとクジャが味方同士で、ティーダとジタンが味方同士。立ち位置から予測できたのだろうが−−まったくその年でなんと落ち着き払っていることか。「近くに病院は?医師はいないのですか?少なくともベースに戻って応急手当くらいできるでしょう?」「で…でも…」 「双方怪我人を抱えて、このまま戦闘行為を続けても百害あって一理なしと考えますが」「だ、だけどよ」 いや、正論なのは分かっているのだが。険しい表情で睨みすえられて言葉に詰まるティーダ。ジェクトの顔も似たようなもの。 つい互いに睨むような視線を向けてしまうのはどうしようもない。 そんな優柔不断な自分達に、ついに少年が一喝した。「いい加減にしなさい!仲間の命より大事なものがありますかっ!?くだらない意 地の張り合いは時と場合を選びなさいっ!!」 あらゆる修羅場には慣れている筈のティーダとジェクトがつい気圧される勢いで。鬼道怖ぇ、と呟きつつも、慣れているのかオレンジバンダナの少年は大して驚いた様子もない。 もう一人の銀髪少年に至っては、血まみれのジェノム兄弟を前に、どうしようどうしようとオロオロするので一杯一杯になっている。 どうしよう、と頭を抱えたいのは自分の方だと言いたい。いきなりすぎるこの状況、どう見たって自分の手に余る。 ただ一つ確かなのは。既に自分達に選択肢は無いっぽいということ。「……はい…」 撤退、決定。さっきまでの闘争心が一気に霧散してしまっていた。ここはあの少年の言うとおりにするしかないっぽい。逆らうのがなんか怖い。 それはジェクトも同じだったようで−−クジャを抱き上げて、盛大にため息をついて言った。「親子喧嘩はまた明日…だなぁ」 早い話。トリップ、という奴なのである。ティーダがコスモスの屋敷に連れ帰った三人の子供。その話を聞いて、ティーダはそう結論を出した。 茶髪にドレッドヘアー、ゴーグルをつけた少年の名前は、鬼道有人。 銀髪青目の、ほわほわした可愛いらしい顔立ちの少年の名前は、吹雪士郎。 焦げ茶髪にオレンジのバンダナの、元気の良い少年の名前は、円堂守。どうやら彼らは“日本”という国の“東京”という街の、学生であるらしい。 年は皆同じで十四歳。そこでサッカーというスポーツをやる部活動に所属しているとのこと。 つまりは、戦いとは完璧無縁な、一般庶民の子供達である。 それが−−ある日、彼らの世界に侵略者が現れて。何故だかサッカーでの勝負を挑んできたので−−全国大会優勝校であった円堂達が、侵略者“エイリア学園 ”と試合をする事になったそうな。 「で、そのエイリア学園の一チームとの試合前、北海道の白恋中…って学校のグ ラウンドでウォーミングアップしてたんですけど」 そしたらいきなり、空から降ってきた謎の発光体。すわ、落雷か、と身構えて次の瞬間には−−この世界に飛ばされてました、というのである。 これをトリップと呼ばずしてなんと呼ぼうか。「コスモスが新たに呼んだ戦士が…この子達なんじゃない?子供だけど、それを 言ったらオニオンだってまだ幼いわけだし」 三人をソファーに座らせて、周りを取り囲む多数の大人達。なんかちょっと怖い図であるが致し方ない。幸いなのは、歓迎の仕方が良かったのかあちらが冷静なのか、彼らが落ち着いて話を聞かせてくれた事だ。 セシルの言うことも一理ある。というか、それが一番自然な気がする。 そもそも召喚された戦士達は皆、ティーダも含めバラバラの次元から呼ばれてきたのだ。さらにコスモス軍は今極めて劣勢にある。援軍として新たな戦士が召喚されてきてもおかしくはない。「だが…彼らは戦闘訓練も何も受けてない、普通の学生だぞ?」 そこにクラウドがまた至極真っ当な指摘をする。「ただスポーツが得意なだけの子供を援軍に呼ぶのは…おかしな人選じゃないか ?我々は皆、多かれ少なかれ武器を握った経験のある者ばかりだというのに」 言われてみれば確かに。話を聞いた限り、身体能力こそ高そうだが、彼らは特殊能力を持ってるわけでもなく魔法を使えるわけでもなく(魔法自体が、彼らの世界には存在してなさそうだ)。 実際に戦わせてみたわけではないので断言できないが(危なくてとても戦場になんて連れていけない)、この様子だとコスモスが呼んだという可能性は低いように思われる。 しかし、だったら一体誰が彼らを連れてきた?彼らの見た謎の発光体は何なのか?それとも今回のトリップは第三者の意志によるものではなく、何らかの偶発的な事故だとでも?「…粗方、そちらの事情は把握しました」 ティーダ達の世界の事情について話すと、ドレッドの少年・鬼道がややうんざりしたように言う。 なんせ一般人がいきなり戦場に引っ張り出されたのだ。厄介な事になったとでも思っているのだろう。「俺も…俺達のような普通の子供が、あなた方の援軍だとは到底思えません。第 一そうなら、そのコスモスという方が真っ先に事情を説明しに来るのが筋でしょう?」「そりゃそうだ」 まあ、普通の子供は異星人の侵略者と戦ったりしないと思うけど−−という言葉は心の中だけで。 初対面の印象もあってか、どうにもこの鬼道という少年が苦手なティーダである。なんか生真面目そうだし、子供なのに堅物そうというか怖そうというか。「仕方ない。状況がハッキリするまで、我々の方で保護するしかあるまい」 ライトが結論を出す。誰にも異論はない。むしろオニオンなどは同年代の話し相手ができて嬉しそうだ。既に吹雪と楽しそうにお喋りしている。「すみません、本当に」「前線で力になる事はできませんが、それ以外の雑用でも何でもお申し付け下さい。迷惑かけないよう頑張りますので」 円堂と鬼道に並んで頭を下げられてしまい、むしろこっちが困惑してしまう。この年頃の少年達にしては、目上へのマナーが行き届いている。育ちがいいのだろう。「ライトさん!シローにサッカー教えてもらってもいいですか?今は前線も落ち着いてるし」 オニオンが目をキラキラさせてライトに頼んでいる。ライトもそんな彼の様子が嬉しいのか、いつもより表情が明るい気がする。 とんだトラブルではあるが。案外、悪い事ばかりではないのかもしれない。どうやら悪い子供達でないらしいのはティーダにも分かるし。One night dream。それは一晩限りの夢。 ほんの短い、不思議な少年達との一日が、こうして始まったのであった。NEXT |
一夜のマボロシを、君に。