さて、そろそろ俺の語る物語も終わりに近づいてきたようだ。 既に折り返し地点は過ぎている。 君という存在は、今二番目のスタートを切る前のようだけどね。 何?俺自身の話は聞かせてくれないのかって? 今までの話も全部、俺の物語には違いないよ。 俺が語る倫理観にも、追憶にも、全てにおいて欠片は潜んでいるのだから。 君という存在と同じなのさ。 此処に在る君が全てじゃない。 君に纏わる物語、歴史、誰かの言葉に、空間、記憶。 その全てが君であり、同時に君でないものとなる。 否定しきっても肯定しきっても世界は廻らないだろう。 いや、何でもない。独り言だ。 ただ若いうちは、そのどちらかに依りたがる。 そして失敗して初めて、真理の一端を識るのだろうね。 さて、追憶を再開しよう。 一体何処まで話したんだっけかな。 そうだ、二つの世界を渡る者達が何を観たか。 俺の語り口じゃ退屈かもしれないけど、どうか最後まで観ていっておくれよ。 大切なものは得てして、平凡の中に潜むのだからさ。 正義のミカタの不在証明*6*幸福の輪舞曲 金属が石を穿つ音。小さく悲鳴。ついでに尻餅をつく音。さっきからその繰り返しである。そのたびに『フリオニール』はその原因を見、苦笑する他ない。「くそっ…!」 転んで顔をしかめつつも立ち上がる皇帝。その手にはピッケル。目の前には岩石の壁。あまりにも似つかないその光景だが、残念ながらギャグではない。本人は至って真面目なのだから。 キッと忌々しげにクリスタルの壁を睨み、再びピッケルを振り下ろす彼。が、力が弱いのか不器用すぎるのかその両方か、刃は完全に弾かれてしまう。反動に耐えきれず皇帝は悲鳴を上げて尻餅をつく。 さっきから何十回見た光景か。それでも諦めないのは負けず嫌いなせいか、もはや意地になっているだけなのか。最初は何で自分が!と滅茶苦茶嫌がっていたというのに。 無論、目当ての鉱石は一向にとれる気配がない。そりゃ失笑もしたくなる。「こっちの皇帝って、本当に力仕事駄目なんだなぁ」「煩い!当たり前だろう、私は魔法型だぞ」 『フリオニール』の呟きが聞こえたようで、返ってくる怒声。それはすぐ金属音にかき消されたが。 魔法型。確かに。彼の戦闘スタイルといえば、罠にかけて魔法で叩くが常套手段だ。杖を武器に物理攻撃に出るのは極めて稀に違いない。 が。 ついつい視線が、自分の伴侶に向いてしまう。黙々と採集を続けていた彼は『フリオニール』の視線の意味に気付いて肩を竦める。 自分の妻(本人は夫と言い張ってるが立場はすっかり逆転していると思う)の『皇帝』の本性は、エンペラーブルームというドラゴンである。ヘルパーは全員、鳥や獣や竜といった本来の姿を持つのだ。で、このエンペラーブルームという種類はとにかく“強い”。魔力も腕力も、 だ。前にとある件でパニックになった彼を押さえ込もうとして、吹っ飛ばされたのは記憶に新しい。聖戦時代とはえらい違いだといつも思う。−−そうだ。こっちの皇帝は、まだ聖戦しか知らなかった時代の皇帝なんだよな…。 勿論、自分の知る『皇帝』と彼は違う。生きてきた道筋も未来も、そこに抱いた感情も。だけど。 時々、彼は同じ眼をしていると感じる事がある。その仕草によく似たものを見出す事もある。 違うけど同じ。心は違えど魂は同じ、存在。そこで自分が彼の姿に愛する人を重ねるのはお門違いかもしれないけれど。 幸せになって欲しい。 墜ちるしかなかったひとを、そこから這い上がったひとを知っているから。−−だから、俺は。「皇帝…いいよ、俺が代わるッスよ」 ティーダの呆れ果てた声に顔を上げる。どうやら一向に諦める様子のない皇帝を見かねたらしい。嫌だ!と叫ぶ暴君はすっかり駄々をこねるお子さまと化している。可愛い、なんて場違いだろうか。「あんま時間だって無いんだからさ。効率優先しろって。