小さなほころびから、
 容易く崩れる世界だとしても。
 
 
 
 
 
【キセキファン】
彼らが魔女に浚われた
・最終夜・43
【力を貸して】
 
 
 
 
 
「円堂監督っ!?
 
 背中で、剣城の悲鳴に近い声を聴いた時にはもう、円堂はフェンスを乗り越
えて飛び出していた。五階建ての屋上からのダイブだ、時間の猶予などない。
あっという間に落下して、自分達はお陀仏だろう。実質六階の高さだと確実に
死ぬ高さではないと言われるが、頭から落ちれば死亡率は限りなく高い筈だ。
 
――守れなかったものが、たくさんあった。
 
 大切なものをたくさん持ちすぎて、だけどそれが幸福で。幸福すぎるゆえに
守れなかったものがまた山のようにあって。
 赤司に語った親友――風丸の件だけではない。中学時代の円堂の体験は、一
般人には到底想像つかないであろうほど壮絶なものだった。
 エイリア学園との闘争。
 アルルネシアに運命をぐちゃぐちゃに踏み潰された孤児達−−ヒロト達との
悲しい戦い。
 暴行された挙げ句、闇の中で命を絶たれて、さらにはアルルネシアの手駒に
された友人・鬼道。
 袋小路に追い込まれ、それでも父親としての愛を忘れなかった影山零治。親
友を誤解して洗脳され、追いつめられた佐久間や源田。
 重すぎる精神外傷を抱えて壊れていった吹雪。
 サッカーを巡る陰謀に利用され、ガルシルドの実験動物にされていたブラジ
ルチームの子供達。
 ボロボロになっても戦う事を選んだ一之瀬。
 フィフスセクターに翻弄され続けた剣城達シードと、サッカーを奪われてき
た神童達。その闇をたった一人で背負い続けた、豪炎寺。
 
−−俺にもっと力があれば。そうしたら守れた筈だって。そう思うのが傲慢な
のは分かってる。でも。
 
 守れなかったことを、中学時代からずっと後悔してきた。自分を責め続けて
きた。だけどただ責めるだけでは、かつて死を考えて雨に打たれ続けたあの日
と何も変わりはしない。自分はもう、幼い子供ではないのだ。前に進め。立っ
て歩け。足が折れたら張ってでも。円堂は自らの運命に従い――修羅に生きる
道を、選んだ。
 大人になった今だから、きっと出来る事がある筈である。もう二度とヒロト
や風丸のような悲しい子供を出さない為に。目に見える範囲だけでも、自分に
救いを求めるその子達だけでも−−抱きしめ続けると決めた。誰かの為でなく、
自分自身が納得して生きてゆく為に。
 自分以上に自分勝手な男はいない。とんだエゴイストだ。しかし自らのエゴ
に執着するからこそ、円堂は迷わないのである。
 もう。自分の為に生きるのを躊躇ったりは−−しない。
 
「“Airo”&“Gravide”ッ!」
 
 風魔法と重力魔法で一瞬だけ自らの落下スピードを加速させ、伊月の手を掴
んでいた。少年の眼が見開かれる。どうして、とその唇が動いた。
 円堂は叫ぶ。
 
「離すもんか!」
 
 刹那の時の中、溜め込んだ想いを吐き出した。
 
「もう俺は誰の手も離したりしない!助けてって叫んでる奴なら尚更な!」
 
 金色の光が溢れ出す。円堂は土属性魔法があまり得意ではなかった。斥力を
発生させる魔法もあるにはあるが、この土壇場で成功させる自信はあまりない。
 だから今自分が出来る中で、一番確率が高い方法を選んだ。伊月の身体を抱
きしめて、右手を地面に向ける。そして。
 
 
 
 
 
「ゴッドハンド……V!」
 
 
 
 
 
 必殺技を叩きつけた。地面に向けて放たれた強大な金色の手が、落下の衝撃
を大幅に吸収する。あちこちで悲鳴が上がった。集まってきていた者達だろう。
 あ、これはギリギリで吸収しきれないや。でもまあ仕方ないか。円堂はどこ
か楽天的な頭で考え、伊月を庇って背中から落下した。結構派手に落ちたが、
下は運良く花壇だったらしい。思ったほど痛くはなかった。
 
