<警告>*この話には、リストカット&流血描写があります。 グロ度はさほど高くないですが、やや具体的・リアルな自傷行為の描写が ありますので、苦手な方は即行逃げることを全力でお勧めします。 問題ない方のみ、下へスクロールしてご覧下さい。“消えた幻 貴方は私に見つめて涙はまだ何処にも逝けなくて” 青空は まだ 遠すぎて 日本代表のユニフォームは、嫌いじゃない。 青は空の色で、かつて自分の副将を務めてくれていた彼女の髪の色でもある。また、天才ゲームメーカーたる彼のマントの色もそうだし、何より自分達の大好きな円堂のイメージカラーでもある。 それとも、円堂には黄色の方が似合うだろうか。お日様の色だ。彼にはぴったりだと思う。「…困ったなぁ」 そう、好きか嫌いか、ではない。 ヒロトにとって困る事が一つある。ガイアのユニフォームはピッチリした長袖(と呼ぶのも些か語弊があるが)だったが、日本代表のそれは半袖なのだ。 自分は日焼けに弱い体質である。元々あまり体が丈夫な方ではない。ゆえにやや病的なほど肌に色素が無いのだ。 日に当たりすぎると、あっという間に日焼けが真っ赤な火傷に変わる。以前熱射病と日射病と火傷の三連コンボをくらって見事にぶっ倒れた事があった。 あれは辛い。 次の試合の日はいかにして乗り切るか。天気予報にはほとほとうんざりした。八月並の気温だなんて馬鹿げてる。今更温暖化に文句を言ってもどうしようもないけれど。 きっと吹雪あたりも今、同じ問題に直面して悩んでいるに違いない。北海道育ちにはキツい筈だ。「どうしようかなぁ…」 そして。 日焼け以上に大きな問題がヒロトにはある。 円堂達には詳しく語っていないが(鬼道あたりは薄々勘づいてるかもしれない)、エイリア学園には表向きの事実以上に深い闇がある。 その一つが、エイリア石に絡む幾つもの生体実験。最終的にダークエンペラーズの面々は石を首にかけるだけで効果を発揮したようだが。その段階に至るまでは幾つもの実験と改良があったのだ。 マスターランクである自分達は、直接エイリア石の力は借りていない。よって、下位ランクと比べれば実験の数は明らかに少ないが、それでもあちこち注射針やメスの跡が残っている。 誰かに見られたら面倒だし、見られたいとも思わない。ヒロトよりさらに傷跡の多いリュウジは本気で頭が痛いだろう。最近は二人ともクリームでどうにかごまかしている現状だ。 だが、いくらやっても隠しきれない傷もある。それが目下自分にとって最大の悩みであった。「リストバンド、もっと大きいの買って来ないと…。でも変かなー…」 手首に走る傷。リストカット、という奴だ。 ただし誤解されないように言っておくと、ヒロトは鬱病ではないし死にたいわけでもない。誰かに心配されたくて傷をつけたわけでもない(そういう人もいるらしいが、正直自分は心配されたくないタイプだ)。 自分で言うのもアレだが。こういう傷を作るわりには、自分は真っ当な精神構造をしていると思う。 よく、聞く話は、切っても全然痛くないだとか。気付いたら切ってたとか、そういうもの。そのレベルまで行くと、早急なカウンセリングが必要になるのだろう。 だとすればむしろヒロトのやり方のがおかしいと人は言うかもしれない。理性的な自傷行為なんてそっちのが病んでるだろう、と。−−そんなに変かなー俺。 元はといえば、自分の中にくすぶる破壊衝動を抑える為に始めた事だった。ストレスが溜まると、とにかく色んな物をブッ壊したくなる気持ちは、多かれ少なかれ誰にでもあるだろう。 意外と思われそうだが。ヒロトはその破壊衝動が、人よりやや強い。ストレスを溜めやすいのかもしれない。ヒロトはそんな己の中の闇を、酷く恐れていた。 だからそれを発散させる為に、リストカットを始めたのだ。他人を壊せないなら自分を壊して発散させればいいなんて、我ながら単純思考である。 切ればそれなりには痛いし、血が出れば出るだけなんだかスッキリする。なんだか“ざまぁみろ”という気分になる。自分を傷つけているのにおかしな話だ。 でも、それで他人から変な目で見られるのも嫌だし、仲間に心配かけるのも嫌。別に死にたいわけでもない。だからいつも手加減に手加減をかさねて切った。すぐに跡が消えるように。 そして上手に隠れる場所を切るのが常だった。ジェネシスウェアは肌の露出が少ないので便利だったのである。 が。そこに来て今回の世界戦。半袖は悩みの種以外の何者でも無かった。 