よくサスペンスドラマで見ると思うけど。 人が人を殺す理由のうち、“復讐”ってヤツは相当多い。 で、名探偵が大抵なんて犯人を諭すかってーと。 まああれだ、復讐したって大事な人は帰って来やしないんだよ、とかだ。 確かにそれは正論なんだけど、それで誰でも納得できれば世話ない。 名探偵が“お前の気持ちは分かるけど”なんて口にしたらとんだお笑い種だ。 本人の気持ちは本人にしか分からないのに、知ったかぶりってどんな偽善? 人を殺すのはいけません。 じゃあどうして殺してはいけないの? それは人類の永遠のテーマと言っても過言じゃない。 人を殺すのはいけないの。 じゃあ“人”以外を殺すのはどうして赦されるの? その答えを明確に答えられる人間なんで誰もいない。 復讐したって愛した時間は戻らないと本当は誰もが知りながら。 時として激情を抑える術を知らないように。 そんな彼らを俺達は本当の意味で否定する権利を持たない。 だっていつか俺達もそうなる瞬間がきっと来るから。 誰もが何かを殺して生きているのは間違いない。 全てに罪悪感を持つのは無理でも、その事実だけは忘れちゃいけないんだろう。 それが多分、生きるって事だから。 正義のミカタの不在証明*8*落日の円舞曲 危険を察知して、ケルビー達が次々洞窟の奥へと逃げていく。 自分達も逃げた方が無難なんじゃなかろうか。倒せない敵ではないだろうが、異世界でまでリスクを犯したくないのがティーダの本音だ。 万に一つこの世界で死んだら、どうなるのか。下手をすればそれっきりかもしれない。ヘルパー達が生き返らせてくれるにせよ、そういうお世話のなり方は御免被る。 だが思案するティーダの耳に飛び込んで来たのは。「丁度欲しかったんだよなーイャンクック系の装備ー」 という『ジタン』の声。あからさまに、自分達に聞こえるように言っている。逃げないで戦え、という圧力だ。 このサディスト集団!内心で喚きながらも、仕方ないので剣を構える。 再び突進して来るイャンクック。その腹の下を潜ってかわし、回避と同時に斬りつける。この手のモンスターは腹が柔らかい場合が多い。だが。 ガキィンッ!「はいっ!?」 マジッスか!ティーダはつい声に出して叫ぶ。刃は確かにモンスターの腹を捉えた筈だ。だが、フラタニティは思い切り弾かれてしまった。思いの外鱗が堅いらしい。 まずい。武器がどうのというより、自分の腕力じゃ歯が立たない。下手に斬りつけて転んだらその隙に踏み潰されてしまう。「ティーダ、離れろ!」 フリオニールの声。瞬時に意図を悟り、距離をとる。リードアックス。フリオニールの投げつけた斧が怪鳥の鱗に切り込まれた。傷は浅いようだが衝撃でよろけるイャンクック。 普段ならそのまま、フリオニールの方まで獲物を吹っ飛ばす事ができる筈だった。しかし斧がうまく刺さらなかった事と、獲物の体重が重いせいで、僅かに転ばせただけで終わってしまう。 ギロリ、と怪鳥の眼がフリオニールを捉えた。そのまま背中をそらし、天高く雄叫びを上げる。怪音波。反射的に誰めが耳を塞いだが、完全にシャットアウトは無理だった。 なんて鳴き声だ。耳鳴りが収まらずティーダは呻く。そこそこ離れていた自分ですらそうなのだ。間近でくらってしまったフリオニールはたまったもんではないだろう。「ぐあぁぁっ…!」 三半規管にダメージを受け、立っていられなくなった義士が膝をつく。その手から落ちる武器。ダメージは一時的なものだろう。しかし戦場においては致命的な隙だ。「フリオニール!早く立てっ!逃げろ!!」 再びイャンクックが突進しようとするのを見て、ティーダは叫ぶ。が、フリオニールはまだ立ち上がれない。立とうとして失敗し、また尻餅をつく。吐き気がするのか、顔色が真っ青だ。 エスナ、いやそれより先にプロテスか。白魔法のスペルを唱えるべく気を集中する。しかし果たして間に合うのか−−。「役に立たん虫けらめが…!」 