さあて。そろそろお別れの時間だ。 何か最後の言う事はあるかな、召喚士サマ? 「そうですね。…こんなに大事な時間を忘れてしまうなんて勿体無いです」 嬉しい事言ってくれるなぁ。 でもそれは仕方ない。 君のESPは凄まじい素質があるけど、それでも干渉値は守らなくちゃ。 君は“幸福の魔女”。しかしまだその称号には“見習い”がつく。 記憶を失う事で君はやっと能力に見合う対価を支払う事ができるんだから。 「まだよく分からないです。干渉値のことも、対価のことも、世界のことも」 今はそれでいいんだよ。 少しずつ理解していけばいい。まだまだ時間はたっぷりあるんだから。 「ありがとうございます。…最後に一つだけ、いいですか」 何かな? 「貴方達ヘルパーは、主を選べない。だから私がいつか貴方達の主になっても、 それは貴方達が選んだ結果じゃない。でも。 運命が出逢わせてくれるなら。私が貴方達を選びます。大切な、家族として。 だってこんなに素敵な物語と、綺麗な魂を持ってるんだもの」 ありがとう。そう言って貰えると、救われるよ。 「いえ。ではまた、ティーダ。いつか必ず出逢える事を祈って」 うん。またね。未来の俺達の、マスター。 正義のミカタの不在証明*Final*終焉の後奏曲 真の敵、だなんて。 彼女は一体何を言っているのだ。何の話をしているのだ。 スコールは混乱した。目の前の魔女の話が理解できない。信じられない、だけでなく理解が追いつかないのだ。そんな風に自分達を騙すメリットも見つからない。「全ては、真実。カオスとコスモス、どちらが勝っても終わりはない。…私達は フラスコの中の小人にすぎない存在なのです」 アルティミシアの眼はいつになく真剣だった。少なくとも悪ふざけで言っているようには見えない。 真剣に真実を語っているか、真剣に自分達をたぶらかそうとしているか。「例えばここで私がお前達を殺しても、世界の再生と共にお前達は生き返る。お前達が私を殺しても同じです。記憶だけが消されて、この修羅地獄は終わらないでしょう。我々が互いに、真の敵を見失っている限りは」「…なかなか興味深い話だね」 静かに、セシルが口を挟んだ。「確かに僕もこの戦いには疑問を持っていた。いつ始まったかも思い出せないし、いつまで経っても決着がつかない事も気にかかる。…だけど」 ジャキン、と金属音。セシルがランスその手に現して構えた音だった。「コスモスは僕らに言った。カオスを倒さなければ、世界は混沌に沈んでしまうと。もしアルティミシア、あなたの言葉を信じたらそれは、彼女が嘘を言った事になる。…コスモスとあなた、どちらが信用度が高いか…分かるよね?」 物理的証拠でもなければ、にわかに信じがたい。騎士はそんな意図をこめて魔女を睨む。 スコールも彼と同意見だった。ましてや相手はスコールの宿敵で忌むべき魔女なのだ。 この状況でどう反論するつもりなのか。俯くアルティミシアを油断なく観察する二人。明らかに不利な状況と分かっていながら、どうしてたった一人で出て来たのだろう。隠れる場所なんてないこのエリア。周りに仲間の気配など無いのに。 まさか本当に−−自分達を助けようとしたとでも?「コスモスは俺達を護る為に嘘を吐いたんだ」 突然降って沸いた声に、誰もがハッとした。バシャバシャと水の上を駆けてくる足音。それも複数。「秩序と混沌のどちらが滅んでも世界は成り立たない。でも俺達には戦う理由が必要だってコスモスは分かってたから…そう言うしかなかったんだと思うッス」 「ティ、ティーダ!?」 なんと現れたのは、ずっと行方知れずだったティーダ。フリオニールもいる。さらに驚くべき事に、皇帝まで一緒だとは−−一体全体何がどうなっているのか。「お前ら!一体何処行ってたんだ!!どれだけみんなに心配かけたと思ってる!?そ もそもどうして皇帝が一緒なんだ!!」 ここは怒ってもいい場面だろう。むしろ怒らなければいけないと判断した。 いつになくスコールが怒り心頭なのを理解して、ティーダが素早くフリオニールの後ろに隠れる。「あうう〜ごめんッススコール…怖いッス〜」 だがその状態で謝罪をされても全く効果が無い事にいい加減気付いて欲しい。うっかり盾にされたフリオニールがジト目でティーダを睨んでいる。