何かを変えるのは簡単で、同時にとても難しい事だ。 心一つで世界は変わらない、それも事実。 愛する心一つで世界は変わる、それも事実。 うーん、なんて説明すればいいのかなぁ。 とにかく、要は受け取る人間次第ってことだね。 環境もある、状況もある、危険度の違い、その他云々。 だけどね、一つだけ君に警告しておきたいことがあるのさ。 思うようにならないからって、必ずしも自分や誰かのせいにしないことだ。 誰も悪くないし、力不足でもないのに、どうしようもないことはある。 必ず、ある。 今は解らなくてもいつか必ず君の前にも立ち塞がるだろう。 怖がってもいいから、そこで君は君自身や誰かを見限らないで欲しいんだ。 ○○が悪いからうまくいかないんだ!と決め付けないでくれ。 僕等は誰一人、万能な神にはなれないのだから。 時には運命を受け入れなければならない時もあるということ。 でもそれは、諦めることとイコールじゃない。 忘れてはいけないよ。 人は一番強くなるのは、勝った時じゃないのさ。 徹底的に叩きのめされて、ボロボロに負けた時。 どんなに力を尽くしても叶わない絶望という壁にぶつかって力尽きて。 それでもいつか立ち上がれた時、人は強くなる。 そう、他のどんな勝者よりも。 正義のミカタの不在証明*3*悠久の追走曲「それで…何がどうしてこういうメンバーに?」 「かくかくしかじか〜以下省略」「貴様…いつまでもそれでごまかせると思うなよ…?」 ごめんなさい怖いですガンつけないで下さい皇帝陛下。ティーダは竦みあがり、フリオニールの後ろに隠れる。 が、俺を盾にするな!とすぐさま前に放り出された。ああ無情。ってか鬼!「なんていうか…意外だな」 あちらの世界の『フリオニール』が集まったメンバー−−ティーダ、フリオニール、皇帝の三人を見て苦笑する。「もっと殺伐としてるのかと思ってた。君達、境遇が境遇だからさ…あんまにバ カ騒ぎしてるとことか、想像つかなかった」「待て、誰がいつバカ騒ぎなどした!?」 「頼む皇帝、いちいちツッコまないで。話進まないッス」 この手の話題にやたら敏感な皇帝が身を乗り出そうとしたので、ティーダは慌てて止めに入る。その様子を、フリオニールはどこかポカンとした顔で見ていた。「聞きたい事は山ほどあるけどとりあえず…なんで俺や皇帝と同じ顔をした人が いるんだ?…ドッペルゲンガー!?」 その言葉に、えっという顔をするヘルパー達。無理もない。彼らはフリオニールも“世界の真実を知る者”だと思っていた筈だ。疑問を持たれるのも当然だろ う。 事実、二度目に会った時、フリオニールはティーダが知りうる限りの情報を把握していた。しかしそれはあくまでティーダが計画実行の為に教えていたからこそ。実際、フリオニールは一人では何も知る術が無いのである−−記憶が、無いのだから。「あー…しまった。実はまだ世界が巻き戻ってから何日も経ってなくて…。フリ オにヘルパーのことは何にも話してなかったんスよ」 ティーダはちょいちょい、とフリオニールを手招きして呼び、超高速で説明を始めた。計画についての事やこの世界の真実についてはひととおり話してあるが、外の 世界については認識もしていない状態だろう。これはまずい。 同じで違う、並行世界という名の数多の異世界のこと。世界を渡り歩くヘルパーという、高次元の存在のこと。そして彼らと以前二度ほど彼らと出逢い、戦ったことがあること−−。「かくかくしかじか〜」「なるほど、理解したよ」「…何故それで通じるのだ貴様ら…」 『皇帝』が呆れ果てた声で言う。こちらの暴君は既にツッコミを放棄したようで、明後日の方向を向いていた。「早い話がさ、フリオニールと皇帝を誘ってるわけだよ。あいつらの世界に行ってみない?って」 くい、と目でヘルパー二人を指し、話をまとめる。「俺達逢うのは初めてじゃないけど…あいつらの世界を見た事は一度も無いから さ。いい機会じゃないかなーって。