俺が語る物語の中では、我を失って暴走する奴が結構いる。 普段なら“ありえないだろ”と鼻で笑えるほど極端な反応。 俺達の誰かがそうなりやすい理由は、この世界のとある要素が大きいんだけど。 ここまで極端な例でなくとも、人は時に驚くほど簡単に狂う。 大切な何かを失った時、全てを否定するかのごとく暴れたりする。 特に、愛する誰かを失った時は。 さっきの話の続きにもなるけどね。 ポッカリ空いた穴を埋めたくて埋めたくて人は足掻く。 足掻くしか術がない。 簡単に受け入れられるほど人間簡単な構造はしてないわけで。 だから報復に走る事で紛らわそうとする人間も出る。 俺も、そうならないなんて言い切れる自信は無いなぁ。 俺達に出来るのは、きっと覚悟を決める事だけ。 突然の悲劇に少しでも耐え切れるように、あらゆる残酷な想像をしておくこと。 それ以外には、無力。 だからこそ俺達は人間たるのかもしれない。 正義のミカタの不在証明*9*落涙の独奏曲「ティナ!ティナぁっ!目を覚ましてっ…戻ってっ!!」 クラウドと共にパンデモニウムエリアを飛び出したアルティミシアが見たのは。ガレキの塔、そこで暴れまわるティナと、血だらけで泣き叫んでいるオニオンだった。 オニオンの左腕は、骨が見えるほど抉られ血が吹き出し続けている。その彼がボロボロの腕で抱きしめているのはバッツだった。頭から血を流し、ぐったりと動かない旅人。もしかしたら既に息がないのだろうか。「く、クラウド…!」 よろけながらこちらに近付いてくるのはジタン。彼も彼でかなりの有り様だった。全身傷だらけ火傷だらけ。今のところ致命傷は回避しているようだが、魔力が尽きて疲れきっているのは見て取れた。 倒れかけた彼を、とっさに手を差し出してクラウドが支える。「一体何があったんだ…?どうしてティナが暴走してるんだ!?」 「わかんねぇよ!」 パニック寸前なのだろう。ジタンは悲鳴に近い声を上げる。「ライトさんがいなくなって…あんな意味深な事言ってたからみんな心配して… !独断なのは分かってたけど、捜しに行こうって事になって、そしたら…」 ゼイゼイと息を切らし、盗賊は膝をつく。「イミテーションがたくさん襲ってきて、バラバラになって!やっと見つかったと思ったらティナはこんな状態で、バッツは倒れてるし…っ…。ライトさんは見 つからないまま。フリオニールとティーダは帰って来ない!なぁっ…何がどうし てどうなってるんだよ!」 一気にまくしたて、彼は頭をかきむしって呻く。彼も彼で発狂寸前なのは見て取れた。アルティミシアの顔を冷や汗が伝う。 何が起きたのか?当のティナがこうなってしまった以上、それを確かめる術はもはや無いに等しい。彼女を一人にしたのがまず不味かったのだろう。彼女とオニオンを引き離すと途端に不安定になる事は、今までの検証で明らかになっている。何より。彼女の力が暴走した場合止めるのは極めて困難なのだ。“暴走しかけ た”段階でオニオンが止められていないならば。 「フリオニールとティーダは、無事でしょう」 自分が口を出すべきか否か。少しばかり逡巡した後、アルティミシアは前者を選んだ。「ただし、彼らは今皇帝と共に異世界にいます。…今すぐ戻って来るのは難しい 」 そこで漸く、ジタンはアルティミシアの存在に気付いたらしい。いつもの彼なら、敵とはいえ女性である自分の姿を見落とす筈がない。 それだけ彼が、平常心を失っているという事だろう。「何であんたが此処に…?ってか何であんたがフリオニール達の居場所を知って んだ…?」 いけない。百年の間に得た直感が警鐘を鳴らした。ジタンの瞳に、濁った光が宿る。そんな眼を、自分はこの輪廻の中で幾度となく見てきた。だから知っている。 そうなった相手への説得が、どれほど無意味であるかも。「異世界…?寝言は寝て言えよレディ。