【家から】 謎の怪奇現象 【出られない】 7
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一体何が起きたのか。押し入れの中でへたりこんだままポカンとしていた天 馬の耳に、ドタドタとした足音と二人の人間の会話が聞こえてきた。 「黒子おまえな…横っ面にイグナイトとかオニチクすぎんだろ」 「怪異相手に手加減する理由も意味もありません。火神君こそやりすぎです、 人様んちのドアを力業で蹴り破るだなんて」 「俺はてめぇと違ってお便利な特殊能力なんかねぇんだよ文句があんなら連れ てくんな」 「喧しいですいい加減空気読んで下さい。火神君も後で顔面イグナイト食らい たいんですか」 「ちょ…なんか今日ドSぱなくね!?いつもの三割り増しでスイッチ入ってるっ つーか日向先輩降臨してね?」 「大丈夫です火神君限定ですから」 「俺限定!?」 わあわあ叫ぶ男の声と、物静かで毒を吐く男の声。どちらも若い。 それに今彼らは互いの名前を呼んだ。黒子、火神君、と。掲示板の内容をハ ンドルネームを思い出す。もしや彼らが、自分を助けにきてくれた−−。
「“黒”さんと…“火”さん、ですか?」
恐る恐る押し入れから顔を出す。すると二人は謎の掛け合い漫才(口喧嘩の つもりかもしれないが何故だかそう聞こえる)をピタリとやめ、こちらを振り 向いた。 「っと…悪ぃ、ついいつもの癖で。お前が“天M”か?」 「はい。本名は松風天馬です」 「おっと、そのまんまなのな名前。俺は火…火神大我だ」 押入から這いだしてきた天馬に、ドタドタぶっきらぼうながら手を差し出し てきた人物を見て、天馬は度肝を抜かれた。 ダークレッドの、ややボサボサした髪。鋭い目つきが彼の不良っぽさに拍車 をかけている。普通の人間なら目を合わせるだけで怯んだかもしれない。生憎 というか幸いと言うべきか天馬は普通の人間ではなかったが、それでも驚くの は致し方なかろう。
−−ででで…でかっ!
さすがに初対面で、しかも助けにきてくれた相手にそれは失礼だ。天馬は思 いの外生真面目な性格である。だから口には出さなかったが−−顔にはモロに 出てたかもしれない。 火神の身長はどう軽く見積もっても180はゆうに超えていた。いや、もしか したらもうプラス10cmは上乗せ出来るかもしれない。いかんせん150cm代の天 馬にとって彼はあまりに大きすぎて、遙か下から見上げる他叶わないのだ。正 確な身長など分かる筈もない。 黒の友人らしいから、彼もバスケ部なのだろう。握った手は武骨で、豆だら けだった。 「火神君、ビビらせてどうするんですか。相変わらず目つき悪いですよ」 「わっ」 別の意味で驚いた。大柄な火神の後ろから突然ひょっこりともう一人が現れ たからだ。 天馬を除くとたった二人しかいない空間で、まさか一人を見失うだなんてど うかしている。それだけ火神のインパクトが強すぎたのだろうか。
「初めまして、黒こと黒子テツヤです。ギリギリ間に合って良かったです」
そう言って、無表情に近い顔に僅かに笑みを載せた黒子は、火神と比べると だいぶ小柄で華奢な人物だった。それでもさすがに天馬よりはだいぶ背が高か ったが、正直運動部には見えない“ヒョロさ”である。 色素の薄い、柔らかそうな髪。顔立ちは少し幼い印象を受ける。女性から見 れば“可愛い系”に分類されるのかもしれない。精悍の一言に尽きる火神とは、 あらゆる意味で対称的だった。 「あ、ありがとうございます。まさか本当に助けにきてくれるなんて…」 「まだちょっとお礼には早いみたいですよ」 天馬の言葉を片手で遮る黒子。え、と思う視線の先で、もぞりと黒いものが 動いた。 剣城の姿をした、“かげこさま”が。緩慢な動作で起き上がる。 「うぇっ!倒したんじゃなかったのかよ黒子!?」 「ちょっとダメージを与えただけです。“かげこさま”のように対抗神話を持 つ怪異は、逆に言えばその手段以外で倒すのは極めて困難なんですよ。火神君、 天馬君をお願いします」 一息で言い放つ黒子。まるでそのタイミングを見計らったかのように、偽物 が立ち上がった。 ぶつぶつと何かを言っているが、よく聞き取れない。というか聴いてはなら ない気がする。
「臨・闘・兵・者・皆・陳・裂・在・前ッ!」
かげこさまが襲いかかってくるより先に、黒子が九字を斬ってぶつけていた。 にぎゃっ、と歪んだ悲鳴が上がる。 「なに、ゴーストバスターなのお前」 「僕に使えるのは退魔法程度ですけどね」 九字斬りってほんと効果あるんだ、とか。そもそもこの人達は一体何者なん だろう、普通のバスケ部員じゃないよな絶対、とか。 いろいろ言いたい事はあったが、展開が早すぎてなかなか脳味噌がついてい かない。そもそもこれは本当に現実なのか、今でも信じ切れてないというのが 本音だ。
「さて、終わらせますか」
倒れた“かげこさま”の姿はまだ辛うじて剣城京介だったが、時折黒い靄が 滲み、ノイズがかかったかのように姿が霞む。その側に、スタスタと歩み寄る 黒子。この程度には慣れてますと言わんばかりだ。
「夕方で良かったな。夜になっちまってたら面倒だったぜ」
火神が溜め息混じりに言った。
「今なら影も長くて踏みやすいだろ。さっさとトドメ刺せ、黒子」
言われずとも、と言うように。黒子が一歩前へ踏み出した。そして倒れた“か げこさま”の影の上に、足を乗せる。
