還れ。 そこに心はある。
【キセキファン】 彼らが魔女に浚われた ・最終夜・23 【力を貸して】
頭の中で組み立てた推理を反芻する。 円堂とて人間だ。推理が正しいと、絶対的な確証を持っているわけではない。 それでも−−今なら立ち向かえる。否、立ち向かうしかないのだ、自分は。 アルルネシアを呼び寄せてしまった責任だけではない。たくさんの仲間達が支 えてくれて、助けてくれて、その果てに自分が此処に立っていると、そう知っ ているから。
「…もう一度言うぞ。第三夜八時過ぎ。“日向順平と相田リコは、赤司との通 話中に襲撃された”こいつを復唱して貰おうか」
円堂は繰り返すが、アルルネシアは何も言わない。その顔にあるのは先程ま での余裕ではなく−−苛立ち。 やはり、と円堂は思った。自分の考えは正しかったようだ。というか、赤き 真実の檻を抜ける方法はもうこれ以外にないだろう。 「…なんだ、今までみたいに堂々と復唱拒否してみたらどうだ?アルルネシア」 「……っ!」 「まあ、今までとは違って今回は…言わないんじゃなく“言えない”んだろう けどな」 「どういうことですか、円堂さん」 赤司は戸惑った顔で自分を見上げた。彼の読みはけして悪くない。ただ唯一 弱点があるとすれば、彼が仲間を大切にしすぎるという一点に尽きるだろう。 大切だからこそ。仲間が死んでいく渦中にあって、冷静さを保つのは極めて 難しい。彼は表に出さずに頑張った方だが、それでも全てを客観的に見れるほ ど冷酷にはなれない。円堂とて赤司と全く同じ立場なら、この真実に至れなか ったかもしれないのだ。
「…状況を再構築しようか。八時過ぎに玄関ホールの内線電話が鳴った。この 時玄関ホールにいたのは赤司、黄瀬、青峰、紫原、高尾、伊月、火神の七人。 そうだな?」
探偵役の赤司がメンバーを確認して報告してきているわけだからこれは間違 いない。赤司の目を誤魔化して消えられるのは精々黒子くらいのものだ。 しかし“いつの間にかいない”ことはあり得ても“目に見えているのに存在 しない”なんてことは有り得ない。この七人が玄関ホールにいたのは間違いな いと想っていいだろう。
「【日向とリコは確かに食堂から電話をかけてきていた】。そして電話は赤司 自らとっているから、内容の誤魔化しはきかない」
二人が電話をかけてきているまさにそのタイミングで事件は起きた。この時、 二人を襲撃できたとすれば、行方不明だった緑間と黒子しかないのだが。 「【緑間は日向とリコの電話以前に死亡しており、緑間は二人の殺害に関わっ ていない】。よって襲撃者が緑間であることはまず有り得ない。となれば必然 的に残る犯行可能な人物は、黒子しかいないということになるんだけども」 「…まるでテツヤではないと知ってるような口振りですね。僕はそれしか有り 得ないと思っていましたが」 「まぁそうだろうな」 赤司は火神、黒子、緑間犯人説で考えを進めていた。緑間が違うのならば残 りは必然的に黒子しかいないことになる。 そして赤司は黒子犯人説を進めるあまりに、それ以外の可能性が見えなくな っていたのだろう。もし円堂が助けに来ないまま第三夜の推理に突入していた ら。アルルネシアの誘うミスリードに嵌まり、さらなる赤き檻に閉じ込められ てしまっていた筈だ。 だから−−良かったと思う。赤司がまたしてもアルルネシアによってズタズ タに切り裂かれる前に、自分は此処に来れたのだから。
「……浄罪の魔術師・円堂守の名において赤き真実を執行する」
円堂の手に赤き剣が出現した。
「【第三夜、八時のゲームスタート時に黒子テツヤは既に死亡している!】 【全ての夜において黒子テツヤは殺人を犯していない!】」
まさか円堂がオリジナルの赤き真実を使ってくるとは思わなかったのだろ う。さしものアルルネシアも反応が遅れた。それでも第一撃をバックステップ でかわし、第二撃を赤きシールドを展開させて守ったのはさすがといったとこ ろか。
「何で貴方が新しい赤を使えるわけ!?ゲームマスターでもない貴方が!それ に、その赤き真実は貴方自身の首を締めるだけよっ!【第三夜で電話通話中、 犯行可能だった人物はいないわ!日向君とリコちゃんを襲えた人物は一人とし ていないのよ!】これでどうやって犯行を証明する気!?」
円堂はニヤリと笑う。かかった。たった今アルルネシアはとんだ愚行を犯し てくれた。まさしく自分が狙った通りに。
「そうだ。…誰にも日向と相田を襲撃できなかった。しかし実際に二人の遺体 は食堂で見つかっている。ならば答えは一つしかない」
フラグは立っていた。 この二人ならば。否、この二人だからこそありえた事実。 「これが俺が提示する青き真実!食らえっ!《日向と相田は二人で共謀し、電 話で一芝居打ったんだ!まるで自分達がたった今襲われたかのように見せかけ る為にな!二人が死んだのは通話中じゃない、電話が終わった後なんだよ!》」 「なっ!?」 その理屈に、アルルネシア以上に赤司が驚いたようだった。青き矢が、アル ルネシアの赤き結界を粉々に打ち砕く。矢が魔女の肩を掠め、ばっと鮮血が舞 った。アルルネシアはよろめき、ニィ、と笑みを浮かべる。
「まずは見事、と言っておきましょうか。つまり日向君とリコちゃんも犯人グ ループの一味だったってことよね?赤司君の推理と随分違うようだけど」
