始まりと終わりの境界線は何処なんだろうね? だって誰にもそのボーダーは見えないじゃないか。 今が過去より先で、今が未来より後ろだなんて誰が決めたの? 白い線が引かれているわけでもない。 ゴールラインのビニールテープは何処にも無いのに。 まぁ早い話。 君と俺が今此処で初めて出逢ったのを証明する方法なんて無いのさ。 もしかしたら“過去”に存在した“未来”では出逢っていたかもしれない。 一緒に笑い合ったかもしれないし、殺しあったかもしれないということ。 あの時ああしていたら! こうしていたら今はきっと! そう後悔した事の無い人間はいない、俺とて例外じゃないさ。 もしその数と同じほど未来があったならどうだい? 同じ数ほどの過去が幾つもの点で交差していったとしたら! 今という時間も未来も過去も、無限に存在していると定義できる。 ああ、漸く理解が追いついてきたかな? 特に俺達に限っては、その区切りがあまりに曖昧だった。 同じ世界の中で今と過去と未来がごちゃごちゃに絡み合っていたんだから。 面白いだろう? その過去の中で俺は何回も殺されたのに、今君の目の前に存在している。 正義のミカタの不在証明*2*救済の交響曲 調査に来た平行世界の異邦人−−ヘルパー達(今後彼らの名前は『』つきで表記させていただこう、なんてったって紛らわしい)に現状報告を求められ、ティーダはかいつまんだ説明をする。無論、自分がやった事やろうとしている事は伏せた上で、だが。「つまり…前に俺達が来た時と、大して状況は変わってないんだな?」 『フリオニール』は苦い顔で確認をとる。ティーダは無言で頷いた。「まあ…こっちとそっちじゃ大きく時間の進みが違うし。こっちじゃかなり時間が過ぎてるけど、そっちじゃ1ヶ月もたってないってところだろ?」「そうなんスかね?わかんないなぁ…イマイチ時間の観念なくて。巻き戻しが起きても、どこまで時間が戻るかは毎回マチマチだし、粛正が起きるまでの時間も時と場合によりけりらしくて。頭グルグルするよ、ほんと」 最短だと、時間が巻き戻って三日で粛正が発生したケースもあるらしい。が、それは極めて稀で、普段なら二週間前後。最長で一ヶ月くらいではないかという事だ。皇帝の談なので間違いないだろう。「俺達で何とかする…とは言ったけどさ。あの後トラブルで二回くらい“世界”を無駄にする羽目になって…結局長引いてるんスよね。迷惑かけてるアンタ達には申し訳ないけど」 以前彼らと出会った時。異変を止めに来た彼らにティーダは言ったのだ−−自分達で何とかするから、手を出さないで欲しい、と。 理由はいくつかある。 支配者たる神竜を仕留め、復活を阻止するには闇のクリスタルを破壊せねばならないが−−そのクリスタルはそれぞれ勇者、死神、英雄の体内に埋め込まれている。 彼らを殺さなければクリスタルは破壊できないが、それを異邦人である彼らが行えば干渉値を超えてしまう。平行世界の秩序を保つ為にそれは侵すべきでないラインだ。 殺さずにどうにかする方法もある、と彼らは言うだろう。実際ヘルパー達の能力は神の領域である。一度あちらの『クジャ』に三人がかりで手合わせして貰ったがまるで歯が立たなかった。互いに本気ではなかったにせよ。 しかし、この世界に関する事柄を簡単に解決するには至らないのである。この世界は他の世界以上に彼らの能力の制限が厳しい。それは“できない”事と“してはならない”事がある。いずれにせよ空間の歪みが強く、下手な行動に出れば何処に反発が来るかもわからないのは確かだ。 一度目の邂逅の時、『フリオニール』達の仲間である鏡面の主−−桜庭ネクが神竜を倒した。あれも本来ならギリギリの行為だった筈だ。もう一度力を行使する事は赦されまい。「ティーダ。君の気持ちも分からないわけじゃないんだ。でも……。なあ、本当に俺達は見ている事しか出来ないのか?」 何処か苦しそうな表情で『フリオニール』が言う。