「俺達、用があってある場所にお呼ばれしてたス…三人で」 「三人て…この有り得ない組み合わせでか?」 「有り得なくなんかないよ」 急に真剣な顔になるティーダ。「アルティミシアの言う通り。俺達の真の敵は別にいる。…だから俺達はその敵 を倒す為に、手を取り合わなくちゃいけないんだ」 今度こそスコールは目を見開き、セシルと顔を見合わせた。まさかティーダまで同じ事を言うなんて。 という事は本当に−−この紅い霧の向こうにいるというのか?コスモスでもカオスでもない、第三の存在とやらが。「私達の知っている事を全て話してやる。アルティミシア、お前も手短に報告しろ」「分かりました」「だがあまり長々会話している時間はない。おそらく粛正が始まるまでもう間もないだろう」 皇帝がフリオニールを見る。そのアイコンタクトな応えてフリオニールが頷いたのに、スコールはまたしても驚かされた。 彼らがいなくなっていた数時間の間に、一体何があったのだろう。フリオニールが皇帝を死ぬほど憎んでいるのは仲間内でも有名な話だ。その彼が暴君に従うなんて、何がどうなっているのか。「…スコールにセシル。君達にまで選択を無理強いするつもりはない。ただ、君 達がどうであれ俺達のする事はもう決まっている」 少しだけ躊躇って−−しかしフリオニールは言葉を口にした。その覚悟の重さを示すような、強い瞳で。「この世界が終わる、その前に。この霧の向こうにあるものを、暴き出してみせる。命を懸けて」 メルトンで焼き切れた左手は炭化して、もはや使い物にならない。どのみち肘から下が千切られた後だったから同じではあるのだが。 クラウドの身体が炎に包まれるのを、オニオンナイトは見ていた。見ていたのに何も出来なかった自分。仲間が死ぬのを止められなかった事が、仲間が罪を犯すのを防げなかった事が、悔しくて悔しくて仕方ない。「ティ…ナ…」 一歩踏み出す度に、全身から血が吹き出し、激痛が走った。それでも少年は脚を止めない。 全ては愛しい少女に触れる為に。 こうなってしまった今になってやっと気付けたのだ。彼女が自分にとってどれだけ大切な存在であるのかを。どれだけその存在に救われてきたのかを。 家族の温もりを知らない自分。最初は姉のように思い、甘えていた。今その感情がどのように変化したかは、オニオンナイト自身にも良く分かっていない。 それでも絶対の真実がある。自分は彼女が大好きだという事。失いたくない人である事。「大丈夫。大丈夫…だから。怯えない、で…」 守りたい。護ると、決めた事。「ティナは、僕が護るって…約束したもん」 クラウドを、バッツを殺してなお止まらない力の暴走。EXモード−−幻獣の姿 のまま、少女は血走った眼で少年を見た。 怒りに染まっている筈のその眼が、オニオンには泣いているように見える。助けて、助けてと。血の涙を流しているのが分かるのだ。 だから、自分が救うのだ。この手が、温もりが伝わればきっと届く。 力にも世界にも怯える必要はない。彼女は皆に愛されてその場所にいるのだという事が。「僕は…ティナが、大好き」 全身が悲鳴を上げる。あとほんの僅かな距離持ってくれればそれでいい。彼女に届いたその瞬間にこの身が朽ちても構わない。 どうか、お願い。「たとえ…世界の全部が…君の敵になったって。僕はティナの味方でいるから」 神様がいるのなら。 あと少しだけ、時間を赦して下さい。「だから…なかないで」 伸ばした指先が、ティナの頬に触れる。彼女の肌を、真っ赤な滴が汚した。指先まで血まみれになったオニオンの朱で。 そのまま少年は崩れ落ち、二度と立ち上がる事は無かったが。最後に見上げたティナの眼から一滴の光が、確かに少年の頬を濡らしたのだった。 自分達は結局何も出来なかったのかもしれない。結局自分達のした事は無駄に終わるのかもしれない。 地獄の楽園。その庭で『皇帝』は一人空を見る。「幸せの形…か」 幸せは目に見えない、という言葉をよく耳にする。それは空気のように触れる事のできないものであると。 幸せとは一体何なのか。そう尋ねられたところでうまく説明できる自信はないし、小難しい幸福論に興味はない。 だが思う。幸せは、信じる者の前にある。自分は今幸せだ。