そうすれば止まっていた針はまた動き出すんだろう。 【終わった】 今一度、君達に問う 【物語だけど】 3 円堂守は教師ではない。 そして過去、典型的な優等生だったわけではない。 本来これは自分の領分ではないと分かっていた。もっと言えば自分は雷門中 サッカー部の監督であり、誠凛高校と直接関わるような立場ではない。本来な ら見守るか、アドバイスに留めるべきなのだろう。出しゃばった真似をしてい ると、一番分かっているのは自分だ。 だが。円堂は個人的に、誠凛の子供達のことが好きだった。学校も良い学校 だ。新設校なのもあるだろうが、校則的にも生徒や教師という意味でも落ち着 いていて、かつ自由な雰囲気には非常に好感が持てる。彼等にきっと悪意は無 かっただろう。もしかしたらリコを苛めたというこの少女にも、悪意らしい悪 意は無かったのかもしれない。 見た感じ、少し化粧はしているし少し髪が明るいが、ただそれだけの普通の 少女だ。よく漫画やら噂話で聴くような“派手でケバい悪女”なんてものには 見えない。そう。――苛めだの、犯罪だの。そういったものに手を染める人間 はえてして、どこにでもいるような普通の人間なのだ。 それがどこかで足を踏み外し、誰かを傷つけ、転落してゆく。自分とはかけ 離れた世界などとは思わないことだ。誰だって知らないうちに被害者にも、加 害者にもなれてしまうものなのである。 「……正しいかな」 だから、円堂は。 「今彼女が言ったこと、一部は正しいと思うかな。リコ、君はそんなつもりじ ゃなかっただろう。むしろ彼女を助けたくて、避難させる為に体育館まで引っ 張ってきたんだろうけど」 少女を見、リコを見て。円堂は正直に、思った事を口にした。 「分かるだろ。この体育館にいるのは、彼女に敵意を持つ人間ばかりだ。確か に彼女はやってはいけない事をした。敵意を持たれて当然だ。当然だからこそ、 彼女は今まさに針の筵も同然だろう。部員達が何も発言しなくたって、敵が山 のようにいる中に放り出されちゃ吊し上げも同然だ。さすがにフェアじゃない」 はっとしたようにリコは顔を上げ、戸惑うように部員達を見た。黒子や火神 といった部員達は、勿論彼らはけしてねじ曲がった人間ではない、直接少女に 制裁しようなどという気は無かっただろうが、無意識に敵意ある視線を向ける ことだけは、やめられなかったに違いない。 リコと眼があって、気まずそうに視線を逸らしたのは――部員のほぼ全員だ った。 「彼女は反省しなきゃいけない。でもやり方を間違えちゃ、いけないんだ」 関わるべきではない、筈だった。でも、これはもう誠凛だけの話ではない。 天馬達も関わってしまった。何より黒子達も、天馬達も、何も知らないで悪意 を行使してしまった生徒達も――このまま、間違えたままでは救われない。 今、円堂は雷門の監督としてではなく。一人の大人として、彼等の前に立っ ていた。知らないこと、分からないことがあるのは当たり前だ。そしてそれら は、誰かに教えて貰わなければ知れない事なのだ。彼等には教わって、救われ る権利がある。 だから自分が、それを担う。勿論円堂の考え全てが正しいとは思わない。間 違っている点もたくさんあるだろう――それでも、だ。 一人の大人として、彼等を愛する人間として。果たすべき義務を、怠るべき ではない。 「イジメってさ、何だと思う。どういう事がイジメなのかな?」 「え?」 話を振られたリコが、困ったように声を上げる。 「……うまく説明できない。…集団で誰か一人を傷つけたり追い詰めたりする 行為、でしょうか」 「ん、じゃあ集団じゃなければイジメじゃない?」 「……ですよね。集団じゃなくても、イジメは成立する」 ハッキリ言ってこのあたりの定義は非常に難しい。イジメって何?と突然聴 かれて具体的に答えられる人が果たしてどれだけいるのだろうか。 よく見かけるイメージは。集団で誰か一人を無視したり、私物を壊したり隠 したり、あるいは影でこっそり暴力を働いたり。そういうものがイジメだと思 っている人が多いだろう。多分ドラマの影響だ。そして必ずしもそのイメージ が間違っている訳ではない。 だが、実態はもっと複雑で厄介なのだ。物を壊したり、隠したりといった被 害がなければイジメではない?悪口や無視だけならイジメではない?主導して やっているのが集団というより殆ど一人ならイジメではない?やられたことの 仕返しなら、イジメではない? 答えは全て、NOだ。 「悪口や無視だけだって、やられた側が傷ついてイジメだと感じたらもうそれ はイジメだ。やってる人間に悪意があったかどうかがよく問題視されるけど、 悪意があろうとなかろうと傷ついた人間がいるならそれが全てだろう」 勿論行き過ぎたケースがある事は否定出来ない。具体例を挙げるなら、娘が 校則違反で物を没収されて注意を受けたのを見て、親が学校ぐるみのイジメだ と騒ぎ立てるだとか。仮にこれで娘がイジメだと感じたとしても、これをそう だと判断できるかと言えば難しいと言わざるをえない。 つまりはケースバイケース。一概にどうこう言える訳ではないのだ。だが。 それがどんなに軽い行為だとしても、被害者が傷ついたものを――本来、軽ん じていい筈がないのである。 「リコ。君はイジメに遭ったと感じた?