I found you and you found me too 
DFF・オニ←ティナ)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「かわいい、かわいい、ワタシのお人形さん。次の戦争の日取りが決まったよ」
 
 
 
 
 
 ケフカが耳元で囁くと、少女は緩慢な動作で主を見上げる。
 彼女を囚える金の輪もつられるように煌めいた。
「楽しみだねぇ。またいっぱい、いっぱい、いーっぱい壊せるねぇ。お前はイイ
コだから、僕チンといっしょにどこまでも壊して、どこまでも殺して、どこまで
も死ねるんだヨ。楽しいよねぇ。楽しいデショ?」
 ケタケタとケフカがやかましく嗤っても、少女は夢を視ているような表情で見
つめ「はい、ケフカさま」と答えるだけ。
 ケフカはますます楽しくなって手を叩いてはしゃぎまわる。少女はぼんやりと、
ケフカに与えられた玩具を抱きしめた。
 
 
 
「ケフカさま」
「うーん? なあになあに?」
 ぴよんぴよん、と妙な靴音を鳴らしながらケフカが戻ってくる。
「私、さがしてるものがあるんです」
「サガシモノ? オモチャかな? お洋服かな? 靴かな? 腕かな? 目玉か
な?」
「ずっとさがしてるのに、どうしても見つからないんです」
「それはタイヘン! 面白いモノだったら僕チンも探してあげるから、言ってみ
なっさい?」
 
 
 少女がこんなにも言葉を発するなど、ケフカの人形になってから一度もなかっ
た。
 だがあからさまに上機嫌なケフカは気にする様子もなく、少女の頭を撫でてい
る。
 
 
 
 
 
 少女は腕の中の玩具を眺め、小さく口を開いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 夜天に聖なる光弾が奔る。
 鈍く藍色に発光しているかのような不思議な大地。月の渓谷と呼ばれる戦場で、
放たれたホーリーは灼くべき標的を求めて次々と飛来する。
 
 
 バッツは銀色の地脈を滑り、素早く円柱形の岩に身を隠す。ホーリーは岩にぶ
つかり、しゅわ、と霧散した。
 そろりと半身を覗かせるも、相手の顔を見るより前に巨大な氷塊が撃ち出され
る。
「今度は氷かよっ!」
 ホーリーより貫通に優れた黒魔法・ブリザラ。容赦なく打ち崩される岩から身を
翻し、降ってくる岩石に巻き込まれぬよう二、三歩飛びすさる。
 バッツが体勢を整えると数瞬待つことなく、またもホーリーが迫ってくる。
 
 
 バッツはしっかりと両足に力を込めて立ち、顔の前で腕を交差させた。詠唱は
いらない。攻撃を防ぐに足る魔力を身体に巡らせる。
 
 見えない壁に弾かれた白い魔弾は勢いはそのままに、術者へと牙を剥く。
「そう何度も、同じ手は喰わないぜ!」
 弾いたホーリーを追うように、バッツが空へ駆け出す。高台に陣取っていた少
女は舞うような動きでホーリーをかわすが、既にバッツが肉迫している。
 間合いを取ろうと少女は小さな氷塊たちを身に纏わせ、バッツを殴りにかかる。
 
 
 バッツは読んでいた。再び腕に魔力を込め氷塊を砕く。衝撃にのけぞった少女
の腹に、武器を喚ぶより早いと渾身の蹴りを喰らわせた。軽い身体は呆気なく吹
っ飛び、威力を受け止めきれず崩壊した高台の瓦礫に埋もれてしまった。
 
 
 
 バッツはふぅっと息をつきながら慎重に瓦礫との距離を取る。離れすぎてはい
けない。間合いが広がって有利になるのは相手の方だ。
 
 
 がらり、と岩の破片が落ちる音。それに紛れてビリ、と大気が揺れる音がバッ
ツの耳に微かに届く。咄嗟に横に跳べば、さっきまで立っていた場所に青白い雷
撃が立て続けに四本落ちた。瓦礫の中から正確な位置を捉えることはできなかっ
たらしくバッツを囲むことはなかったが、避けるのがもう少し遅ければ一発は喰
らっていただろう。
「うわ!?」
 冷や汗をかく暇もなく、今度は氷や炎が次々と飛んでくる。
 
 よくもまあこんなに魔力があるもんだ、とバッツが暢気に感心してしまう程大
量の魔法だったが、精緻さに欠けていた。当てずっぽうに放っている気がしてな
らない上に一発一発の威力があまりにも弱い。
 バッツは戦友であるスコールの剣を喚ぶと時にかわし、時に剣で斬り防ぎなが
ら首を傾げた。先程の戦略性と攻撃性を併せた戦術からの落差が激しすぎる。バ
ッツの攻撃によって弱ったにしては、まだまだ魔力に余裕がある。罠か、と周囲
に気を巡らせても誰もいない。少女はたった一人で、バッツに襲いかかってきた
のだ。
 
