己の弱さを否定するのは
 敗者のすることだ。
 
 
 
 
 
【キセキファン】
彼らが魔女に浚われた
・最終夜・1
【力を貸して】
 
 
 
 
 
 左腕が焼け付くように痛い。魔女の赤き矢はシールドを容易く砕き、赤司の
腕に突き刺さった。最悪だ。何が最悪って、こんな単純なミスに気づけなかっ
た自分自身が最悪である。
 そもそも赤司は全ての推理を詰めきった状態でチェックメイトを宣言しては
いない。とりあえずの状態でも洋館から移動する必要があったから宣言した、
それだけだ。洋館から移動しなければ円堂の助力は得られない。
 しかしまだその肝心の円堂が現れる気配はなかった。理由は二つ考えられる。
まだ結界を破る準備が出来てないか、彼もまた真実に至れてないか−−だ。
 伊月殺害の密室を破る別の方法が見つからない。
 そしてその実、密室事件は第一夜だけではない。忘れられがちだが第二夜に
も起きている。火神と黒子の密室殺人だ。
 
−−駄目だ。まだ倒れるには、早い…!
 
 自分の推理は間違っていたかもしれない。しかし全部が間違っていたとは思
わない。ならばたとえ誘導された推理であるとしても、真実を紐解く鍵には充
分なはずである。
 たとえ自分がここで力尽きることになっても。自分がアルルネシアから引き
出したヒントによって円堂が真実に至ってくれるのなら−−彼に力を与える魔
法と成りうるのなら。
 みんなはきっと、救われる。
 例え赤司征十郎が死のうとも−−敗北したことにはならない。
 
−−また勝利に拘るんですか、って。テツヤには睨まれそうだけどね。
 
 痛みに歯を食いしばりながらも、赤司は立ち上がる。
 
−−今の僕が欲しいのはただの勝利じゃない。…誰かを、君達を救う為の勝利
だ。
 
 立て。撃て。放て。
 最期の一撃まで諦めるな。諦めるのは死んでからでもいいだろう。諦めた時、
自分達は絶望に負けるのだ。
 
−−そうですよね?円堂さん。
 
『絶望に負けるな。諦めるな、死んでから諦めろ、生きてるうちはまだ試合は
終わっちゃいない』
 
 あの時の円堂の言葉が今、赤司を突き動かしている。
 
『どんなに勝率が低くても、諦めずにいる限り可能性は絶対ゼロにはならない
んだ』
 
 もう分かっている。否本当は一番最初から−−分かっていた。負けないこと
を、勝ち続けることを存在理由にしようとして、自分にはそれしかないと思い
込んで怯えていたのは誰か。他でもない、自分が一番の臆病者でしかなかった
ことは、赤司自身が一番よく分かっていたこと。
 しかし、そんな弱さを見せたらそれは既に敗北と同義だった。付け入れる隙
を与えたらそれが命取りになる。大切なものは何一つ守れやしない。恵まれた
体格もない、他のキセキと比べたら総合的な身体能力だってけして高くない。
ならばとことん“非情な魔術師”にして暴君であるしかなかった。言葉と天帝
の眼の力で、味方でさえも魔法にかけた。気付けばどんどんどん、一人きりに
なって。
 
−−寂しがり屋の兎がわざわざ自分から一人になったらどうなるかなんて、分
かりきったことだったのにね。
 
 自殺に至る寸前の道で、自分を引き止めてくれたのは。赤司が守るという名
目で置き去りにしてきた仲間達と。とうの昔に絶望を乗り越え、遙か高みに立
っていた円堂守という男だった。
 認めよう。ああ、認めてやる。
 弱かったのは自分だ。奢るな、騙るな、謳うな、迷うな、惑うな。
 立って歩け。前へ進め。脚が折れたら、這ってでも。
 
