牙を立てよ。
 爪を砥げよ。
 
 
 
 
 
【キセキファン】
彼らが魔女に浚われた
・最終夜・1
【力を貸して】
 
 
 
 墜ちてゆく。
 墜ちてゆく。
 真っ暗な闇。深い深い闇の中をただひたすらに−−墜ちて、墜ちて、墜ちて。
 
−−あれは。
 
 赤司の意識の中に流れこんできた光景。それは、狭い部屋の中に閉じ込めら
れている伊月の姿だった。部屋の構造からしてこれはそう−−第一夜で彼が死
んでいた、隣部屋だ。
 その部屋は異質な気配に満ちていた。窓に、ドアに。赤く光る鎖が絡みつき、
錠を封じている。それは結界だった。【第一夜で伊月俊が発見された隣部屋は
密室だった】という赤き真実で封印された−−閉ざされた部屋。
 
「開けろ!くそっ…開けるんだ!」
 
 どんどん。どんどん。
 ドアを叩く伊月。しかし赤き真実で封じられた扉が開くことはない。彼の顔
に焦りが見えた瞬間、部屋の中心で闇が渦巻いた。
 
「無駄よ。その扉は開かないわ」
 
 伊月がはっとして振り返る。部屋の中心から噴き出した闇は暗く、人の姿を
形作り、やがては真っ赤なドレスを着た魔女に変わった。説明するまでもない、
アルルネシアだ。
「お前…絵画にあった…魔女?」
「ええ、アルルネシア。それがあたしの名前。貴方とは“はじめまして”にな
るわね、伊月君」
 相変わらず毒を過分に含んだ笑みを浮かべて、魔女は言った。まるで。
 
「早速だけど。貴方にはあたしとたっぷり遊んで、それから死んで貰いたいの
よね」
 
 今日のご飯は何食べた?というのと同じような軽い口調で、さもあっさりと。
 何を言われたか理解出来ない。そんな様子の伊月に、アルルネシアはくすく
すと笑ってみせる。
 
「このゲームのルールを今すぐ理解して貰わなくて結構よ。ただこれだけは教
えてあげる。あたしは知ってるのよ。あなたの正体も…あなたと高尾君の特異
な関係と能力もね」
 
 正体?高尾との関係?一体なんの話をしているのか。見ている赤司が混乱し
た次の瞬間。
 凄まじい殺気が、室内を満たしていた。
 
「……なるほど。お前も“奴ら”と同じとなんだな。俺達は金の成る木。…ま
た俺と和也を売り物にしようってわけか」
 
 なまじ顔が整っているだけに−−その阿修羅のごとき形相は美しく、恐ろし
かった。赤司でさえ一瞬気圧されてしまうほどに。
 アルルネシアの言葉の何かが、伊月の地雷を踏んだのだ。カッの眼を見開い
た伊月の瞳にあるのは、怒りと憎悪。けして激しくはない口調、だからこそそ
の感情の深さは見てとれた。
 
「此処から脱出するのが最優先だったが…その前にやることが出来たな。お前
を生かして帰すわけにはいかない。…和成は俺が護る、どんな手を使ってで
も!」
 
 突風が吹き荒れた。伊月の手に、鋭い大鎌が出現する。赤司は瞠目した。こ
の時点で既に伊月が普通の人間でないことは明らかだ。にも関わらず、魔術師
にして幻視の眼を持つ自分がまったく見抜けなかったなんて。
 それはつまり。伊月があらゆる手を用いて、自らの正体を隠していたことを
意味する。隠さなければならない正体。大鎌。風。そして伊月と高尾の関係性。
イーグル・アイ。
 まさか。赤司の中でそれらが一直線に繋がる。
 
−−宝華鳥の…末裔か!?
 
