【家から】
謎の怪奇現象
【出られない】
10
 
 
 
 
 
 良かった。本当に良かった。天馬は涙を浮かべて剣城に抱きつく。いつもな
ら「ウザいからやめろ」と振り払うか無言で逃げる剣城だが、今はされるがま
まだ。ただ目を白黒させて、こちらを見ている。
「天馬…なんで…」
「なんででもいいよ!良かった剣城…戻ってこれて本当に良かった…!」
 ここにきて漸く彼は、自分が“現実世界”に帰ってこれた事を理解したらし
い。日が落ちてきてどんどん暗くなる室内。しかしそこが“本物”の自分の部
屋だと分かるやいなや、開口一番にこう言った。
 
「何で部屋の中がめっちゃくちゃなんだ?」
 
 う、と固まる天馬。なんて説明すべきか。剣城の言うとおり、室内は酷い有
様だった。まるで超小型台風が吹き荒れでもしたかのようである。
 これが単に、怪異だけが原因だったのであれば、天馬にまったく非はない。
が、残念ながらそうではないわけで−−ああ、どうしてくれようか。
「天馬君が化身シュートをぶっ放したからです」
「うわぁっ!?
 突然会話に割って入った人物に、剣城は悲鳴をあげて飛び退いた。もはや御
約束である。剣城はやはりというべきか、黒子の存在に気付いてなかったらし
い。
 天馬が目の前にいて気を取られていたのもあるだろうが−−やっぱりその、
黒子の影が異様なまでに薄いのだろう。ここまで来るともはや特殊能力だ。(後
に天馬は、黒子がその“影の薄さ”を武器にしてバスケをしていると知る事に
なるのだが、今は知る由もない事である。)
 
「初めまして。ボクが“黒”…黒子テツヤと言います。“騎士K”君ですよね」
 
 どうやら驚かれるのも慣れているらしい(切なくならないのだろうか?)黒
子は、ペコリと礼儀正しくお辞儀をした。元来生真面目な正確なのだろう。な
んだかそのへん剣城と似ている。その剣城は一瞬あっけにとられていたようだ
が、やがてつられたように礼を返した。
「貴方が黒さんでしたか。騎士Kこと剣城京介です。…すみません、助けに来
て下さったのに失礼な事をしました」
「いえ、いいんです、慣れてますから」
 あ、やっぱり慣れてるんだ。と、天馬は心の中で苦笑。まあ、本人が影薄い
だけじゃなく、周りが濃いのかもしれないなチラリと思う。ドアの前にいるで
あろう火神を思い出したのだ。あれだけデカくてガタイがよくてインパクトの
強い人と一緒にいたんじゃ、黒子が霞むのも無理からぬことではある。
 ついでに黒子の友人だという“黄”と“緑”も。掲示板に書かれていたスペ
ックが事実ならば、相当なブツだろうと予想できる。縮め、なんて書かれてい
たあたり黒子よりデカいのは間違いないだろうし。
「と、そうだ…おい天馬。化身シュートぶっ放したってどういう事だ?そうい
えば技名叫んでたような…」
「う」
 剣城の口調は責めたてるものではなかったが−−やはり説明せざるをえない
だろう。罪悪感があるのは間違いない。
 
「すみません、ボクが指示しました。時計に向けて、化身の力を使ってくれと」
 
 フォローに入ったのは黒子である。
 
「時計に向けて…え?」
 
 言われた剣城が時計を見て青ざめた。気付いたのだろう。部屋の中は余波で
しっちゃかめっちゃかなのに−−直接エネルギーをぶつけられたはずの置き時
計には傷一つついていないことに。時計の置かれた床にはへこんでやや焦げて
いる。その上で、無傷の時計の姿は不自然に揺らめいていた。
 例えるならば、陽炎。しかしそこから感じるオーラは夏の暑さとはほど遠い
もの。部屋に満ちている冷え冷えとした空気と、僅かに香る血と死臭−−それ
は、異界の気配だった。
「お分かりかと思いますが、まだ倒せてません。弱い霊ならともかく、今回の
相手はそこそこ長い間留まってる“神隠し”ですから。ダメージは受けたでし
ょうけど」
「ダメージは…って。化身シュートが霊に効いたんですか?」
「ええ。少なくとも、剣城君をこちら側へ連れ戻せる程度には」
 どういう事だろうか。天馬は首を捻り−−あ、と声を上げる。掲示板のログ
を思い出したのだ。人間の意志の力は強く、多少の浮遊霊程度ならば弾く力が
ある。化身は意志の力の塊だ。だから化身使いはなおさらその“弾く”力が強
いのだとか。
 要約するならば。生きている人間の意志の力、それを集約した化身の攻撃は、
悪霊にも多少なりの効果があって然りということである。
「意志の力の塊をぶつけるだけでも意味はありますが…今回は天馬君だからこ
そだったとも言えます。天馬君が剣城君を助けたいと思う気持ちと、剣城君の
戻ってこようとする強い意志がなければ…きっとバッドエンドは免れられなか
ったでしょうね」
「…黒子さん……」
 思わず天馬と剣城は互いの顔を見ていた。剣城ももしかしたら、あちらの世
界で化身を使ったのかもしれない。
 やはりそうなのだ、と天馬は思った。
 奇跡を起こすのはいつだって、強く願う気持ちだ。
 