しかも皇帝と一緒?あのフリオニールが ?…嘘吐くならもうちょいマシな嘘吐けよ」 「嘘ではありません」「いくらレディでもなぁ…平気で嘘吐く奴は嫌いなんだよな。…なぁ、あんたが フリオニールとティーダを隠したんだろ?だからそんなデタラメ言うんだろ?今ならまだ許さないでもないからさぁ…」 膝をつき、俯いたままぼそぼそと喋る。その異様な気配に、クラウドも危険を感じ取ったのだろう。視界の端で彼がバスターソードに手をかけるのが見えた。「言えよ。なあ、言えってば」 よろり、と立ち上がる盗賊の影。 ヤバい。 ヤバい。 ヤバい!「本当の事言いやがれぇぇぇっ!」 カッと紅い光が明滅した。まさかトランスしたのか。目を見開く魔女。彼は感情がそのまま力に変わるタイプだが、まさかこれほどとは。 足下を駆け抜ける紅蓮の焔。ダイダルフレイムの一撃を辛くも避ける。もう少しで脚が消し炭になるところだった。なんて威力なのか。 完全に我を忘れている。今の攻撃はアルティミシアを狙ったものだろうが、かわしていなければクラウドも巻き込まれていた。普段の仲間思いの彼なら絶対にしないだろうミス。 どうする。 どうすればいい。 もはやジタンはほぼ完全に発症してしまった。説得の余地は無い。だが、だからといって自分が彼を殺せば、せっかく得られかけているクラウドの信頼を失う事になりかねない。「天の嘆き…!」 そしてジタンばかりに気を取られているわけにもいかない。向こうではティナの暴走が続いている。彼女もまたトランスしていた。容赦なく降り注ぐメテオの嵐に、オニオンが悲鳴を上げてのたうつ。 広範囲の隕石の雨はこちらにも及んだ。どうにか騎士の矢で弾き返す。余裕は塵ほどもない。 ジタンが巻き込まれたのが見えた。小さな隕石の焔が彼の左肩を焼く。誰がどう見ても重度の火傷を負った。傷口は真っ黒に焦げ付き炭化している。あの腕は切断しなければならないかもしれない−−そんなレベルの傷。 しかし彼はまるで痛みなど感じていないかのように、倒れてすぐ立ち上がった。狂気が痛覚すら麻痺させているのか。鬼気迫る形相に背筋が凍り付く。「あ゛ぁぁああぁ゛あっ!」 喉が潰れたような叫び声を上げて、盗賊は猛スピードで突進して来る。二本の刃を、無茶苦茶に振り回しながら。 反応が遅れた。自分足では避けきれない。ガード体制をとったアルティミシアは、しかし目の前に立ちふさがった影に目を見開く。「…こいつは、俺が引き受ける」 あんたを見込んで、頼みがある。 ジタンの刃をバスターソードで受け止めたクラウドは、振り向く事なくそう言った。「だから…あんたはスコールとセシルを捜しに行ってくれ。この状況で姿が見え ないのは気にかかる」 アルティミシアは目を見開く。まさか彼からそんな言葉を聞く事になるなんて。「いいのですか?私は魔女で…あの子の敵でしょう」 「そう思い込んでるのはスコールだけなんじゃないか?」 振り回される盗賊の刃を冷静に受け流しながら、兵士は静かに言葉を紡ぐ。「スコールの幸せさえあるなら何も要らない。あんたはそう言ったな。俺は…そ う願ったあんたの心を、信じる」 甲高い音がして、盗賊の小柄な体が力負けして吹っ飛ばされた。トランスしたとはいえ元々の体格と腕力の差は大きいのだろう。クラウドはコスモス陣営で最もパワーを持つ戦士なのだから。 今のうちに早く行け、と。一瞬振り向いた兵士の眼が語る。お前に彼らを託す、と。「…分かりました」 信じられない。こんなに強い彼が、この輪廻の中で何度も何度も理性を失って暴走してきただなんて。「ありがとう…クラウド」 自分は応えなければならない。その信頼に、その強さに。走り出す魔女。何回も何回も繰り返してきた悲劇。その度に“次に賭けよう” と受け入れてきたけれど。 どんな世界でも、全力で生き抜くと決めた。