【家から】 謎の怪奇現象 【出られない】 9
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743:本当にあった怖い名無し 黒と天Mは大丈夫かな…
744:本当にあった怖い名無し だよな… オマエはいい加減黙れよ神隠し 騎士Kタソは俺らの嫁だぞオマエなんぞにやらん!
745:本当にあった怖い名無し >>744 いいこと言うなお前! そうだ、俺らがついてるんだ、負けるな騎士ぃっ!
746:本当にあった怖い名無し 黒タソ達、今闘ってる真っ最中なんだろうな… なあ、騎士K見てるか?お前を助けようと頑張ってる奴らがいるんだぞ、 絶対諦めるな!
747:黄 そうッス!相手が幽霊だろうと、サッカーだろうとバスケだろうと、 根本的なとこは一緒ッス! 諦めなきゃ、奇跡が起きる可能性は必ずあるッス!
748:緑 >>747 少し違うな、黄 奇跡は起きるものじゃなく、我々の手で起こすものなのだよ 黒ならきっと、そう言う あいつはトリプルスコアのゲームでも、一度たりとも諦めたことはなかった
749:本当にあった怖い名無し なんか…黄も緑もみんなカッコイイのな 何か一つに打ち込む奴らって、やっぱそうなのかな
750:本当にあった怖い名無し うん 何でもいいから、一生懸命やってるヤツはカッコイイ
751:本当にあった怖い名無し 俺、就活うまくいかなくて…親とモメて引きこもりになっちまったけど もう一回、頑張ってみようかなって気になった
752:本当にあった怖い名無し 俺も…部活退部しようとしてたけど… ちょっと考え直してみようって気になった
753:本当にあった怖い名無し 喧嘩してた彼女ともう一回話してみるわ!
754:本当にあった怖い名無し >>753 リア充爆発しろ
755:本当にあった怖い名無し >>753 リア充はタヒね
756:本当にあった怖い名無し さすがくろちゃん民、リア充への反応速度と風当たりのキツさぱないwww
757:騎士K だれ か
758:本当にあった怖い名無し !?
759:本当にあった怖い名無し 騎士K!? おま、無事だったのか!?
760:本当にあった怖い名無し 騎士Kしっかりしろ! 今天Mと黒が助けに向かってる!
761:本当にあった怖い名無し 俺達も応援してる! 負けんな絶対!負けちゃ駄目だ!
762:騎士K てん
763:黄 しっかりするッスよ! みんなお前を待ってるんスから!
***
体は意志とは関係なく、動いてしまった。 この音を止めたい。頭が痛い。 チャイムの音に酔わされるように、ただそれだけしか考えられなくなって− −剣城は玄関を、開けてしまったのだ。 開け放った先には、さっきまでのような玄関と同じ景色はなく。ただ、真っ 暗な闇があった。文字通り墨で塗りたくったかのような闇だ。 しかし剣城がその闇を見下ろす前に、闇の中から無数の白い手が伸びてきて −−口を塞がれて、全身を掴まれて、悲鳴さえ出てこなくて。 その後どうなったかがよく分からない。 ただ気がついた時。また自室のベッドに寝ていただけたことだけが事実だっ た。
「わかったでしょう」
耳もとで息を吹きかけられるような声。ぎょっとして剣城が首を動かすと、 すぐ目の前に女の顔があった。
「−−−ッ!?」
おかしい。声が出ない。否声だけじゃなく、体も動かない。動くのは、首や 目だけだ。 女は真っ赤な唇を吊り上げて嗤うと、ばさりと音を立てて長い髪がはね、剣 城の鼻先を掠めた。異臭がする。ただの異臭じゃない。腐った肉と−−血の匂 いだ。 女の顔は不自然にひっくり返り、逆さのまま勢いよく天井に逃げ、剣城の視 界から消えた。首だけが跳ね回っていたかのような動き。到底人間では、あり えない。 女の声と一緒に、もはや耳元で鳴っているのではないかというほど大きな時 計の音がする。
カチカチ。 カチカチ。
剣城は視線を床に向けた。床の真ん中には、自分がいつも使っている水色の 置き時計がある。時計はドアの方を向いているので、こちらから時刻は分から ない。 しかし。
「もうすぐよ」
女の囁き声とともに。 ずるり、と時計が動いた。
「もうすぐ、ふたりきり」
またずるり、と動く。まるで時計が意志を持った生き物で、ゆるゆるこちら を振り向こうとしているかのように。
−−何だよ。
怖い、のだと思う。しかし多分感情のメーターはもう振り切ってしまってい る。脳内真っ白だ。これは本当に現実なのか。起きたつもりが自分はまだ目覚 めてなくて、ベッドの中で延々と悪夢を見続けているだけではないのか。
「わたしの、いとしいこ」
だが夢にしてはあまりにも−−生々しすぎる。頬を何か、ぶよぶよした冷た いものが撫でた。女の青白い指が目の端を掠めたのでそれだと気付く。しかし どう考えてもこの冷たさは生きた人間のそれではない。 弛緩し、腐り、血の通わなくなった肉。 屍肉の感触だ。自分を彼岸へ連れ去ろうとする死人の手だ。そう思ってぞっ とした。そして安堵した。まだ動く感情があったことに。
ずるり。
時計が完全にこちらを向き−−息を飲んだ。 時計の半分が見えなくなっている。理由は単純明快、ガラス面に血の手形が べったりついているからだ。 そしてかろうじてまだ見えるガラスの半分には、ベッドに横たわる剣城の姿 が映っている。同時に−−その自分に覆い被さる、真っ赤なドレスを着た髪の 長い女の姿も。