せっかくのお誘いだし」「いい機会って…」 フリオニールが戸惑ったように言う。「興味が無い、と言えば嘘になるけど。そんな事してていいのか俺達。その…一 応戦争中だし、計画の事もあるし…」 言葉を濁したのは部外者の前だからだろう。彼らが心を読む能力者−−ヘルパー達の中にはそんな力を持つ者もいるのだ−−だったらそれも無意味だろうが。 フリオニールの言う事も一理ある。異世界に関わる事で自分達の世界を疎かにしてはいけない−−それは常識中の常識だ。「大した弊害にはならない筈ですよ。僕達の世界は、この世界より遥かに時間の流れが早いんです。あっちで多少長居しても、こちらでは何時間も経過してない…こともザラです」 むしろ僕達の方があまりこちらに長居するとマズイんですが、と『ゼクシオン』が補足する。「それに…あなた方の本当の敵はカオスでもコスモスでも無い。戦争を続ける事 がどれほど無意味か、あなた方が一番よくご存知でしょう」 そんな事まで話したのか、とフリオニールがこちらを振り向く。ティーダは曖昧な笑みを浮かべるにとどめた。実際自分の記憶も完全なので、彼らにどこまで話したのかよく覚えてなかったりするのである。 自分達の世界を真に統べる大いなる意志とその目的−−。仮にティーダが何一つ語っていなかったとしても、彼らならいくらでも知識を得られるのだろう。神すら越えた救済者達−−ティーダはヘルパー達をそう認識している。 それだけの力が、自分にもあれば良かったのに。 そうなら全ての罪を一人で背負って、支配者を倒す事が出来たのに−−思わず浮かんだ仮定を、首を振って無理矢理振り払う。 どうしようもない事を悩んで何になる?この決心をぐらつかせる事など、あってはならないのに。 自分は死のうと生きようと、ヘルパーとして生まれ変わる事はない。きっと、出来ない。 全てが終わった時、魂ごと消滅する自分と父は。「…分かったよ。ただ、しつこいけど最後にもう一個だけ」 事情はとりあえず理解したらしいが。義士は一つ息を吐いて、言った。「どうして、俺と皇帝を選んだ?こう言っちゃなんだけど…俺が皇帝をどう思っ てるか、知らないわけじゃないだろ?」 チラリと暴君を一瞥する彼の眼に、一瞬よぎった暗い色。『フリオニール』達も気付いたのだろう−−その顔を目に見えて曇る。 フリオニールは皇帝を憎んでいる。その感情の出どころは知らないにせよ、魂に刻まれた感情のまま彼に殺意を向けている。今はティーダと計画の事があるから辛うじて従っているだけだ。 悲しい、と思う。自分は理由を知っているけれど、それを告げる事が出来ないから。 彼らの過去に横たわる深い深い傷。 皇帝に罪が無いとは言わない。が、同時にフリオニールにも罪が無いとは言えないのだ。 時間さえ赦せば、彼らにも気付いて欲しかった。彼らの憎悪は、全てを知りさえすればきっと乗り越えられるものだと。自分には無理だけれど、フリオニールにならきっと出来る。そう信じたい。 少しでも親友と恩人に−−幸せな未来を掴んで欲しい。 だから。「…二人にさ、一番に知って欲しいと思ったから」 ヘルパー達の生き様に触れたら、何かは変えられるかもしれないから。「世界で一番貴いものが、何かを」世界と世界を渡る手段は幾つかあるが−−自分達が主に使うのは“闇の回廊” と呼ばれる通路である。 それぞれの世界は、卵の殻のような膜で包まれていて、普段は不干渉である。これがあるからこそ、それぞれの空間は溶け合わずに済むし、それぞれの秩序もまた保たれるのだ。これが何らかの異常で砕けると大変な事になる。『ゼクシオン』達イタチーズが使うこの“闇の回廊”は、一時的に空間に裏道 を作るものである。うまく説明するのは難しいが、世界を包む卵の殻にすぐ塞がる小さな穴を開けるようなもの。正直言って、正規ルートではない。ゆえに代償もつきまとう。 便利な移動手段ではあるが、防御策を怠って乱用した場合、闇に心や体が浸食されてしまう。