義を欠くな。
 意に背くな。
 
 
 
 
 
【キセキファン】
彼らが魔女に浚われた
・最終夜・1
【力を貸して】
 
 
 
 結界破りは思いの外難航している。円堂はギリ、と歯噛みした。魔力を使っ
て、本の入り口をこじ開けようとしているが、なかなか上手くいかない。
 アルルネシアは円堂を散々挑発してきた。やはり過去円堂に負けたのが余程
悔しかったのだろう。運命に導かれるようにして、円堂と縁が繋がった天馬、
さらにそこから繋がった黒子、火神、キセキの世代、キセキの関係者、黒子の
先輩達。円堂に関わる者達が集められ、次々巻き込まれてしまった。悲劇の舞
台で踊らせる、ただその為だけに。
 縁とは見えない糸。編み目のように、蜘蛛の巣のように放射線状に延々と広
がり続ける糸なのだ。その一本を手繰れば他の縁もごっそりとついてくる。そ
してその糸を手繰る手を持つのもまた魔女なのだ。
 
−−分かってる。全ての、全ての始まりはこの俺だ。
 
 遠い昔。幼かった自分が、まだ何の運命も知らなかった頃に起きた悲劇。通
り魔に親友の風丸を殺された小さな円堂は、怒りのまま通り魔を殺害した。そ
れもまだ目覚めていない化身の力の片鱗を使って。サッカーで扱われるべき力
を、憎悪の中で人に向けたのである。
 絵に書いたような惨劇の中で、出会ったのがアルルネシアだった。アルルネ
シアは幼い円堂の才能に目を付け、取引を持ちかけた。風丸を生き返らせ、殺
人という罪を忘れさせてあげる。その変わりに自分に運命を捧げろ、と。
 円堂はただ友達を救いたかった。風丸とまだまだサッカーをしていたかった。
願ったのは、ただそれだけのこと。
 何も知らない円堂は、悪しき魔女の取引を受け入れてしまい−−その瞬間、
円堂とアルルネシアの間には“縁”ができてしまったのである。 
 平穏無事に進む筈だった円堂の人生は、歪みに歪んだ。具体的にその兆しが
見えたのは中学生になってからだ。サッカーが大好きな普通の少年だった筈の
円堂は浄罪と断罪の二つの名を持つ魔術師となり、戦いの運命を強要された。
 大人達の野望に巻き込まれ、時には国際テロリストとも戦う羽目になり、未
来からのソルジャーの襲来を受け、時には神や悪魔とも対決を余儀なくされ。
 何度も仲間を傷つけられ、殺され。心を壊されかけ、誇りを奪われ、傷つき
這いつくばり何かに負けて負けて負け続けて。
 そして、世界最強のキーパーとして君臨するに至った。
 辛い事だらけで、悲しい事だらけで。負けてばかりの人生だったがだからこ
そ最後には勝つ事ができたのだと心から思う。全ての敗北には意味があった。
中学生のサッカーの試合で、前半まで83対0で負けるだなんて有り得ないと
誰もが言うだろうが(高校バスケの試合でさえここまでの点は難しいはずだ)。
しかも選手全員病院送りだなんてと皆が嘆くだろうが。
 そんなレベルの試合すら乗り越えたから、今の自分があるのである。堕ちる
ところまで墜ち、絶望し尽くした。結果、絶望の乗り越え方をも学ぶに至れた
のだ。今の円堂はもうどんな絶望を前にしても諦めたりはしないと言い切れる。
何故ならもっと大きな絶望を見てきたから。それを超えて立っているから。最
悪の絶望を見た人間が、絶望を知らない人間に負ける筈はないのである。赤司
に言ったことは半ば、かつての己に言いたかった言葉にも等しい。
 
−−今の俺を否定するつもりはない。でもこの世界で一番最初にアルルネシア
と接点を持ってしまったのが俺なのも、事実なんだ。
 
 自分には責任がある。
 自分から全ての縁はアルルネシアの手で手繰り寄せられてしまった。赤司達
に飛び火したのも、全て自分のせい。何故なら“円堂と緑間ははとこにあたる
(親同士が従兄弟関係)”。緑間の“特異な縁を集め、周りに影響を及ぼす”
性質はどう考えても円堂の血だった。そして緑間は覚えていないだろうが彼は
幼い頃円堂とサッカーをしたこともある。
 円堂が緑間と縁を持った結果、緑間が縁を持ったメンバー達全てがアルルネ
シアに引きずり出されてしまった。今回の件、アルルネシアの罠にかかり本を
手にしてしまったのが緑間なのは、けして偶然ではないのである。
 究極的なことを言えば。円堂さえいなければ−−赤司がここまで傷つけられ
ることも、緑間達の崇高な魂が弄ばれることも、無かった筈なのだ。
 
−−だから。この事件は俺が終わらせなくちゃいけないんだ。アルルネシアを
最初にこの世界に招いてしまった、愚かな人間として。
 
 結界が破れないのは、純粋にアルルネシアの守りが堅いせいもある。散々挑
発してきておきながら奴は円堂を恐れているのだ。だからギリギリのところで
招かない。ギリギリの場所で弾く。円堂に無力感を与え、ただ惨劇だけを眺め
させる為に。
 臆病者、と。口の中で罵ってやった。
 お前は世界で一番可哀想な奴だ。惨めな臆病者の小悪党だ。怖いから余裕を
気取る、浸食されたらやり返す自信がないからプライドを持ち上げてその前に
相手を潰す。潰して優越感と快感に浸りたいからひたすら誰かを辱める。哀れ
で愚かな、災厄の為の存在。認めないから、無限に満たされないことさえ自覚
できない。
 本来ならば円堂が相対する価値さえない、矮小な魔女。 
 
−−でもお前は何度でも俺から大切なものを奪うから。俺も取り返しに行かな
いわけにはいかないんだよ。
 
 この戦いが延々に続くのだとしても自分は。
 今目の前にある愛しいもの子供達を守る為に、何度でもお前に打ち勝ってみ
せる。
 
−−だがどうすればいい。ただ化身の力をぶつけても駄目だ。結界を揺らがせ
なければ、隙を作らなければ…!
 
