自分達は、 絶望さえも信じない。
【キセキファン】 彼らが魔女に浚われた ・最終夜・31 【力を貸して】
どんなに確率の低い賭でも、可能性は必ずある。僅か0.0000000000001%程 度の確率でも、それは“限りなくゼロに近い”だけではあってけして“ゼロそ のもの”ではないのだ。 赤司は追憶する。 かつての自分は、“絶対の奇跡”ばかりを求めていた。勿論どれだけ実力差 のある勝負でも絶対は有り得ないと知っている(黒子は「100点差のゲームで も試合終了直前までに相手ベンチに隕石が落ちるかもしれないし」とか言って いたが。強ち笑い話でもないのだ)。それでも限りなく“絶対に近く”する為 に奔走していたように思う。 だから初めてだったのだ。“99.0%を99.8%に変える努力”ではなく−− “0.1%を1%に変える努力”に臨んだのは。
−−諦めない心が、可能性の道を繋ぐ。
諦めない者が、僅かな可能性をつなぎ止める。 だから一番強いのは勝利し続ける者ではない。逆境において、絶望して絶望 して絶望して尚立ち上がれる者だ。絶対に限りなく近い王者を脅かすのもまた、 そんな絶望を乗り越えてきた“敗者”なのだ。 円堂が教えてくれたこと。赤司がこのゲームで学んだこと。 それはもしかしたら、あの冷え切った中学の頃から黒子が自分達に訴え続け てきたことなのかもしれなかった。赤司は自分と円堂を守るようにして立つ黒 子の背中を見る。 細くて小さい筈のその背が、今はこんなにも頼もしい。それは守る者の背だ。 円堂と同じ、立ち向かう者の背だった。
「…赤司」
隣で、円堂が言う。
「これで俺達の勝ち…の筈なんだけどな。最後まで気を抜くなよ」
今までの自分なら、多分。傲岸不遜な言葉しか返さなかっただろう。僕を誰 だと思ってるんですか、だとか。当然でしょう、とか。下手すれば敬語も外れ る。なんせ建前か、尊敬に値する“強者”にしか敬語を使わない質だ(実際自 分のチームの先輩達に敬語を使うことは滅多にない)。 そう−−今までなら。 今の赤司に、驕りはない。誇りはあっても、自分を飾り守る為だけの余計な プライドはない。 だから。
「はい」
素直に頷ける。 この人は−−認めるに値する強者であり。 自分と共に戦う誇るべき仲間だ。
「終わらせましょう。全ての悪い夢を…悲しいことを」
もう、大事なこと見失わない。
「何でよぉっ…何でこのあたしがこのあたしがこのあたしがこのあたしがこの あたしがこのあたしがこのあたしがこのあたしがこのあたしがあああああああ っ!」
赤と青の矢で貫かれながら、それでもどうにか立ち上がって吼えたアルルネ シアの顔は−−見るに耐えないものだった。 頬の肉は大きく抉れ、片耳が吹き飛び、吐いた血泡で口元を汚し、眼を真っ 赤に血走らせ。ドロドロに濁った憎悪と悪意とその他の感情を塗りたくったそ の表情。見た目だけでも美しかった筈の魔女の姿は見る影もない。
「悪意ってのは誰にでも宿る。悪意のない人間なんかいない。だから…絶対的 に正しい人間なんかいない。本当の意味で正義を語っていい奴なんか…一人も いない」
そっと円堂が赤司の肩に手を乗せる。 「だけど、世界は悪意だけで回るわけじゃない。悪意だけでは人はけして、生 きていけない」 「…ええ」 「よく覚えておけ。ここが、境界線だ」 境界線。 ああ、確かに。
「悪意だけでしか動けない亡者と、悪意もそれ以外も全部飲み込んで生きる人 間との境界線。絶対に忘れるなよ」
赤司と円堂と黒子と黄瀬と聖也。 そして、アルルネシア。 両者の間にあるのは単なる結界ではない。人と、そうでないものとの確かな 境界線がそこにある。きっと世の中にはアルルネシアの強烈な悪意に惹かれる 者もいるだろう。本音を隠さず悪意をぶちまける彼女を、自らの押し殺してき た願望の代弁者として見る者もどこかにはいるのだろう。 だがこの境界線は、人である限り、人でいる為に、けして踏み越えてはなら ぬ一線なのだ。 向こう側に行ってはならない。魔術師でありながら人である誇りを捨てては ならない。何故ならば。
「愛がなければ、見えない。真実も…自分自身すら」
愛が−−絆がなければ。 円堂が助けてくれなければ、天馬達が勇気を出してくれなければ、黒子や黄 瀬が戦ってくれなければ、緑間達が抗ってくれなければ。 きっと自分は負けて、アルルネシアに殺されていただろう。
「絆が人間の最大の武器だ。それを見誤ったのがお前の敗因だ、アルルネシ ア!」
赤司はもう忘れない。 自分がたくさんの愛に支えられていることを、たくさんの人を愛し続ける気 持ちを−−けして。
「愛?何それ。なぁにそれっ!?汚らしくて吐き気がするわあああっ!“アイス ル”ってのは相手の心も魂も身体もメチャメチャに抱き壊して拷問して玩具に して強姦して陵辱して踏み潰して突き崩して生きたままハラワタを喰い漁るこ とを言うんでしょっ!?奇麗事言ってんじゃないわよ人間んんんっ!」
アルルネシアは唾を吐きながら罵倒の言葉を吐き散らかす。
「あたしは知ってんのよ!あんた達人間の悪意に関することならみんなみんな みんな知ってる!あんた達が浴びてきた悪意に関しても知ってるわ!高尾君を 金儲けの道具にしようとしたのは誰?あたしに言われるまま黄瀬君を滅茶苦茶 にした奴らは誰?幼い青峰君を絞殺しようとしたのは誰?かつて黒子君や紫原 君を壊したのは?桜井君をイジめてきたのは?みんなみんなみんな人間よっ、 あんた達人間という種族でしょおおおっ!」