…分かるだろ?」 皇帝に何やら耳打ちするティーダ。何を言われたか、渋々といった様子で皇帝は引き下がる。 時間が、ない。それはまた、彼らの世界での時間が巻き戻るまでを意味するのか。この世界とあちらとの時間の流れる早さは違うから大丈夫だと思うのだけど−−。 多分、理由はそれだけじゃないのだろう。彼らは自分達に何かを隠している。とんでもない何かを。 本気で知ろうすれば、きっと自分達なら知る事ができる。だけど知りすぎれば、きっと自分は手を出したくなるだろう。領域を犯してなお、動きたくなってしまうに違いない。『フリオニール』はその程度には、自らの性格を把握していた。 ならば。赦されないラインに踏み込んでしまう前に、一歩引かなければなるまい。自分はもう、戦火に逃げ惑っていた子供でも、前を見る事しか知らなかった義士でもないのだから。「うわっ…すごいな、骨とか卵とか。これも素材になるのか?」 驚きの声を上げたのは、あちらの世界のフリオニール。彼はランポス、と呼ばれる小型肉食竜の巣を覗き込んでいた。今、巣に主はいない。素材採集にはもってこいのタイミングだった。 前にも何度も採集に来たから知っている。ランポスは寿命が尽きる場合、巣の近くで息を引き取るケースが多い。その遺体に、仲間が土をかけて埋める習性がある。巣の周りに骨が多く残されているのは、そういう訳だ。「あんまり小さい欠片は役に立たないけど…骨は調合素材として便利なんだよ」 彼の隣にかがみこみ、『クジャ』が解説する。「特にコレとかコレとか。加工するとピッケルの材料になるから、取りすぎて損は無いよ」「へえ。結構風化してるように見えるのに」「飛竜系の骨は丈夫なんだ。成分が違うのかも。僕もそっち方面はあんまり明るくないんだけど」 コレとかコレ、と『クジャ』が取り出したのは棒状の骨だ。そういえば潔癖症の気がある彼は昔、“死体の骨なんか触りたくない!”と悲 鳴を上げていたのだそうな。随分成長したというのか、それとも単に慣れたのか。 この世界は小さな汚れを気にして生きていけるほど甘くはない。ヘルパーの中でも古参な彼は、嫌というほどそれを学んできたのだろう。「あと卵の運び方、気をつけて。ランポスの卵は割と小型で運びやすいけど、殻の強度は強くない。ちょっとした衝撃で割れちゃうこともあるから」 これで小型なんだ、と苦笑いするフリオニール。確かに抱えあげた卵は、彼が両手で抱え込まないと持てない大きさだ。驚くのも無理は無いだろう。 手間だが一回ホームに置きに戻った方がいいかもしれない。卵の運搬中にモンスターに遭遇したら面倒だ。「わあっ!ピッケル壊れたぁ!」 ドタドタばったん。 派手な音をたてて、ティーダが段差から転がった。「だ、大丈夫か?」 『ジタン』が律儀に声をかける。ティーダはひっくり返ったまま(某スポーツで言う“青天”の状態だ)だいじょーぶ、と手を振る。 「た、タンコブできたッス。うー、けあるー」 ケアルの光がキラキラとティーダの体を包む。それくらい我慢しろや!とウチの『ジェクト』なら言いそうだなぁと思う。まあティーダの方も、発展途上とはいえ魔力の潜在値がとんでもなく高いみたいだし、あまり節約理念が無いのだろう。「悪いッス…ピッケル壊しちゃったッス。どうしよ…」 怪我の痛みは消えたようだが、別の意味で青ざめるティーダ。彼に渡したピッケルなどは、軽い分あまり丈夫ではない。ハッキリ言って使い捨てのようなものだ。だがそれを知らなければ、焦るのも無理はない。 それに、さっきまで皇帝がやたら無茶な使い方をしていたのだ。安物のピッケルがあっさり壊れるのも自然と言える。「いいよいいよ。はい、こっち使いなって」「あ、ありがと『フリオニール』」 刃先がポッキリ折れたボロピッケルを受け取り、『フリオニール』は代わりのピッケルをティーダに渡す。