悲鳴が上がった。だがフリオニールでもティーダでもない。絶叫して転がったのはイャンクックの方だ。すんでのところで皇帝が、怪鳥の足下に仕掛けたマジックトラップを起爆したのである。 真下から雷の紋章に絡めとられた怪鳥は関電し、動きを止めた。どうやらそこそこダメージを与えられたらしい。「皇、帝…あんた…」 漸く耳鳴りから復活したフリオニールが、よろけながら立ち上がる。まさか皇帝が自分を助けるとは思わなかったのだろう。 どうして?そんな義士の眼差しに暴君は一瞬悲しげな顔をして−−すぐに表情を消した。暴君としての仮面を被ったのだ、とティーダは悟る。「…こんな訳も分からん場所で、貴様に死なれては困る」 本当に、皇帝はフリオニールを憎んでいないのだ。記憶はなくとも、彼がフリオニールに殺された時の感情は消えない筈なのに。事実を再認識して、ティーダは胸が痛くなる。 自分は知っている。その理由を、彼らの過去を、真実を。口に出来ない事は正直、辛い。「…フリオニール。皇帝」 作戦会議をするなら、イャンクックが動きを止めている今しかない。フリオニールにエスナとケアルラをかけ、ティーダは口を開く。「ヘルパーのみんなは言った。三人で何とかしろって。…だからさ、三人の力を 合わせて、あいつを倒すんだ。過去に何があったとしても、俺達の本当の敵は別にいる。フリオニールも皇帝も、心の奥でその答えに気付いてる…そうだろ?」 憎しみはまだ越えられないかもしれない。あまりに大きすぎる感情を飲み込めるほど、自分達は大人じゃない。だけど。 一番大切なことが見えないほど、子供でもないから。「ここでいがみ合って死ぬようならそれまでだ。あいつを倒せないようじゃ、神竜には太刀打ちできない。それでいいのかよ?」 怪鳥が激しく暴れ出した。あちこちに剥がれ落ちたピンクの鱗が散らばっている。バチン、と甲高い音がして電撃の網が破られた。怪鳥の片翼が逃れ出る。紋章が破られるのも時間の問題だろう。「…ティーダ、ライブラは使えるか?白魔法は?」 「一通り。ケアルからアレイズまでいけるッスよ」「そうか」 それは皇帝なりの意思表示だった。彼はティーダを見、怪鳥を見、そしてフリオニールを見た。 その眼に映る戸惑いと憎しみから、逃げることなく。「私は中距離からマジックトラップで奴を足止めする。フリオニールは直接殴れ。さっきの様子から察するに、貴様の腕力なら近距離から斬りつければ多少はダメージを与えられる筈だ」「なっ…誰があんたの指示になんか」 「フリオニール」 逆らおうとするフリオニールに、ティーダは有無を言わさぬ声でその名を呼ぶ。「今は皇帝に従うんだ。生き残る為の作戦なんスから」 自分達はこの後、命を賭けた作戦で行動を共にする事になる。その結果次第で、世界の命運が決まると言っても過言ではない。だからこそ。 味方の間で、軋轢があってはならないのだ。理解して貰わねばなるまい。今、自分達の指揮官は皇帝である事を。彼が信じるに値する人物である事を。「皇帝。俺は何をすればいい?」 静かに、ティーダは暴君に尋ねる。 共に戦うのだ。同じ未来を願うなら。「ティーダ、お前は後方支援を中心に、時折遠距離から魔法で攻撃してくれ。まず我々に支援魔法。イャンクックの音波攻撃はシェルで防げる筈だ。後はライブラで奴の弱点を探り出せ。我々が傷を負ったら逐一回復」「ラジャーッス」 イャンクックのもう片方の羽が網から抜け出た。ぐぐっと力任せに押し出される身体。ピシリ、と紋章に罅が入る。もう一息と言わんばかりに足を踏みならす怪鳥。「……分かった。指示に従う」 沈黙の後、フリオニールが顔を上げた。そこにもはや、先程までの迷いや意地はない。「皇帝。あんたを許せたわけじゃない。だけど…俺はみんなと生きる。野薔薇咲 く世界を必ず現実にすると決めた。小さな意地で、自分の夢を無駄にするのだけはごめんだ」 だから、共に戦う。未来を掴む為に。 