きっと、きっと、きっと。
 
 
 
 
【誰かが】
負の連鎖を止めて・26
【必ず死ぬ】
 
 
 
 
 ざわり、と空気が動いた。魔女M――メアリーが動いた瞬間、空間に罅が入
り、いくつもの黒い焔が呼び出される。
 アーサーに躊躇いは無かった。魔導書を開き、魔法を発動する。
 
「“Shell”!」
 
 魔法攻撃を封じる防護壁を、自分と剣城と紫原の三人に同時展開する。次の
瞬間黒い焔が、三人の目の前で見えない壁に弾け飛んだ。
 
『やはり……お前も魔術師なのね』
「それどころかお前が仕掛けた手紙の魔法。元を作ったのは俺だ。まさか昔失
くした魔導書が流れに流れて日本に来てるとはな。思わなかったぜ」
 
 相手も魔女のはしくれならば、多少なりの幻視はできるはずだ。幻視は相手
の魂のカタチを視る、いわば魔女と魔術師の基本スキルである。どんなに“視
る”のが苦手な魔法使いでも、この眼だけはまず持っているものだ。
 だが、メアリーはその幻視さえろくに出来ていないようだ。アーサーが魔術
師だとわかっても“国”だと見破れないようでは話にならない。どうやら、や
りたいスキルだけを無理矢理伸ばすことに、少ない素質を使い切った典型であ
るらしい。
 やりたいスキル。すなわち――誰かを苦しめること、だ。
 
「お前といいアルルネシアといい、見ててイライラする。お前らみたいなのと
赤ちんを一緒にされたくないんだけど」
 
 紫原が苛立ちを隠しもせずに言う。
 
「裏切られたから復讐したい。百歩譲ってそこまでは理解する。でもその先な
んなわけ?復讐の為に死ぬとか馬鹿じゃないの?」
 
 さすがに言葉がキツいと思うが、まあ紫原の本心なのだろう。そしてアーサ
ー的には少し耳が痛い。自分も身勝手な目的の為に命を捨てようとしたことが
ある。そして守りたかったはずの相手を傷つけて、追い詰めてしまった。既に
終わったこととはいえ、後悔してもしきれぬ過去だ。
 生きたくても生きれない人がいます。だから命を粗末にしてはいけません。
そんなテンプレートな説教がしたいわけじゃない。
 というか自殺が必ずしも悪だと言っているわけではないのだ。命は自分の為
のもの。自殺だって生まれ持った権利に違いないのだから。ただ、少しだけ考
えるべきなのである。死ぬのはいつでもできるが生きるのは今しかできない。
果たしてそれは今すべき選択なのか?今すぐでなければならないか?つまりは
そういうことなのだ。
 
「一生に一度も裏切らない人はいないし、裏切られない人もいないんだよ。一
回裏切られたからって全部否定するの?なんつーか、考え方がお子様でバカと
しか言いようがないよね」
 
 何故ここまで過激に紫原がメアリーを攻撃するのか。そう考えるのか。多分
彼は彼なりの傷が、過去があるのだろう。その実、視るより放つ方が得意な魔
術師であるアーサーに過去視の力はない。だから全ては、想像するしかない
が。
 全てではないけれど、大筋は同意できる。一生で一度も裏切ったことのない
人はいない。裏切られたことのない人もいない。裏切られればショックを受け
るのは当然だ。時に死にたくなることもあるだろう。でも。
 誰かが死んで。世界が変わることは悲しいほど少ない。裏切られた衝動で死
んでも、恨んだ世界が自動的に変わってくれるわけじゃない。そんなのは夢見
がちな絵空事。
 だけど。
 誰かが生きて、世界が変わることはあるのだ。
 
「……俺は存在が存在、だからな。最初から自殺っていう選択肢はないが」
 
 アーサーも知っている。
 世界の変え方を、その為の方法を。
 
「たった一度。裏切られたと思い込んだ結果……何百年も無駄にしたことがあ
る。挙げ句、大事なものを傷つけて、失って、自暴自棄になって暴れて。自分
なんか誰にも必要とされてないから……だから」
 
