闇さえも、
 味方につけるべく。
 
 
 
 
 
【キセキファン】
彼らが魔女に浚われた
・最終夜・34
【力を貸して】
 
 
 
 
 
 もし自分も同じ立場で無かったなら。目覚めた瞬間月を殴って説教していた
だろうな、と思う。それが平時の日向順平だ。ああ間違いない。
 だけど今は、違う。日向に伊月を責める資格はない。何故なら自分もずっと
同じことを考えていたから。生きているべきでないのではないか。自分の意志
で無かったとはいえ、赦されないことをしたのは確かなのだ。
 伊月の考えに賛同はしない。しかし否定も出来ない。だから−−もう、どう
すればいいのか分からない。頭の中がぐちゃぐちゃだ。そしてぐちゃぐちゃで
ある今はまだマシと分かっていた。
 落ち着けてしまったら。考えがまとまってしまったらきっと−−自分は答え
を、出してしまうから。
 
「やっぱ」
 
 保健室のベッドの脇で。椅子に座るリコは俯き、そう言った。
 
「やっぱ…覚えてたんだ、伊月君。…日向君もそう、なんだよね?」
 
 相変わらずお前に嘘はつけないな、さすがだよ、と。そう言おうとしたが声
が出なかった。ベッドに横たわったまま日向はリコの顔さえ見ることが出来ず
にいる。言葉一つ、言葉一つ自由になってくれない。
 死にたいわけじゃない。そんなこと断じてない(きっと伊月だってそうだ、
死にたくて自殺を図ったわけじゃないだろう)。だけど−−死んでしまいそう
だった。このまま絶望やらなんやらで、ずるずると息の根を止められてしまい
そうだ。
 そんな事にならないとは知っているけど(知っているから更に死にそうにな
るのだけれど)。もしそうなったら自分は誰に殺されたことになるのだろう。
復唱要求、日向順平は自殺か他殺か?復唱拒否、んなもん自分で考えろダァホ。
−−心の中からもう一人の自分の蔑みきった声がする。
 分かりきってるじゃないか。自分を殺すのは自分でしか有り得ない。伊月は
きっと分かっていたのだ。だから自分に“殺サレル”前に自分で死のうとした、
それしかなかったのだ。
 矛盾してる?ああ確かに。しかしそれは紛れもなく自分達の中で真理なのだ。
 
「…俺は実際その場にいなかったから、あんまり強くどうこう言えないけど」
 
 木吉の困惑と悲壮が綯い交ぜになった声。ああ、自分が怪我をしてバスケが
出来なくなるかもと聞かされた時でさえ彼はこんな声は出さなかった。
 
「でも…やり方を間違えるなよって、そうは言っておく」
 
 だから−−この男が厭なのだ、と。日向は枕に顔をうずめて歯を食いしばる。
 昔から木吉のことは気に食わなかった。恩があるのは確かだしただ“嫌い”
とは違う。友人だとは思っている。だからそれとはまたベクトルの外れた感情
だ。
 厭らしい男。
 自己犠牲が強すぎて、本気で嘆くのはいつも仲間の為ばかりで、それが周り
にとっては不安やら心配やらの種になってばかりなのにまるきり自覚がなく
て。それを言葉の端々に滲ませて。
 最終的に、この男のような聖人になれない自分が、にも関わらず主将なんて
ものに収まっている自分が。そしてこちらの感情を全部理解した上で純粋無垢
な友愛ばかり伝えてくるこの男が−−日向は嫌で嫌で堪らない。特に今のよう
な時はだ。
 どうして思い知らさせる?
 自分にはもう行き場なんて無いのに−−贖いようのない袋小路にいるのに。
どうしてまだ、皆に愛されて赦されている現実を思い出させるのだ。
 いっそ赦されなければ良かった。責められて、罵られたら楽だった。そうし
たら自分は何一つ迷わずに、多分伊月と同じ段階で決断することが出来たのに。
 
