祈りを超えて、
 未来を変えろ。
 
 
 
 
 
【キセキファン】
彼らが魔女に浚われた
・最終夜・30
【力を貸して】
 
 
 
 何故だ。何故こんな事になるのだ。
 
「ふざけてんじゃっ…ないわよ!」
 
 アルルネシアはぐしゃぐしゃと頭を掻き毟−−ろうとしたがそれは出来ずに
及ぶ。腕は青き真実の矢で完全に縫い止められていた。そもそも関節を砕かれ
ていてはどうあっても動く筈がない。
 だが今アルルネシアを支配するのは痛みを遥かに凌駕する怒りだった。こん
な事は有り得ない。こんな筈がない。自分がまたしても、またしても人間に負
ける?魔術をほんの少しかじったばかりの若造どもに?
 
 千年を生きた、この災禍の魔女アルルネシアが?
 
「まだ…終わってないわっ!粋がるのも大概にしなさいいいいっ!」
 
 有り得ない。あってはならない!
 赤司と円堂の推理がまたしても的外れなら、いくらでもやりようはあった。
しかし、残念ながら彼らの推理はほぼ完璧だ。伊月が殺人を犯していない、緑
間が殺人を犯していない、日向が殺人を犯していない−−いずれも赤き真実で
言うことが出来ない。
 犯人は紛れもなくこの三人なのだから。
 
−−あのガキどもが逆らってくれたせいでっ…!クソガキどもがああああっ!
このあたしを誰だと思ってんのよおおっ!
 
 緑間や伊月が余計な発言を残してくれなければ!日向が黄瀬の言う通りに写
真などとらなければ!(辛うじて襲ってきた伊月の姿を撮られることは回避し
たが)
 そもそも必要以上の証拠やらボロの出そうな行為やら、ふざけるなとしか言
いようがない。あんなに身体も心もグチャグチャに踏みにじって陵辱して粉々
に打ち砕いて、魔女の僕として調教してやったのに。どこに逆らう余力が残っ
ていたというのだろう。
 自分のトリックは完璧だった!高尾殺しの檻も心理密室も!伊月が他殺宣言
されるタイミングを巧妙にズラし、日向を使って黒子と火神の密室を完璧に構
築し−−それなのにそれなのにそれなのに!
 あいつらのせいで!
 
−−だけどまだ!終わってないわあああっ!
 
「あんた達の推理には穴があるわ!これをクリア出来なければ認められない
っ!」
「ほう?」
 赤司が少しだけ意外そうに眉を寄せる。困った顔も歪んだ顔も無表情でさえ
様になる、麗しき魔王。だからこそ許せない。こんな彼が“人間として生きる
ことを選んだ”のも、仲間や絆にうつつを抜かし魔術師としてのプライドを忘
れていることも。
 我ら魔女と魔術師は人間より遙かに優れた種。優れた存在なのだ。なのに何
故それがわからない?人間なんかとの絆を大事に守ろうとする?
 許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せ
ない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許
せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない
許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せな
い許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せないっっっ!
 
「犯人は三人!だというなら連携は不可欠だわ!行方不明になる人間がいるな
ら尚更ねっ!」
 
 例えば第一夜。伊月は行方不明になってから見つかるまで随分タイムラグが
あった。【第一夜にて一階を探索した際、伊月の姿を見た者はない】上に、【二
階を緑間、黒子、青峰、リコで探索した時も彼の姿は誰にも目撃されなかった。】
 つまり。彼が犯人の一味であるならば意図的に皆の視界に入らないよう逃げ
回っていたことになる。
 
「確かに食堂の抜け道を使えば、第一夜の伊月君のような行方不明者が探索者
の目をかいくぐる事は可能だった!でも、それは当然【探索者がどこにいるか、
探偵の動きが分かっていなければ不可能なことよ!】
 
