【家から】
謎の怪奇現象
【出られない】
6
 
 
 
 
 
 
 
628:本当にあった怖い名無し
チャイムって
 
629:本当にあった怖い名無し
ちょっと待った
騎士Kって今現実世界にいないんだったよな?
じゃあ
 
630:騎士K
ずっとなってる
うるさいうるさいうるさいうるさい
 
 
631:本当にあった怖い名無し
 
632:本当にあった怖い名無し
 
633:本当にあった怖い名無し
 
634:本当にあった怖い名無し
 
635:本当にあった怖い名無し
 
636:本当にあった怖い名無し
ダメだダメだ騎士ぃぃっ!
それ絶対ヤバいって!
 
637:本当にあった怖い名無し
人間がそこ来る筈ねえって!
 
638:本当にあった怖い名無し
耳栓しろ
布団被って寝ろ!
とにかく音聞くな!
 
639:本当にあった怖い名無し
お前分かってるよな!?
そもそも“かげこさま”はお前がうちに招かなきゃ入れなかったんだ
今度の奴らだってお前が開けなきゃ簡単に入れない筈だ!
 
…多分!
 
640:本当にあった怖い名無し
>>639
おま
最後のが余計だろおおおっ!
 
641:本当にあった怖い名無し
なあ緑!
なんでかげこさま倒さないと神隠しに手出しができねーんだよ!
このままじゃ騎士Kタソが壊れちゃうって!
 
642:
>>641
黒もある程度説明したが
“かげこさま”が訪問して騎士Kを現実世界から追い出そうとする力と、
神隠しが騎士Kを異界へ攫おうとする力が相乗効果で倍増して
今回の件が起きた
“神隠し”は自分の部屋を異界に作り、そこに騎士Kを閉じこめてる状態だが
もしこのまま神隠しを倒すと、その部屋が失われて、
騎士Kは死者の世界に放り出されてしまうのだよ
だから“かげこさま”が先なのだ
 
643:本当にあった怖い名無し
騎士Kを閉じこめてる直接原因は神隠しの方だろ!?
神隠しを倒せば騎士Kは元の世界に戻れるんじゃないのか?
 
644:
かげこさまがいなければ戻れただろうな
問題はかげこさまが騎士Kに完全に成り変わってることなのだよ
いいか?世界に同じ人間は一人しか存在出来ない
本来騎士Kがいたポジションを偽物が埋めてしまってる状態なのだよ
だから偽物を倒さないと騎士Kは元の存在に帰る事が出来ないのだ
 
645:
なるなる
試合で喩えるッスけど。バスケならフィールドには五人、
サッカーなら十一人までしか出られない決まりがあるッスよね。
フィールドにいる誰か一人が抜けないと、新しいメンバーは入れない
要はそういう事ッス
 
646:本当にあった怖い名無し
つまりかげこさまを、現実世界って名前のフィールドから追い出さなきゃ
いけないわけか
 
647:本当にあった怖い名無し
でもそんなんどうやって?(>_<)
 
648:本当にあった怖い名無し
さっきの呪文は、かげこさまの影踏みながら言わないと
本領発揮しないんだろ?
そのくせかげこさまは逃げ続ければ勝てるって…それはどういう意味なんだ?
 
649:
天Mが、騎士Kの部屋で見つけた時計は逆回りしていた
諸君、思い出すのだよ
騎士Kは、一番最初にインターホンを出迎えて気絶した後、何故か時間が戻っ
ていたと言っていた
騎士Kが目覚めたのは自分の部屋のベッドの上。一番最初に見た時計とは天M
が騎士Kの部屋で見たものと同じ時計である可能性が高い
つまりあの時から時計は逆回りを始めているのだ
部屋の中央に置いてあるのは重要な意味を持つアイテムかつ神隠しが主張した
いブツだということ
 
いいか?
天Mが現実世界で玄関を開けた時、騎士Kのいる世界の玄関のドアも開いた
つまり世界の繋がりはまだ完全には切れていないのだよ
だが俺が調べた情報によれば神隠しの目的は
騎士Kを完全に異界に連れ去ること
ならば繋がりが残っていては面白くない
詳しいことは割愛するが、その繋がりが完全に断ち切れるタイムリミットを
逆回りの時計が示している確率はけして低くない
 
そして神隠しが完全に本物の騎士Kを連れ去ってしまえば、
偽物はもう存在を奪われる心配がなくなる
そうなってしまえばもう“かげこさま”を捕まえても
騎士Kを助けることは不可能だ!
 
