言葉は世界。世界は言葉。 君も出会った事はない? 世界を変えてしまうような、そんな偉大なコトバってヤツに。 著名人や有名人ばかりとは限らない。 時には近所のオバサンの一言みたいなのが該当することだってあるだろう。 俺にも気に入っているコトバがあるよ。 “真実は愛が無ければ見えない”――有限の魔女と呼ばれた女性の言葉だ。 例えば人物Aのお金がなくなって、人物Bが行方不明になったとする。 もし第三者たる君がBが嫌いだったら、「Bがお金を持ち逃げした」と思う。 逆にAの方が嫌いだったら、本当はお金はなくなってないんじゃないかと疑う。 AもBも好きだったら、そのどちらでもない犯人を捜そうとするかもしれない。 愛とは、眼に見えない真実を決め付けない精神のことだ。 盲目になって、罪人をそうだと認めない、のは違うけれど。 自分の感情だけで、「そうに違いない」と思い込んだら真実は見えなくなる。 それはとても怖くて、皆が無意識にやってしまっていること。 この物語についてもそう。 できることなら、“悪役は誰もいない”――そう考える目で見て欲しい。 その先に多分、真実があるのだから。 正義のミカタの不在証明*10*浄罪の鎮魂曲 結構息合ってたじゃない、と笑う『クジャ』に、フリオニールは何も言う事ができなかった。 自分自身が一番驚いている。ティーダはともかく皇帝とあそこまで連携がとれた事が。 最初うまく行かなかったのは技術のせいではない。フリオニールが、皇帝に合わせる気が無かったからだ。それは半ば意地だった。彼とはティーダの為に仕方なく手を組んでいるに過ぎないのだ、と。 記憶は無いのに、何かが拒絶するのだ。彼の顔を見る度、脳の奥から湧き上がって来る黒い感情を抑えきれない。嫌い、ではなく憎いのだと自分の中の闇が叫ぶ。 奴は敵だ。いつか殺すべき敵なのだ、と。 多分きっかけさえあれば容易く憎悪は殺意へと姿形を変えるだろう。出来る事なら今すぐその首を締め上げてやりたい。ただ理由が分からないせいと、人を殺す事への罪悪感が歯止めをかけているにすぎない。 それなのに。 ティーダに叱咤されて皇帝に合わせた途端、驚くほどスムーズに戦況が動いたのだ。彼の最低限の指示だけで、彼が何を望んでいるかが分かる。その杖の指し示す先が読み取れる。 どうしてだろう。自分は元の世界はおろか死ぬ前の世界の記憶も引き継げていない。覚えているのはこの世界が巻き戻った後の僅か数日のみ。皇帝に関する事も例外ではないというのに−−。−−こっちの世界の『フリオニール』と『皇帝』は、夫婦なんだって言ってた。 正直。彼らのラブラブっぷりを見せつけられて尚信じきれずにいた。男同士だとか、年の差がどうとか、そういう以前の問題で。 あんなに憎い男をどうして愛せるのか、全く持って理解できないのだ。もしあの男を赦せる日が来るとしたら、この手でその首を取った後に違いないと。今までずっとそう信じてきたし、これからもそう信じて生きていくと思っている。 だが今、事実としては理解してしまったのだ。 並行世界の出来事は、他の世界にも多かれ少なかれ影響するという。彼らの間にある信頼と愛情は、言葉では計れないほど深い。憎み合っている自分にも影響を及ぼすほどに。 同時に−−それだけではない事にも、気付きつつあった。−−俺は無意識にいつも皇帝の事を目で追っていた。憎いから。大嫌いだから。いつかその隙をついて殺す為に。 皮肉にも、それ故自分は恐ろしいほど把握していたのである。彼の思考。彼の動き。観察者から共闘者になった事でより実感した。 自分は誰より暴君の策を理解していたのだと。 彼と共に走る機会が、以前にもあったのだろう−−と。−−あんた達は俺に…それを教えようとしていたのか?愛が無ければ見えない、 と。 フリオニールの視線の先には、身重の『暴君』を気遣って寄り添う『義士』の姿。目が合うと二人は微笑む。理解したか?