それが自分達にも譲れない、たった一つの誇りだから。 やれば出来るじゃないか。 『皇帝』は小さく笑みを浮かべた。自分達ヘルパーが絶妙なタイミングで死角をとっているせいもあるだろうが、イャンクックは完全にあちらの世界のティーダ達を標的にしたようで、向こうばかりに攻撃を仕掛けている。 もしいつまでも現状が改善されず、彼らが命の危機に晒されるようなら。やむなく自分達が手を貸すつもりでいた。実際戦い始めた当初は見るからに動きがぎこちなく、彼らは実力の半分も出せてあなかったのだから。 正直。これでも『皇帝』はティーダ達の力を高く買っているのである。ヘルパーとして覚醒し力をつけてきた自分達には遠く及ばないが、多分聖戦時代の自分より彼らは強い。百年戦い続けてきただけの事はある。 本来ならイャンクックごときに彼らが苦戦する筈はないのだ。 それが手こずった理由はただ一つ。彼らの連携があまりにお粗末だったから。ティーダはまだいい。しかしフリオニールと皇帝の間には大きな溝がある。そのぎこちなさが戦闘に大きく悪影響を及ぼしていたのだ。−−それが、さっきの一件で空気が変わった。 ティーダが自分と皇帝とフリオニールにヘイスガをかける。魔法の効果が現れると同時に、皇帝が動く。 放たれる光の紋章。イャンクックが皇帝に気を取られた隙に、フリオニールが神風のようにイャンクックに斬りつける。そしてまた退く、を繰り返す。ヒット&アウェイだ。 怪鳥がフリオニールに殺気を向ければ今度は皇帝がフリーになる。その隙に彼はまた新たな罠を張るのである。 ただ闇雲に同じ動きを繰り返しているわけではない。二人は戦いながらさり気なく既に貼られた雷の紋章の場所へイャンクックを誘導している。 さらに、二人がラッシュをかければかけるほど、怪鳥のティーダへの注意が疎かになる。ティーダはその間ライブラでイャンクックの弱点をずっと調べていた。綿密なデータを欲するほど、ライブラには時間がかかる為である。「今ッス!二人とも避けて!!」 バッと皇帝&フリオニールが飛び退く。それと同時に、ティーダのブリザガがイャンクックに炸裂した。しかも連続魔法だ。凍てつく強烈な二撃にモンスターの絶叫が響き渡る。 最後の足掻きか。空へ逃げようとしたイャンクックを、フリオニールの弓が狙う。翼の付け根が弱点だ、とティーダが叫び。フリオニールは正確にストレートアローでその場所を射抜いた。 ギシャアアアアッ! 潰れたようなモンスターの悲鳴。 翼の付け根は、動きかしやすいよう皮膚が薄くなっているのだろう。そこから腹に至るまで深く貫かれた怪鳥は激痛にもがき、翼を広げかけた格好のまま墜落した。 その下がまさに、皇帝の雷の紋章。 吹雪、矢、シビレ罠のフルコースをくらい、絶望の鳴き声を上げるイャンクック。最後の抵抗とばかりに、あの超音波のような雄叫びが上がる。 だが。二度も同じ手を食うほど彼らは馬鹿ではない。「残念でした!」 瞬時にマイティガードで全員を防御したティーダ。雄叫びを上げ続けるイャンクックに構わず、皇帝がフレアを放つ。 巨鳥はその青白い焔に飲み込まれ、遂に絶命した。「よっしゃあ!こんがり焼き鳥一丁上がりぃ!」 まるで我が事のように『ジタン』が歓声を上げる。『皇帝』も顔をつい綻ばせた。が、それでも厳しく対応するのが自分の役目と言い聞かせる。「思ったより時間がかかったな」「あはは。そかも。ごめんッス」「なかなか手厳しいね君も。初めてにしちゃ上出来じゃない?」 ティーダが参ったように頭を掻き、『クジャ』がフォローし。向こうでフリオールと皇帝が苦笑している。 彼らは気付いてくれただろうか。気付いてくれているといい。 自分達が三人をこの世界に招いた、その訳。 そして自分達が彼らに一番伝えたかったのが何なのかを。NEXT |
生きていこう、残酷な戦場(ステージ)でも。