大丈夫と、
 繰り返し呟く。
 
 
 
 
 
【キセキファン】
彼らが魔女に浚われた
・最終夜・40
【力を貸して】
 
 
 
 
 綺麗な綺麗な、青空は。時にどうしてこう、胸が締め付けられるんだろう。
フェンスを掴み、伊月は空の彼方へ思いを馳せる。
 
「お礼も言いたい人。謝りたい人。本当はたくさん、いたんだ」
 
 数奇な運命を背負う伊月を、いつも陰ながら守り支えてくれた母と姉。自分
にいつも笑顔をくれた大切な妹。同じ運命を分け合った大事な弟。
 そして。バスケットを通して掛け替えのないものをたくさんくれた仲間達。
想いを通じ合ったライバル達。話したいこと、伝えたいことはたくさんあった
けれど。残念ながらもう、全ては未練を語るような段階ではない。
 
「日向。緑間。お前達もそうだろう?……無理に俺に付き合う必要はないぞ」
 
 伊月の言葉に、日向と緑間は揃って訝しげな顔をした。ああ、やっぱり分か
らないか、と思う。どうせ死ぬなら全部話してしまおうか、いっそ。−−いや、
遺される高尾のことを考えるとそういうわけにもいかないか。
 その実。伊月は日向と緑間と同じ場所に立っていない。アルルネシアに取り
憑かれ、仲間を殺した罪に絶望し、贖いを求めているのは確かだが伊月の場合
それだけではないのだ。
 本当に死ななければならない絶対的な理由は、別にある。
 
「…やっぱり、貴方が自殺を図った理由は、他にもあったのですね。…聴かせ
ていただいても構いませんか?」
 
 眼鏡を押し上げながら、緑間が言う。伊月は少しだけ迷ってから、口を開い
た。
 
「……俺には、誰かに知られると命に関わる秘密がある。正確には俺だけじゃ
なくて、家族も巻き込みかねない秘密だ」
 
 宝華鳥の一族。人間に紛れて生き、時価数億の宝飾価値を持つ卵を産む事が
出来る体質から、常に闇ブローカーに狙われ乱獲されてきたアヤカシだ。伊月
はその一人である。宝華鳥だと知られれば途端に金を生み出す為の道具にされ
る。だから自分達はけして、極々身近な人間以外に正体を教えてはならないの
だ。知られたら、危ないのは伊月だけではないのだから。
 十二分に気をつけて今日まで生きてきたつもりだった。一度闇ブローカーに
捕まった高尾を助け出す為に、今は亡き父と無茶をやった事はあるが−−それ
はもう何年も前の話である。そもそもあの件に関わった人間は片っ端から口を
封じたので、もう知っている人間もいない筈だ。
 なのに。
 
「その秘密を、アルルネシアに知られた。…恐らくまた俺は魔女に狙われる。
そうなれば、俺の家族も仲間もみんな危険な目に遭う。心を許さない相手に秘
密を知られたら、死を持って終わらせる。俺達一族の暗黙の了解なんだ」
「…そうですか」
 
 緑間はそれきり何も言わなかった。伊月はちらりと日向を見る。いつもなら
“滅茶苦茶すぎんだろダァホ”とツッコミの一つでも入れてきそうな彼が、今
は随分と大人しい。青ざめたまま、何かを考えこむように俯いている。
 無理もない。仲間を殺して、挙げ句仲間に自殺されかけ、自分が今本当に自
分なのかもあやふやで。立っている場所さえ不確かなのでどうして恐怖を感じ
ずにいられるだろう。
 罪悪感。不安。怒り。悲哀。感情は様々ある。しかし恐らく今何より日向や
緑間を支配しているのは、恐怖であるに違いない。伊月とは違い、彼らは普通
の人間でしかないのだから尚更だ。既に人を殺した経験を持つ伊月でさえ、仲
間達を次々殺めたこの記憶は絶望以外の何者でもない。
 本当は昨夜のうちに、綺麗に終わらせてしまうつもりだったのに−−結局ま
だこうして生きているのは、何の因果だろうか。
 
