すべての選択が、
この手の中に。
 
 
 
 
 
【キセキファン】
彼らが魔女に浚われた
・第二夜・11
【力を貸して】
 
 
 
 
 
 
 血の匂いと、水槽の水の腐った匂いが充満している。しかし人間不思議なも
ので、長く同じ空間にいると慣れてくるというか、思いの外麻痺してきてしま
うものである。
 正直日向としてはもう玄関ホールになどいたくはなかったが、黄瀬は断固と
して“此処にいるべきだ”と主張し、赤司も何故だかそれに同意。日向に反論
の余地を許さず、とんとんと話が進んでしまっていた。
 せめてもの抵抗として血の痕の少ない階段に座っているわけだが。とても落
ち着けたものではない。場所が場所なのもそう。黄瀬と日向の考えがさっぱり
見えないのもそう。何より、いなくなった仲間達が心配でならないというのが
本心だった。
 
−−伊月…カントク…。
 
 いつもクールな伊月が、小さく体を震わせていたのを知っている。黒子達の
遺体が見つかった時真っ先に泣きたかった筈なのに、リコが必死で涙を堪えて
いたことも分かっている。
 二階の探索チームは安価で決められたものだから、誰の意志でもない。そも
そも自分が一緒にいたところで遺体が一つ増えただけかもしれない。だけど、
日向は悔やまずにはいられなかった。自分があの時二人の側にいたら。ひょっ
としたら何かは変えられたのではないか、と。
 現実的な考えをすれば。伊月とリコを捕まえる、あるいは殺した犯人がいた
とすれば同じく玄関ホールにいた青峰と緑間しかありえない。彼等のうちの片
方、あるいは両方が伊月達を襲ったのではないか。そして今尚この屋敷のどこ
かに隠れ潜み、自分達を殺す機会を狙っているのではないか。そう思うともう、
怒りと恐怖で頭が真っ白になりそうになる。
 
「…何で」
 
 ふと口を開いたのは、黄瀬の方だった。
 
「何でも俺も赤司っちも、二手にチームを分けることにしたのか…分かるッス
か?四人で一緒に行動した方が、不意打ちのリスクを鑑みても本当は安全なは
ずなのに」
 
 それは日向がまさしく尋ねようとしていたことだ。向こうから話題を振って
きてくれたのは有り難いと思うべきか。どうしてだ、と。抑揚のない声で返す
日向。
 
「…犯人を返り討ちにできる可能性ッス」
 
 す、と。黄瀬は目を細めて言う。
「日向さんにとっちゃ俺や赤っちも疑いの対象なんでしょうけど。…ここで犯
人がハッキリすれば、捕まえられれば。これ以上余計な疑心暗鬼に陥らずに済
むでしょ?」
「簡単に言うなよ。確かにそうなれば一番だけど、相手は四人をあっさり仕留
めてるんだぞ。二人と二人になったら、殺してくれと言ってるようなもんじゃ
ないか」
「そうッス。でも四人のままでいたら、このまま事件が何も起こらないまま零
時になっちゃうかもしれない」
 だから狙ってもらえばいい。呆然とする日向をよそに、黄瀬はあっさりと言
い放つ。
 
「赤司っちは探偵だから、赤司っち側が狙われる可能性は低い。なら、狙って
くるのは恐らく俺らの方。…安価で俺が居残り組になれて本当に良かった。お
かげで、リベンジの機会に恵まれたんスからね」
 
 リベンジ。一体何の話だろう。もしかしたら黄瀬は魔女に逢ったことがある
のだろうか。否、本当にその正体が分かってたなら、皆に話さなかったのはお
かしい。そもそも第一夜の記憶が殆どないと言っていたのは他ならぬ彼自身で
ある。
 
「お前…魔女誰に化けてるか知ってんのか?」
 
 日向の問いに、黄瀬は黙って首を振る。
 
「いいえ。…記憶がないのも嘘じゃないんスよ。俺の中にリアルの事件の記憶
はない。でも俺も魔女の端くれッスからね…幻想世界の記憶はあるんスよ。第
一夜で俺はアルルネシアと一騎打ちで戦って負けて殺されたんス」
 