「さて、気を引き締めて下さい。…ラスト大一番、行きますよ!」
 
 黒子の声に、天馬ははっとして時計を見た。まだ霊は祓われていない。なら
ば、危機は過ぎ去っていないという事になる。
 
 カタカタカタカタ。
 カタカタカタカタカタ。
 
「わ、わわ…時計が…っ」
 
 風もないのに、時計がカタカタと小刻みに震え始める。ズンッ、と。空気が
重量を増してのしかかってくるような感覚。これには覚えがあった。強大な好
敵手と対峙した時と同じ−−圧倒的な、プレッシャー。
 夏だというのを忘れるほど。室内の温度が下がっていく。カチカチと歯の音
が鳴るのは寒さだけが理由では無かったが。
「…天馬君。ボクが合図したら、婦人の息子になりきって霊を説得して下さい」
「え、ええ!?
「ボクは年齢オーバーで、剣城君は一度攫われてしまっているので無理です。
お願いします」
 いきなりそんな無茶な。なんの冗談かと思ったが、語る黒子の目はいたって
マジだった。
 説得って言ったって、一体何をどうすればいいのか。悩む天馬に、黒子は優
しい声で言う。
 
「さっきまでの君の気持ち、そのままでいい」
 
 そのまま?
 オウム返しに尋ねる天馬に、頷く黒子。
 
「ええ。…大切な人に、帰ってきて欲しい気持ち。側にいて欲しい気持ち。貴
女のあるべき場所は自分の傍なんだってそう、伝えてあげればそれでいいんで
す。大丈夫、君ならできる」
 
 不思議だった。黒子の声が緩やかに胸に落ちて、溶けていく。今まで心に溜
まっていた緊張や焦りが、するするとほどけていくのを感じた。
 不思議な人だなと思う。まるで、その言葉に魔法がかかっているかのよう。
そう−−自分達の信頼する、円堂監督と同じように。
 
「…分かりました。やってみます」
 
 天馬が決意を固めた瞬間だった。ビシリ、と何かが罅割れるような音と共に
−−置き時計が真っ二つに割れ。
 中から何かが、這いだしてきたのだった。
 
 
 
 
 
 
807:天M
黒さんの無茶振りに腹を俺が括った瞬間
置き時計がぱっかり割れて
中から何かが
 
808:本当にあった怖い名無し
おい
 
809:本当にあった怖い名無し
なぜそこで止める!?
 
810:本当にあった怖い名無し
早く話せよ天M!
おまいらが無事でほっとして
やっと安心して全裸になれると思って脱いだのに!
 
811:本当にあった怖い名無し
>>810
風邪ひくぞ
つ 【スカーフ】
 
812:本当にあった怖い名無し
>>810
つ 【ヒゲ眼鏡】
 
813:本当にあった怖い名無し
>>810
つ 【イチゴぱんつ】
 
814:本当にあった怖い名無し
>>811813
おまいらwwww
810をどんだけ変態にしたいのwwww
 
815:
>>810813
変態は潰すと言った筈ですが?
 
つ 【ハサミ】
 
816:本当にあった怖い>>810
ぎゃあああ黒さますみませ…っ!
 
817:本当にあった怖い名無し
俺いま一瞬
ひゅってなった
 
818:本当にあった怖い名無し
>>817
奇遇だな俺もだ
 
819:本当にあった怖い名無し
みんなマジで騎士Kと天Mと黒が無事で安心したんだな…
いつものくろちゃんみんのノリに戻ってる
 
820:本当にあった怖い名無し
>>819
戻りすぎだろww
このままじゃ報告終わる前にスレが終わっちまうよww
天M、続き頼む
 
821:本当にあった怖い名無し
>>820
スマソ 反省した
天M続き頼むwktk
 
822:天M
>>821
了解()
 
時計が割れて、出てきたのは真っ黒な腕みたいなものだった
で、腕と一緒に長い髪の毛がバサァッと。
ちなみに置き時計はそんな大きなものじゃない
みんなの家に置いてあるやつの中の上くらいだと思って欲しい
 
823:本当にあった怖い名無し
あ、明らかに出てくる容量がおかしいよな…
 
824:騎士K
>>823
まあ空間ねじ曲げるくらいの奴だからな
ズルズルと湿っぽい音がして
中から真っ赤なドレス姿の女が這いだしてきたんだ
腐った匂いと血の匂いで、今思い出しても吐きそうになる
 
825:本当にあった怖い名無し
お、騎士K復活!
 
826:本当にあった怖い名無し
おかえりー騎士K(o^^o)
 
827:本当にあった怖い名無し
今天Mと黒に、報告聴いてたとこなんだ
散々だったが無事で本当に良かったぜ
 
828:天M
大丈夫K?
辛かったらもうちょっと寝てていいんだよ?
 
829:
そうッスよ、無理しないでね
 
830:騎士K
>>825827
ありがとう
ログ遡って見たから把握はしてる
 
>>828
大丈夫だ、問題ない
 
>>829
ご心配おかけしてすみません
どうしても皆さんにお礼を言いたかったし、やっぱり最初にスレ立てしたのは
俺なんで
 
831:本当にあった怖い名無し
相変わらず男前な騎士…惚れるぜ(トゥンク
 
832:本当にあった怖い名無し
>>831
おまおれ
 
833:騎士K
とにかく続けるぞ
ドレス姿の女は、恨めしそうに俺達を見て言った
 
「どうしてどうしてどうしてどうして」
 
暫くどうして、を繰り返してた
 
「どうしてわたしはただ あのこと永遠に一緒にいたいだけなのになんで」
 
834:
この時点で彼女も、浚った騎士K君が息子でないことは理解したんでしょう
彼女の目にはもう騎士K君もボクや天M君と同じく邪魔者にしか映っていなか
ったようです
 
永遠に一緒になんて、絶対ありえないのに
どうして人は、そんな夢を見てしまうのでしょうね
愛しければ愛しいほど、大事なものが見えなくなってしまうなんて
 
835:天M
騎士Kを浚ったのは許せないけど、俺思いました
この人を、ちゃんと解放してあげたいって
 
 
 
NEXT
 

 

終わりの、ラプソディア。