僕にはないものを、
 彼は持っていたんだ。
 
 
 
 
【キセキファン】
彼らが魔女に浚われた
・第一夜・14
【力を貸して】
 
 
 
 
 
 本当に今日の自分はどうかしている、と思う。二階、用具倉庫の前。緑間は
黒子の前に膝をついて、ただただ座り込んでいた。ああ、この日本語も正しい
のか。もっとうまい表現が出来そうなものではないか。呆然と?悄然と?愕然
と?−−なんと表現するべきか、分からない。
 時刻は九時四十五分を指している。
 黒子がいなくなったと知った時。緑間は完全に頭が真っ白になっていた。黄
瀬の死を知ったばかりのタイミングだ。しかも黒子の姿を最後にハッキリ認識
したのはまず自分。分かっていたのに−−油断すればすぐその姿を見失ってし
まうのが黒子なのだと。その特性がこの状況で悪い方へ働きかねないというこ
とは、自分達が一番よく知っていた筈なのに。
 黒子がいなくなったのは、二階で緑間が黒子と別れた直後である可能性が高
い。あの時、黄瀬の元へと皆が我先にと駆けていった。二階探索組だった緑間、
黒子、リコ、青峰は当然後発組であり、赤司達より遅れて走り出している。黒
子にいたっては緑間を慰めてくれていた為にさらに出だしが遅れ、ほぼまるま
る三分ばかり、無人の階段や玄関ホール、外を通ることになった筈だ。
 彼が浚われたとしたら、そのタイミングである可能性が極めて高い。黒子の
影は極端に薄いから、皆も彼が追いついてこなかったことに気付かなかった可
能性が高いのだ。
 
−−俺が一緒に、黒子と階下に降りていれば…!
 
 一番最後に、誰も見ていない場所で黒子と二人きりだった緑間。多分赤司あ
たりには疑われているだろう。
 
 
 だが【緑間は黒子を殺してなどいない。】
 
 
 後悔と焦燥。普段“冷静沈着”だと呼ばれる頭脳はなんの役にも立たない。
自分でも無謀だと分かっているのに飛び出していた。後ろから赤司と高尾が追
ってきていた。
 みんなが集まっている玄関ホールに黒子が隠されている可能性は低い。なら
ば二階のどこかだ。窓の前に座り込んでいた自分は後ろを振り返っていないし、
パニックの一歩手前だった。二階で何か物音が発生しても気付けなかった可能
性は十分にある。ましてやこの館は音が響きにくい構造だ。
 二階の、どこか。
 走り回り、あちこちの部屋を探し回り。誰もいないここにもいないと焦り始
めた時だった。
 高尾が見つけてしまった。
 右廊下突き当たりの用具倉庫の下から、血が染み出していて。水色の髪がほ
んの少し、はみ出している様を。
 開けちゃ駄目だ、と高尾が叫ぶのも聞かず、用具入れの戸を開けて−−絶叫。
 
 血だらけの黒子が、まるで緑間に寄りかかるように倒れてきた。胸には黄瀬
と同じナイフが刺さっていて。
 体はまだ温かいのに−−もう呼吸も、心臓も止まっていた。
 
−−すまなかったのだよ、黒子。
 
 何故だろう。涙もうまく出ない。感情のまま赤司と高尾を一階へ追いやって
しまった。何かとても酷いことを叫んでしまった気がするが、よく覚えていな
い。
 ただ頭が、痛い。
 
−−俺が魔女の罠になどはまらなければ…!
 
