さて、いよいよ次で俺の語る物語はひとまずおしまいになる。 話してなかったけど、この物語を君に伝えたのにも一応理由があるのさ。 君と俺達の間には深い縁がある。 少し先の未来で、どんな形であれ俺達は出会う事になるだろう。 その“出逢う前”の筈の俺達がこうして語り合う場を得た。 これはきっと幸運な事で、一つの奇跡にも等しい事だ。 先に言っておくと、俺と君は同じ時間軸から来ていない。 もしかしたら君が出逢うのは“俺”ではない“俺”になるのかもしれない。 並行世界は無限にある。 その上でもし、筋書き通りに君がここにいる俺と出会えたなら、それもまた必然。 俺はそうなると信じているよ。 だって今この時間、俺達は一つのテーブルを挟んで向かい合っているのだから。 その縁は簡単には消えないのさ。 今という時間の記憶。 俺が語った物語や俺達に関する記憶。 この場所を出たら君は忘れてしまうかもしれないけど――それでも言うよ。 どうか忘れないで。 君を選んだのは俺達でなくとも、運命が選ぶのは君なのだから。 正義のミカタの不在証明*11*天国の舞踏曲 イャンクックを倒した後は早かった。さっさと素材を集めて帰投。多分彼らは自分達を試す為だけに、採集に時間をかけて、あのモンスターと引き合わせたのだろう。 本当に素材が必要なだけなら、彼らヘルパー達が直々に手を下せば済んだ筈だ。明らかに実力の劣るフリオニール達に、討伐を任す必要などまったくない。 間違いなく、自分達は試された。彼らの意図の何もかもを推し量る事は出来ないが、それだけは間違いない。おかげで今フリオニールは悩みに悩まされているのだから。−−憎しみを越えろと、あんた達は言うんだろう。 乗り越えた実例は、確かにある。あちらの世界の『皇帝』と『フリオニール』がまさしくそうなのだ。愛し合う事が当たり前になっている彼らにとって、自分達の関係は歯痒いに違いない。 それでは何も変わらない、と。幸せになどなれはしない、と。−−そんな事、俺だって分かってる。…分かってるんだ。 ぐるぐるぐるぐる。 悩むしかできず、同じ場所から動く事さえ出来ない。そんな自分自身が嫌で仕方ない。 だが彼らは、フリオニールがそんな弱音を吐く事すら赦してはくれないだろう。何故なら強いから。彼らは既に彼らにとって最大の試練を一つ越えてきているのだから。 友情でも愛情でも何でもいい。愛する人がいるなら、自分を卑下するような言葉は相手を悲しませるだけ。そして不快にさせるだけ。だがそれを分かっていて尚、本心を吐き出したくなる瞬間は誰にでもあって当然ではないか。 惨めな言葉で罵倒して、自らを貶めて、馬鹿馬鹿しいくらい悲劇の主人公を気取ってみればいい。その後いっぱい後悔して自己嫌悪に陥っても構わない。本音を溜め込みすぎて、壊れてしまうよりずっとマシだろう。そしてブチ撒ける事で決まる覚悟もある筈なのだ。 もし仲間がそんな風に叫んだら。自分はきっと悲しい。悲しいけれど、頭ごなしに叱らないで受け止めてやりたい。けして強くなんてない自分なりの方法で絆を繋ぎたい。 まずは抱き締めて、頭を撫でて、誉めてやってから叱れる人になりたい。それは彼らからすれば甘ったれた方法かもしれないけれど。−−そうか。…あっちの『フリオニール』達と俺…違っても、いいんだ。 顔を上げる。第一居住区の屋敷。夕食の準備に走り回る『玉葱剣士』達と、指示を出す『フリオニール』の姿が見えた。 何でこんなに苦しい気持ちになっているのか。簡単だ。フリオニールは無意識のうちに、ヘルパー達の姿こそ理想像だと思い込んでいた。だから雄々しく立つ彼らの姿と今の自分のギャップが苦しくて。 その思想を、理想を、押し付けられているようで辛かったのだ。彼らと同じ終着点に立てと無言で強制されているようで。まったくなんて独りよがりな思い込みなのか。そんなつもりで招待してくれたんじゃないだろうに。 