さっきのよりは幾分マシな代物だ。若干重いがそこは頑張ってもらうことにする。 予想通り、重さに若干ビックリしていたようだが、ティーダはピッケルを担いで作業を再開した。やはり経験がないせいか打ち込み方も覚束ないが、それでも力任せに叩きつけていた皇帝より随分マシだ。むしろ素人の割にはうまい。 カキン、と一際高い音がして、ピッケルの刃先が鉱石を弾き出す。綺麗な蒼い石が地面に転がった。「お、マカライト鉱石じゃん。値段高くないけど結構数が足りなくなるんだよなー」 『ジタン』がそれを拾い上げて籠に放る。他にも、あっちこっちに飛んでいく鉱石の欠片を器用に飛びついてキャッチしていく。さすがエアマスター。 隣で『皇帝』が「猿がいるぞ、猿が」と呟いたのは−−聞こえなかったフリをしよう。「面倒だけど、卵もあるから一回戻ろう」 『クジャ』の提案に異議がある者はいない。彼の後ろには卵を抱え込んだフリオニールと、小さな籠とはいえ大量の骨を背負わされている皇帝がいた。『クジャ』本人も手提げの中に薬草をたくさん持っている。「次のエリアはちょっと厄介だもんな。時間かかりそうだし…ついでにホームで 飯食ってくるか」 次のエリア。そこには手慣れている自分達でもあまり遭遇したくない相手がいる可能性がある。要は、大型モンスターの巣だ。けれど貴重なキノコを採集するには避けては通れない。 最悪三体以上同時に遭遇するハメになる。さすがに卵を抱えていては戦えない。今は、ヘルパーでないティーダ達もいるから尚更だ。 再び悲鳴が上がった。今度は複数。見れば大きな蜂−−ランゴスタ、という−−がティーダ達の周りを飛び回っている。 けして強い相手ではない。ないのだが。「蜂蜂蜂ーっ!なんでこんなにデカいんだよーっ!」 初めて見れば、そりゃビックリする。 彼らが至って真面目に騒いでいるのは承知だが−−『フリオニール』はついつい笑ってしまった。『皇帝』も横で笑いを堪えている。 面白いからしばらくほっといてやろうか、なんて。考えた自分は結構な意地悪だ。 今日は意外な訪問者が多い。 鼻先に突きつけられる刃に、アルティミシアはため息をつきたくなる。いや、疲れてる場合じゃないのは分かっているけれど。死への危機感や恐怖が薄れつつあるのは、致し方ない事だった。「土足で人の家に入っておいて、随分礼儀を知らないのね」「アンタの城じゃないだろう、此処は」 訪問者−−クラウド=ストライフは憮然と言う。 まあ確かに、パンデモニウムは自分の城ではないが、アルティミシアが留守を任されているのも確かで。勝手に荒らし回られていい気分じゃないのも事実っある。「まずは話をしに来たんではなくて?だったらその物騒な物はしまいなさい。マナーが理解出来ないほど、貴方は子供じゃないでしょう」 短気な人間ならキレるかもしれない。が、このクラウドという人間はセフィロスさえ絡まなければ基本的に冷静で頭の回転も早い。今はまだ発狂している様子も無いし、話が通じると思ったのだ。 案の定、彼は忌々しげに眉を寄せながらもバスターソードを消した。最初から戦いに来たわけではない、のは本当らしい。話次第じゃ斬るつもりなのも確かだろうが。「…単刀直入に言う。ライトに何を吹き込んだ?おかげでこっちの陣営は大混乱 だ」 パンデモニウムから出てくるあの人を見た、とクラウドは言う。「…ウォーリア・オブ・ライトはあなた方に何を話したんです?その内容によっ ては、誤解という事にもなるのだけど」 間違いなく、また世界が動きつつある。ライトは彼らにどこまで話をしたのか。そしてその本人は今、どうしているのか。 自分は見届けなければならない。最期の瞬間が訪れるまで。それが皇帝に託された義務。 逃げる場所など最初からありはしないのだ。それがどれほど残酷で、悲しい現実だとしても。NEXT |
剣の舞に踊るは幻影。