だけど僕は、 そんな僕では許せないんだ。
【キセキファン】 彼らが魔女に浚われた ・第一夜・6 【力を貸して】
・ ・ ・
普段そんなに物静かな三人ではない、と思う。むしろリコは多分お喋りな方 だ。しかし今、玄関ホールでは奇妙な沈黙が続いてしまっていた。 黄瀬にとって日向とリコの二人はそこまで詳しく知る間柄ではないが、それ でも誠凛の人間である以上それなりに話す機会はある。黄瀬の居住は神奈川県 だったが、誠凛には頻繁に足を運んでいた。二人とも明るさと真面目さを併せ 持った良い先輩だ。この二人なら黒子を任せられるな、と思ったのはここだけ の話である。 絆を重んじる、海常に負けず劣らずの素晴らしいチームだと黄瀬は思ってい る。だからこそ、消えた伊月が心配でならないのだろう。いつもの明るさがナ リをひそめ、二人は沈黙したまま俯いてソファーに沈んでいる。
−−こういう時、なんて言葉をかければいいんスかね…。
二人の気持ちは痛いほど分かる。自分だって、紫原が心配でならないのだか ら。ましてや、自分達は探索組の状況を知る手段もない。自分達の携帯やスマ ホではどうしてもくろちゃんにアクセスできないのだ。これも、魔女の妨害な のだろうか。 しかしそれにしては対応が中途半端な気がするのである。どうせなら全員の 携帯をアクセス不可にしてしまえばいいのに、何故赤司と緑間だけ無事なのか。 二人の携帯だけ何か特別の魔除けがかかっていて無事なのか、あるいは。
−−情報の、攪乱。
緑間の持っていた文庫本に赤い文字で残されていた僅かな文。
【犯人は人間に化けた魔女である。】
【この洋館のいる人数は十一人以下である。】
【魔女は人間のトリックと力で犯行を行う。 装飾された幻想の裏側に真実はある。】
恐らくこれは、“赤き真実”というやつだ。魔女でさえ嘘のつけない絶対の 真実−−即ち、この事件を解決する為のヒント。この三行をそうだと信じて考 察するならば、ある現実が見えてくる。 犯人は魔女が化けた人間。人間であるからには人数という概念に含まれなく てはおかしい。しかしこの洋館には十二人以上の人間がいないことをヒントは 示している。つまり、魔女が化けた偽物は、自分達十一人の中にいるのだ。 そしてその魔女こそ、紫原達を攫って惨劇を始めようとしている人物に他な らない。事件を止める為にはなんとしてもその“犯人”を見つけ出し、負けを 認めさせるしかないのである。
−−だから…うかつにみんなを信じちゃいけない。誰が魔女が化けた偽物かわ からないんだから。
つまり黄瀬に言わせれば。赤司か緑間が偽物である可能性も否定出来ないの である−−残念ながら。唯一の情報元であるくろちゃんに、偽物が好き勝手都 合のよい情報を書き込みでもしようものなら。自分達はあっという間に、指揮 を乱されてしまうだろう。 二人だけ書き込みができたのは。この二人のどちらか、あるいは両方が魔女 の化けた偽物だからなのだろうか。
−−いや…考えすぎじゃないか?だって携帯なんて取り上げれば、二人以外だ って書き込みはできちゃうんスから。
ただ確かなのは、誰が犯人で誰が犯人でないかもわからない状況で、うかつ に誰かを信用してはならないということである。皆の疑心暗鬼を高めないよう にしつつ、肝心の考察は自らの頭の中だけでまとめなくてはならない。非常に 厄介極まりない話だが。
「…マジ空気悪いな、ここ」
はぁ、と。日向が溜め息を吐いた。 「どっかに窓でもありゃいいんだけどな。変な構造してるよな、この屋敷」 「確かにそうね。玄関の横に窓の一つでもありそうなものなのに」 リコも同意する。なるほど、この屋敷の構造は−−建築の知識など皆無なの でハッキリとは言い切れないが−−少々妙ちくりんな気がする。玄関ホールに 窓らしい窓がない為に、人工の明かりに頼りきりになっているふしがある。こ こで停電にでも見まわれようものなら完璧真っ暗闇だ。中央の階段を登った先 にさえ窓がないなんてどういうことだろう。 まるで−−監獄だ。自分達を閉じこめ、一人ずつ処刑する為の−−檻。つい 想像してしまって、黄瀬は慌てて首を振った。 冗談じゃない。処刑なんてさせるものか。必ず自分がみんなを守ってみせる。 紫原や伊月が捕らわれているなら、絶対に助け出す。 だって、自分は。
どさっ。
「え?」
その音は二階から聞こえた。黄瀬はハッとして顔を上げる。聞こえたのは自 分だけじゃないらしく、日向とリコも戸惑ったように顔を見合わせていた。 「…聞こえたッスか?」 「あ、ああ」 「何かが倒れたみたいな音…だったわ」 素早く思考を巡らす黄瀬。学校の成績はイマイチだったが、その実頭の回転 は早い方である。すぐに皆の現在位置を思い出した。
−−他のみんなは全員一階だ。右のドアの向こうには赤司っち、青峰っち、高 尾っち。左のドアの向こうには緑間っち、火神っち、黒子っち。そんでもって …日向先輩とカントクさんはここにいる。