 あんな本さえ手にしなければ、黒子も黄瀬もこんなことにはならなかったの
に。後悔。後悔。ただ後悔。してもしたりない後悔で死んでしまいそうになる。
 何故自分ではなく黄瀬と黒子だったのか。紫原と伊月はどこへ消えてしまっ
たのか。いっそ自分を真っ先に殺してくれたら良かったのに。
 そうしたらこんな。こんな思いなんて。
 
 
 
 
「悲しい?」
 
 
 
 
 ハッとして顔を上げる。今、後ろから−−声が。
 
 
 
 
「悲しい?ねぇ、悲しいぃ?」
 
 
 
 
 女の声だ。屋敷にいるメンバーの中に女は一人しかいない。しかし後ろから
響いた音色は、相田リコのそれより遥かに大人びたものだった。
 何より。
 知らない。こんな、粘着質で、歪んだ−−悪意と喜悦に満ちた声など。キセ
キの世代などと言われ、他人の悪意に晒される機会は今までに幾度となくあっ
たが。ここまで酷いのは初めてだ。こんな、こんな−−悪意だけを生きがいに、
人の不幸だけを食んで生きてきたような−−声なんて。
 
「誰だッ!」
 
 緑間は叫び、振り向く。そして漸く世界の異常に気付いた。
 おかしい。夜とはいえ二階の廊下はこんなに暗いものだったか?照明はつい
ている。なのに−−まるで暗い靄が空間を覆っているかのように、空気が重い。
 何より。
 儀式部屋の前に。人影が立っていた。真っ赤なドレスを着た焦げ茶の髪に深
紅の眼の女が。美しい、と呼んで差し支えない容姿なのだろう。しかし緑間が
感じたのは感嘆ではなく、純粋な不快感だ。理由は分からない。ただ女の全て
を、緑間の全神経が拒絶している。
 こいつは。こいつは何かがおかしい。
 否−−異質だ。この世あらざる者だ。
 
「そうか貴様が…魔女!」
 
 二ノ宮蘭子という名も偽名だろう。こいつが人間である筈がない。だってお
かしいではないか。魔女の立っている位置は玄関ホールから丸見えの筈なのに
−−誰も駆けつけてくる気配がない。
 魔法で見えなくしている?それともこいつは最初から人間には見えない存在
なのか?
 
「お前が黄瀬と黒子を殺したのか!?
 
 怒りで震えながらも、緑間は心のどこかで冷静に状況を見ていた。極めてま
ずい。霊関係ならある程度対処できるが、自分は魔術方面はてんで駄目だ。勿
論、普通の人間よりは対処できるし知識もあるが−−前提としてこいつは、黄
瀬と黒子を倒しているのである。
 赤司と黄瀬と黒子。この三人は魔術のエキスパートだった。その黄瀬と黒子
の命を容易く奪ってみせた相手に、自分がかなうとは到底思えない。
 隙をついて逃げるしかない。しかし−−それさえも。
「可愛い子。綺麗な子。…ふふ、伊月君はたった今返したばかりだから、そろ
そろ新しい子が欲しかったのよね」
!?
 伊月、だと?たった今返した?
 まさか今まで彼が見つからなかったのは、魔女が魔法で隠していたからだと
でも?
 
「次は、あなたが遊んでくれないかしら?壊れるまで…ね。くすくすくすくす」
 
 真っ赤なルージュが引かれた魔女の唇が、きゅうっと釣り上がり。背筋に怖
気を感じ、緑間が怯んだ瞬間だった。
 ずぶり、と。
 足が地面に、沈みこんだ。
 
「なっ…!」
 
 はっとした時にはもう遅かった。床がなくなっていた。下にあるのはただた
だ深い闇のみ。緑間の身体はあっという間に沈んで、地面の中に食われていく。
 
「きゃははははははははははははっ!」
 
 魔女は嗤う。嗤う。
 その場に残されたのは、虚ろな眼を向ける黒子の遺体だけだった−−。
 
 
 
 ***
 
 
 