650:本当にあった怖い名無し
ちょ、ちょっと難しかったけど理解した!
 
651:本当にあった怖い名無し
とりあえず早くかげこさまを倒さなきゃならんってことは分かった!
 
652:本当にあった怖い名無し
つかもうピンチに重ねてピンチじゃねぇか!
制限時間って残りどれくらいだよ!?
 
653:本当にあった怖い名無し
>>652
ばっかもう誰も確認出来ないだろが!
天Mもなんとか一階に隠れてる状態なんだぞ!?
 
654:本当にあった怖い名無し
天Mが見た時確か三時過ぎだったんだよな…!?
十時間で“三時間分”くらい戻ってのか?ってことはあと十時間切ってるってこと!?
 
655:本当にあった怖い名無し
天Mも騎士Kがさっきから全然こないぞ!
まさか騎士タソ玄関開けちまったんじゃねぇだろうな!?
 
656:本当にあった怖い名無し
騎士Kタソ!無事なら空レスでもいいから返しろ!
頼む!
 
657:
くそっ…何で俺東京に住んでないんだ…!?
黒っち、火っち、二人だけが頼りッス!
まずは天Mを助けてくれッスよ!
 
 
 
 
 ***
 
 
 
 季節が幸いしたのだろう。冬であったならとっくに日は落ち、自分達は完全
に“詰んで”いた筈だ。それでも辺りはどんどん暗くなってゆく。押入の隙間
から差し込む夕焼けの光が毒々しくて、松風天馬は身を震わせた。
 
−−こわい。
 
 サッカーでは。どんな強い相手にだって立ち向かってきたし、確かに絶望こ
そしたものの恐怖を抱いたことはなかった。確かにスポーツの試合で命のやり
取りはない(本来ならば)。しかし、自分はサッカーで恐怖を感じたことがあ
るぞ−−と。以前、円堂監督の友人でありプロサッカー選手である風丸一郎太
は言っていた。
 
『どんなに足掻いても足掻いても勝てる気がしない。負ける事が怖いんじゃな
いんだ。…相手がその気になれば自分達の体も心も粉々に踏みつぶせるって、
それだけの力の差があるんだって知った時の……本能的な、恐怖。ああ、俺も
お前くらいの年だったよ』
 
 あの時の自分には分からない感覚だった。いつも“頑張ればなんとかなる”
と当たり前のように信じていた。それが出来たのは自分が強いからじゃない。
本物の恐怖も絶望も、知らなかったからだったのだとようやく分かった。
 なんて狭いものだったのか。自分が今まで抱きしめてきた世界も、認識して
いた現実も。
 
『その実。俺も本当は何に怯えていたのか今でも分からない。ただハッキリし
たのは…理由のない恐怖ってヤツに逆らうのは、並大抵の精神力じゃ無理なん
だよな』
 
 でも覚えとけ、と。風丸は続けた。
 
『その恐怖を知って、乗り越えた時。お前は絶望の乗り越え方を知る。本当の
意味で強くなれる。…文字通り世界が変わる筈だぜ』
 
−−俺も、強くなれるかな。
 
 風丸の味わった恐怖と、天馬が今味わっている恐怖。状況はまるで違うだろ
うが、本能的な恐怖であるという一点においては同じものなのかもしれない。
 何故怖いか分からないのに、ただひたすら恐怖が背筋を這い回る。見えもし
ないありもしないもの全てに怯えてしまいそうになる。
 押入の中で。偶然見つけたサッカーボールを強く強く抱きしめた。自分達の
最大の武器。最大の誇り。もし意志の力が防護壁になるのなら、こうしている
だけでも多少の意味はある筈だ。
 自分にはもう、そうであると信じる他術がない。
 