「か…監督!大変ですっ!」
 
 パソコンを見つめていた神童がぎょっとしたように叫んだ。
 
「赤司さんが…アルルネシアにっ!」
 
 円堂ははっとして作業を中断した。煌々と光る画面を無理やりこちらに向か
せ、瞠目する。
 画面の中では血だらけの赤司に、アルルネシアが口づけを施しているところ
だった。赤司の眼からは光が失われ、涙が頬を伝っている。何をされているか、
端からでは判りづらいがこれは。
「あの女…!赤司の心から壊しにかかってる!」
「え!?
 幻想法廷、魔女と魔術師のゲーム盤。そこで心を壊され再起不能になること
は、そのまま死を意味する。諦めないかぎりどんな致命傷を負わされても死に
至らないゲームとも呼べたが、このままでは時間の問題だった。
 恐らくアルルネシアは赤司の中に、様々な悪意の記憶を流れこませている。
同時に記憶に干渉しようとしているに違いない。それは誇り高い赤司にとって、
強姦されるより凄惨な陵辱であることに違いはなかった。憎い憎い敵である魔
女に接吻を強要されているというだけで相当な辱めであるに違いないのに!
 
「畜生がっ!いくら赤司の精神力が人より高くてもこれじゃ…!何か…何か手
はねぇのか!つかなんで結界が破れねぇんだよ!」
 
 聖也が苛立ちのまま壁を殴った。ぼこんっと鈍い音とともに穴が空く。コン
クリートの壁も馬鹿力の聖也を前にしては形無しだ。部室を壊すなアホ!と春
奈に張りせんの一撃を食らっている。
 何かヒントはないのか。円堂が試行錯誤していた時、霧野が声を上げた。
「第三夜の解明…」
「え?」
「もしかしたら俺達が第三夜の謎をまだ解いてないから、結界が破れないのか
も…」
 霧野が差し出してきた携帯に表示されていたのはくろちゃんねる。自分達が
見ていない間に、状況は大きく動いていた。
 
 
 
 ***
 
 
 
357:名無しのミステリー作家
皆さん
力を貸して下さい、お願いします
 
358:名無しのミステリー作家
ほしゅ!
 
359:名無しのミステリー作家
>>359なら赤様とE監督の勝利!
 
360:名無しのミステリー作家
>>360なら魔女フルボッコ!
 
ってあれ?誰だ357
 
361:名無しのミステリー作家
もしかして関係者か?
そうならコテハンよろ
 
362:
コテハンはこれでいきます
僕は青峰君と同じバスケ部の者です
この際必要でしたら本名も晒しますけど
 
スミマセンスミマセン
どうか皆さんの知恵を貸して下さい…!
 
363:名無しのミステリー作家
!?青峰の…え!?
 
364:名無しのミステリー作家
マジで!?
 
365:名無しのミステリー作家
おいおい
もしかしてお前桜井か!?俺この間お前らの学校に負けたんだけど
SGで、青峰んとこの特攻隊長だよな!?
 
366:
>>355
スミマセンそうです桜井です
スペック晒します
 
青峰君と同じ男子バスケ部所属
SG、料理が得意
謝りキノコって呼ばれるんですがスミマセンっていうの癖なんですスミマセン
 
367:名無しのミステリー作家
謝りキノコwww名前ひでぇwww
 
368:名無しのミステリー作家
しかし料理が得意ってあたりにそこはかとなくハイスペックなかほりがするな
 
369:名無しのミステリー作家
ってかその桜が俺らに助けて欲しいってのはやっぱ青峰の件か?
ログ見て来たんだよな?
 
370:名無しのミステリー作家
ここのアドレス誰かに訊いたのか?
 
371:
>>369
そうです
青峰さんと、その仲間の皆さんを助けたいんです
 
>>370
はい
僕のある種後見人を務めて下さっている方に伺いました
僕が助けを求めた結果、ここのアドレスを教えて下さったんです
 
372:名無しのミステリー作家
後見人?
 
373:名無しのミステリー作家
え、その人この掲示板ROMってんの?
 
374:
>>373
ROMはしてるでしょうがルール上御本人は書き込めないんです
ですが武器は貰ってきました
 
今、赤司君達を助けるべくE監督さん達が結界を破ろうと頑張ってくれてます
でもまだ足りないんです
第三夜の謎が解けていないから
 
皆さんに推理のお手伝いをして戴きたいんです
 
375:名無しのミステリー作家
俺らでよければ…!
 
376:名無しのミステリー作家
それで兄貴たちを救えるなら何だってやるぜ!でも第三夜はまだ赤様とアルル
ネシアが戦ってないぞ
使える赤が少なすぎね!?
 
377:
>>376
承知しています
その為に僕が来ました
 
絶対の魔女・ラムダデルタ卿の代理権限で赤き真実を行使します
 
【第三夜、八時のゲームスタート時に黒子テツヤは既に死亡している!】
【全ての夜において黒子テツヤは殺人を犯していない!】
 
378:名無しのミステリー作家
 
379:名無しのミステリー作家
 
380:名無しのミステリー作家
 
381:名無しのミステリー作家
 
382:名無しのミステリー作家
え…っていうかえ!?
ラムダデルタって…
 
383:名無しのミステリー作家
なんで桜が赤字を使えるんだ!?
 
 
 
NEXT
 

 

捜して舞えよ。