8:ねぇあたし、トイレの名無しさん
結局新スレ行っちまったな…
 
9:ねぇあたし、トイレの名無しさん
しかも状況はまるで改善してないし
 
10:ねぇあたし、トイレの名無しさん
だけど何もしないわけにいかないだろ
赤達相当落ち込んでる筈だ、俺らが考えないでどうする
 
11:ねぇあたし、トイレの名無しさん
>>10
イケメンありがとう
 
12:ねぇあたし、トイレの名無しさん
>>10
そうだね、イケメンの言うとおりだよ
 
13:ねぇあたし、トイレの名無しさん
…おおう…
 
14:ねぇあたし、トイレの名無しさん
なんてこったいつものくろちゃんのノリが来ない…
 
15:ねぇあたし、トイレの名無しさん
スレ民もだいぶ疲れてんのな…
 
16:
今戻った
新スレありがとう
 
17:ねぇあたし、トイレの名無しさん
赤様おかえんなさいです
 
18:ねぇあたし、トイレの名無しさん
少しは休めました?…って言ってもたいした時間経ってないけど
 
19:
えっと前スレでどこまで話したっけ
 
そうだ黒子の遺体を用具入れで見つけて、真ちゃんが取り乱して
俺と赤司が一階に追い出されたとこは話したっけ?
まあ追い出されたっていうか、暫くほっといてくれって言われた感じだけど
 
20:ねぇあたし、トイレの名無しさん
おお鷹
うん、そこまでは聞いた
 
21:E監督
本当は一人にするのは危ないんだが…今の状況じゃな
相当緑間も追いつめられてたみたいだし
 
22:
あんな痛々しい真ちゃんもう見たくないよ
携帯まだ預かったまんまだし、十五分経ったからそろそろ迎えに行く
ちなみに今十時ジャストだ
念の為日主将と青峰と一緒に行く
青峰ブチキレすぎてまじ怖い
 
23:ねぇあたし、トイレの名無しさん
いてら
 
24:ねぇあたし、トイレの名無しさん
そりゃ青峰もキレるよ…仲間二人も殺されて、相変わらず二人行方不明で、
仲間傷つけられてじゃ
 
25:ねぇあたし、トイレの名無しさん
なぁ、ほんとに十一人の中にいんのかな偽物…未だに信じたくないよ
 
26:ねぇあたし、トイレの名無しさん
>>25
気持ちはわかるけどそれ言い出したら堂々巡りだぞ
 
27:ねぇあたし、トイレの名無しさん
E監督の方はそろそろ進展ないのか?
 
28:E監督
>>27
本当にすまない
実は俺の方もさっきからちょいちょい襲われ始めてる
ゴッドハンドVとO先生のスピニングカット(ハイヒールなのに何故できるん
だ)で片っ端からなぎ倒してるけどな
 
29:ねぇあたし、トイレの名無しさん
相変わらずE監督はなんかもうすごい
 
30:ねぇあたし、トイレの名無しさん
つか誰かO先生♀にツッコめwww
ハイヒールかよwww
 
31:ねぇあたし、トイレの名無しさん
実はO先生も昔サッカーやってたりとか?
 
32:E監督
>>31
正確にはサッカー部のマネジだった
ただ非公式試合は選手もやってて、ばりばりMFこなしてたぞ
 
ブチキレると一般人相手に平然と必殺技ブチかましてた
 
33:ねぇあたし、トイレの名無しさん
おぅふ…
 
34:ねぇあたし、トイレの名無しさん
謎は全て解けた
 
35:ねぇあたし、トイレの名無しさん
さすがは超次元サッカーや…
 
36:E監督
俺のことは心配するな
それより赤司達のことだ
 
今、行方不明なのは紫原と月だけど、なんかおかしくないか?
タイミングはズレでるけど、一階と二階はくまなく探したんだぞ
でもって玄関ホールにはほぼ人がいたから、誰か行き来すれば目に止まる
食堂の抜け穴だって相当タイミング図らないと使えないし、そもそも長く隠れ
るのは無理だ
一体二人はどこに消えたんだよ?
 
37:ねぇあたし、トイレの名無しさん
言われてみれば確かに…
 
38:ねぇあたし、トイレの名無しさん
屋敷の外…とか?それともまだ見落としがあんのか?
 
39:
なんで
 
40:ねぇあたし、トイレの名無しさん
鷹?どうした?
 
41:
なんでしんちゃんいないの
 
 
 
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寂しくないように。