ぎ。
 
「……っ!」
 
 押入のある部屋は、畳。畳を踏む足音は独特なものだ。その足音がいま。
 
「何で隠れるんだよ」
 
 足音と、声が近付いてくる。
 
「かくれんぼなんてする、トシでもないだろ?」
 
 携帯はもう閉じてしまった。掲示板の住民達は天馬が書き込みをやめたので
パニックになっているかもしれない。しかし、返事をする余裕はなかった。そ
ればかりかもうボタン一つ押すのも怖い。
 もし携帯の明かりに気づかれたら?
 もしボタンを押す音を聴かれてしまったら?
 
「でておいで」
 
 笑みを含んだ、剣城の声。いや、違う。剣城とそっくりな、偽物の声だ。だ
ってそうだろう。
 剣城はこんな、人を玩具にしてぐちゃぐちゃに踏み潰す事に快感を覚えるよ
うな−−それでいて全身に蜜を塗りたくった娼婦にでもなったかのような−−
こんな吐き気のする声なんて、絶対に出さない。
 何故朝会った時に気づかなかったのか。剣城の悲鳴のようなメールを冗談だ
と片付けてしまったのか。
 剣城はずっと。こんな怖い想いをしていたのに。たった一人で助けを求めて
いたというのに。
 
「サッカーやろうぜぇ、てんまぁ」
 
 怒りが一瞬、恐怖を上回った。剣城とそっくりで、しかし欠片も似つかない
声で。サッカーを口にするな、自分達の誇りをお前なんかが汚すなと、そう怒
鳴ってやりたくなった。
 だから、気付くのが遅れた。
 
 ふすまが、ほんの1センチばかり、開いていたことに。
 
 
 
「ひっ……っ!?
 
 
 
 真っ白な指が、隙間で蠢いていた。
 まるでそれ単体が生き物であるかのよう。気持ち悪い軟体動物さながらで動
く五本の細い指が隙間から生え、にょろんにょろんと動いている。
 剣城の肌は、中学生男子にしては白くて、指も綺麗だけど。いくらなんでも
これはないだろう。関節の真逆に曲がるとかそれ以前に、どこが関節かも分か
らないような、こんな。
 そもそもこれは本当に、指と呼んでいいものか?
 
「てんま」
 
 生温い吐息と、甘ったるい声が囁く。
 駄目と分かっているのに、凍り付いた頭はろくに働いてくれない。首が上が
っていく。視線が段々上へ、駄目、上へ、ゆっくり、ああ、いや。
 うえ、だめ、いや、うえうえだめだめいやいやうえだめいやいやあああああ!
 
 
 
 ぎょろり。
 
 
 
「みぃつけた」
 
 
 
 血走った真っ赤な目玉が。
 隙間の向こうでぐるんと動いた。
 
 
 
 
 
「うわああああああああああっ!」
 
 
 
 
 
 天馬は絶叫し、尻餅をついたまま後ろに下がる。しかし下がれる距離など限
られている。すぐ壁にブチ当たった。
 一瞬で開け放たれる襖。真っ赤な日差しの中で偽物はケタケタ嗤っている。
逆光なのに、その眼と真っ赤に裂けた口だけはやけにハッキリ見えて、ああ、
ああ。
 自分は今、喰われる立場だと。
 自覚した瞬間にはもう。
 
「サッカーサッカーサッカーやろうやろうやろうぜてんまてんまサッカーやろ
てんまやろうぜサッカーあうあうあう」
 
 偽物の破綻した声が頭上から降ったまさにその時だった。
 
 
 
「イグナイトパス・廻」
 
 
 
 目の前の怪異が、吹っ飛ばされたのは。
 
 
 
NEXT
 

 

救出者よ、いざ。