「あたたた…うわちょっと無茶しちった…」
「え、円堂さん!大丈夫ですか!?
「おー大丈夫ー」
 
 肩と背中をさすりながら身を起こせば、青ざめた顔の伊月と目があった。背
中も肩も結構痛いが幸い折れてはなさそうだ。打ち身と擦り傷でしばらく動く
のが辛いだろうけれど。
 というか伊月もあまり無事ではなさそうだ。本人は驚きからまだ気付いてな
さそうだが、その左腕は血だらけになっている。顔色が悪いのはそのせいもあ
るだろう。落ちた衝撃で手首の傷がすっかり開いてしまったらしい。
 まずは病院に電話しなければ。ああでも、伊月の身体が身体だから普通の病
院はあまりよろしくないだろうか。携帯が無事で良かったなあと思いつつ、円
堂は電話を取り出す。
 
「……貴方が怪我する必要なんてなかった。下手をすれば死んでましたよ」
 
 アドレス帳を呼び出す円堂の傍ら、伊月が俯いて言う。
 
「逢ったばかりの俺をなんでそうまでして助けるんですか?そもそも俺は自分
で死のうとしたし…助けてもらったってどうにもならないのに」
 
 彼が何を隠しているか。実は円堂は既に知っていた。アルルネシアが赤司に
見せた過去幻想には、伊月の殺害シーンのそれもあった為だ。確かに伊月は犯
人の一人。彼が第三者に殺されたというのはまごうことなき幻想だ。しかし、
彼がアルルネシアにされた仕打ちそのものはけして幻想では無かった筈であ
る。
 魔女は伊月を乗っ取る際、彼の精神を瀕死へ追い込む為にあらゆる残酷を辞
さなかった筈だ。その際きっと彼が宝華鳥の一族である事もバレたのだろう。
人間以上に宝華鳥の誇りを汚すのは容易かった筈だ。キス一つされるだけで、
彼にとっては強姦されたに等しい結果が待っているのだから。
 伊月が死ななければならないと、そう判断した理由は。アルルネシアに秘密
がバレて、好き勝手な真似をされたからではないだろうか。
 本当は誰かに助けて欲しいのに。助けて貰う手段などないから、大事なもの
の為に諦めるしかなかった彼。しかもその理由を、誰かに話す事さえ赦されな
くて。
 
「え、円堂さん!?
 
 円堂は黙って、伊月を抱き締めていた。高校生。まだまだ子供だ。この細い
身体で、それだけの重荷を全部背負い込もうとした――小さな、子。
 
「お前は強いよ。本当に、頑張った」
 
 頭を撫でると、抱き締めた身体が震えた。今一番すべき事は彼を責める事で
も問い詰める事でもない。
 頑張ったね、と。ただただその背を撫でて支えてやることだと分かっていた。
 かつて自分も。誰かにそうやって抱き締めて欲しいと、そう願っていたから。
 
「こんなに頑張ってるお前を、みんなが好きにならない筈がない。…周りを見
てみろ」
 
 円堂が身体を離すと、伊月の目は潤んでいた。その眼が、周りの景色を捉え
て−−静かに、雫を零した。
 人がたくさん、いる。屋上から見つめている黒子や黄瀬達。伊月とバスケッ
トを通じて知り合った笠松や宮地達のようなライバル。円堂の知らせを聴いて
協力してくれていたフィディオや夜桜や幽谷、中谷、風丸、晴矢、アフロディ
達サッカー仲間。そしてくろちゃんねるを通じて助けに来てくれた、名前もし
らない大人達子供達。
 屋上からでは気付けなかったのだろう、大勢の“絆”が−−自分達を、見守
っていた。
 
「みんなお前を、お前達を助けたくて此処にいる。確かにお前が悩んでる本当
の理由を殆どの人は知らないけど。お前を助けたい気持ちだけは、確かなんだ
よ」
「…円堂、さ…」
「これが本当の最終夜だ。悪い夢は、これでおしまい」
 
 これが円堂の答え。
 円堂の魔法だ。
 
「これからまたどんな悲しい事が襲ってきても。俺達は何度だってお前を助け
に行くよ。俺は何度だってお前を護るよ。…つまりは…それが答えだ」
 
 何度でも舞い上がればいい。
 自分達を信じてくれていい。
 
「お前が飛んだら何回だって俺が、受け止めてやるからさ。信じてくれないか、
俺達を。お前が何を抱えてても、どんな未来が待っていても・・・守り続けるって
そう、誓うから」
 
