「…あんたがそこで言い訳するような人間なら、俺ももっと楽だったんスけどねぇ」
 
 はぁ、と夢想は大袈裟に溜め息をついた。何やら芝居がかった動作だ。
 
「まぁ、そうならない事を祈る、かな。出来たらあんたにはちゃんと…リーダーと戦って、話つけて欲しいし。
だって、あんた本来なら、こっち側の人間だったんだから。ねぇ、“セーラ姫の騎士”さん?」
 
 頭が痛い。本当にどこまで知っているのか。そもそもどうやって調べたのか。
ガーランドの個人的な身の上など、神々すらろくに知らないというのに。
 この子供、どうやって対処してくれよう。そんな事を思っている間にも、ティーダは自分に背を向けて歩き出していた。
「何処へ行く」
「んーまだ決めて無いっス。でもまだまだ、話せてない人たくさんいるし。
でもカオスの人達、ちゃんと話聞いてくれんのかなぁ〜」
「呆れた」
 無理に決まっている。
もしティーダに情報の一部をリークしたのが皇帝なら、彼やアルティミシアは問題ないだろうが−−何より自分達は敵同士。
姿を見かけたら問答無用で戦闘開始が普通だ。
 ケフカなど、まともな会話ができるかも怪しい。
 
「その前に、わしの質問に答えて行け」
 
 多分次に逢う時は、こんな呑気な会話も出来なくなっているだろう。
そんな確かな予感と共に、階段を下ろうとする背中に声をかける。
 
「何がお前に決断させた。時の鎖を解いた先に何があるか…知らないわけではあるまい?」
 
 そう。この青年は“生まれながらに存在しない者”。誰かの見ている夢の存在。
 幻想から醒めれば、夢もまた終わる。その時自分がどうなるか−−分かっていない筈がない。
 なのに、何故。
 
 
 
「みんなが…大好きだから」
 
 
 
 振り向いたティーダの顔は。
 泣き出しそうな太陽の、笑顔だった。
 
 
 
「みんなや、フリオニールが望む景色。野薔薇の咲く平和ってやつを…俺も叶えたいんスよ」
 
 
 
 たとえそこに、自分がいないとしても。
 
 
 
「それが出来たら多分、俺はただの“夢”じゃなくなる。そんな気がするから」
 
 
 
 ガーランドは何も言えなかった。ただ黙って、去っていく背中を見送る事しか出来なかった。
 
「手段は違えど…」
 
 眼を閉じる。残酷な運命。避けられない悲劇。抗い続けていたいつかの自分を思い出す。
遠い昔の事なのか、つい最近の話なのかももはや分からないけれど。
 
「心は同じなのかも、しれぬな…我々は」
 
 何が幸せで、何が不幸だったのか。
 もしかしたら自分達は、出逢ってしまった事そのものが不幸なのかもしれない。
 交わらない点と線。過去も未来も無い今という時に止まり続ける世界。
それでも確かに時間は動いていて、少しずつ何かを変えていこうとする。
 出口の無い筈の迷路に、それでも出口を作り出そうとする者達。
 その中で自分は。自分という存在に真に与えられた役目があるとするなら、それは一体何なのだろう。
 答えはまだ、当分出そうにない。
 
 
 
 
 
『避けられない運命から目をそらさず、
 笑っていられれば、それでいい。
 大丈夫……「終わり」なんてない』
 
 
 
 
 
 そして、また。
 
 
 
 
 
 新たな欠片が回り出す。
 
 
 
 
 
 ティーダが何を決意したか。彼の目的が何だったのか。何故危険をおかしてまで自分に会いに来たのか。
 ガーランドが知るのは、そう遠い未来ではなかった。
 彼はこの世界で“最後”にするつもりだったのだろう。
たとえそれが敬愛する人や大事な仲間を裏切り、あげく自分も父も世界から消えてしまう選択だとしても。
 それでも、生まれてきた意味が欲しかった。
生きてきた証が欲しかった。
誰かの夢を叶えて、誰かの支えになりたかった。
 自分は生きている価値のある人間で。確かに此処に存在していたと−−そう信じて死にたかった。
 
「……馬鹿者が」
 
 ガーランドは呟く。それは誰に大しての言葉だっただろう。
 自分はもう気付いてしまっている。ティーダの望みが、自分のそれと変わらない事に。
ただその方法と目的が違っただけという事に。
 終わらない修羅地獄。繰り返される、気の狂いそうな輪廻の世界。
 それでも自分は、意味が欲しかった。だから神竜が差し伸べてくれた手に縋った。
 見上げた空は未だ、暗いまま。
 夜明けは来ると。今一度信じてもいいのだろうか。
 孤独な猛者は、見えぬ星に祈った。

 

 

 

 

 

FIN.

 

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 DDFF世界って、仏教の修羅地獄によく似てるなあと思います。

 ずっと争い続けて、酷い怪我をしてボロボロになっても殺しあわなければならなくて。

 でも朝の光を浴びると傷は癒えて、また争わなければならなくなる。

 永遠に闘争し続けなければならない地獄。

違いがあるとすれば、秩序軍のメンバーはみんな死ぬ前の記憶を失ってるってことでしょうか。

 だから繰り返されてる事に普通は気付かない。その方が多分幸せなんだろうな、と思います。

 よくよく考えると異説幻想って、結構残酷なお話なんですよね…。みんな何回も死んでるわけですし。

 核心にいすぎて、なかなかガーさんを本編で活躍させられないので、こんな形で番外編を作ってみました。

 何故ティーダかっていうと…第三章『詞遺し編』の直前だから。第三章は夢想、義士、獅子中心に動く予定です。