「俺は此処で終わらせる。これは確定事項」
 
 未練は勿論ある。
 みんなともっとバスケットがしていたかった。みんなともっとたくさん笑っ
ていたかった。たくさん試合をして、たくさんの未来を見てみたかった。
 そして何より。日本一の夢を、叶えたかったのだけど。
 もう、タイムリミットだ。最終夜の零時の鐘はもうすぐ、鳴ってしまう。
 
「でもお前達はまだ、悩む余地があると思うぞ」
 
 緑間があからさまに目を逸らしてきた。我ながら残酷な事を言っている。も
し二人が考えを変えたところで、此処から飛び降りようとしている伊月を放っ
ていける筈がない。そして日向と緑間二人がかりでも伊月を止めるのは不可能
だ。自分は今一番フェンスに近い場所に立っているし、そうでなくとも力量の
差はある。
 日向より緑間より腕力や体格はないけれど、伊月には魔法と翼がある。この
場所ならアルルネシアによる制限はない。もう此処は魔女が支配する異空間で
はないのだ。彼らが止めに来たと分かった時点で、伊月は“飛ぶ”ことだろう。
 だから彼らに選択は二つしかない。伊月と一緒に飛ぶか、伊月を置いて戻る
か。
 
「……何でこんな事になっちまったんだ。いやもう何ッ回も…考えたけどよ」
 
 頭を垂れたまま日向が言う。
 
「俺はお前みたいな度胸ないし。自分で死ねないからお前についてきた。…死
にたくなんかねぇよ。死にたい訳ないだろダァホ」
「それが当たり前だよ。恥じる事なんか何もない」
「けどっ…けどこのままのうのうと生きてくのも嫌なんだよ…生きんのも死ぬ
のも嫌なんじゃ選びようがねぇだろ…っそれに」
「うん」
「自分は生きてちゃいけねぇと思うのに、お前らには死んで欲しくないならど
うすりゃいい」
 
 きっとそれが、彼が悩んで悩んでやっと言葉にした本音なんだろう。日向ら
しいと思う。そしてますます罪悪感が募った。盤上では自分達がそれぞれ互い
を殺して赤字を成立させる場面もあったし、伊月自身日向を殺した記憶もあっ
てそれも理由の一つだったが−−それだけではなくて。
 彼らを想えば想うほど悩む余地を与え、苦しませてしまう事が。本当に辛く
て−−申し訳ない。
 
「日向は相変わらず、優しいよね」
 
 だから本当は自分も日向に生きていて欲しいのだけど。
 それを言ったらもっと苦しませてしまうだろうから。
 
「…ごめんね」
 
 言えるのはもう、それだけだ。
 時間は多分、ない。伊月は魔女でも魔術師でもない為、相手の魂を映し見る
力はさほど強くないのだが。それでも赤司に素質があるのは見てとれる。予知
や霊視が出来る可能性は十分にあると思っておいた方がいい。
 伊月はフェンスに足をかけた。この屋上の入口は封鎖されていたから、一般
の生徒は入ってこない筈。しかし、自分達が無断で入って此処にいることが分
かれば誰が来るとも分からない。
 
「伊月さん…俺は…」
 
 息を呑み、何かを言い掛けた緑間に微笑んで。伊月は一気にフェンスを登ろ
うとして−−次の瞬間、飛び退いていた。
 
 
 
「あっと、惜しいなぁ」
 
 
 
 何だ何故だ、どういうことだ。伊月は混乱しながらも、突然現れた相手をキ
ツく睨み据える。
 イーグルアイでずっと周りは監視していた。屋上に自分達以外誰もいなかっ
た、これは間違いない。
 なのに何故。
 
