希望を掲げよ。 野望を捧げよ。
【キセキファン】 彼らが魔女に浚われた ・最終夜・19 【力を貸して】
磨耗する精神で、しかしただただ赤司は惨劇を眺めるしかない。 応接室で、青峰とアルルネシアが対峙している。青峰はギラギラと怒りの眼 で魔女を見、魔女はそんな青峰を−−豪勢なご馳走を前にした子供のような眼 で見る。青峰は気付かなかったかもしれないが、赤司には見えていた。 おいしそう。魔女の唇がそう動いたのを。
「てめぇが…てめぇが殺したのか。テツも火神も黄瀬も緑間もみんなみんな… 最終的にゃ俺自身さえも!」
青峰が低く低く吠える。 普通の人間ならば、その眼で睨みつけられただけで怯え、地面を這いずり失 禁したかもしれない。それほどまでの威圧感。殺意。比喩ではなく容姿だけが 理由ではない。 それは青峰の持つ絶対的な力によるプレッシャーであると、赤司をはじめと した一部の人間だけが知っている。神にも等しい化身と守護霊が、その身に眠 っていることを。
「ええ、そうよ。みんなみんなあたしが殺したわぁ」
アルルネシアはそんな青峰のプレッシャーに恐れるどころか、どこ吹く風と 流してあっさり言い放った。
「ねぇねぇ青峰君?知りたくない?あなたの大好きな大好きな黒子君や黄瀬君 達がどんな風に苦しんで壊されて犯されて汚されてグチャグチャになって死ん でいったのか?ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ知りたくなぁぁぁいぃぃ!?」
ぐしゃりと。あるいはドロりとアルルネシアの表情が“溶けた”。そう、も うそれは“歪んだ”なんてレベルじゃあない。唇を避けんばかりに開き眼を道 化の方がマシだというレベルまで三日月型に歪め。 喜悦と、欲情と、悪意と、ひたすら狂気を練り合わせて塗りたくったような その声と顔は−−到底、人間が浮かべられようなものではなかった。 まともな人間、ではない。人間、だ。人間である限り有り得ない。許されて はならない。それほどまでにおぞましい笑みに、怒りに満ちていた青峰さえ一 瞬気圧されたらしかった。 しかし、次の瞬間脳髄に叩き込まれるのは本能の二番手。言葉の意味が理解 出来るや否や、根本的には仲間思いの彼がさらなる憎悪を思い出すのも必然だ った。
「てめぇぇぇっ!」
青峰はアルルネシアの顔面めがけて拳を振りかぶった。どんなに荒れた時期 でも、女性に手を上げるなど絶対にしなかった彼が、そうした。見ず知らずの この女は性別以前の問題で自分達の敵。きっとそう判断したのだろう。 だがアルルネシアはその拳を、左手一本であっさり防いでしまった。青峰の 眼が驚愕に見開かれる。
「あたしね、これでも力には自信があるの。魔女の中でも武闘派でね、パワー であたしと渡りあった者は今まで一人しか知らないわ。…まだまだ幼いボウヤ じゃどうあっても勝てないってことよ」
次の瞬間、アルルネシアの拳が青峰の胸の中心に叩き込まれていた。
−−大輝!
みしり、と嫌な音。青峰の身体は軽々と吹っ飛び、壁に叩きつけられる。明 らかに肋骨が砕かれた。否、位置が悪い。下手すればショックで心臓が止まっ てもおかしくない一撃だ。 胸を抑えて咳き込む青峰の前に、アルルネシアの影が落ちる。これ以上何を する気だ。そう思った時だ。
「どんな拷問より…あなたが一番辛いのはコレよねぇ?」
アルルネシアの手に−−一本の縄。 それを見た瞬間、青峰の顔から血の気が引いた。先程までの憎悪も、怒りも、 全てなくしてしまったかのように。
「さぁさ思い出してご覧なさい?あなたが小学生の時よねぇ、コレを見たのは」
青峰が頭を抱え、ガタガタと震え出す。縄が怖いわけではない。多分彼自身 理解していないだろう、自分が心に負った傷がどれだけ深いかを。その深刻さ を。だから実物さえ見なければ軽口で“首吊り”がどうのと口に出来てしまう のだけど。 見てしまえば、駄目なのだ。だって彼は幼い時にソレで−−。 「あなたの大好きなお父さんは何をしたかしら?何度も何度も、あなたが死に かけると謝って、それでもまた…」 「やめっ…」 「痛かったわよねぇ?苦しかったわよねぇ?でも結局あなたは…」 「いやだ…」 「目を覚ました時に、貴方の目の前で揺れていたものはなんだったかしらぁ? さあさあさあさあ思い出してご覧なさいよぉっ!」 「やめろおおおおおっ!」 トラウマを抉られ、心が血の涙を流し、壊されてゆく。頭をかきむしり絶叫 する青峰をせせら嗤うアルルネシア。そして隙だらけの青峰の首に縄がかけら れて−−。
「また何回でも殺してあげる」
***
433:名無しのミステリー作家 みんな!E監督のお帰りだぞおおおっ!
434:名無しのミステリー作家 お帰りなさいです監督うううっ!
435:E監督 みんなすまない、時間をかけてばっかりで それから桜、本当に感謝する お前のお陰で、もう少しで結界が破れそうなんだ
436:桜 あなたがE監督さんですね スミマセン青峰君がお世話になってますというかご迷惑おかけしてスミマセ ン!