とでも言うかのように。−−やめてくれよ。 思わず目を逸らす。罪悪感でいっぱいになってしまった。彼らはあくまで好意と善意で、自分達を導いてくれようとしているのに。 迷惑だと一瞬でも思ってしまった自分を恥じた。−−頼む。やめてくれ…迷わせないでくれ。 全てが終わったら。計画が成就したらきっと自分は皇帝を殺す。むしろそう思っているからこそ彼に手を貸す事も出来たのだ。 だからやめて欲しい。その願望を揺らがせないないで欲しい。自分は彼らのように強くなんかないのだ。感情のはけ口が用意されていなければ、狂ってしまう。 真っ直ぐ進みたいのに。前だけ向いて生きていけたら楽なのに。 余所見したくなるような、振り向きたくなるような事は−−もう。−−愛だけが人を幸せにするなら…俺は幸せになんかならなくていい。自分を騙 して誰かを愛するフリをするくらいなら。 自分にもかつては愛した人がいたのかもしれないのに、その名前も顔も思い出せない。大事な物は皆掌を零れ落ちていくばかり。遺ったのは空っぽな自分と、痛いばかりの現実だけ。 それでも今生きているのは仲間がいたから。独りでは無かったから。そして道標となる夢を見つけたから。 だから、もうそれ以上は望まない。期待なんてさせないで欲しい。 幸せな『自分達』の姿なんて−−自分にはけして届かない幸せの形なんて−−知りたくなかったのに。「フリオニール」 はっとして顔を上げると、目の前には『クジャ』の顔が。どうやら思いの外長く考えこんでしまっていたらしい。 周りを見ると、『ジタン』とティーダがイャンクックの死骸から丁寧に素材を剥ぎ取っていた。その向こうで、『皇帝』と『フリオニール』と皇帝が、キノコや骨を採集している。 どうやら自分は出遅れたらしい。「…ごめんね、悩ませちゃって」 困ったように笑う『クジャ』。思わずドキリとする。自分の思考を読まれたかと思ったのだ。 いや、古参ヘルパーの彼ならそんな力があってもおかしくないのかもしれないが。「だけどね。僕達は君達に、選択を強制している訳じゃないんだよ。最後に選ぶのもやめるのも君達だもの。僕らはただ、幸せになって欲しいだけ。自分の家族にも、君達にも、等しく」 だから、何でもいい。この世界っ何かを得て帰って欲しいんだ、と彼は言う。「『皇帝』と『フリオニール』はさ、愛し合う事こそ幸せなんだって言いたいのかもしれないけど。それはあくまで二人の“幸せ”だから。君達にそれを無理強 いするのはお門違いだろ?」「…ごめん」 「何で謝るの」「…だって…」 『クジャ』の言う通り。心の何処かで、お前達の概念を押しつけないでくれ、と逃げていたフリオニール。彼らは押し付けているわけではないのに、勝手に卑屈な考え方をしているのは自分の方だ。 だから、優しい言葉が、辛い。その善意を無下にしようとしている己を思い知るから。「…少なくとも、僕が言いたいのはね」 まるで母親のように。慈しむ眼差しで語る『クジャ』。「君達には君達の幸せの形を、この世界で見つけて欲しいって事。見つけられなくても、見つける事を諦めないで欲しいって事。それだけなんだよ」 フリオニールは再び考えこんでしまう。彼が言いたい事が分かるようでいて分からない。それとも分かるのに分からないフリをしているのか、自分は。 そのまま『クジャ』はパタパタと『ジタン』の元へ駆けて行き、手伝いを始める。振り向いた『ジタン』の顔も慈しみに満ちていて、気付かされるのだ。この世界の住人達は誰も彼もが“愛”を知っている、と。 −−俺の、幸せ…? 何処にあるというのだろう。 残念ながら青い鳥を信じるほど、子供ではないのだ。 何か原因がある筈なのだ。彼女をあんなにまで狂わせてしまった何かが、この先に。 スコールはセシルと共に、その場所へ向かっていた。その場所−−ティナの暴走を誘発した“何か”があるであろう、その場所に。 −−確かにティナは精神的に、他のメンバーより危ういところはあった。だが。 あんな風に仲間を−−オニオンすらも傷つけて暴れまわるほど我を失うなんて、有り得ない。普段の彼女ならある筈がない。それが起きるとすれば−−それだけの原因があった筈。 思い出せ、落ち着け。スコールは自らに言い聞かせる。 今日あった出来事を順々に思い返す。 少しばかり大事な用があるからと、フリオニールとティーダが姿を消したのが始まりだ。その後ライトの様子がなんだかおかしくて−−出かけて帰って来た後あの話。 自分がもうすぐ死ぬか行方をくらます事。皆にどうか落ち着いた対応を望む事。そして本当の敵はカオスではないのだという事−−。 彼が何を根拠に、何処から情報を得てそんな話をしたのか。そもそも本当の事なのか。皆が動揺している間に、ライトは本当に行方不明になってしまった。 彼はいなくなる直前、何故だか敵陣のパンデモニウムに出入りしていたという。あのエリアから出て来たのをたまたまセシルとオニオンが見ていたのだ。 もしかしたら彼は敵に何かを吹き込まれたのかもしれない。そう考え、クラウドがパンデモニウムに向かった。同時に他のメンバーは独断で、いなくなったライトと未だ戻って来ないティーダとフリオニールを捜しに出かけたのだが−−。−−あのタイミングで現れた大量のイミテーション。どれもけして強くはなかったが…数が異常だった。 そのせいで乱戦となり、皆が散り散りになってしまったのである。スコールも例外ではなく。やっと皆と合流できたのも、ガレキの塔エリアの一角で妙に大きな爆発が連続的に発生したからだ。 駆けつけてみれば、ティナは既に正気を失ってオニオン達を襲っていた。その間何があったのか、現場にいなかったスコールには全く分からない。 彼女が暴走した原因は、人為的なものかもしれない。あの大量のイミテーションは自分達を倒す為ではなく罠に誘いこむ為のものであった可能性がある。自分達が彼女を抑えている間に、原因を突き止めて欲しい−−ジタンに頼まれて、スコールとセシルは今此処に居るのである。 また、未だ行方不明の三人を探し出す必要もあった。援軍を頼むにせよ救助するにせよ。 だが。それでも思う。自分達も彼らと残るべきだったのではないか。今更ながら、後悔が無いわけではない。それほどまでに潜在能力を解放したティナの力は強大だった。彼女の種族を考えれば当然かもしれない。 ただだからこそ、このまま彼女を押さえ込んでいてもラチがあかないというのも事実。ジタンもそう判断したのだろう。今は彼らを信じるしかない。−−問題は。探索範囲が広すぎるという事だ…。 乱戦の最中、ティナはオニオンと秩序の聖域方面に移動していったのを見ている。その後オニオンとはぐれてしまったようだ。が、スコールが知っているのはそこまで。その後彼女に何があったかは予想もつかない。 秩序の聖域付近を徹底的に調査する他ない。しかし間に合うのか。時間はお世辞にもあるとは言えないのだ。このままでは残った三人−−オニオン、ジタン、バッツが危ない。「スコール」 不意に、セシルが自分を呼んだので振り向く。聖騎士の眼は聖域の一点を見据えていた。「あれ…何だろう」 彼が指差したのは、台座の向こう側だった。いつもなら白い霧がうっすらとかかって、静かに水面を揺らがせている場所。だが、今日は何かがおかしい。 靄の色が−−紅い。「紅い、霧…?」 まるで血のような、嫌な色。その毒々しい色のせいで、向こう側の景色がすっかり覆われてしまっている。 向こうに何かがあるのだろうか。二人がまるで誘われるように足を踏み出した、その時だった。「トルネド!」 突然巻き起こった激しい竜巻が、紅い霧を吹き飛ばしていく。スコールも吹っ飛ばされかけて、思わず身を屈めて防御姿勢をとった。 何だ。一体誰が。「その霧に近付いてはいけません」 凛とした女性の声が、響き渡った。NEXT |
鳥籠を、ぶっ壊せ。