 
 
 やがて、ガラガラと瓦礫を押し退けながら少女が姿を現す。同時に出鱈目な魔
法攻撃もぴたりと止んだ。華奢な身体から収まりきらない魔導の力がゆらゆらと
揺れている。しかしその力は行使されることなく、少女は瓦礫から抜け出すと立
ったまま動かなくなってしまった。
 攻め時か、とバッツはガンブレードを構え直したが、少女の唇が小さく蠢いて
いることに気づいた。少女の背後に輝く青き星のせいで顔に影がかかっているが、
確かにぼそぼそと何か呟いている。
 
 
 呪詞ではない。彼女は繰り返し繰り返し。
 
 
「……ねぇ、どこにあるの?」
 
 
 ふらり、と少女が歩き出す。
 
 バッツの身体に緊張が走る。しかし、少女はただただ、歩くだけ。
「ずっと、あの時からずっとさがしてるのに、どうして見つからないの……?」
 静かに、確実に、二人の距離は縮まっていく。
「あなたは何色? この世界は何色? わからない。全部真っ白だった筈なのに。
今だって真っ白なのに。ケフカさまは教えてくれなかった……あなたは、知って
る?」
 少女と目が合う。顔が見える。
 
 
 バッツはゆっくりと剣を下ろした。
 
 
「私、あかいろをさがしているの。それから、きれいなみどりいろ。あの時は見
えたのに、覚えてるのに、どうして? たくさんさがしたのよ。たくさん。でも、
あれっきり。どうして? あのあかいろは。あのあか。……あかいろ、どこにい
るの?」
 掠れた声は細く、弱々しい、可憐な少女のそれだった。バッツはただ戸惑う。
 
 
 
 
 
 
 少女は混沌の駒である。
 彼女の強大な力に傷ついた仲間も、――喪われた仲間も、いる。
 
 
 
 少女はバッツにとって単なる対立者なだけでなく、倒すべき仇敵でもあるのだ。
 
 
 
 けれど。
 
 怒りも憎しみも、バッツはどうしても抱くことができない。
 
 
 
 少女はいつも虚ろで、喜怒哀楽など欠片もない、操り人形のようだった。その
強さと相俟って、不気味さを醸していた。
 
 
 しかし、今目の前にいる少女は。瞳はやはりどこか遠くを見ているが、何かを
切望する、痛々しい表情に歪んでいる。
 
 
 
 
 
 
「君は……」
 バッツは言葉を紡ぎかけたが、背筋の粟立つ感覚に口を噤んだ。
 
 
 
 少女の顔から表情が消え、無機質な殺気が溢れ出す。
 視界の端で金色が光った気がした。
 
 
 
「荒ぶる風たちよ……」
 暴風を呼ぶ呪。逃げようにも、この距離では気流に引きずり込まれてしまう。
 
 
 
 
 ――まずい……!
 
 
 
 
 致命傷だけは避けようと、バッツが身を丸めたその時だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
「走れ――」
 凛と響く、低い声。
 
 
「光よ!」
 夜の世界を照らす、眩い閃光。
 
 
 
 バッツと少女との空間を切り裂くように、光は地を走る。少女は魔法を中断し
て後方に大きく退がり、バッツは目の前を通過する光を茫然と眺めた。
 
 ハッと我に帰り、光が放たれた方向を振り返る。
 
 
「バッツ、無事か」
「ライト!」
 光の戦士が甲冑を鳴らしながら駆け寄る。バッツは無意識に詰めていた息を一
気に吐き出した。
「怪我はないようだな」
「ああ。けど助かったぜー。今のはけっこー本気でヤバかった」
 ありがとな、と屈託なく笑うバッツに安堵したのか、光の戦士は僅かに目元を
緩ませた。
 しかしすぐに、鋭い視線を少女へと向ける。
 
 
 
 
 
 
 少女は頭を抱えてうずくまり、またぶつぶつと呟いている。威嚇の意味合いが
強かった先刻の攻撃は掠ってもいないはずだ。
 
 
 
「あの娘、なんかいつもと調子が違うんだよな」
 だから俺も油断しちゃって。
 バッツが頭を掻くのを横目に捉えながら、光の戦士は怪訝そうに眉根を寄せる。
 
 
「……彼女から感じる混沌の気配が、弱まっている」
「え……?」
「それだけではない。微かにだが、光が……」
 バッツは目を丸くした。
 
 
 光の戦士は秩序の戦士たちの中でも、光や闇の気配に対する感応力が飛び抜け
て高い。バッツが感じられない微細な気配も正確に察知する。
 
 
 