足首の傷は靴下で隠れるが(その実手首より足首を切る事が多かった。ごまかしやすいからである)、手首はそうもいかない。 大半の傷は目を凝らさないと分からないが、二三本の大きな傷がどうにも目立ってしまう。雷門との最後の試合の前に切った傷だ。うっかり力を入れすぎたのと、やや斜めに切ってしまったのが敗因である。 リストバンドから少々はみ出してしまう。まだバレていないようだが、いつまで隠し通せるか。誰かと一緒に風呂にでも入ったら一発でアウトだろう。−−だったらやめろよって話だけども。 なんとなく、古傷に爪を立ててみる。ちり、とした痛みが走って、瘡蓋がちょっとだけ剥がれた。 指先に付着する赤。こんなもんじゃ満足できないのが本音。サディストな自分からしてもマゾヒストな自分からしても。−−他に壊していいもんなんか、無いし。 物を壊しても人を壊しても虚しくて、辛いだけ。唯一自分に傷をつける事だけがさほど辛くなかった。半ば消去法。 中毒になってるかもしれない。それはきっと良くない事だと、ヒロトの中の良心が、罪悪感が告げる。でもいつまで経ってもやめられない。習慣を変えるのはなかなか難しいものだ。−−どうしたもんかな。 ぼんやりと思う。自分が“エイリア学園”の生徒で無くなった事で、減ったストレスと増えたストレスがある。 円堂達の手前、自傷行為を控えなくてはいけない事自体がストレスだった。だが、大好きな義父と離れた事で、気が軽くなってしまった自分もいる。 酷い話だ。どんなに歪んでいても間違っていても、義父を愛していたし義父が愛してくれていたのも確かなのに。 吉良が自分を見る眼が、いつも苦しくて。思い出すだけで何かを壊してしまいたくなるのだ。彼はいつも自分を愛しながらも、自分の中にある別の誰かを見ていたから。 遠き日に、消えた幻。ヒロトに酷似した、別のヒロトを。−−どうしよう。また…やりたくなっちゃった。 救急セットと工作用カッターナイフ。どちらもスポーツバッグの中に入っている。ごそごそと中を漁り、カッターを出した、その時だ。「ヒロト様」 突然開くドア。こんな無遠慮な真似をする人物は一人しかいない。ヒロトは抗議の眼差しで、そこに立つ人物を見る。「いい加減ノックくらいしてよ、リュウジ」 リュウジもリュウジで、やや非難気味の眼だ。カッターと救急セットを用意していれば、自ずとしでかそうとしている事は分かる。 そして彼は数少ない、ヒロトの性癖を理解している人物でもある。「ノックしたら不意を打てないじゃないか」「そりゃそうだけど。あとちょくちょく“様”付けしたり敬語喋りする癖は直して」「…そっちは善処します」「ほら〜また」「……」 呆れたようにため息をつくリュウジ。その顔には六割の疲れと、三割の悲哀と、一割の諦めがある。 その半分くらいの原因は自分だ。だから素直に、ごめんね、と謝った。謝ったところで繰り返すなら意味など無いが、彼にそんな顔をさせたいわけではないのだ。 申し訳ない、という気持ちもあるにはあるのだから。「…それ、本格的に常習犯だね」 それ。リストカット。 リストカッターに無理に“やめろ”と言うのは逆効果。何故なら自傷行為で心の安寧を保っている例が大半だから−−とどこぞのTVで言っていた。 ヒロトにもそれが当てはまるかは分からないが。実際リストカットでストレスを発散させているのだから、あながち間違いでもない気がする。 やめろ、と命令されても気が滅入るだけだ。ストレスの根本的原因が解決されない限り、どうしようもないのだから。 リュウジもそれが分かっているのだろう。だから悲しい顔はしても、言葉にして制止はしない。 否、出来ない。「…偶には思い出してよ。見てる周りも、悲しいんだからさ。君だって…分からないわけじゃないでしょ」 そう言われると、正直キツい。もしリュウジが自分と同じ事をしたら、きっと自分は悲しむ。 それが分かっていながら止められない自分は身勝手で、とても罪深い真似をしているのだろうけど。「努力は、するよ」 それ以上に答えようがなかった。いけないこと。やめられるに越したことはない事だとは理解しているのだから。「話変わるけどさ、リュウジ。不動に関して、そろそろ円堂君達からツッコミが入る頃だと思うんだよねぇ」「不動…」 ああ、まったくリュウジは分かりやすいったら。さっきとはまた別の嫌な顔になる彼。 本当に不動が嫌いらしい。いや、嫌いとはまた違うのか。