 この腕は、誰かを抱き締める為にあるのだから。
 
「…やめて下さいよ、そういうの…っ」
 
 伊月がしゃくりあげる。円堂はその頭を撫でて思う。
 泣いていいのだ。まだ君は、子供でいい。生きて、生きていけばそれでいい。
 
「また…生きたくなってきちゃったじゃないですか…っ。カッコ、わる」
「生きてりゃカッコ悪いのは当たり前だって。っていうか」
 
 純粋に、祈るように。今を生きる。
 
 
 
 
 
「それが生きるってことなんじゃないか」
 
 
 
 
 
 だってこの世界はいつだって、君の為に存在するのだから。
 
 
 
 
 
 ***
 
 
 
 
 
 
 
967:名無しのミステリー作家
E監督
 
968:名無しのミステリー作家
まじ
 
969:名無しのミステリー作家
カッコよすぎだろおおおおっ!
 
970:名無しのミステリー作家
>>967969
おまいらケコーンヽ(*゜Д゜)(゜Д゜*)
 
971:
ほんと、最後の最後で美味しいところかっさらわれちゃいましたよ
 
972:聖先輩@ぐぬぬ
そーだそーだ!
伊月タソは俺が華麗にお姫様だっこしたかったのに!
 
973:名無しのミステリー作家
>>972
変態ひっこめ
 
974:名無しのミステリー作家
>>972
変態爆ぜろ
 
975:名無しのミステリー作家
>>972
変態タヒね
 
976:天M
>>972
変態もげろ
 
977:名無しのミステリー作家
安定のwww
フルボッコwww
 
978:聖先輩@うわああん
お前らほんと酷いマジ酷いってか天M混じってるんだけど俺一応先輩だってこ
と思い出して!
もげろとか怖すぎるうううっ!
 
979:
自業自得以外の何者でもないだろ
あ、今度俺の尻触ってきたらピューリムの箱につっこんで花火にしてやるから
 
俺は男の娘じゃねええっ!
 
980:疾風DF
俺も断じて男の娘じゃない!もう24歳立派な大人!
 
981:名無しのミステリー作家
>>夜&疾風DF
いや何があったんだよお前らwww
 
982:名無しのミステリー作家
おっと、このスレももうじき終わりだな
この事件一つですんごい数スレ使ったような気がするんだけど気のせいか?
 
983:
>>982
いや間違いなく気のせいじゃねぇよwww
 
984:騎士K
辛い事はたくさんあったけど
傷ついた人もたくさんいたけど
まだ、これで全部解決できたわけじゃないけど。
 
みんな生きていてくれて本当に良かったです
もう今はそれ以上の言葉はないですよ
 
985:名無しのミステリー作家
騎士Kが超良い子
 
986:名無しのミステリー作家
目が覚めたら赤司様とむっくんにもスレの内容見て確認して欲しいな
 
987:名無しのミステリー作家
E監督も騎士Kもすっごく良い事言ってくれたもんな
 
988:
誰かが作った物語はここで終わり。
でもまだハッピーエンドじゃないんです。
 
989:黄瀬
そうッスね
本当のハッピーエンドはこれから俺らで作ってくんだから
 
990:名無しのミステリー作家
よし、みんなラスト締めんぞ!
>>1000ならオカ版にE監督夫人登場!
 
991:
>>1000なら
俺と高尾はいつまでも相棒なのだよ
 
992:名無しのミステリー作家
>>1000ならアルルネシアはもう来ない!
 
993:名無しのミステリー作家
>>1000ならもう誰も死んだりしない!
 
994:E監督
>>1000ならみんな笑顔!
 
995:疾風DF
>>1000なら俺はもう男の娘とか呼ばれない!
 
996:名無しのミステリー作家
>>1000ならラムダちゃんにまた逢える!
 
997:
>>1000なら勝つんはウチや
 
998:
>>1000なら赤司さん達とサッカーできる!
 
999:
>>1000なら俺らはずっと仲間だ
 
1000:
>>1000ならこれで夜明け
 
僕らはもう、大事な事を忘れない
 
 
 
1001:名無しのミステリー作家
このスレッドは1000を超えました
もう書けないので新しいスレを立てて下さい。
 
 
 

 

生きて、生きていいの。