 裏切られたと思い込んで。
 本当の意味で裏切ってもいなかった相手を、アーサーが裏切った。
 
「だから。自分が死んで世界が救われるならそれでいいと思ったこともある。
それが世界の為で。そうやって死ねば俺みたいな奴だって……愛されるはずな
んだって」
 
 ぴくり、と。メアリーの顔色が変わった。愛される。その言葉に反応したの
だろう。こんなくだらない世界なんか消えてしまえ。彼女がそう思った理由は
親友に裏切られたと思ったから。愛した人に裏切られたと思ったから。
 彼女は歪んではいるが、根本の望みは人とそう変わらない。それから、アー
サーとも。
 愛されたかった。
 願ったのはただ、それだけだ。
 
「だから気づけなかった。俺に差し伸べてくれる手があったことも……その人
達を俺の方が裏切ってしまったことも。なあ、お前には本当にいなかったの
か。手を差し伸べてくれる、お前を愛してくれる人は」
『だ、黙って……!』
「お前はこの世界が嫌いなんだろう。なら何故生きて壊すことも、嫌いな世界
を変える努力もしなかった?お前がいくら望んだって、世界は自動的にお前の
望む姿にはならないんだぜ。壊したいなら、何故自分自身の手を汚さなかっ
た。変えたいなら、何故生きて方法を探さなかった」
『黙れって言ってるのよ!』
「お前はただ理想を喚くだけだ。自分じゃ何もしやしない。責任をただ思い通
りにならない世界と、お前の親友だった奴に押し付けてるだけだ。自分で責任
を負う覚悟さえない」
『黙りなさい……っ!』
「逃げるのは罪じゃないさ。だけどな……逃げたまま責任転嫁したまま終わっ
て、立ち上がる気さえないならそれは」
 
 自分に似てるところもあると思ったからこそ。
 欠片も容赦する気はない。
 
 
 
 
 
「お前はただの、負け犬だ」
 
 
 
 
 
 途端。
 
 
 
 
 
『黙れええええええ!』
 
 
 
 
 
 突風が吹き荒れた。凄まじい風が駅のベンチを、自動販売機さえなぎ倒して
ゆく。ああ、やはり紫原は正しい。アーサーが間違っているなら反論すればい
い。聞く価値もないなら我慢して聞き流せばいい。そのどちらもできずに実力
行使に及ぶ理由は一つ。
 図星だからだ。彼女自身が畏れていたことを、アーサーが指摘したからに他
ならない。
 
「来たれ」
 
 そこで動いたのは、剣城だ。
 
「召喚……我が化身・剣聖ランスロット!」
 
 剣城が足下にボールを転がす。凛と相手を見据えて立つ少年は実に勇まし
く、美しかった。
 彼は告げる。
 
「人は何回だって絶望から這い上がれる。どれだけ醜くても……汚いものを見
ても。否、醜いものを持ってるからこそ、綺麗なものが分かるんだ」
 
 お前は俺達には勝てない、と。剣城は真っ直ぐに言い放つ。
 
「勝てるわけがない。……絶望に負けた奴が、絶望を知って這い上がった俺達
に勝てるはずがないんだよ。終わらせてやる、これで」
 
 剣城の蹴り上げたボールが、金色の光を纏って舞い上がった。風が吹く。し
かしそれは先程までの悪意に満ちた風ではない。
 罪を、洗い流し、吹き飛ばす為の風だった。
 
「“ロストエンジェル”!」
 
 
 
 ***
 
 
 
 ・
 ・
 ・
 
752:魔女と呪いと名無しさん
すげぇ
 
753:魔女と呪いと名無しさん
紫も紳士も騎士Kもかっけぇ!
 