 幻想世界?魔女の端くれ?一騎打ち?なんだ、一体何の話をしているんだ。
日向は混乱し、目を回す。なんだろう、オカルトなのかホラーなのかミステリ
ーなのかわからない現象だらけで、いい加減頭が痛い。
 うんうん唸る日向を、黄瀬は苦笑しながら見つめる。
 
「あー…うん。その反応が普通ッス。ただ、これから起きること見たら、嫌で
も信じる羽目になるとは思うけど。…巻き込んだじゃって本当に、すみません」
 
 たん、と。誰かが足音を鳴らした。日向はハッとして顔をあげる。音の発生
源はおそらく二階。今のは一体。音を立てたのは。それが今出来るのは。
 
−−リコ?伊月?青峰?緑間?
 
 いなくなった四人のうちの誰か、しかいない筈だ。だって【この屋敷に十二
人以上の人間は存在しないのだから】。だがおかしい。自分達はついさっき二
階を全て探索しつくしてきたばかり。【二階に隠れ潜んでいた者はなかった。】
いたのは遺体となった【火神と黒子だけだ。】
 あるいは。その人数にカウントされない存在がいるとでも言うのか?肖像画
の魔女。幻想の存在ならば、もしかしたら。
 
「やはり正体は魔女幻想の中に隠してきたか」
 
 黄瀬が忌々しげに言う。彼の視線の先には、真っ赤なドレスを着た人物。肖
像画そっくりの美女が、佇んでいた。しかも突然何の前触れもなく現れたなん
て。まるで本当に−−魔法のようではないか。
 
「また逢ったわね、涼太ちゃん」
 
 女は優雅にドレスの裾を摘まんで階段を降りてくる。ってか189cmのDK
相手にちゃん付けかいな。勘弁してくれよ。つかそのドレス暑くないのか?普
段の日向ならとにかくツッコミを入れまくっていた筈である。
 それが出来なかったのは、完全に気圧されていたからだ。見た目は少し容色
の整った普通の女(二十代後半くらいか)に見えるのに。逃げ出すことも飛び
かかることも出来ない。足が、動かない。
「惑わされないで下さいッス、日向さん。あいつは本体じゃない」
「え?」
「この屋敷に浚われたメンバーの誰かに、魔女幻想が取り憑いてるんス。でも
今の俺達には取り憑いている魔女の姿しか見えない」
 魔女は取り憑くものなのか?アルルネシアが特別なのか?まだ混乱はあった
が一つだけ理解した。
 目の前にいるアルルネシアは、本物ではなく。その身体は自分達の誰かであ
ること。魔女はそうやって仲間に取り憑き、望まぬ殺人を繰り返させてきたの
だ。
 
「…ふざけんなよ」
 
 途端。日向の中の恐怖を、怒りが超越していた。
 
「何でお前の都合で、殺したり殺されたりしなくちゃなんねぇんだよ!何でこ
んな酷い真似できんだよ!」
 
 殺してやりたい。
 それは生まれて初めて日向の中に明確に芽生えた殺意だ。どんな下衆な相手
にだってここまでの感情を抱いたことはない。
 アルルネシアは激怒する日向を、冷たい眼差しを向ける黄瀬を見て実に愉快
そうに嗤った。そして。
 
「そうそう!それくらい威勢がよくなくちゃぁ、つまらないわぁ!精々抵抗し
て頂戴ねっ!」
 
 魔女は醜悪に唇の端を釣り上げ、手に現した金のハンマーを振りかざした。
 
「二人まとめて、遊んであげるわ!きゃははははははははっ!!!」
 
 
 
 ***
 
 
 