ギリ、と赤司は唇を噛み締める。アルルネシアは狂っている。だがその言葉 の全てを否定するつもりはない。むしろある所までならば彼女はけして間違っ てないと知っている。 自分の周りにいる、重い重い傷を背負った仲間達。彼らが晒されてきたもの もまた、悪意だ。悪意で彼らを苦しめ続けてきたのは紛れもない人間だ。
「…そうだ。人間は汚い。お前の言う悪意を否定するつもりはない」
だけど−−それだけが人間の“スベテ”じゃないから。
「だけど同じくらい、綺麗なもので溢れてることも……知ってる。キセキのみ んなや、円堂監督や、チームメイト達や…たくさんの人が、僕にそう教えてく れた」
仲間がいる限り。 自分は悪意に負けたりしない。
「悪意さえ飲み込めるのも人間なんだよ。悪意に溺れて負けたお前に、僕らが 負ける筈がないだろう」
それが−−赤司が出した、答えだ。
「汚らわしいわっ!穢らわしいわっ!認めない…そんな醜い偽善者どもにこの あたしが負けるなんて…認めないいいいっ!」
突如、アルルネシアの魔力が膨れ上がった。結界を張る黒子と黄瀬が小さく 悲鳴を上げる。魔力の風は幻想法廷を吹き荒れ、ステンドグラスを粉々に打ち 砕き、並べられた椅子に、魔女象に、次々罅を入れてゆく。
「まさか自分で作ったルール曲げて、無理矢理魔法で俺らをぶっ飛ばす気か よ!?」
聖也がぎょっとしたように叫ぶ。 「ちょ…黒子っち!結界がヤバいッス!」 「曲がりなりにも千年を生きた魔女というわけですか。面倒ですね、このまま じゃ破られちゃいますよ」 「んな冷静に分析してる場合じゃないッス−ッ!」 黄瀬が泣きそうな声を上げ、逆に黒子は冷静すぎるほど冷静な声で話す。ま さに対極だ。
−−くっ…どうする!?
こっちは五人、数の上では優位だ。だがアルルネシアの魔力は赤司が想定し ていた以上に高いらしい。このまま守り続けていても押し負けるのは眼に見え ている上、いらぬ怪我人が出る羽目になりそうだ。反撃の隙もあるか怪しい。 加えて。この場所で大技を出せば、あらぬ影響を与えて元の世界に帰れなく なる恐れがある。それだけはなんとしても避けなければならない。此処に紫原 はいないのだから。
−−敦がいれば、空間関係心配する必要無かったのにな…たられば言っても仕 方ないけど。
さてどうするか。赤司が考えた、その時だった。
「いい加減見苦しいわよ、アルルネシア」
冷めた少女の声が響く。ずっと傍観に徹していたベルンカステルが、片手を 上げて静かに告げた。ラムダデルタもまた無言でその隣に立つ。 ベルンカステルは静かな声で、それを宣告した。
「【負けを認めなさいアルルネシア。このゲーム、あなたはもう負けたのよ】」
***
・ ・ ・
95:名無しのミステリー作家 なるほど、そうだったのか
96:名無しのミステリー作家 てっきりベルンカステルってアルルネシアの味方してるのかと…
97:桜 彼女は基本的に、誰某に味方することはない人です。味方するフリはしますけ ど 今回アルルネシアに手を貸したのも、単にいい暇つぶしになるからとか、そん な感じじゃないでしょうか いえ予想ばっかなんですがスミマセン
98:聖先輩 もー桜ちゃんはいちいち謙虚すぎなんだから! 補足すんならぶっちゃけベルンは怒ってたと思うぞ、自分の作ったゲームのル ールを破ろうとしたアルルネシアにな それは正当な魔女の品格を貶めるに等しい行為なわけだから
99:名無しのミステリー作家 出たな変態
100:名無しのミステリー作家 華麗に100げと 変態はもっと謙虚になるべき
101:名無しのミステリー作家 変態はもっと自重すべき
102:聖先輩@あうう 俺のアダ名がすっかり変態で定着しつつあるよーな気がすんのは気のせいでし ょーか(´・ω・`)
103:天M >>変態 日頃の行いの結果です変態爆発しろ
えっと続き話して頂いてもいいですか赤司さん
104:赤 >>103 ああ 僕達の勝ちではあったんだけど、最終的にはベルンカステルが赤き真実でアル ルネシアにトドメを刺したようなものだったな 見た目は少女だけど、彼女はあっさりアルルネシアの魔力放出を止めてみせた。 元老院の魔女は伊達じゃないね でも、トドメを刺したといっても、ゲームが強制終了したにすぎない 結局アルルネシアを倒しきることができず、逃がしてしまったよ
105:E監督
ベルン「悪いけど、こんな礼儀知らずな魔女でもまだ死んで貰っちゃつまらな いのよね。退屈しのぎには丁度いいから」 アルル「退屈しのぎって…!」 ベルン「それ以外の何があるの。自分で仕掛けたゲームで負けたあげくルール を破壊し、魔女の品格を貶めたあんたにいいわけの余地があるとでも?」 ラムダ「ねーベルン、アルルちょっと借りていい?桜ちゃんの友達をイジめた んだし、私もちょっとイラついてるんだけど」 アルル「…っ!?」 ベルン「好きにすればいいわ。こいつの処分はあんたに任せるから」 ラムダ「きゃーありがとーベルン☆」
アルルネシアだいぶ青ざめてたなー GJラムダ!
106:名無しのミステリー作家 こら監督www
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会って、有って。