「どうして此処にいるんですか、円堂さん」
 
 さっきまで伊月が立っていた場所のすぐ隣に。何故円堂が立っているのだ。
ギリギリで気付かなければ腕を掴まれていたに違いない、その場所に。
 
「どうやって現れたんですか。貴方に空間移動の能力は無いと聴いていました
けど」
「誰から聞いたんだよ?ま、正解だけどな」
「なっ…なん」
 
 緑間と日向は唖然とした様子で円堂を見ている。彼らは円堂が出現した瞬間
を見たのかもしれない。空間を切り裂いたのか、文字通り光のようにワープし
てきたのかは知らないけれど。
 バタバタと複数の足音。伊月はらしくもなく舌打ちしていた。イーグルアイ
が円堂以外の影も捉えたのだ。自分の知っている人間ばかり、円堂以外に六人
もいる。
 黄瀬、黒子、リコ、木吉、高尾、剣城。驚いた。まさかこの人数を一気にア
ポートできる能力者がいただなんて。
 赤司がいないのにも理由があるのだろうか。場所をドンピシャリで当ててき
た時点で既に驚異的だと言うのに。
 
「…鬼ごっこは、終わりにしましょう」
 
 剣城が少しだけ悲しそうに、それでいて決意を秘めた眼で、言った。
 
「伊月さん、貴方の負けですよ」
 
 
 
 ***
 
 
 
 
 
792:名無しのミステリー作家
今まさに、E監督達が緑間達を説得してる頃、かな?
 
793:名無しのミステリー作家
さすがに最中は実況出来ないよなぁ…
 
794:
僕も連れてって欲しかったとか思ってスミマセン…
 
ぐすん(´;ω;`)
 
795:名無しのミステリー作家
おい桜タソがいじけてるぞ
 
796:名無しのミステリー作家
桜タソは頑張ったって!
人数制限あるから仕方ないって!
 
797:名無しのミステリー作家
いじけた桜タソまじかわprprhshs
 
798:名無しのミステリー作家
>>797
阻止
 
799:名無しのミステリー作家
>>797
阻止
 
800:
>>797
阻止
 
801:
>>797
阻止
 
802:名無しのミステリー作家
>>797
阻止
 
803:名無しのミステリー作家
兄貴と霧タソがさらっと混じってるwww
 
804:
変態はこの世から滅べばいいと思うよ心の底からそう思うよとりあえず逝っと
 
805:名無しのミステリー作家
怖っ!?
 
806:797
すみませんでしたあああっ!
 
807:聖先輩@土下座
まじすんませんでしたああああっ!
 
808:名無しのミステリー作家
おいこらwww
 
809:名無しのミステリー作家
変態に反応しすぎな聖先輩まじワロスwww
 
810:名無しのミステリー作家
リアル土下座してそうだなおいwww
つかお前くろちゃんのノリに参加してる場合じゃないだろ
むっくんと赤様は無事なのか?
 
811:聖先輩@こわいよまじこわい
>>810
今最新設備と、俺の仲間の魔法療養士が頑張ってくれてるから大丈夫
二人ともアルルネシアにかなり精神的ダメージ食らってたみたいだ、本人達が
思ってた以上にへばってたらしい
そこで魔力一気に使い果たしたからなぁ
でも命に別状はないよ、何日か昏睡続くかもだけど
 
…眠ってるむっくんに抱きつこうとしたら鋏飛んできた
赤司寝てる筈なのにどゆこと!?
 
812:名無しのミステリー作家
そうか、良かった…
 
っておいそこの変態www
 
813:名無しのミステリー作家
赤様安定のポルターガイストだと!?
 
814:名無しのミステリー作家
【速報】赤様の鋏は寝ていても健在
 
815:名無しのミステリー作家
さすが赤司様や…!
 
816:名無しのミステリー作家
赤司も頑張ってくれたし
きっとE監督もやってくれるよな!
 
817:名無しのミステリー作家
おう
俺らは信じて待つぞ!
 
818:
しかし意外だったな
まさか緑間達がいるのが、帝光中の屋上だなんて
 
どうしてそこだったんだ?
 
 
 
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コトバはチカラを生み出す。