義士の言葉に暴君と夢想も頷く。 何かが解決できたわけではないとしても。今はきっと、それでいい。「来るぞ!」 雄叫びと共に、イャンクックが雷の紋章を破った。それを合図に、動き出す三人。 闘え。抗え。 光と闇の二つの力で。 葛藤。目の前の青年の様子を漢字二文字で表すなら、これ以上の言葉もあるまい。 アルティミシアの目の前で、クラウドは頭を垂れてうなだれている。相当混乱しているようだ。それでも錯乱に至らないのを、魔女はやや意外に思う。 どうやらクラウドも、この世界のシステムに疑問を持っていなかったわけではないらしい。元々頭脳明晰な彼だ。ただ少々思い込みが強いのと精神薄弱なせいで、今まで考えが至らなかったにすぎない。「…かつての世界で。私も皇帝も…何度もあなた達に真実を伝えようとしました 。私達だけの力では、とても運命は打ち破れない」 記憶の中で自分を見るクラウドの眼は、大抵狂気と錯乱と絶望に満ちていた。泣き喚くかのような声で、嘘だ嘘だと拒絶を投げつけられるだけならまだいい。 まずその場で、斬り捨てられた。 首を一刀両断してくれればまだいい。だが半端に切り刻まれて放置されればたまったもんではない。即死できず、自害する余力もないまま、ひゅーひゅーと喘ぎながら苦痛に満ちた死を待つ虚しさ。 なのに、記憶すらも剥がれ落ちるばかりで。最期に愛する人の名すらも呼べない自分達。 二度と味わいたくない、と。そう思っても地獄は巡る。輪廻は続く。まるで永遠の拷問のように。「…元いた世界で、私達カオスの戦士は皆が皆“世界の敵”だった。あなた方と 刃を向けあったのも事実でしょう。でもそれは……今の物語ではない。私は信じ て欲しかった。拒絶されても仕方ない、そう分かっていながら」 愚かな事をしてきた。今も、馬鹿な告白をしている。アルティミシアは自嘲しながらも言葉を紡ぎ続けた。懺悔をするかのごとく。「特に貴方は私達を疑った。私達…いいえ、セフィロスを倒す理由を喪う事を貴 方は恐れているから。…そうでしょう?」 セフィロス。宿敵の名に、クラウドは緩慢に顔を上げる。その瞳には苛立ちがあったが−−アルティミシアが見慣れてきた狂気は無かった。 不思議だ。目の前の青年が憤りながらも穏やかに、静かに現実を受け止めているのが分かる。「貴方はいつも…私達を嘘つきだと罵った。確かに、時に私達は嘘もつきました 。でも…輪廻を打ち破る為なら何だってするという覚悟に、嘘は無かったのです よ」 最初はただ自分が助かりたかった。 だけどやがて、それ以上の願いが生まれた。「…そう。私はあの子が…スコールが幸せになってくれるなら…他には何も要ら ない」 この鳥籠の世界で無残に朽ちていく獅子を見るのは、もうたくさんだ。「…あんたは」 ようやく絞り出した、といった風のクラウドの声。「今にしろ過去にしろ。敵だったんだろう…スコールの」 だったら何故、と。 倒すべき敵とは、イコール憎悪の対象と無意識に信じてきた彼は驚きを隠せないのだろう。何故憎むべき筈の相手に、そのような慈しみを向けられるのかと。「敵だった、筈なのに、ね。私にもよく分からないのだけど」 もしその運命が変えられないのなら。どう足掻いてもスコールが自分を排する道を選ぶなら。「それでももしスコールが、永遠に私の敵である事を望むなら。最期はあの子の刃で死ぬ事…それが私の唯一の願いになる」 沈黙が落ちる。アルティミシアは息を吐いた。自分の本心は全て吐き出した。この上で決断するのはクラウドだ。 長い長い、静寂。「…分かった」 ゆっくりとクラウドが口を開く。「あんたを、信じよう。…俺にも譲れない願いはある」 クラウドが手を差し出してきた。アルティミシアは−−泣き出しそうな心持ちで、手を伸ばす。 だが、二人の手が触れるより先に、どこからともなく轟音が響き渡った。 過酷な現実を告げる音色が。NEXT |
願いはまるで、一滴の涙のように。