885:ねぇあたし、トイレの名無しさん
天M達は来ないのかなぁ…そーいや
 
886:ねぇあたし、トイレの名無しさん
>>885
無理だろ、中学生なら授業なうだろ
聖先輩がサボってるだけで
 
887:ねぇあたし、トイレの名無しさん
まあ平日昼間だろうと自宅警備員の俺らには関係ないがな!(ドヤァ
 
888:ねぇあたし、トイレの名無しさん
>>887
そこはドヤァするとことちゃうwww
あ、ゾロ目げと
 
889:ねぇあたし、トイレの名無しさん
もうすぐ新スレ立てなきゃいけないなぁ…
 
890:
今玄関から出て右周りに屋敷を調べてる
あ、屋敷の外観を写真に撮ってみた
近いからちょっと見辛いけど
 
つ 【屋敷の外観。凸凹と煙突が立ち、二階のダンスホール部分だけ張り出し
た奇妙な構造になっている】
 
891:ねぇあたし、トイレの名無しさん
あれ…眼の錯覚か?なんか屋敷の姿が揺らめいて見えるんだけど…
 
892:ねぇあたし、トイレの名無しさん
へ?俺にはなんも見えないぞ
 
893:ねぇあたし、トイレの名無しさん
俺も見えない
見える奴と見えない奴がいる?
 
894:ねぇあたし、トイレの名無しさん
俺ちょっと見えるけど…陽炎が出るほど暑いわけじゃないよな?夜だし
 
895:ねぇあたし、トイレの名無しさん
ちょ、え!?
屋敷そのものが見えないっつーか森の真ん中に空き地があるようにしか見えな
いのは俺だけ!?
 
896:ねぇあたし、トイレの名無しさん
 
897:ねぇあたし、トイレの名無しさん
うそだろ
 
898:ねぇあたし、トイレの名無しさん
なんで人によって見え方違ってんのおおっ!?
 
899:E監督
多分、屋敷自体がアルルネシアが作り出した幻想だからだ。つまり実在しない
だから揺らめいたり見えなかったりするんだと思う
空間そのものに取り込まれた赤達はその異変が察知できなかったんだろうけど
 
900:ねぇあたし、トイレの名無しさん
まじこわ…
 
901:ねぇあたし、トイレの名無しさん
うへぇ…
 
902:聖先輩@知恵熱気味
んと…えと…
玄関から出て右周りってことは、先に今まで“左廊下”って呼んでた場所の横
を通るわけだよな?
第一夜で、黄の遺体を見つけた場所
 
903:ねぇあたし、トイレの名無しさん
ツッコまない、もうツッコまないからな
 
 
 
 
 
 
 
 
知恵熱出してんなよおまえwww
 
904:ねぇあたし、トイレの名無しさん
>>903
新たな形のツンデレ乙
 
905:
あんまふざけてんなし、ひねり潰すよ?
 
906:ねぇあたし、トイレの名無しさん
む…むっくんが…
 
907:ねぇあたし、トイレの名無しさん
土下座
 
908:聖先輩@ごめんなさいまじごめんなさい
土下座
 
909:ねぇあたし、トイレの名無しさん
土下座
 
910:ねぇあたし、トイレの名無しさん
土下座
 
911:ねぇあたし、トイレの名無しさん
一人www多いwww
 
912:ねぇあたし、トイレの名無しさん
さてシリアスに戻るぞおまいら
せっかくだから第一夜の行動を思い出しながら再現してみたらどうかと
 
913:ねぇあたし、トイレの名無しさん
キセリョの遺体が見つかった時…か
うう
 
914:
それは悪くないかも
あまり時間がないから手短にやるけど
 
あの時、二階で緑間、青峰、黒子、JK監督が探索していた
僕と日主将、火神、鷹は玄関ホールに残っていたんだよね
そしたら二階で緑間達が窓下で黄瀬が倒れてるのを発見して
青峰とJK監督が慌てて階段を駆け下りてきた
玄関ホールにいた僕達も言われるまま玄関から外に出て、黄瀬が倒れてる場所
に駆け寄ったんだ
 
 
 
NEXT
 

 

幻想にて踏破せよ。