まあそう来るだろうな、とは思っていた。犯人一味でない限り、探偵を騙す 理由はない−−普通なら。 そして円堂はわかっている。アルルネシアがまだ切り札を隠し持っているこ とを。円堂が“日向とリコが犯人である”と断じた時点で、そのカードを切っ てくるだろうことを。
「…そうか。そういうことか」
発言したのは意外にも赤司だ。どうやら彼も気がついたらしい。
「二人が犯人だとは限らない。これが第一夜序盤の事件ではなく第三夜だ。二 人が犯人でないにせよ、仲間達への疑心は相当高まっていたはず。…これを見 ろ」
赤司が手を掲げると、一冊の本が現れた。『幻想の裏側』の第一巻だ。この 幻想法廷で自分達は、証拠品を好きな時に好きなだけ喚び出すことができる。 勿論、本編中に一度も提示されていない品を呼び出すことは出来ないが−−。
「第一夜終盤。ここで日向さんと相田さんが手を洗う為にキッチンに行くシー ンが描かれている。ここで日向さんは“何か調べたいことがある”というのと “玄関ホールにいた残りのメンバーを疑っている為、相田さんを守る為に避難 させた”という理由で二人きりになったと描かれている」
あったっけそんなの?と思った読者諸君、第一夜十七話の後半を読み返して みて欲しい。ここでばっちりこのシーンは描写されていて、赤司の持っている 本にもそれは写し取られている。 【魔女や魔法の描写がないからといってそのシーンが幻想でないとは限らな い】が、【幻想シーンが何らかのヒントとして提示されることはままにある。】 第一夜第十七話で、日向とリコが何か理由があって左廊下にあるキッチンへ向 かったらしいこと。そして、この二人が“お互いは犯人ではない”と信頼しあ っていたこと。これらは充分、後のフラグとしては有効なのだ。 「このシーンから二人の信頼は見てとれる。どちらが言い出したことかはわか らないが、犯人を炙り出す為という名目なら…彼らは疑心から仲間を騙す行為 もやった可能性は極めて高い」 「そういうことだ、赤司」 理解が早い探偵で助かる。円堂は笑みを浮かべて頷いた。
「日向と相田が犯人であってもなくても。この二人が協力して一芝居打つこと は充分あり得る。これは第一夜十七話にて示唆されている可能性だ。よって《ノ ックス第八条・提示されない手がかりでの解決を禁ず、にも抵触しない!》」
推理を重ねろ。そして幻想を打ち砕け。 その先に、ハッピーエンドはあるのだから。
***
589:名無しのミステリー作家 も り あ が っ て ま い り ま し た
590:名無しのミステリー作家 E監督まじすっげぇぇえっ!
591:天M 盲点だった…!まさか日主将さんとJK監督さんのあの電話が演技だったなん て
592:名無しのミステリー作家 しかしよく考えりゃわかったことだよな だって他に誰も二人を襲えた奴がいないんだから 襲えた奴がいないならつまり二人は襲われてない そういうことになるよな
593:名無しのミステリー作家 いやでも待った それでも二人が食堂から電話してきたのは赤で確定してんだよな? そんでもって最終的に二人は食堂で襲われて死亡している ならいつ誰が、食堂にいる二人を殺したんだ?
594:名無しのミステリー作家 そういやそうだった
595:実況班 続き投下するぞおまいら!
アル「…ふん、そのシーンに気付いてたのね。気付いてなかったらそのままノ ックス第八条を叩きつけてやれたのに」 赤「それはお生憎様だったね」 アル「まあ…いいわ。でも貴方の推理にはまだ穴があるわよE監督。この後二 階左廊下を火君と月君が探索しに行くけれど、【火君と月君が食堂についた時 食堂のドアは確かに全て外側から封印されていたわ。】電話が、JK監督と日 主将の演技なら、じゃあその二人を閉じ込めたのは誰なのかしら?それに閉じ 込められた部屋で日主将とJK監督が落ち着いて演技なんかできるわけないと 思うんだけど?」
おおう… そうだった
596:名無しのミステリー作家 日主将とJK監督が犯人かどうかはともかく 外側からつっかえ棒だっけ?するには二人だけじゃ無理だよな
597:名無しのミステリー作家 そんで意図せず閉じ込められた部屋で呑気に演技なんかできそうにない まあ食堂だからいざとなれば抜け道から二階には出られるんだけど
598:名無しのミステリー作家 つまり…どゆこと?(´・ω・`)
599:聖先輩@まじめ 閉じ込めたのも二人の意志だった可能性が高そうだな つまり二人を閉じ込めてみんなに電話をかけて演技するっていう計画にはもう 一人、噛んでた奴がいるってことだ
600:実況班 >>聖先輩 その通りっぽいな …聖先輩が当てるとかまじショックだわ 負けたとかありえねぇ
600げとおおおっ!
601:聖先輩@あうあう うううそんなにショック受けなくたっていいじゃんたまには誉めてよおお称え なくてもいいからああっ!
…もういい、グレてやる(T_T)
602:名無しのミステリー作家 もうとっくに人生あらぬ方向にグレてる奴が何を言う
603:名無しのミステリー作家 聖先輩はほっとくぞー無視するぞー 実況班続きよろ!
604:実況班 了解!ちょっと待ってな!
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見つけて、見つけて。