「…正しいなんて誰も思っちゃいねぇんだよ、ダァホ」
 
 やっと出た己の声はひきつれて、実に聞くに耐えないものだった。
「つか、正しい事なんて誰にも決められないだろが。ざけんなよ。正しくなく
たって、間違いだと分かってたってそれしか道が無かったらどうすればいい?」
「…日向」
「主将としては伊月をブン殴りたいって思うさ。でも殴れないんだよだって」
 ああ。
 もういやだ。
 
「だって俺も人殺しなんだ…っ!」
 
 生理的なものとは違う涙で、頬が濡れた。もう嫌。もう嫌。なんでこんな事
になってしまったんだろう。
 自分は大切な女の子も、大好きな親友も、この手にかけて殺した。いや直接
手を下さなくたって全ての殺人は自分が犯したに等しいのだ。仲間も後輩もラ
イバルも、みんなみんな死んでいった。自分が魔女になんか取り付かれたせい
で!
「…バカなこと言ってんじゃっ」
「カントク!」
 リコが立ち上がる気配があった。だから日向がそれより早く身を起こして、
叫んだ。
 
「殴るくらいなら殺してくれ!それが出来ないならせめてっ…赦さないってそ
う言ってくれよ!」
 
 手を振り上げたまま、リコが固まった。その大きな眼にみるみる涙が溜まっ
ていく。自分が泣かせた。泣かせてしまった。それが分かっているのに、ここ
で退くわけにはいかなかった。
 自分には彼女に殴られる資格もない。
 
「お前も覚えてるんじゃないのかっ…俺が裏切ったこと!」
 
 日向は意識の片隅から、魔女の残酷無慈悲な行いを全て見ていた。第一夜の
終盤。リコは確かに、日向を信じていた。あの生き残りが少なくなった状況で
まだ、彼女は自分を信じて一緒に来てくれたのだ。
 なのに、そんなリコに、自分は何をした?信頼を土足で踏みにじり、殺した。
何度も逆らおうとした。何度もその手を止めようとした。でも。
 全部全部、駄目で。
「嫌だって言った!こんなことしたくないって叫んだ!なのに声にさえならな
い身体は動かない、カントクやみんなの最期が目に焼き付いて離れない!だけ
ど殺したく無かったなんて言い訳でしかないだろうが!俺が殺した殺した殺し
た殺した殺した殺した殺した殺した殺したッ!しかも赤の他人じゃない、信じ
てくれた奴を殺したんだよ!」
「それはっ…日向君のせいなんかじゃ」
「綺麗なだけの言葉なんか聞きたくないッ!」
 言いかけたリコを遮るように。
 絶叫、した。
 
「誰が忘れてもみんなが生き返っても…あの場所がなくなっても!俺が覚えて
るッ!全部全部覚えてんだよッ!」
 
 どうすればいい?
 否−−どうにもなりはしない。
 
「…カントクだって怖かった筈だろ。あの時俺を信じたこと…後悔しただろ。
なら…頼むからさ…そう言ってくれよ。見限ってくれた方が救われるんだ」
 
 そんな日向にリコは口を開きかけ、しかし何も発されることないままに沈黙
した。泣き濡れた眼が痛々しくて胸を抉る。ああ本当に抉られてしまえばいい
のに、何故絶望で人は死ねないのだろう。
 本当は分かってる。どうすればいいのか分からないのは、リコも木吉も同じ
だ。リコに至ってはあれだけ怖くて悲しい思いをさせたのに、自分はまた身勝
手な理由でこうして傷つけている。
 最低な男だ。自分勝手なのもリコや木吉の優しさも全部分かってるのだ。分
かっているのに思考は堂堂巡りから動けない。
 
「それでも」
 
 木吉が小さく呟くのが聞こえた。
 
「それでも、俺達は…」
 
 その先を。
 聴きたくないと耳を塞いだ自分は、本当に弱いのだろう。
 
 
 
 ***
 
 
 
357:名無しのミステリー作家
定時報告!
そろそろ十二時になるけど、なんか情報見つかったか!?
 