754:魔女と呪いと名無しさん
やばい惚れた
 
755:魔女と呪いと名無しさん
濡れた
 
756:魔女と呪いと名無しさん
●った
 
757:魔女と呪いと名無しさん
>>756
言わせねぇよ!?
 
758:魔女と呪いと名無しさん
>>755>>756も通報
 
759:魔女と呪いと名無しさん
お巡りさんこっちです
 
760:
下ネタとか最低だわ
ほんと嫌い
今後私の目の届くところで下ネタかましたら千切るから
 
761:魔女と呪いと名無しさん
ち、ちぎる?
 
762:魔女と呪いと名無しさん
ちぎるって…ナニを!?
 
763:魔女と呪いと名無しさん
ひいいいいいいい!
 
764:魔女と呪いと名無しさん
へ、下手な幽霊より怖ぇえええ!
 
765:
ねぇ話続けていいの?だめなの?
 
766:魔女と呪いと名無しさん
おおう紫
 
767:魔女と呪いと名無しさん
スマソ
続けてくれ
 
678:魔女と呪いと名無しさん
騎士Kは交戦中だから、おやすんでる紫が代わりに実況してくれるんだよな?
 
679:魔女と呪いと名無しさん
騎士Kが化身シュートかましたところまでは聞いたぞ
 
680:
そうそう
あの化身シュートって凄い威力だよね、魔女Mも防護壁張って防ごうとしたけ
ど、全然だめだったみたい
 
化身シュートもろに食らって、駅の柱に叩きつけられてた
 
681:魔女と呪いと名無しさん
すげえええ!
 
682:魔女と呪いと名無しさん
つか
幽霊なんだよな?実体ないのに叩きつけられんのか?
 
683:魔女と呪いと名無しさん
あ、言われてみれば確かに
 
684:
>>683
うーんちょっと説明が難しいかな
そもそも化身シュートって生体エネルギーの塊なんだよね
だから悪霊みたいな魂だけの存在に効くわけ
 
それをぶつけられたイメージが“叩きつける”ってものだったからも
うんうまく言えないや
 
685:魔女と呪いと名無しさん
うーんわかったような分からないような
 
686:魔女と呪いと名無しさん
とにかく魔女Mが騎士Kにぶっ飛ばされたことだけ理解した
 
687:魔女と呪いと名無しさん
はげどう
 
688:
あ、でもまだ起き上がってくるみたい
だいぶダメージはいってるけど
 
 
 
『嘘よ……嘘よ嘘よ嘘よ!私は信じない!なんでこの私がこんなに簡単に負け
るの?
 私は魔女よ!選ばれたの!優れた存在なの!人間なんかに負けるはずがない
の!誰からも愛されるはずなの!
 私が望めば…叶わないことなんて……!』
「じゃあお前の願いは叶ったのか?」
 
 言ったのは騎士Kちん。
 
「紳士さんの言う通りだ。お前は責任を世界と友達になすりつけて、逃げた。
 そして高見の見物を決めこんだ。
 それで?お前の願いは、何か一つでも叶ったのか?」
 
 
 
 そうだろうとも
 自分で動く勇気もない奴の願いが叶うほど、世界は甘っちょろくなんかない
んだ
 
 バカな奴だよね
 
689:魔女と呪いと名無しさん
確かに…そうだよな
 
690:魔女と呪いと名無しさん
魔女Mは自分じゃなんも手を下してないんだよな
 
691:魔女と呪いと名無しさん
それで叶ったことと言えば…お姉さんが手紙をばらまいたことくらい?
 
692:魔女と呪いと名無しさん
ヒーローは死ななかったし
世界は滅んでないよな…
 
693:
そうだよ
魔女Mの願いは全然叶ってない
あいつは選ばれたやつなんかじゃない
ただのよわっちい人間で、臆病者の負け犬なんだよ
 
 
 
NEXT
 

 

信じていたい、きっともうすぐに。