一階探索中のメンバーが窓を伝って二階に登るなんて暴挙にでも出ない限り −−彼らはまだ一階にいる筈である。そして階段は自分達の知る限り玄関ホー ルにある一カ所しかない。自分達はずっとこの場にいたのだから、誰かが階段 を通ればすぐ気がついたはず。しかし誰も通ってはいない。 ならば二階にいる可能性があるのは、行方不明になっている紫原と伊月の二 人でしかありえない−−! 「もしかして…二人は二階に…?」 「…日向先輩」 黄瀬は迷わなかった。本来なら単独行動は控えるべきである。 だがしかし、もし二人のうちどちらかが犯人だったとしたら?例えば伊月が 偽物で、紫原が今まさに襲われている最中だったら?あるいはその逆だった ら? いや二人とも犯人でないとしても。拘束されているのであれば一刻も早く助 けてやりたい。 「俺、見てくるッス。日向先輩はカントクさんをお願いします」 「ちょ…危ないわ黄瀬君!二階に何があるかわからないのよ!?」 慌てて叫ぶリコ。本気で心配してくれているらしい。こんな人が監督だなん て黒子と火神が羨ましいなあ、なんてちらりと思う。
「大丈夫ッスよ。…これでも魔法の嗜みはあるッスから。自分の身くらい自分 で守れるッス」
嘘ではない。相手が未知数な上、ここが魔女のフィールドである以上不利で あることは間違いなかったが−−この三人の中で一番まともに戦えることは確 かだ。 むしろ心配なのは後に残してゆく日向とリコの方である。自分がいない状態 で二人が襲われたら危ない。二人である以上、まったく抵抗できないというこ とはないだろうが−−。
「さっと見てすぐ戻ってくるッス。お二人は絶対ここを離れないで!」
時間をかけるわけにはいかない。 おい待て!という日向の声が聞こえたが、知らぬふりをして黄瀬は階段を駆 け上がった。
ドサッ。ドコッ。
また音がした。やはり二階に誰かがいる。黄瀬はスピードを速め、まずは左 の廊下へと飛び込んでいった−−。
***
302:赤 まあ…応接間はこんな感じかな。特に何もなかったみたいだ クローゼットの中やソファーの下まで、誰か隠れてないか見てたんだけど
303:名無しさん、みぃ〜つけた ソファーの下とか人入れんのwww
304:名無しさん、みぃ〜つけた 幼児でも無理だろwww
305:名無しさん、みぃ〜つけた …腕一本とか首だけなら入るかもだけどな
306:名無しさん、みぃ〜つけた
307:名無しさん、みぃ〜つけた
308:名無しさん、みぃ〜つけた
309:名無しさん、みぃ〜つけた
310:名無しさん、みぃ〜つけた
311:名無しさん、みぃ〜つけた おま…何故そんな余計なことを…
312:名無しさん、みぃ〜つけた >>305 空気嫁マジ空気嫁ぇぇぇっ! 想像してちびっただろうがああああ!
313:名無しさん、みぃ〜つけた >>306 つ 【おむつ】 とやろうとしたが俺が今使用してるから無理だわ…
314:緑 >>305 超長距離弾道3P食らわすのだよ 縁起でもないこと言うな!
315:305さん、みぃ〜つけた ご、ごめんなさい… そうだよな、まだ月先輩と紫が死んだって決まったわけじゃないのに不謹慎だ った…
316:赤 >>305 いや、あの小説の内容を見たらそれも仕方ない 最初に消えた二人は遺体で発見されるらしいからね…そうならない為に今探し てるわけだけど、僕もその可能性は一応考えてるから 応接間の隣は普通の小部屋が二つあって、あとその向かいはなんかガラス戸が あるね。あれお風呂じゃないかな 廊下の突き当たりは鉄扉になってる。外に続いてるのかも。とりあえず手前の 小部屋から先に探索するよ
緑、そっちの様子はどう?
317:緑 左の廊下チームは今、書斎から出てきたところだ、使い古した立派な書斎だっ たのだよ その隣はちょっとしたミニ図書館かと思うほど本だらけの部屋だ、次はそこを 探索する
あと書斎の正面はどうやら食堂になってるみたいなのだよ 火が腹減ったとさっきからうるさい、黙れ
318:名無しさん、みぃ〜つけた 火www
319:名無しさん、みぃ〜つけた ごめんちょっと和んだわwww
320:赤 そういえば火は料理も得意なんだっけね 真面目な話、長期戦になりそうならご飯も考えよう ただ食材があればの話だけど
とりあえず一階の構造を図解する 僕らA班が探索中の右の廊下だ
| | | 応接室|部屋|部屋| −−−− −−− −− −−−− ←玄 | 関 |鉄 ホ 扉 ー | ル | −−−−−−−−−−− −−−− |風呂場?|
この図だと短い廊下に見えるけど、実際は一部屋一部屋が大きくてそれなりに 長い廊下だよ 証明暗くてちょっと足下見づらいけどね
321:名無しさん、みぃ〜つけた 乙です赤様!
322:E監督 地図書くの上手いな〜 思ったんだけど、鉄扉が外へ続いてるとして、赤達は屋敷の外に出られるのか?
323:名無しさん、みぃ〜つけた そういやそうだな
324:名無しさん、みぃ〜つけた あれ、玄関は開いてたんだっけ?
325:赤 開いてたから外へは出られると思う ただ、場所が限定されていないと、こういったミステリーは成り立たなくなる 気がするんですがね
とりあえず次、小部屋調べに行きます。
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答えはドコに。