同じになれ、なんて。誰一人言ってはいない。 同じ考え方を理解しろ、とも。同じ形で幸せになれ、とも。言われてはいなかったのに。−−無理に憎しみを捨てる事じゃない。もし本当に必要なら、俺は自然に憎しみより大事な物を見つけられる筈なんだ。『『皇帝』と『フリオニール』はさ、愛し合う事こそ幸せなんだって言いたいのかもしれないけど。それはあくまで二人の“幸せ”だから。君達にそれを無理強いするのはお門違いだろ?』−−幸せは、誰かに強制されてなるもんじゃない。たとえその形が誰かと相容れないものであったっていい。『君達には君達の幸せの形を、この世界で見つけて欲しいって事。見つけられなくても、見つける事を諦めないで欲しいって事。それだけなんだよ』−−彼らは俺達の正義のミカタじゃない。彼らにとっての正義と俺にとっての正義がまったく同じである筈がないんだから。 ヘルパー達を、都合のいい正義のミカタに仕立て上げて、勝手に理想の違いに悩んでいたけど。 そうじゃない。正義は一つじゃない。だから“正義”のミカタはこの世に存在しない。 自分にとってのミカタには、他でもない自分自身がならなくてはいけないのだから。「…やっと、理解できたようですね」 いつの間にか。すぐ側に、『ゼクシオン』が立っていた。どうやら第三居住区から戻って来たらしい。「…ここは、素晴らしい世界だな、『ゼクシオン』。危険はいっぱいだし楽園と は言えないかもしれないけど…みんながみんな、今を精一杯生きてる。幸せの形 を見つけて、綺麗なだけじゃない…野薔薇咲く世界を実現しようとしてる」 「そう見えますか?」「違わないだろ?…この世界の姿は、あんた達が傷だらけになって今まで積み重 ねてきた努力の結果なんだ。美しくない筈がない」 『ゼクシオン』は少しだけ考え、そして小さく笑った。「そうですね」 彼もまた。自分自身の幸せの在処を見つけて、そこに存在する一人なのだろう。「その点俺達の世界は随分とまぁ、荒んでるよ。自分で言うのはアレだけど、努力は怠っちゃいない、誰一人。だけどまだ何かが足りないせいで殺し合いは終わらない。俺達はまだ…明日を知らない」 何度も何度も、終わらない朝を迎える。明日死ぬか今日死ぬか。そもそも死ぬ事すら認識できるか、本当に今生きていると言えるのか。 そんな場所に閉じ込められている、自分達。「だけど…な。理想みたいに力強いこの世界を見て…分かったんだ。この世界は 素晴らしい。でも、此処は、少なくとも今はまだ俺達のいるべき場所じゃない。俺達の楽園は、君達と同じものではないから」たとえ神竜を倒し、運命を打ち破る事が出来たとしても。自分達の“野薔薇咲 く世界”は、愛を知らない殺伐としたものであるかもしれない。自分は一生皇帝 を憎んで生きるかもしれない。最終的には彼を恨み殺すかもしれない。 だけどきっと、今はそれでいい。「感謝するよ。この世界に招待してくれた事」 フリオニールにはフリオニールだけの幸せの形がある。それを焦らずに見つけていけばいいと。 それに気付けたのは、彼らのおかげだ。「戻るんですか」「ああ」「夕食くらい食べて行ったらどうです?」「はは、そうしたいのは山々なんだけどな」 フリオニールは腰を上げる。 これは、直感。自分達の時がまた、元来た場所へ帰ろうとしているのだと。「分かるんだ。もう時間、ないって」 この世界に止まって時を迎えても、多分自分達の運命は変わらない。自分達の世界が消えた時点で自分達も死ぬだろう。 この身体は、あの鳥籠に繋がれたままなのだから。それを断ち切る事はきっと『ゼクシオン』達にさえ出来ない事。 『皇帝』、『フリオニール』、『ジタン』、『クジャ』。悟ったのか四人ともが作業を一時やめて振り向いた。 フリオニールは笑う。笑って手を振る。「ありがとな!」 それで伝わっただろう。 