「かわいいこ いとしいこ」
女が嗤う。
「もうにどと はなさないはなさないはなさないはなさないはなさないはなさ ないはなさないはなさないはなさないはなさないはなさないはなさないはなさ ないはなさないはなさないはなさないはなさないはなさないはなさないはなさ ないはなさないハナサナイハナサナイハナサナイハナサナイハナサナイハナサ ナイ」
駄目だ、と思った。気がおかしくなりそうだ。いやもう、自分はおかしくな っているのかもしれない。吐きそうなほどの血と腐臭、時計の刻み音、女の呪 詛にも似た甘ったるい声、耳元の吐息と頬を撫でる冷たい指。トドメが金縛り である。
バキリ、と音がした。
目を見開く剣城の前で。こちらを向いた置き時計のガラスとプラスチックに 罅が入り−−凄まじい勢いで、中から何かが噴き出した。
−−マジかよ。
ドス黒い飛沫。大量の、血。 まるで時計に詰まっていたかのように、あるいは時計が蓋をしていたかのよ うに噴き出した血は、みるみる部屋の床を真っ赤に染め上げてゆく。 バカリ、と時計が割れて。その中にいたモノは。 血まみれの、ナニカの眼球。
「ずっと、いっしょ」
目玉がぎょろぎょろと動く。ぬるぬるとした感触。腕に違和感を感じ、剣城 は首を動かして−−見なければ良かったと本気で後悔した。声が出ていたなら 絶叫していたはずだ。 自分の横たわるベッドの上も血まみれで。 剣城の右腕には、真っ白な蛆虫が山のように這い回っていた。
−−むりだ、こんなの。
精神力はある方だと思っていたが。それでも悟る。こんなのもう−−限界だ。 心が、異界に浚われてゆく。
−−兄さん。キャプテン。天馬。みんな。…本当に、ごめんなさ…
その瞬間だった。 突然、どこにあったかもわからない携帯電話が、開いた状態で目の前に落下 してきたのだ。 煌々と光る画面には、くろちゃんねるのスレッドが表示されている。
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765:本当にあった怖い名無し 諦めるな騎士K!俺らは何もできないけど、画面の前でずっと応援してる!
766:本当にあった怖い名無し 騎士Kタソ死なないで!
767:黄 サッカープレイヤーだろ!? そう簡単に諦めちゃ駄目ッス!
768:本当にあった怖い名無し 悪霊なんか化身でぶっ飛ばせ!
769:本当にあった怖い名無し そうだ! 助かったらみんなでサッカーやろうぜ!
770:緑 諦めるな 最後に勝つのはいつだって、諦めずに最後まで闘った奴なのだよ
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−−そうだ。
皆が応援してくれている。 自分の無事を願ってくれている。大事な友達も、今日初めて会った人達も。
−−諦めなかったから、勝ち上がってきた。今までずっとそうだったじゃないか。
剣城はキッと目の前を睨み据える。確かに精神力は限界に近い。だがまだ− −終わったわけじゃない。 自分を待っていてくれる人達を裏切りたくないのなら−−戦え。そして前を、 向け。
「力を、貸せ」
決意を固めた時。 ひきつれていた喉から声が、出た。
「召喚…我が化身・剣聖ランスロットおおおおっ!」
剣城の体から溢れ出したオーラが、体の上にのしかかっていた女と、体を這 い回っていた蛆虫を吹き飛ばしていた。ぎゃんっ、と濁った悲鳴があがる。ガ タガタと、地震が起きたかのように部屋が揺れ始める。
「誰にも渡さない…俺は俺だ、誰かに譲ってたまるかよ!」
バリンッと音を立ててガラスが割れ、張り付いていた夕焼けの景色と共に砕 け散る。その向こう側にはひたすら闇。その闇の中から、ここぞとばかりに数 多の死者の腕が室内に伸ばされた。玄関の時のように、剣城は再び体を掴まれ る。 だがもう揺るぎはしない。恐怖は勿論ある。しかし今はそれ以上の感情が心 を統べていた。 他でもなく。自分の誇りと、領域を汚された怒りだ。
「誰かも知らない奴に攫われてやる気なんかないんだ」
剣城の怒声に、召喚された騎士・ランスロットが剣を振りかぶる。
「失せろ−−っ!」
ランスロットの剣が、死者達を切り刻んでいた。瞬間、部屋の中心から光が 溢れ出す。女の甲高い悲鳴と死者達の嘆き呪う声が、光の中に溶けていく。 何が起こったのか。眩しすぎて目を細めた剣城の耳に、その声は届いた。
「ジャスティス・ウィング−−ッ!」
全ての感覚が遠ざかり−−何かを認識する前に剣城の体は強い力で持ち上げ られていた。そして。
「うわあっ!」
思いっきり、落下。肩口から落ちたので地味に痛い。何がなんだか分からな いが、いつの間にか体が動くようになっているのは確かだ。もう閃光はないが、 まだ瞼の裏がチカチカしている。痛くて目が開けられない。
「剣城!?本物の剣城なの!?」
耳に飛び込んできた声。はっとして、痛む目を開けていた。まだ視界はチカ チカしているが間違いない。
「天馬…」
目の前に、天馬がいた。名前を読んだ途端友人は顔をくしゃくしゃにして、 思い切り抱きついてきたのだった。
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罰ゲーム、晒されたのは。