その末路は大きく分けて二つ。心を食らう化け物−−ハートレスになるか、跡形もなく消滅してしまうか。 普通の人間に比べて、『ゼクシオン』達ヘルパーは遥かに強靭だ。それは闇への耐性という意味でも同じである。それでもある程度の防護策は怠らないし(その一つが『ゼクシオン』の着ている黒いコートである)、必要以上の使用は避けるようにしている。「あいつら…思った以上に闇耐性強いみたいだな。俺達ほどじゃないけど…何と もないなんてちょっとビックリだ」 『フリオニール』の言葉に『ゼクシオン』は頷く。あいつら、とは異世界から招いた三人組の事だ。彼らは闇の回廊を連れられながらも、顔色を悪くする事もなく平気そうに歩いている。 確かに、常人でも一回二回闇の回廊を通るくらいは大して問題ではない。それでも耐性の弱い者は吐き気を催したり悪心を抱いたりするものである。 その耐性の強さは心の強さも反映されるが、素質や育った環境なども影響してくる。中には生まれつき闇にまったく侵されない人間も存在する。 ティーダ達が闇の回廊を歩いて平気なのは、内なる光が強いせいか、あるいは新たな闇が入り込む余地が無いほど内に秘めたそれが暗いのか−−。 彼なら分かるかもしれないな、と『ゼクシオン』は栗毛髪の少年を思い浮かべる。人の心を直に見る事のできる仲間を。生憎今彼は別の世界で仕事中だったが。「意外と言えばもう一つ」 『皇帝』が口を挟む。「『ゼクシオン』、お前から彼らを招くとは思わなかった。確かに、私達も一度真正面から話してみたい相手ではあったが」「だから、ですよ」 彼らはきっと言いたい事が山ほどあるのだろう。特にあの義士と暴君に対して。 愛し合うのがもはや当たり前になっている『皇帝』と『フリオニール』だから。彼らが憎みあうのを理解していながらも、理解しきれない感情もある筈だ。 自分達のように、少しでも早く乗り越えて欲しい。大切な人の存在に気付いて欲しい−−とも。「あなたは言いましたね…『フリオニール』。自分達にも何か出来る事は無いの かと」 彼らを縛るあまりに強固なルール。自分達を囲う越えてはならぬボーダー。そのせいで、自分達にできる干渉は限られてしまっている。「…彼らの世界を僕らが変える事はできません。僕達が力ずくで彼らの運命を覆 すのでは意味もありません。ですが…」 見ているだけで、何もしないなんて嫌だと。そう思っているのは『フリオニール』だけではないのだ。「その心なら、きっと触れる事が出来る。世界は無理でも、心でなら奇跡は起こせる。…僕はそう、思います」 祈りたい。 どうか凍てついた魂に、愛の光届かん事を。 そう長い時間闇の中を歩いていたわけではあるまい。 しかし回廊の暗さに慣れたフリオニールの目に、外の光は眩しすぎた。「うっ…」 思わず掌を掲げて眼の上なひさしを作る。三人のヘルパー達は平然としていたが、ティーダと皇帝は同じように目を細めていた。「着いたぞ」 先を歩いていた『フリオニール』がくるりと振り返る。段々と眼が慣れてきた。ゴシゴシと瞼の上をこすり、瞬きを繰り返す。 その向こうに広がる景色を認識し始める。「ようこそ。俺達の世界…第一居住区へ」 そこは−−花畑だった。 赤。青。黄。桃。紫。白。黒。色とりどりの花が咲いている。膝近くまで隠れそうなほど背の高い草が生い茂り、二匹の紋白蝶がひらひらと目の前を横切っていった。「此処が…あんた達ヘルパーの世界…?」 さぁっ、と風が渡っていく。春の温かな風だった。まるで呼応するように花畑が波打ち、強くしなってはまた戻る。 ふと、数多もの花の中には、自分の焦がれた赤い野薔薇も咲いている事に気付く。赤薔薇の隣には黒薔薇が。二つの花はまるで寄り添っているかのよう。「失われた物を乗り越え、雨や嵐すら力にする…世界」 そこには、フリオニールが描いた理想そのままの景色があった。 野薔薇咲く、美しく平和な世界が。NEXT |
地獄の楽園が、其処に在る。