 例えば皆が一階を探索している時は、一階にいるわけにはならない。二階の、
それも玄関ホールから死角になるいずれかの場所に隠れている必要がある。
 また逆に、皆が二階を探索し始めた時は二階にいてはならない。速やかに抜
け道から一階食堂へ避難しなくてはならないだろう。
 伊月は完璧に、探索者の眼を逃れてみせた。その結果“突然現れた密室の中
の遺体”として出現することができたのだ。アルルネシアの魔法を、人間のト
リックで実現してみせたのである。
 彼の眼は高尾と同じく、空間把握に優れている。皆の死角を突きやすかった
のは確かだろう。だが【それだけで複数の人間の眼から逃れ続けることは不可
能だ。彼には黒子のようなミスディレクション能力など持ち合わせていないの
だから。】
 
【第一夜でくろちゃんねるに入れる携帯は赤司君と緑間君のものだけよ!伊
月君の携帯は無理ぃ!】さらに《携帯のメールや電話が使えないことは、赤司
君自ら確認済みよね?つまり犯人同士の連絡手段なんかなかったわ!》これで
どうやって連携をとったの?【連携をとれなければ伊月君が逃げ回ることは無
理無理無理無理無理だったわあああああっ!きゃははははははははははっ】
 
 怒りの赤き真実と青き真実の矢が数多、円堂と赤司に降り注いだ。雨と呼ぶ
にはあまりに凶悪な一撃。にぃぃっ、とアルルネシアは唇を釣り上げ、高々と
嗤い声を上げた。
 なんて愚かな愚かな愚かな子達!自分の側にこればこんな惨めな死に方はせ
ずにすんだものを!
 
「最後の最後で詰めを誤ったわねええっ!これで終わりよォォォッ!」
 
 あははははは死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねみんな死んでしまうがいい!自
分に、魔女に楯突く者は、魔女を敬わない者は全て罪人だ。クソみたいな友情
や愛情を掲げて、なよなよと慰めあって、愛やら絆やらと溺れて溺れて。もう
それだけで死に値する罪!生きている価値などない!ああなんて自分はヤサシ
イ魔女なんだろう!
 人間側に墜ちた彼らに引導を!
 人間に味方した時点で、彼等の価値は死ぬか自分の愉しい玩具になるしか選
択肢はないのだから!
「きゃははははははははははっ」
「−−−ッ!」
 息を呑む円堂と赤司。二人は完全に対応が遅れていた。この一撃で殺せる。
もう間に合う筈がない!
 
 その筈だった。
 
 
 
「“Shell”」
 
 
 
「“Protess”」
 
 
 
 凛とした声が響く。
 円堂と赤司を守るように、魔法結界が展開されていた。アルルネシアは目を
剥く。そんな馬鹿な。円堂も赤司も明らかに油断していた、魔法を発動したっ
て間に合わなかった筈だ。
 それに。
 それに今の声は。
 
「消失の魔術師、黒子テツヤの名において赤き真実を行使します。【犯人達が
連携をとる方法ならありますよ】
 
 二本の鍵のような形をした剣をくるくる回しながら。赤司達を守るように一
歩前に出たのは、黒子。
 
「鏡界の魔女、黄瀬涼太の名において赤き真実を宣言するッスよ。【赤司っち
が機能を自分の目で確認したのは、赤司っち自身の携帯のみッス。他の携帯は
全部各個人が確認して自己申告したにすぎないッスよ】
 
 金色のスピアを手にこちらを睨みつけてくるのは、黄瀬。
 
「いい加減リザインしやがれ、クソッタレ魔女。《全員のメール機能や電話機
能が死んでるだなんて一度も赤で宣言されちゃいねぇ!犯人達はメールや電話
で連携とってやがったんだよ》
 
 そして、フンと鼻を鳴らしたのは。アルルネシアの大嫌いなあの男−−終焉
の魔女、桜美聖也だ。
 馬鹿な。そんな馬鹿な。
 
「がぁっ!」
 
 赤き矢と青き矢に貫かれ、アルルネシアは崩れ落ちる。何故だ。何故この三
人までもが幻想法廷に!?
 信じられない。そんな眼で彼らを見たアルルネシアを、感情の読めない眼で
見下ろしてきたのは黒子だった。
 