不動の方も妬みはあっても、リュウジを嫌っているわけではあるまい。 自分は確実に、嫌われてるし憎まれているだろうけど。「意外だな。円堂君達、とっくにあいつの正体知ってるんだと思ってた。不動が何も語らなかったって事だろうけど」 あのお喋りな不動が、重要な情報を何一つバラしていない。そればかりか彼がエイリア石を使っていた事すら、円堂達は気付いてなかったらしい。 まあ、話によれば当時円堂達は影山絡みで手一杯だっただろうから−−深く観察する余裕も無かったのだろうが。「それでも、聡い子達はなんとなく察しただろうし…不動の境遇もさ。だからって赦される事と赦されない事はあるけど…まあ確かなのは」 ベッドから体を起こすヒロト。これからの事を考えると面倒だし厄介だとは思うが。「いつまでも現状維持とは行かないだろうね。チームの士気に関わるし」 どうせなるようにしかなるまい、と諦めの感情が先に立つ。悪い意味で達観しているのだ、自分は。 しかしリュウジや鬼道は、今後不動に関して多いに悩む事になるだろう。さらには昨日の出来事。リュウジが不動に殺されかけたとあればもう、周りも問題から眼を背ける事は出来ない。 不動明王を追い出すか、受け入れるのか。どちらも難しく残酷な選択になるだろう。 不動は歪んでいる。故に、ジェミニストームから除籍され、影山に縋り下克上を図った。しかしその歪みは元はといえば不動本人のせいではないのだ。「不動は俺よりもっと…病んだ自傷行為を繰り返すタイプだと思うなあ」 刃物より、無意識に爪で腕や首を引っ掻いてしまうタイプだ。苛々して、血が出るまで。というのも、自分も以前うっかりやってしまったことがあるのである。無意識ではないが。偶々手元に刃物が無かったので、爪で代用してしまったのだ。 あれは正直お勧めしない。刃物の疵は浅ければ案外簡単に消える。引っかき疵は意外に消えにくい。皮が剥けるので、治るのに時間がかかるし、痛みも長引く。まぁ、そんな話は健常者にとっては不快でしかないものだ。あからさまに侮蔑の色を浮かべないだけ彼はまだ大人と呼べるだろう。ヒロトのその喩えに、リュウジは俯き、呟いた。「幾ら傷をつけたって、辛い気持ちが消えるわけじゃないのに…」 ヒロトは嗤う。嗤うしかなかった。「そんな綺麗事じゃ救われないって、君が一番よく分かってるでしょ」 そんな当たり前な言葉は聞きたくない。自分も、リュウジも。「疵を持った人間は、みんなそんな事分かってんだから」 理屈じゃないのだ、これは。理性と行動を何から何まで一致させるのは難しいように。ヒロトに言わせればリュウジもけして人のことを言えたクチではない。彼の場合自傷を行うのが身体に対してではなく、心に対してだというだけで。 疵をつけることでどうにか贖いの気持ちを満たしたいのだろうか。多かれ少なかれエイリアに関わった人間はみんなそう思っている。罪を償う方法を探している。それをしないまま、普通の子供と同じように笑ってはいけないのだと感じてしまっている。それ自体がエゴだと気付きながら。 太陽はすぐ傍にある。空にも、隣にも、自分達を照らしてくれるものがあるというのに。「何時になったら、俺達の夜は明けるのかな」 リュウジの声に、これ以上何かを言うことはできなかった。 朝が来ることなど永遠にないのかもしれない。そう考えることも怖くて、自分達はまた目を逸らす。 何に怯えているのかすら、もはや分からないままに。END |
私の最期だけ 貴方がどうか看取ってね。
なんか書くたびにドス暗くなっていきますエイリア話。Liar gameと繋がってます。ヒロトをリストカッターにしてしまってすみません。
でも彼は、綺麗な笑顔で刃物を持ってる印象があるのです。病んでるわけでも欝でも無いのに何かがおかしい少年。
ヒロトの環境を考えると、もっと酷い状態になっていてもおかしくないと思います。
リスカに絡む話は、私の過去の体験談からひっぱってきてます(あくまで過去です)。全部そのまんまではないですが;;
もっと深刻に悩んでいる方はたくさんいらっしゃいますので、あくまで一例ということでご理解をば。
エイリア組は多かれ少なかれ歪みを抱えていると思います。不動が一番分かり易い例なんじゃないかと。
ちなみにゲームをやり直して確認しましたが、影山いわく不動は「エイリア学園からは戦力外とみなされる二流の選手」だそうで。
そのあたりを掘り下げて、いろいろ書いてみたいと思います。早くアニメでデザ様出て来い…!!