記憶を引き継げない自分は、きっとこの世界の事を忘れてしまう。そして思い出す事が出来ないまま永遠の死を迎える事になるかもしれない。もう二度と彼らと逢う事が出来ないまま朽ち果てるやもしれない。 それでも、言いたい。「忘れないから」 魂に刻みこんで、一瞬一瞬を生きていく。 どんな残酷な世界でも、楽園に変えていけると信じて。 あの紅い霧は、マズい。 目にしたアルティミシアの行動は早かった。 スコール達があの靄に触れる前に、トルネドを唱えて散らす。それでもあのまがまがしい赤は完全には消えてくれなかった。まるで何処からか湧き出して来るかのようだ。「その霧に近付いてはいけません」 スコールとセシルが驚いて振り返る。まさかここでアルティミシアに逢うとは思わなかったのだろう。 さて、なんと説明すべきなのか。本来自分はスコールの敵なわけで。ティナを“発症”させたのも混乱を招いた のも、自分だと思われても仕方ない立場だ。 クラウドの気遣いは嬉しい。でも真っ当に話をして、彼らが自分の事を信じてくれるかどうかは別問題だ。「…何をしに来た、アルティミシア。何の為に此処にいる」 案の定、スコールは警戒心を剥き出しにしてこちらを見て来た。 アルティミシアは考える。考えたが、結局正直に全てを離すしか手がない事に気付いた。下手な嘘をついて見破られたら逆効果だ。「…クラウド=ストライフから聞いたのです。あなた方の現状を。そのクラウド と共に戻ってきて、暴れまわっているあの少女を見ました」 幾度となく、彼女のあんな姿を見かけた事がある。精神に多大な負荷がかかった事でコスモスの力が足りなくなり、幻獣の力を暴走させてしまうティナ。ああなった彼女は−−仲間を傷つけても止まらない。 むしろ仲間を傷つけてしまったショックが、その狂気に拍車をかけてしまう。悪循環だ。「先に言っておきますが、少なくとも私は彼女に何もしていません。ずっとクラウドと話をしていたのに出来る訳がない」「クラウドがアリバイ証人ってわけか」 それでもアルティミシアを睨み続けるスコールを制して、セシルが一歩前に出る。「いいよ、とりあえず信じてあげる。…で、ティナがああなった原因を調べに来 た、とか?」「そうです」 彼が一緒にいたのは助かった。少しは落ち着いて話ができそうだ。スコールだけが相手では、下手すれば問答無用で切りかかられていただろうから。「この近辺に他にめぼしい異常は見当たらなかった。それに、あの霧の向こうにあるものをあなた方はご存知ですか?」 いや、知らないから不用意に近付こうとしたのか。 そう判断して、彼らの返事を待つより先に話を続ける。「あの向こうは…禁断の領域。私と皇帝はそう呼んでけして近付きません」 「禁断の…領域?」 「はい」 今までの世界で。あの場所に、コスモスやカオスの戦士達が迷い込んで二度と戻って来なかった事がある。奇跡的にジタンとバッツが生還した事もあったが、記憶を消された彼らは覚えてなどいないだろう。「私も詳しくは知らないのです。ただ、凄まじく強いイミテーションが出現する事と…あのように幻覚作用を与える霧が出る事しか。生きてあの奥に踏み込むの はまず不可能です」 なるほど。あのティナという少女はあの霧に触れてしまったのだろう。おかしくなるのも道理だ。 スコールとセシルもどうやら理解したと見える。問題は。「何故俺達を助ける?何故そんな事を教える?そもそもアレを仕掛けたのはお前達カオス陣営ではないのか?」 険しい顔のスコール。アルティミシアはほんの一瞬逡巡して−−覚悟を決めた。 出来る事ならスコールを事の渦中に巻き込みたくはなかったけれど。「私達の本当の敵は…あなた方ではないのです」 この世界に自分と共に招かれてしまった以上、彼も当事者には違いないのだ。「おそらくあの霧の向こうに、私達の真の敵がいます」NEXT |
争いの調べで踊る、円卓のワルツ。