 その光の戦士が感じた、少女の持つ小さな光。
 それが意味する処は。
 
 
 
 
 
 
「――よしっ」
 気合いの声と共に、バッツ手から武器が消え去る。
 
 そのまま、一歩一歩少女に歩み寄っていく。
 
「バッツ」
「大丈夫。ライトはそこで待っててくれよ」
 バッツはおどけて親指を立てて見せる。
 警戒する気配を背中に感じたが、光の戦士はバッツを見守ってくれるようだ。
 
 
 
 
 バッツはうずくまったままの少女の傍に膝をつくと、そっと華奢な肩に触れた。
 少女はそれには反応せず、俯いて呟き続けるだけ。
「あかいろ……みどりいろ……どこ? どこにいったの……?」
 疲れ切ったように頭を振る少女に、バッツは両肩を掴み、軽く揺すった。
「君が本当にさがしてるのは、色じゃないだろ?」
 少女がゆるゆると顔を上げる。その表情はやはり悲痛そのもので。
「君がずっとさがしてたのは、その色を持ってる――あいつだろ?」
 
 
 少女は目を見開く。どうして、と唇を動かすと、バッツはやっぱりと破顔した。
「そっか。あいつ、俺なんかよりずっと頭いいもんなあ。賢くてまっすぐで、優
しいやつだから、きっと気づけたんだな。君の本当の心に。君の光に」
 そっかぁと繰り返すバッツの腕に、震える白い指が触れる。
「かれは、彼は……どこ?」
 
 
 
 
 
 
 
 
「いないよ」
 
 
 
 
 
 
 少女の瞬きが、表情が。呼吸すら、凍りつく。
 
 
 
 
 
 
 
「あいつはいない。消えちゃったんだ。この世界のどこにも、もう、いない」
「あ……、ぁ…………っ」
「ほんとは君だって、わかってるはずだ」
 
 
 
 バッツは笑った。困ったように。諦めるように。いたむように。それが真実だ
った。
 
 
 
 
 
 
「かれ、は」
 
 
 少女の体が、唇が、わなわなと震える。
 今にも消え入りそうな姿は、あまりにも憐れだった。
 
 
 
 
 
 
「かれは、この手で…………かれは、私がっ――」
 
 
 
 
 土埃で汚れた白い頬を洗い流すように、少女の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 遠い遠い彼方、金属が割れる悲鳴が聞こえた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「どうしたのだ、ケフカ」
 滅茶苦茶に壊されたガレキの塔。その一角に座り込む道化に興味を抱き、暗闇
の雲は声をかけた。
 
 
 おそらく何らかの原因で癇癪を起こして手当たり次第に破壊したのだろうが、
今は嵐が過ぎ去った後のように気味の悪い静寂に包まれている。
 いつも侍らせていた娘の姿はない。
 
 
 
 
 ケフカの顔には憤怒どころか、表情と呼べるものが一片もなかった。傍らにい
る暗闇の雲をきちんと認識しているかも怪しい。
 
 
 
 
 
「こわれちゃった……ぼくのお人形……」
 ぽつりと言ったきり黙り込んだケフカの視線の先を追うと、バラバラになった
玩具が一つ。
 
 
 
「ずっといっしょなのに」
 
 
 
 
 玩具を引き裂いたのは誰か。
 
 
 
 暗闇の雲には、わからなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「わたし、彼にもう一度、あいたかった」
 
 
 
 しゃくりあげながら、途切れ途切れになりながら、少女の想いは解き放たれて
いく。
 
 
 
「あって、伝えたかった。きっと、きっと喜んでくれないし、怒られるかもしれ
ないけど、でも、どうしても、伝えたいの」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 バッツは震え続ける少女を優しく撫でた。何も言わない。
 
 
 
 
 黙してすべてを見届けた光の戦士は、静かに目を伏せた。祈るように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 明けることのない夜の戦場に、儚い慟哭は溶けていく。
 
 
 
 
 
 
 
 
  in magical world ...
 
 

 

やっと見つけた時には、君はもう世界にいない。

 

 泣いていいですか…マジで。ティナが切なくて切なくて…うわーん!!

 相互先のたけくら大和様に、「カオスティナが光に目覚める話!オニティナ書いてー!!」と駄々をこね、

ワガママ言って書いてもらっちゃいました。す、すみません…でも反省しません(逝っとけ!!)

 予想以上に素晴らしい作品を、本当にありがとうございます!!この話の前編にあたる話は、是非たけくら様のサイトで!!

 生まれ変わった後で、次の世界で彼らが幸せになれることを祈ってやみません…。

 こっそり、ケフカも切ないですよね。本当はティナがいなくなって寂しがってたらいいよ!!

 改めましてマジで感謝!!また突発リクしたらよろしくお願いしm(いい加減にせい)