358:病院待機班
俺月先輩の病院行って来た
まだ眠ってるみたいだったから部屋には入ってないんだけど
万が一何かあったらアレだからそのまま張っとく
 
359:名無しのミステリー作家
>>358
乙!
緑間探してる奴らはどうなんだ!?
 
360:
騎士Kに手伝わされてる。万●坂サッカー部の夜だ
くっそ俺の方が年上だってこと忘れてないかあいつ!?
 
ウチのサッカー部総出で渋谷中心に探し回ってるけどまだ見つからない
緑間の写真とデータは貰ってる
あんなデカい奴見失わないだろ
 
361:名無しのミステリー作家
お、新たなコテハン
 
362:名無しのミステリー作家
騎士Kからってことは夜は中学生か
つか学校サボッた!?
 
363:
>>362
サボッたんじゃないサボらさせられたの!まぁいいけどさ…別にE監督夫人か
らなんかお触れ回ってるし
 
364:名無しのミステリー作家
【速報】E監督は奥さんも最恐だった
 
365:名無しのミステリー作家
>>364
結構有名だぞそれ…
ちなみに料理の腕はももーいちゃんレベルだそうだ
 
366:名無しのミステリー作家
(゜д゜ )
 
367:名無しのミステリー作家
(゜д゜ )
 
358:名無しのミステリー作家
(゜д゜ )
 
359:名無しのミステリー作家
( ゜д゜ )
 
360:名無しのミステリー作家
こっちみんな
 
って何それこえええええっ!
 
361:名無しのミステリー作家
美女と美少女は普通料理うまいのがテンプレだろ!?
何故に三人もポイズンクッキングが生まれた!?
 
362:名無しのミステリー作家
そういやJK監督も同レベルだって赤様が言ってたような…
 
363:名無しのミステリー作家
おまいら話戻せ
俺東京の大学生
ダチと一緒に台東区中心に目撃情報ないか探してるけど何も見つからねぇよ!
この辺り来てないのか!?
 
364:名無しのミステリー作家
私今浦和駅!
キセリョファンクラブのみんなでこのあたり探すよ、埼玉なら来てる可能性あ
るから!
 
365:
>>364
ありがとうッス!本当に助かる!
神奈川方面は俺に任せて!
でも多分緑間っちこっちには来ないんじゃないかとは思うけど…
 
366:E監督
>>
可能性はゼロじゃない
一応予防線張っといてくれ!
 
俺今電車乗ってる
もうすぐ上野!こっから展開する!
 
367:名無しのミステリー作家
会社サボった俺参上
秋葉原は任せろっ!ここは俺らの庭だからな!オタク仲間と一緒にGOだぜ!
 
368:名無しのミステリー作家
腐女子なあたし達も手伝う!
(┏ ^o)┓ホモォ…だなんてやってる場合じゃないし!
 
369:名無しのミステリー作家
アキバオタクと腐女子が結託しただと…!?
 
370:名無しのミステリー作家
さすがキセキだ
…こんな事言ってる時じゃないの分かってるけど嬉しい
こんなにキセキや緑間が好きな人がいて、頑張ってくれる人いっぱいいるんだ
から
 
371:名無しのミステリー作家
>>370
そうだな
熊本から俺もみんなを応援するぞ!
 
372:病院待機班
大変だみんな!
 
373:JK監督
みんな助けて!
 
374:
大変なことになった!
 
375:名無しのミステリー作家
!?
 
376:名無しのミステリー作家
三連チャン!?どうしたよ!?
 
377:名無しのミステリー作家
嫌な予感しかしない…
 
378:病院待機班
病院で大騒ぎになってる!
 
379:JK監督
日向君が…日向君がっ!
 
380:
月が病院から消えた
日は保健室からいなくなった!
 
 
二人とも行方不明だ!
 
 
 
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まだ堕ちる先があるというのか。