 宝華鳥は、遙か昔仙人の時代から存続するという伝説の妖かしの一族だ。風
魔法を操る力を持ち、本来性別がなく特殊な繁殖をする鳥だが、とある理由か
ら全員が人間の男子の姿で生まれて死ぬ。そして、よほどのことがない限り本
来の鳥の姿を晒すことはない。
 理由は簡単。宝華鳥は極めて高価な宝玉を作り出すことができる体質と、宝
玉に匹敵する独自の臓器を持っている為に乱獲され、知る人ぞ知る絶滅危惧種
だからである。邪な人間に捕まれば死ぬまで奴隷にされ悲惨な一生を送る羽目
になる。だから宝華鳥の一族は皆、普通の人間のフリをして隠れ潜むのだ。
 赤司も知識でしか知らなかった存在である。まさかこんな身近かな場所にい
ようとは。恐らく高尾も同じ。伊月が“姉鳥”で高尾が“妹鳥”だろう(性別
のない宝華鳥だが、その美しい羽根から女性のように扱われるが多い。兄弟の
場合、姉鳥妹鳥と呼ばれるのが一般的だ)。兄弟で現存しているなんて珍しい
どころの話ではない。
 なるほど。伊月がここまで殺気を漲らせるのも道理。正体を知られることは
彼らにとっては命取りなのだから。
 
「“Airora”!」
 
 伊月が中級の風魔法を詠唱する。この狭い部屋で中級を使うあたり、本気で
アルルネシアを殺す気だろう。しかしアルルネシアはそれを、防御魔法で軽々
と防いでしまう。
「“Shell”!…ふふ、どうしたの、この程度!?
「まだだっ!」
 大鎌を振りかぶる伊月。モーションはかかるが、攻撃範囲が広い。この狭い
室内でアルルネシアに逃げ場はない筈だった。
 しかし魔女は手に出現した金のハンマーで軽々と刃を受け止めてしまう。伊
月の眼が驚愕に見開かれる。
 
「悪いけど、あなたの細腕でこのあたしに勝てるとでも思ってぇ!?きゃははは
はっ!」
 
 伊月の身体は軽々とぶっ飛ばされ、壁に叩きつけられた。悲鳴を上げて崩れ
落ちる少年。その身体に、アルルネシアは素早く馬乗りになる。
 そして。
 
「少し、大人しくしてて?」
 
 そのふとももに、金のナイフを突き立てた。鮮血が噴き出す。絶叫する伊月
の声を、まるで子守歌のようにうっとりと聞き入る魔女。赤司は口元を抑える。
分かってしまったからだ。アルルネシアが何をしようとしているのか。第一夜、
何故伊月が行方不明になってから遺体で発見されるまで時間がかかったのか。
 これは幻想。しかし、幻想もまた一つの真実。犯人に殺された伊月も、魔女
に殺された伊月も等しく同じ存在だ。そして幻想の中では伊月はこうして密室
に閉じこめられ、壊れるまで延々と弄ばれ続けたのだろう。
「宝華鳥の体質って不便よね。好きな女の子と簡単にキスも出来ないし、怪我
をしても輸血なんて以ての外なんだもの。苦労したんじゃない?」
「やめろ…」
「だからぁ。あたしが今貴方にキスをしたら…どうなっちゃうかしらねぇ?」
「嫌だ!やめろ!やめろ!!
 アルルネシアの体の下で伊月が暴れる。しかし力では圧倒的に負けている。
彼の抵抗を魔女はどこ吹く風と流してしまう。
 
「うふふ…可愛いわ。ぐちゃぐちゃにしたくなるわねぇ!」
 
 なんてことを。赤司が青ざめる前で、アルルネシアは伊月に口づけていた。
それも普通のキスではない。唾液を、舌を送りこむような深いキスだ。伊月の
顔色がみるみる青ざめ、その瞳に涙がたまってゆく。
 暴れ続けていた青年の抵抗は、やがてぴたりとやんだ。宝華鳥の一族にとっ
て、他人の体液が身体に入るのは一大事だった。死ぬわけではない。しかし。
 今のアルルネシアの行為は伊月にとって、強姦されたも同然のことだった。
 
 
 
 ***
 
 
 
384:名無しのミステリー作家
赤字って魔術師か魔女しか使えないんじゃ
なんで桜が赤字を?
 