「…悪いけど…アルルネシア。僕はまだ諦めていないよ」
 
 立ち上がった赤司の姿に、ほんの少し驚いた様子のアルルネシアに。赤司は
痛みを堪えて凄絶に笑んでみせた。
 知っているか魔女。否、貴様は気付いてないのだろう魔女。
 このゲームは前提からして−−自分達人間側が遥かに有利だということを。
何故なら、謎が解かれれば敗北する魔女側に対し。赤司は諦めない限り何度で
も立ち向かう権利を許されている。
 
「お前に勝ちなどない。…僕は絶対にお前に屈しなどしないのだから!」
 
 この身を好きなだけ裂き、串刺しにすればいい。力業では赤司の身体は殺せ
ても心を殺すことはできない。
 そして心が殺されない限り本当の死には至らないのがこの戦いの本質。これ
は心と心を削る戦いなのだ。
「…なーんて言ってるけどどうするのアルルネシアちゃん?赤司君、まだ戦う
気みたいよ?さっきのトリックを解くのも諦めてないし、それ以外も諦める気
はないってかんじ」
「…そうね。ふふ、そうでなくっちゃ面白くないわ!きゃはははははっ」
 ラムダデルタの言葉に、アルルネシアは甲高く嗤う。相変わらず品性の欠片
もないな、と頭の隅で思う赤司。
 内面以前の問題だ。外面ばかりを派手派手しく飾りたてる女性は赤司にとっ
て好み以前の問題だった。むしろ嫌悪感すら抱く。別に一昔前のような男の一
歩後ろを歩く大和撫子がいいというわけではない。ただ、他人を蔑んで貶めて
悦に浸る女は勿論、他人との比較ばかりを気にして優越感を得ようとする時点
で論外なのだ。
 外見など控えめな主張で充分。心に秘めた芯の強さこそ評価に値する。と、
これは女性の好みに限った話でもないのだが。
 
−−どっちにしてもお前みたいな女は外見やら何やらの時点でノーサンキュー
だね。
 
 そんな風に思われているとはつゆ知らず、アルルネシアは真っ赤な唇を吊り
上げて言った。
「じゃあ、第二夜の構築と行きましょうか。とびきりの一撃をお見舞いしてあ
げるわ。貴方があたしの犬になりたくなるくらい、屈辱的な一撃をねぇ…!」
「はっ、お前のイヌなんて死んでもごめんだね」
 っていうかこんな表現したら犬に失礼だよ。心の中でそう続ける。
 
「さあ第二夜よ。第二夜の本格始動は、八時からとなってるわ。この時既に、
行方不明者は三人出てたわよね?」
 
 アルルネシアが杖を振ると、再びステンドグラスに映像が映し出される。第
二夜。慎重に考えなければならない。ただ問題は、アルルネシアがさきほど使
った赤。
 
 【第一夜、第二夜、第三夜。犯人は全て同じ人間。】
 
 ならば第一夜で犯行可能だった人間が第二夜では無理でした、は通らないの
だ。一応赤司の中では、第二夜でも“黒子、火神、緑間が犯人”で通すつもり
ではいたが−−罠というのはどこに隠れているか分からないものである。
 そして赤司にとって第三夜より第二夜の方がネックだった。犯人と思しき三
人のうち二人−−火神と黒子が早い段階で退場してしまっているからである。
 正直、以降の犯行全て緑間一人でやれたかは怪しいのだが。仮に推理が間違
っていようと、戦わなければヒントは得られない。
 最後に勝つ為ならば。負け戦とて惜しくはない。
「…八時の段階で行方不明だったのは火神、黒子、高尾の三人だ。八時以前の
アリバイはまたしても全員皆無と考えて差し支えないね?」
「ええ。誰のアリバイも赤で復唱は出来ないわよ」
「OK。…一階の探索は八時二十分から八時四十分の間で行われた。今回は僕
と緑間以外に黄瀬もくろちゃんねるが使えるようになっていたから、この三人
をバラけさせて班を組んだ」
 右廊下探索に赤司、リコ、青峰。
 待機班に緑間、伊月、日向。
 左廊下探索に黄瀬、紫原。
 組み合わせは全員の話し合いで決めたが、無論犯人に優位なように誘導され
ていた可能性はある。だからその後はわざわざくろちゃんねるの安価を多用し
て運任せの組み合わせにしてみたのだが。
 