「ファビィが…息子がそっちの世界の悪夢で魘されてるから困ってる…それもあるけど、それだけじゃないんだ。…端から見てると、辛いんだよ。君や、君の仲間達が延々と殺し合わさせされて、狂って、何回も何回も惨い死に方して。…俺だったら、きっと耐えられない」 ぎゅっと彼は拳を握りしめる。 ティーダはなんだか嬉しくなった。心配も迷惑もかけておいて不謹慎だが−−それでも、想ってくれる人がいるのは、胸が温かくなる。 我が子の為というのも嘘ではあるまい。しかし、今はそれ以上に彼自身の善意から来ての言葉だと分かっている。 困っている人がいる。だから助けたい。そこに理由は、いらない。「優しいんスね」 人の心は形なきもの。見えないもの。だけど。 感じる事が、できるものだから。「俺の知ってる『フリオニール』と…同じだなぁ」 いつも他人の為なら、我が身を顧みず飛び出していってしまう−−そんな親友の姿を思い出す。 だけど、目の前の『フリオニール』は明らかに自分の知るフリオニールとは違うところがある。 目の前の彼は、本当の意味で光のような人物だ。それは闇を知るからこその光。闇を乗り越えたからこその光だと分かる。 自分も自分の知るフリオニールも、彼ほどの光はまだ手にしていない。何故ならまだ抱え込んでいるから。ジェクトへの、皇帝への−−底知れぬ憎しみを。 まだ奈落から這い上がれていない自分に、その姿は眩しすぎる。「クサい台詞だけどさ…俺達の為に、何かしようって思ってくれる…それが一番の力になるんスよ。だから…それで充分だよ」 自分達の為に、彼らに危険を犯させるわけにはいかない。世界と世界を引くボーダーラインを越えさせてはならない。 それは、あまりに大きな代償を伴う行為だと知っている。 自分とて一度は、彼らに連なる力を持つ者−−異世界への干渉を監視し、秩序を保つ魔女−−に交渉しに行ったのだ。夢の住人−−記憶を取り戻し、“夢渡り”の力を持つティーダだからこそ逢えた存在である。 だが安全に干渉する為の対価はティーダにはとても払いきれないほど重い−−。あらゆる世界のルールを必ず一つ破る事のできる創世の魔女・キーシクスはそう言ってティーダの頼みを断った。 そもそもよその世界の住人に頼る事自体、褒められた真似では無いのである。自分達はまだ足掻ききっていない。彼らに泣きつくには早すぎる−−それがティーダが、皇帝が出した結論であった。「…歯がゆいな」 『皇帝』は俯く。その手は無意識に、自らの腹部に伸びている。「どれほどの力を持っていても、出来ない事が世界にはあまりに多い。…誰もが幸せになる為に生まれて来るのだろうに」 その動作で、ティーダはピンと来る。「ひょっとして『皇帝』さ…今妊娠中?」「え、何で分かったんだ?」「なんとなく?」「お前今日そればっかだな!」 このこのーと頭を突っつかれる。意外に力が強いのでさりげなく痛い。こっちのフリオニールもメンバーの中では腕力の強い方だが、彼は比較にならないのだろう。こんなじゃれあいでも、ヘルパーという存在の凄さを実感させられる。「だってそっちの『皇帝』、母親のカオしてる。…でもアレ?前にこの世界に来た時も妊娠中とか言ってたような…まさかこの短期間に三人目!?」 『皇帝』と『フリオニール』は顔を見合わせ、二人揃って肩をすくめた。それは肯定の意に他ならない。ティーダとしては苦笑したいやら呆れたいやら驚いたやら。まあ、仲睦まじいのはいい事だ、多分。その時だ。ティーダのPHSが震える。メール着信、ディスプレイを見ると皇帝か らだった。今何をしてる、作戦会議の約束すっぽかすな、そんな内容。「げっ…しまった、あの二人に呼び出されてたのすっかり忘れてた…」「暴君からか?」「そうそ。…どうしよ、絶対キレてる…」 頭を抱える。高慢チキ、山のようにプライドが高い男、支配欲のカタマリ−−人によっては散々な言われようをする彼だが。 それはあくまで見かけだけだとティーダは知っている。