傷ついた?」 「……」 「茶さん、だったかな。君はどう思う?自分のやったことは、されたことはイ ジメだと思う?」 沈黙したリコから視線を逸らし、少女に目を向ける。 「……あたしは悪くない。間違ってない」 彼女はキッと円堂を、リコを睨んでそう言い放った。その瞬間、再び体育館 内の殺気が強まったが、円堂は部員達を目で制する。 この半ば“吊し上げ”状態の場でそれでも自分の正義をハッキリ言えるのは、 ある意味凄いだろう。 「こいつは彼を傷つけた。彼はあんなにも真剣だったのに、振るだけ振ってそ のままなのよ!有り得ない、あたしが……あたしだったら絶対彼の傍にいるの にっ。こいつはあの人の痛みを思い知るべきでしょ!?これは正当な報復だわ!」 分かり易いまでの逆恨みというものだ。勿論、リコがその少年の告白をどん な言葉で断ったかは知らないし、何もかもを決めつけるつもりはない。 彼を想っていた彼女が何をどう考えようと、それ自体は自由なのだ。誰にも、 思想を強制する権利はない。 彼女が間違っていたのは、その思想を誤った手段で行使してしまったことだ ろう。 「なのに、納得なんか出来る筈がない。あたしの正当な復讐がイジメ扱いされ て、なんで関係ない奴らが面白がってやることが正義になるの!?理解できない、 あたしは間違ってなんかない!」 そう叫んだ瞬間、彼女の眼から涙が溢れた。 *** ・ ・ ・ 151:通りすがりのモブ一号 うわぁ… 152:通りすがりのモブ一号 殺意沸いた 153:通りすがりのモブ一号 泣けば済むと思ってるのかよ これだから女は 154:通りすがりのモブ一号 >>153 お前その発言はちょっと こういう奴ばっかが女だと思われたらやだ 155:通りすがりのモブ一号 どう見たって逆恨みだろ 最初にイジメ始めた方が悪いのにその自覚もなく被害者ぶるとか最悪 156:通りすがりのモブ一号 >>155 まったくもってその通り 157:黒 僕も最初はそう思ってました というか今も思ってますし、彼女を許せたわけではありません 現に僕らの大事な人が、いわれのない理由で傷つけられたのは事実ですから 158:通りすがりのモブ一号 というか復讐だのなんだの言ってる時点で、それどうなのって感じじゃん 仮に茶の復讐が真っ当な理由だとしてもさ んなことして何になるよ 過去が変わるわけじゃないし、繰り返すだけだろ 159:通りすがりの>>102 >>158 そうかな? …まあ、本気で誰かを恨んだことがなければ、そう思うのも仕方ないけどね 俺は、ちょっと違う意見 復讐が悪だなんて誰にも言えないって思うよ 160:通りすがりのモブ一号 あ、102 161:通りすがりのモブ一号 お前の意見はちょっと興味深い 聴かせろよ 162:通りすがりの>>102 >>161 メルシー♪ まあ個人的な話になっちゃうから申し訳ないし、釣りだと思ってくれてもいい んだけどさ お兄さん、昔大事な女の子を殺されたことがあるの 恋人じゃなくて、仕事の部下なんだけどさ その時殺した相手を皆殺しにしてやりたいとか復讐してやりたいとか思ったこ ともあるわけね 163:通りすがりのモブ一号 ( ゜д゜ ) 164:通りすがりのモブ一号 な、なんかいきなり凄い話に 165:通りすがりのモブ一号 釣りってか妄想だろどうせ 166:通りすがりのモブ一号 >>165 釣りだと思いたかったら思えって言われてんだろ とりあえず最後まで聞けよ 167:通りすがりの>>102 まあ結局は実行しなかったんだけどさ 復讐しても、悲しむ人が増えるだけとか、死んだ人は帰って来ないとか その人はそんなこと望んでなかっただろうとか あのね、そんなことみんな分かってるの みんなみんな、復讐したいって思う人はちゃんと分かってるの 俺達、そんな綺麗な言葉が欲しいんじゃない 分かってても、それ以外に想いの行き場がないってこと、ただ分かって欲しい んだ 復讐する権利は、誰にだってある だけど同時に義務もある。同じだけの憎しみを返される覚悟を持つ義務だ 自分が復讐した結果、全然違う誰かから恨まれて憎まれて殺されるかもしれな いことを覚悟しなきゃいけない 何故なら向こうにも等しく復讐する権利があるからね 覚悟がないなら、感情を飲み込んで復讐を諦めた方がいいんだよ 168:黒 >>102 あなた何者ですか それ、殆ど同じことをE監督が言ったんですけど 彼女が間違ってたのはやり方を誤ったことと、覚悟が足りなかったことだって そう言ってました 169:通りすがりのモブ一号 102がエスパーだっただと…!? 170:通りすがりのモブ一号 釣り…いやもう釣りかどうかは大事じゃないか 言ってること、筋が通ってる気がする 171:通りすがりのモブ一号 よく名探偵の台詞とかであるよな 「復讐したって死んだ人は返らないから」みたいなこと でも、そうだよな みんな分かってるよな 172:通りすがりのモブ一号 綺麗な言葉なんか欲しくない そういえば魔女スレの時日主将も言ってたっけ 本当にその通りだと思う 173:天M 間違ってたのは、俺達もだったよ 助ける為、仕返しは正当だって言い訳して 卑怯なやり方をしたんだから 気付くべきことはたくさんあったんだ NEXT |