きっと子供ならそれでもいいって そう言う人もいるんだろう。
【キセキファン】 彼らが魔女に浚われた ・第一夜・4 【力を貸して】
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外は鬱蒼と茂る森。空には満月が浮かんでいる。自分達の記憶では、今日は 朔の日であった筈なのに−−月齢が変わってしまっているとあっては認めざる をえない。
ここは切り離された、異世界だ。赤司は深く深く溜め息を吐いた。
古めかしい洋館、玄関ホールも広い。重々しい扉を背にして立つと、最初に 目に入るのは左右に分かれた階段だ。その上を煌々と照らすのは豪奢なシャン デリア。天井近く、きわめて高い位置には赤いドレスを着た女の巨大な肖像画 が飾られている。
階段の左右には、一階へ続く扉が一つずつ。
左手のドアのすぐ脇には暖炉があり、赤々と火を灯していた。まるでさっき まで誰かがそこで世話をしていたかのよう。暖炉の前には革張りのソファーと 丸テーブルがあり、テーブルの上には時代錯誤な黒電話が置かれている。 多分、通信機器としてではなくインテリアとして置かれたものだろう。電話 線は根本から取り外されている。使える筈もない。 さらに目を引くのは暖炉脇に佇む大きな銀色の甲冑だ。剣を持ち、堂々と立 つ様は人間とはまた違った威圧感がある。動き出しそうでマジ怖い、と火神が あからさまにビビっていた。気持ちは分からないでもないが、大柄な彼が小柄 な黒子の後ろに隠れようとする様は少々シュールである。 まだ右手側にも、気になるものがあった。人が二人くらい入るのではないか というほど、巨大な水槽だ。中は真緑の藻で暗く濁っている。何か飼っている のか、あるいはいたのか。こんな巨大な水槽が必要な生物など想像したくもな いが。
−−何かヒントになるものがあるかもしれない。
赤司は携帯を構え、ボタンを操作した。写真をとる為だ。怪異に巻き込まれ る頻度が上がってから、赤司は携帯をより綺麗な写真がとれるものに買い換え た。また、充電切れを避ける為スマホへの切り替えも見送った。いざという時 携帯一つあるだけで状況は大きく違う。写真は情報であると同時に、時に武器 としても使えるのだ。 写真に撮ることで、霊の魂を写し取り封印する。赤司はそちらが得意ではな かったが、仲間の中にはそうやって悪霊を除霊するタイプの者もいるのだ。 この屋敷に、悪霊の類いはいない。視る事に関して、この中で赤司の右に出 る者はなかった。だから分かる。この屋敷で、悪霊に襲われるようなイベント は発生しないはずである。写真をとるのは純粋に記録と、情報収集の為だ。 こうした悪趣味なインテリア達が、後に何か大きなヒントになってくるかも しれない。写真に残しておいて、機会があればスレッドにアップしようという 魂胆だった。
「随分と余裕だな」
日向が露骨に不快感を露わにして、こちらを睨んできた。
「行方不明者が二人も出たんだぞ。伊月はともかく紫原は旧知の仲だろう、 心配じゃないのか?」
そんな日向と同じ意見なのか、隣に立つリコも渋面を作っている。言葉にし ないのは日向が代弁してくれたからか、場の空気が悪くなるのを避ける為か。 誠凛の絆の深さは折り紙つきだ。他と比べてもチームワークを重んじている のは見てとれる。彼らの反応はごく自然なものと言えた。むしろ客観的に見れ ば、仲間が消えたにも関わらず赤司は冷静すぎるように見えるだろう。本心は、 どうであるとしてもだ。 他人の心の奥まで見る力は、赤司にさえない。それは寧ろ幸せなことだった が、今だけはその力が欲しいと思ってしまう。 この中に、せせら笑っている魔女が潜んでいる可能性を、捨てきれない以上 は。 「…気に障ったならすみません。でもこれも、みんなで此処を脱出する為なん です」 「どういう意味ッスか?」 赤司の言葉に、水槽をおっかなびっくり覗きこんでいた黄瀬が、振り返って 言う。
「さっきのスレの様子はみんなにも見せただろう?此処が二ノ宮蘭子という人 物が書いた小説の世界である可能性は極めて高い」
黒子に正座で説教される緑間、という珍しい図を見た後、緑間から問題の本 は取り上げていた。しかし、何故だかは知らないが赤司が開いて見た時、ペー ジはほぼ白紙になってしまっていたのである。 自分達が見る事が出来たのは、中に書かれていた数行赤い文字列と。『幻想 の裏側・第一巻』というタイトル、二ノ宮蘭子という作者の名前のみ。 小説通りに事態が進むのであれば、それが打開のヒントになるかと思われた が、そうは問屋が下ろさないらしい。だがもし小説通りの事が起きるのならば、 自分達の身に降りかかるのは凄惨な殺人事件だ。そして最後は全滅という最悪 極まりないシナリオ。それだけはどうにか避けなければならない。
「本が何故かほぼ白紙になってしまった以上、僕達に物語を読むことはできな いけど。幸い、くろちゃんねるにいる人の中には手元に本を持っている人もい る。彼らから情報を得て、僕達は冷静に動かなきゃいけない」
同時に。推理小説だというからには、必ず物語のどこかに犯人へたどり着く 為のヒントが眠っている筈だ。多分この屋敷の中にも、手がかりは残されてい る。 「この小説はミステリーだろ。ミステリーは犯人がいなきゃ事件は起こらない。 なら単純に考えてその“犯人”となる人物を探し出して捕まえれば、事件発生 そのものが防げる。冷静に地道に屋敷の中からヒントを探していくことが、み んなを助ける唯一の道なんじゃないかな」 「な…なるほど…でも……」 黄瀬は納得しきらない顔で俯く。