…僕は何も 皆さんの力がなければ、あの人が手を貸してくれなければ何も出来ませんでし た
…そもそも僕がいなければ 青峰君たちがこんな目に遭うこともなかったかもしれないのに
437:名無しのミステリー作家 桜?
438:名無しのミステリー作家 え?何がだよ お前はなんも関係ないだろ?
439:E監督 不幸輪廻因子だろう 君が持ってる呪いは
440:名無しのミステリー作家 ほへ?
441:名無しのミステリー作家 なんですかそれ
442:桜 なんでE監督さんがそれを…?
443:E監督 俺も魔術師の端くれだからな …まあ掲示板ごしで分かることは限られてるから半分は勘だ
お前のやたら謝る癖、不幸輪廻因子が原因だろう?
444:桜 …わかってるんです わかってる 僕が関わると、悪いことばかり起きるんです
445:名無しのミステリー作家 な、なんとなく思ってはいたけどネガティブだな桜…
446:名無しのミステリー作家 そりゃ悪いことが続く時もあるけど あんま思いつめすぎはよくないぞ
447:桜 スミマセンスミマセン ものの例えや偶然じゃないんです 昔は今よりもっと酷くて
遊んだ子が事故に遭ったり 相談した先生の家が火事になったり 身内で怪我人が耐えなかったりとかたまたま僕が関わった人に不幸が起きたり とかそんなのばかりで
今はそこまで酷くないけど、僕に不幸を引きつける体質があるのは確かみたい なんです だから今回も…って
448:名無しのミステリー作家 え…まじで?
449:名無しのミステリー作家 つ、釣りじゃなくて?え?
450:名無しのミステリー作家 マジであんのか、そんなこと
451:E監督 普通人間だからこそ 神の使いでもアヤカシでもないからこそ…いるんだよ…そういう奴 俺は桜以外にも知ってるからな 自分のせいでみんな不幸になる、大好きな人が死ぬってそう追い込まれていた 奴は
…その体質はお前のせいじゃないし 少なくとも今回の事件、原因があるとしたら俺の方だ お前は悪くない
452:桜 ありがとうございますE監督 でも僕が直接の原因ではなくても、僕の不幸輪廻因子が事態に拍車をかけた可 能性は否定できないと思います
だから だからやれることはやりたかったんですけど 僕なんてラムダデルタ卿に力を貰わなきゃ何もできなくて
453:名無しのミステリー作家 …重い
454:名無しのミステリー作家 いつもなら ネガティブ杉うぜぇって言ってるとこなのに… なんかそういう気持ちにならない
455:名無しのミステリー作家 >>454 わかってるからじゃねぇの 桜タソが頑張ってんのは
それに 此処にいんのはキセキクラスタばっかだろ キセキを助けたくて此処にいる奴はみんな仲間じゃん
456:名無しのミステリー作家 やだこの455男前(トゥンク
457:名無しのミステリー作家 いいこと言うなぁ455…思わず涙と鼻水出た
458:名無しのミステリー作家 >>457 涙だけにしろよきたねぇな
つ 【ティッシュ】
459:名無しのミステリー作家 スレ民の優しさに全俺が泣いた
460:E監督 桜 お前が自分を責めるのはある程度仕方ない でもな、それを見て悲しむ奴がいるのを忘れるなよ お前の先輩や青峰は知ってるんじゃないか、お前の体質のこと
461:桜 …知ってます、全員ではないですが少なくとも主将と青峰さんとマネージャー さんは あと多分このスレもROMってます アドレス教えたので
462:E監督 知ってて受け入れてくれる奴がいるなら、そいつらの気持ちもちゃんと汲んで やれよ 俺も似たよう経験があるから先に言うけど、間違っても “本当は迷惑なのにみんなは優しいから、同情で付き合ってくれてるんだ”な んて考えるな キツいことを言うようだったがそれはお前を好きでいてくれる人達への最大の 侮辱だ
463:桜 え
464:名無しのミステリー作家 さては桜、図星だったな
465:名無しのミステリー作家 ってかE監督の指摘があまりに的確すぎてちょっと怖いくらいだ
466:名無しのミステリー作家 …わかる気がする 私も大好きな友達が追い詰められてる時、必死で助けようとしたら “迷惑なら無理しないで”って離れていかれて その程度だと思われてたのかってすごくショック受けたことあるし
467:名無しのミステリー作家 自分を信じられないのは仕方ないけど 他人の気持ちを信じられない結果誰かを傷つけたりもするんだよな
なあ桜、わかるよな? 自分が大好きな人がそんな風に言っていなくなったりしたらどう思うか、わか るよなお前なら
468:E監督 大好きな人に本当に迷惑をかけたくないなら 傷つけたくないならまず、その人達がお前を“大好き”だって思う気持ちを信 じてやれよ
それから 自分を認めてやれ 今日まで生きてきたってだけで、戦ってきたってだけでお前は充分に頑張って るよ 頑張れとは言わない お前はもう頑張ってる
だからほんの少しでいいからそんな自分を好きになってやれ 少なくともお前の今日の行動でキセキやみんなは救われるんだから …勿論俺もな
469:桜 ………はい はい ありがとうございます
470:名無しのミステリー作家 …俺まじE監督のファンになったわ
471:名無しのミステリー作家 E監督 あんた、俺のことも救ってくれたよ
472:名無しのミステリー作家 ごめん画面が霞んで見えないや…
473:黒 あと少し やっと辿り着けました
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信じて、信じて。