「“影は影へ 異界は異界へ 送ります 送ります”」
静かな声が、夕闇に溶ける。ざわり、と空気が動いたのが分かった。倒れた “かげこさま”の、剣城そっくりの赤い眼と眼があう。怪異は恨めしげに、た だただ天馬の方を見つめていた。 サッカーやろうぜ、と彼は言った。それは無論、剣城の姿を借りたゆえの言 葉であり、彼自身の意志ではないのだろうが。 ただほんの少し、何かが疼いた。 ひょっとしたら、異界の存在は−−なりたかったのだろうか。自由に大地を 駆け、息を吸うことを赦される−−人間に。
「“影は影へ 異界は異界へ 送ります 送ります”」
−−でも、悪いけど。キミに“剣城”をあげるわけにはいかないんだ。勿論、 “俺”をあげることも。
「“影は影へ 異界は異界へ 送ります 送ります”」
−−だって同じ人間は…世界にたった一人なんだから。
スペルが三回詠唱された。偽物の影がぼやけ、滲み、剣城の姿を失って−− やがて闇の中へ溶けるように消えた。 これで、剣城の帰ってくる場所は取り戻された筈だ。
「“かげこさま”はとりあえず祓ったけど、まだ“神隠し”が残ってます。さ て」
黒子は天馬を振り返り、微笑んだ。
「ここから先は貴方の仕事ですよ、天馬君」
***
662:本当にあった怖い名無し 心配すぎてカップメンも喉通らない…
663:本当にあった怖い名無し 黒はちゃんと辿り着いたんだろうか まさか迷子になってるなんてことわ
664:本当にあった怖い名無し おまいら、心配なのは分かるがもうちょい落ち着けな 無駄にスレ埋め杉だ この状況でスレ落ちたら洒落にならねーぞ
665:黒 ただいまです
666:本当にあった怖い名無し ゾロ目げと
って、黒!?
667:本当にあった怖い名無し 本物の黒なのか!? 大丈夫だったのか!?ってか天Mは無事か!?
668:本当にあった怖い名無し おかえり黒おおおっ!
669:黄 どうだったッスか!?かげこさまは退治できたんスか!? あれから騎士Kが全然顔出さなくて…!もう大変だったんスよ!
670:黒 ご心配おかけしてすみません 結果から申し上げますと、天M君は無事です。ギリギリでしたが、かげこさま にやられる前に助け出せました
671:本当にあった怖い名無し そうか!良かったマジで…!
672:本当にあった怖い名無し あれ、なんで画面がセルフエコノミー?
673:本当にあった怖い名無し >>672 おまおれ
671:緑 天Mはどうした?助かったとはいえ、相当疲れていたとは思うが
672:黒 意外にしっかりしてますよ、最近の中学生は侮れませんねぇ
673:黄 何言ってんの黒っち、俺らだってつい最近までちゅーがくせいやってたじゃな いの
674:黒 そういえばそうでした
675:本当にあった怖い名無し 何このやりとり、すっげーなごむ
676:本当にあった怖い名無し これなんてなごみ版? あれ俺いつの間にオカ版から移動したんだろう…
677:本当にあった怖い名無し しかし黒マジ凄いのな スレを代表してお礼言わせてくれ 俺達の天Mタソを助けてくれてありがとう!
678:本当にあった怖い名無し ありがとう!(≧∇≦)
679:本当にあった怖い名無し >>677−678 気持ちは分かるがまだ終わってないぞおまいら!騎士Kタソはピンチ続行中な んだからな!
680:本当にあった怖い名無し !! そうでした…orz
681:本当にあった怖い名無し 時間もあんまないぞ 騎士Kタソ、もしかしたら玄関開けちゃったかもだし…どうやって助けるんだ よ?
682:m0g.ad6 m@yj G.G@A
683:本当にあった怖い名無し そしてまたこいつわ忘れた頃にぃぃぃっ!
684:本当にあった怖い名無し ききき来やがったあああっ!
685:本当にあった怖い名無し はいるな、でていけってどゆこと!?
686:黒 今、天M君には神隠しを退治しに行って貰ってます 今丁度二階のドアを開けたんでしょう
687:黄 え!? 神隠し退治も黒っちがやるんじゃないの!?
688:緑 天Mにやらせるのか!? 危険すぎるのだよ!?
689:本当にあった怖い名無し 黒がやらなくて大丈夫なのか!?
690:黒 勿論いくつか理由があっての判断です 僕と火でサポートには入りますが、今回一番対抗出来るのは天M君の力だと考 えます
ほぼ核心は得ていますが、念の為。確認です。 今回の騎士K君を浚った怪異についての調査は終わってるんですよね? 有力な対抗神話は出てこなかったんじゃありませんか?
691:本当にあった怖い名無し 対抗神話?
692:本当にあった怖い名無し >>691 ログ嫁 怪談に対する対抗策のことだよ かげこさまだったら、影踏んで“影は影へ 異界は異界へ 送ります 送りま す”を三回言うって感じに
693:緑 >>690 その通りだ黒 対抗神話は出てこなかったのだよ そして対抗神話の出てこない怪異を相手にする場合は、力を持つ人間が力業で 除霊しなければならない事が多い
694:黒 >>693 ですね 緑、まずは教えて下さい 騎士K君を襲ったモノの正体とそれにまつわるモノガタリを
695:緑 勿論 そのつもりなのだよ
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明日の行方を遮るなかれ。