それは、幸せを感じるから幸せなのだ。「『マティ』」 名を呼ぶ声に振り向くと、『フリオニール』が立っていた。そんな所に立っていると風邪ひくぞと言って、肩に上着をかけてくれる。 そんな何気ない気遣いが、何より幸せだと感じる。そうやって彼に想って貰える事、そうやって彼を愛せる事が嬉しくて仕方ない。 試練を乗り越えて、運命に立ち向かって、気付かされて。そうでなければ手に入らなかった未来が今ここにある。 自分達と同じ形でなくとも構わない。自分達のようにあちらのフリオニールと皇帝に好きあって欲しいとか、自分達と同じ思想で生きて欲しいとまで言うつもりはない。 ただそれを異世界の者達にも手にして欲しい。そして気付いて欲しい。 世界はこんなにも美しいものなのだと。「俺は、信じてるよ」 『フリオニール』が言う。慈しみに満ちた声で。「信じてる。彼等なら必ず、運命を打ち破ってみせるって」「…ああ」 どうか彼らの新たな夜明けが、少しでも早く訪れますよう。 ヘルパー達の祈りは空へ届くだろうか。 紅い霧に触れれば幻覚に倒れてしまう。最悪招くは同士討ち。ただ闇雲に進む訳にもいかない。 そして世界の終わりが見えた今、立ち止まる事も赦されない。「はぁっ!」 暗黒騎士になったセシルのダークフレイムが、イミテーション達を吹き飛ばす。しかし、禁断の領域と呼ばれるだけあってその強さは半端じゃない。数もいる。倒しても倒してもキリがない。−−それでも進むしかないんだ。…真実を知る為に! フリオニールは走る。既にあちこち傷だらけだった。他の仲間達も同様だ。魔法や技でイミテーションと紅い霧を吹き飛ばしながら進んでも、完全に防ぎきる事はできない。 最後の場所に辿り着けたとしても、全員とはいかないだろう。ならば。−−ティーダと皇帝とアルティミシア。記憶を引き継ぐ事のできるあいつらを、何としてでも行かせる。その為なら、俺は。 自分はここで死ねば記憶を失ってしまう身。フリオニール一人が最果てに辿り着いても次の世界には生かせない。 だがティーダ達ならできる。彼らを先に進ませる事さえ出来るなら、此処で無惨に果てても構わない。 そんな覚悟自己満足だと嗤いたければ嗤うがいい。 それでも自分はこの道を行く。−−最後に皆と生きて幸せを見つける為に、生きる為になら幾らでも死んでやる。 そんな矢先、皇帝が倒れる。倒れた彼に群がるイミテーション達。聖域の水が真っ赤な色に染まっていく。 その向こうでは、セシルが。「…くそぉっ」 ティーダが唇を噛み締め−−やがて血を吐くように叫ぶ。「…っ…立ち止まるなっ!みんな、走れ−−ッ!!」 フリオニールが、ティーダが、アルティミシアが、スコールが、走る。走り続ける。 走る意味は皆違うのだろう。フリオニールは真実を繋ぐ為に。多分スコールはティナを救う手だてを掴む為に。 アルティミシアのグレートアトラクターが道を切り開く。敵の数はどんどん増える。フリオニールは殆ど剣で敵を掻き分けるようにして進む。−−あいつらが教えてくれた。俺は後悔しないよう…今を精一杯生きる。 夜明けは必ず来る。自分達に迎えに行く意志さえあるのなら。「はぁぁっ!!」 この脚は今を駆ける為に。この手は真実を掴む為に。 END |
世界の神ですら、彼を哂う権利なんて持たないのに。
思ったより遥かに長くなってしまいました、ここまでお付き合い下さり誠にありがとうございます。
これにて『正義のミカタの不在証明』シリーズは完結となります。
後半結構ドロドロしてましたが、珍しく全体的に明るめのものが書けたんではないかと。
ただ私の力量ではうまくレモンライム様宅の世界観が説明しきれなく…て…。申し訳ないですー!!
内輪ネタで終わってしまわないように気をつけてはいたのですが、これがかなり難しくて。
最終的に『意味わかんねーよ!』で終わってしまった方がいたらすみません。
紅い霧で覆われた禁断の領域。その先にあるものは何か?それは最期天使の最終章で明らかになるかと。
残念ながらこの世界のフリオ達は真実に辿り着けませんでしたが、それもまた意味のあることなのです。
こんなんで良ければ貰ってやって下さいレモンライム様。いろいろすみませんレモンライム様…(スライディング土下座)