実際はライトと同じ属性の人間なのだ。不条理な事では怒らないし、言っている事は確かに筋が通っている。そして案外世話焼きで天然。ついでに説教が長いところもよく似ている。 裏を返せば−−正論ならいくらでもキレるし説教かます。真っ向から来るので反論できないしダメージがデカい。 それを語ると、『フリオニール』と『ゼクシオン』の二人は声を上げて笑った。「あはは、アンタんとこの皇帝も面白いな。ってか、天然なのはどこも一緒なのかね」「おい『フリオニール』、私は天然じゃないぞ!」「あら、自覚ないんですか?いつもツッコミどころ満載なのに」 『ゼクシオン』まで援護射撃されて、『皇帝』はぐうの音も出ない。なんだか微笑ましい。そもそもこの夫婦、さっきまで喧嘩していたのではなかっただろうか?いつの間にやら忘れているようだ。「…そうだ。ねぇティーダ」 いい事思いついた。そんな顔で、『ゼクシオン』はティーダを見上げる。「あちらの皇帝は、僕達の世界を見た事がありませんよね?」「ん?…あ、そっか。前会った時は皇帝、早々に退場させられちゃったからなぁ…」 二回目に彼らに会った時は、支配者サイドが謎のウイルスを撒き散らしたせいで、戦士達の皆が皆酷い目に遭ったのだ。カオス、コスモス問わずの目も当てられぬ大惨事だった。皇帝も例に漏れず感染し、かなり早い段階で死亡する羽目になったのである。 たまたま調査でこの世界に訪れてくれていたヘルパー達がいなければどうなっていた事か。正直、思い出したい事件ではない。 しかしあの一件が無ければ、自分達に縁が生まれる事も無かっただろう。また、ティーダがヘルパー達の世界を垣間見る事も。「いい機会ですから。…ちょっとだけこっちを見に来ませんか?そちらの皇帝にも、他の方々にも興味がありますし」 ニッコリと微笑む見目麗しい策士に、ティーダは目をまんまるにした。 フリオニールは呆れ果てていた。 いや、だってそうだろう。まさかこの面子に説教かます事になるなんて誰が予想する? フリオニールの前には、正座させられている−−ティナとオニオンとケフカ。いやもう、自分がケフカを叱る必要性があるか無いかは非常に微妙だけども。「…普通のさ…バトルならまぁ、分からないでもないわけだよ。一応俺達戦争中だから。…一部メンバーがしょっちゅう忘れてくれるけど」 なんで“一応”をつけなきゃならないんだとか。ツッコミどころは山ほどあるが一先ず置いといて。「喧嘩するならさ、せめて誰の迷惑にもならない場所でやってくれ。そして辺りそこら中ペイントまみれにするのはやめてくれ…」「だってケフカが」「だってティナちんが」「ティナちんとか言うんじゃねぇよ道化、馴れ馴れしい」「いいじゃん別にーっ!」「ああもうっ」 再び口論になりかける三人。まるで子供の喧嘩−−いや実際オニオンは子供なのだけど。そのオニオンはキレすぎてすっかり口調が破綻している。背後にドス黒いものが見えるのは−−気のせいだと、思いたい。 いざとなったら超速エアダッシュで緊急退避。フリオニールは心に誓う。三人は三人とも、全身ペイントまみれだった。ティナにいたってはEXモード継 続中である。 月の渓谷エリアで素材集めをしていたティナに、ケフカが絡んで来たのが発端だった。何の悪戯をしようとしていたのやら大量にペイントボールを持って。 で、ティナと、同行していたオニオンがウザがった事で喧嘩になり−−気がつけばペイントボールで雪合戦状態に。 エリアも彼らもペイント塗れになり、洗濯物が増えるだけでも困るのに。その周辺の素材を全部ダメにした挙げ句、通りかかったクラウドとジタンが巻き込ま れて酷い目に遭った。「ペイントボールは全部没収。お前らしばらくそこで反省してろ」「えーっ!ぼくちんのなのに!!」 「えーじゃない!」 そんな時だった。フリオニールの携帯が着信を知らせたのは。NEXT |
それは、異界への招待状。