「赤司君達が事件を解いてくれたおかげで、貴方の張った結界はガタガタだっ
たんですよ。いつまでも赤司君と円堂さんだけに頼るわけにはいきませんから
ね」
 
 かつん!と。黒子の剣が、床を叩いた。
 
「これにて閉幕です、災禍の魔女アルルネシア」
 
 
 
 ***
 
 
 
 
 
:
ここは
【キセキファン】彼らが魔女に浚われた【力を貸して】
スレの続きになります
説明してる余裕がありません、今北さんは全て前スレで確認して下さい
 
皆さん、無事ですか!?
 
2:名無しのミステリー作家
マジありがとう桜!
 
3:名無しのミステリー作家
お前のお陰で助かった!
 
4:名無しのミステリー作家
最後のアレは一体なんだったんだ?
 
5:名無しのミステリー作家
いきなりバグった書き込みが来たかと思ったら大量の無言レスが来やがって…
危うくスレが落ちるとこだった!
 
6:名無しのミステリー作家
あのスレが落ちたらもう連絡手段ないもんな…
新スレ間に合って本当に良かったわ
 
7:天M
桜さん本当にありがとうございます
どう見てもアレ、魔女に攻撃されてましたよね
生放送もいきなり終了しましたし
 
8:名無しのミステリー作家
負けそうになったアルルネシアが暴走したとかそんな感じか?
 
9:名無しのミステリー作家
初号機暴走しましたってか?
 
10:名無しのミステリー作家
>>9
なんて傍迷惑な暴走だ
 
11:名無しのミステリー作家
しかしもうあれから二時間以上経ってんだぞ
赤様達どうなったんだよ
 
12:名無しのミステリー作家
勝てそうに見えたけど…最後まで気が抜けない戦いだったからなあ…
 
13:名無しのミステリー作家
負けフラグはなかったし勝ったって信じたいけど
 
14:名無しのミステリー作家
おいおまいらみんなニュースつけとけよ
キセキ達が帰ってきたら速報入るはずだ
 
15:名無しのミステリー作家
笑顔動画厨の俺に視覚はない!
赤様達が帰ってくるまで全裸で凌ぐぞっ(バッ
 
16:名無しのミステリー作家
よし俺も最後の良心を脱ぎ捨てるっ!(バッ
 
17:名無しのミステリー作家
もう皮しか脱ぐもんがないんだが(ベリッ
 
18:名無しのミステリー作家
>>1517
おまいら総じてツッコミ待ちかwww
 
19:名無しのミステリー作家
>>16
良心脱ぐなしwww
 
20:名無しのミステリー作家
>>17
想像するだけで痛いからやめれwww
 
21:天M
>>1517
全員の股間に化身シュート
 
 
と、報告があるんですが
 
22:名無しのミステリー作家
今股間がひゅんってなった
 
23:名無しのミステリー作家
>>22
おまおれ
化身シュートはまじで…痛い…
 
24:名無しのミステリー作家
>>23
何でそんな無駄に実感こもってんだよwww
ってどうした天M
 
25:天M
実はあの後、一緒にいた聖先輩がいなっちゃって…いや変態がいなくなるのは
大歓迎なんだけどそうじゃなくて
本当にいつの間にか、煙みたく消えたからびっくりしたんだけど
 
 
26:名無しのミステリー作家
天M?
 
27:
どうしました?
 
28:赤司
みんなただいま
 
29:E監督
みんな心配かけてすまない
今帰ってきた
 
30:名無しのミステリー作家
 
31:名無しのミステリー作家
赤様ああああっ!
 
32:名無しのミステリー作家
E監督ううううっ!
 
33:名無しのミステリー作家
お疲れ様ですまじお疲れ様ですありがとうございますううううっ!
 
 
 
NEXT
 

 

逝って、言って。