385:名無しのミステリー作家
つかラムダデルタってあいつだよな、赤様とアルルネシアの戦いを傍観してた
金髪ロリ魔女!
え、その代理権限て!?
 
386:
僕は魔女でも魔術師でもありません
でも、僕はラムダデルタ卿と契約してます。彼女にほんの少しだけ力を借りて、
赤字を使わせて頂きました。
説明下手でスミマセン
 
第三夜の赤字をまとめます
 
【全ての夜、全ての事件はノックス十戒に背かない】
【探偵は赤司征十郎であり、赤司は一切の殺人を犯さず意図的に手を貸すこと
もない】
【第三夜のみ内線電話が使用可能。内線があるのは玄関ホール、応接室、一階
各小部屋、食堂、キッチン、書斎、二階各小部屋、儀式部屋、ダンスホールで
ある】
【日向とリコは確かに食堂から電話をかけてきていた】
【緑間は日向とリコの電話以前に死亡しており、緑間は二人の殺害に関わって
いない】
【火神大我は九時十五分現在生存している】
 
【第三夜、八時のゲームスタート時に黒子テツヤは既に死亡している!】
【全ての夜において黒子テツヤは殺人を犯していない!】
 
これを元に、推理をお手伝いして頂きたいんです
 
387:名無しのミステリー作家
おおっこうしてみると…
 
388:名無しのミステリー作家
赤字結構増えたな
ってか桜の最後の赤字!黒の全部の犯行否定してるじゃん!
 
389:名無しのミステリー作家
赤司様は緑、黒、火の三人共犯説で話進めてたけど…そうか黒様は無実だった
のか
 
390:名無しのミステリー作家
正確には“殺人を犯していない”なわけだから、殺人以外の協力はした可能性
はあるけど…
でも黒様大好き人間としては…ほっとしちゃったよ
 
391:名無しのミステリー作家
つか自殺は殺人に含まれないのか?
 
392:
 
【黒子さんは全ての事件において自殺してません。第一夜も第二夜も第三夜も
他殺でした】
 
393:名無しのミステリー作家
ありがとう桜!
とすると…第三夜も誰かに殺されたわけか
 
394:名無しのミステリー作家
第三夜の事件の流れを誰かまとめてくれないか?
携帯じゃつらい…(ρ_;)
 
395:まとめ班
>>394
任された!
まず八時にみんなが目覚めた時からだな
この時既に四人もの人間が玄関ホールから消えていた
 
玄関ホールにいたのは九人
赤、青、黄、紫、鷹、月、火
 
いなくなってたのは四人
緑、黒、日、JK監督
 
そして八時過ぎ
食堂に閉じこめられてると日とJKから電話がかかってきた
 
396:名無しのミステリー作家
この時電話は赤様がとったから
内容の誤魔化しはないよな
 
397:まとめ班
>>396
そうだ
実際赤で【日とJKは食堂から電話をかけた】は確定しているから
間違いはないはずだ
 
日とJKは食堂にいて一緒に閉じこめられていると言った
電話には二人とも出た
最後に赤様と喋ったのはJK監督の方で、最後はJK監督が何者かに二人して
襲われている状況を示唆して
電話はあちら側に切られた、そうだったな
 
398:名無しのミステリー作家
これが演技の可能性もなくはないけど…
 
399:名無しのミステリー作家
実際この後二人とも食堂で遺体が見つかるもんなぁ
しかも外側から閉じこめられてた形跡ありで
 
400:
でもここで気になるのは、一体誰が二人を襲っていたかなんです
 
おかしいんですよ、だってこの時
行方不明になっていた残り二人→緑間君と黒子君は二人より先に死亡していた
んです
そして残る七人のメンバーは全員食堂にいたんです
そして【洋館には十二人以上の人間はいません】
 
 
では、二人を襲ったものは…何だったんでしょう?
 
 
 
NEXT
 

 

舞って振るえよ。