「俺、早く紫原っちを探しに行きたいッス…もしかしたら今まさに危ない目に 遭ってるかもしれないのに…」
その言葉に、紫原と少なからず縁のあるキセキのメンバー達が一様に暗い顔 をした。気持ちは分かる。というか赤司だって本当は今すぐにでも紫原を探し に行きたく仕方ないのだ。しかし、ここで平静さを欠いてはどうにもならない。 それこそ、この事態を招いた“魔女”とやらの思う壺ではないか。 それに。赤司には皆に語っていないもう一つの考えがあった。
−−本の中の文章は殆ど消えてしまっていたが。この三行だけは残っている。
【犯人は人間に化けた魔女である。】
【この洋館のいる人数は十一人以下である。】
【魔女は人間のトリックと力で犯行を行う。 装飾された幻想の裏側に真実はある。】
−−文字は全て赤。スレ住人いわく、二ノ宮蘭子は赤い文字で読者にヒントを 出すという手法をとっていた。ならばこのヒントは全て、絶対の真実でなけれ ばならない。じゃないと、ゲームとして成り立たなくなる。
今この玄関ホールには赤司以外に八人の人間がいる。緑間、黄瀬、青峰、黒 子、 火神、日向、リコ、高尾。行方不明の紫原と伊月を除く全員だ。もし紫原 と伊月が既に犯人の手にかかったのであれば、犯人は二人以外のメンバー −−つまりここにいる八人の中にいるということになる。なんせ【この洋館に は十一人以下しかいない】と名言されているのだから。 この場にいる八人の中に犯人がいて、もしまだ紫原と伊月がどこかに拘束さ れているだけだとしたら。赤司の目の届く場所に八人がいる限り、紫原達は安 全という事になるのである。無論、既に二人が殺害されている可能性もゼロで はないが−−。
−−やめろ。悪い方に考えてもどうにもならない。
赤司は首を振って、考えを振り払った。
−−みんなに相談できればいいんだけど。コレを話すと疑いあって余計な疑心 暗鬼を招きかねないんだよね…。というかみんなは気付いてないのかな?
確かなのは。いつまでもみんなでこの場に止まるという選択はできそうにな いという事だった。行方不明者を早く探しに行きたいと、ほぼ全員の顔に書か れている。赤司が適当な理由をつけて反対しようならば、余計な亀裂を生みか ねないだろう。
「…分かった。本当は俺も…早く敦を見つけたい。あの敦がそう簡単にやられ るとは思ってないけどさ」
赤司は考えた末発言した。言葉自体はまごうことなき真実である。誰より体 が大きくて力のある紫原を、生身の人間がそう簡単に倒せるとは思えない。だ からまだ生きている。そう信じることにした。
「何があるかわかんないし、何チームかに分かれて行くのが無難じゃね?全員 で動くにはちょっと効率悪いしさ」
高尾がそう言って頭を掻いた。正論に、反対する者は現れなかった。
***
208:赤 みんな、ただいま
209:名無しさん、みぃ〜つけた あ、赤様!
210:名無しさん、みぃ〜つけた おかえりーです赤様!
211:名無しさん、みぃ〜つけた 何卒、わたくしどもめに詳しいご報告をば…!
212:E監督 よーしみんな正座して聞くぞ!
213:名無しさん、みぃ〜つけた >>212 よっしゃ合点承知!
214:名無しさん、みぃ〜つけた 正座!
215:名無しさん、みぃ〜つけた 正座ぁ!
216:名無しさん、みぃ〜つけた 星座!
217:名無しさん、みぃ〜つけた 正座!!
218:名無しさん、みぃ〜つけた 聖闘士●矢ああ!
219:名無しさん、みぃ〜つけた なんか二つばかり違うの混じってるぞwww
220:名無しさん、みぃ〜つけた しかもさらっとE監督のかけ声www
221:E監督 ドヤァ(⌒〜⌒)
222:名無しさん、みぃ〜つけた wwwwwwwwwwww
223:赤 僕達は玄関ホールに、行方不明者の紫と月先輩を覗く九人全員で集まってる。 現在こっちの時計では夜の八時過ぎだ 今からメンバーをチーム分けして、二人の探索に当てることにしようと思ってる みんなで相談したけど、全員で回るには非効率だし、かといって人数が少なす ぎるのも危ないから… 二チームが探索、一チームが玄関ホールに待機ってことになったよ
224:名無しさん、みぃ〜つけた まあ…妥当な判断だな
225:名無しさん、みぃ〜つけた でも問題は、赤様と緑間がどの担当になるかじゃないか? 実質何かあっても、携帯は使えないから連絡とりあえない その方法があるとしたらこの“くろちゃん”だけだけど 書き込めるのは何故か赤様と緑間の携帯だけなんだよな?
226:名無しさん、みぃ〜つけた >>225 おおう…そうだった
227:赤 うん、だから僕と緑間はチームを分けて、どっちも探索担当になることにした 万が一の時の連絡手段、情報収集にはこのスレを使わせてもらう。というかこ のスレだけが頼りだ スレのみんなも協力して欲しい、めぼしい情報はガンガンよこしてくれ
228:名無しさん、みぃ〜つけた おK、分かったぜ赤様!
229:名無しさん、みぃ〜つけた 赤様の為ならなんなりと!
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今再び問う。