「探索で特に気になるものは見つからなかった。まあ食堂の抜け道を通った大
輝が煤まみれになったくらいだな。…そして探索が終わりきる前に今回はイベ
ントが発生して、全員で玄関ホールに戻る羽目になった」
 
 第二夜第一の殺人、高尾殺しである。
 
 
 
 ***
 
 
 
 ・
 
108:名無しのミステリー作家
良かった…赤様まだ諦めてないよ!
 
109:名無しのミステリー作家
でも怪我、痛いだろ絶対…
 
110:名無しのミステリー作家
俺らも俺らで出来ることすっぞ!
自宅警備員でも頭は働かせられるはずだ!
 
111:聖先輩@まとめなう
>>110
よくぞ言った!
赤司が諦めてないのに俺らが諦めてたまるかってんだ!
 
とりま第二夜赤き真実まとめいくぞ!
 
【犯人は人間に化けた魔女である。】
【この洋館のいる人数は十一人以下である。】
【魔女は人間のトリックと力で犯行を行う。装飾された幻想の裏側に真実はあ
る。】
【魔女を見つけ出さない限り、誰一人現実に帰還することはできず、零時には
必ず全員が死亡する】
 
【全ての夜、全ての事件はノックス十戒に背かない】
【探偵は赤司征十郎であり、赤司は一切の殺人を犯さず意図的に手を貸すこと
もない】
【高尾和成は二階で刺された】
 
【誰かが外に出たのは、探索時の赤司と紫原のみ。他の人間は生死問わず外に
は一度も出ていない】
【食堂の通路を通った人間はあわせて三人である。ちなみに鷹は生死問わず通
っていない】
【全ての夜、事件においてピッキングによる密室工作は全て無効である】
【日向は黄瀬を殺しておらず、また黄瀬も日向を殺していない】
【火神は黒子を殺しておらず、また黒子も火神を殺していない】
 
【全て夜において、部屋の外から密室を作り出すことは不可能である】
【零時の時点で生きていたのは赤司と紫原のみ。それ以外は全員死亡している】
【紫原は第二夜にて殺人を犯しておらず、意識的な協力も行っていない】
 
112:名無しのミステリー作家
今んとここれで全部か
 
113:名無しのミステリー作家
うわ結構多くね…?
 
114:名無しのミステリー作家
これだけヒントがあると第一夜より解きやすそうに見えるけど
 
115:E監督
>>114
それはどうだろうな
俺らが見た罠が確かなら…第二夜は第一夜より厄介だぞ
 
116:名無しのミステリー作家
どういう意味ですかE監督
 
117:名無しのミステリー作家
相変わらずのE監督の焦らしプレイに全俺が濡れた
 
118:天M
>>117
そんなあなたに赤司様のオヤコロの刑をどうぞ
 
真面目に考察するけど
今ある情報だけで考えるなら
鷹さんを殺せた人間は何人いるんだろうね
 
119:名無しのミステリー作家
あー…
どうだろ
 
120:名無しのミステリー作家
玄関ホール組の証言が正しいと前提するなら、青峰と火と黒にしか無理っぽい
けど
 
121:名無しのミステリー作家
>>120
そうか?火や黒にも無理な気がする
 
122:名無しのミステリー作家
なんでだよ121
 
123:実況班
おまえら一旦ストップ!
赤司様が新たな推理を説明してる!
うわタイピングおっつかね…っ
 
124:名無しのミステリー作家
頑張れ赤様!頑張れ実況班−!
 
 
 
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狂って果てよ。