あらゆるバッドエンドを
 僕等が今踏み越えて行く。
 
 
 
 
 
【キセキファン】
彼らが魔女に浚われた
・最終夜・6
【力を貸して】
 
 
 
 
 
 犯人の目星はつけてある。しかし、確たる証拠はない。警察も医者もいない
のだからそれは致し方ないことではある。そしてそれらを補える唯一のものが、
赤き真実であることも知っている。
 静まり返る大聖堂で、赤司は一人口を開いた。
「まずは事件を再構築させて貰おう。第一夜からだ」
「いいわよ」
 アルルネシアはパチンと指を鳴らした。すると大聖堂のステンドグラスに、
まるでモニターのように映像が映し出される。
 
「第一夜のみ、スタートは七時からになってるわ。ただし、七時から八時の間
は十一人全員がバラバラに動き回っていたから、アリバイもへったくれもない。
それは貴方も分かってるわよね?」
 
 もしあの時皆でまとまって行動していれば−−なんて。今そんな事を言って
も仕方ない。後の事件を考えればこれはアルルネシア側からの干渉だったとも
解釈できる。皆が最初から団体行動に徹していれば事件は一つも起きないまま
零時を迎えていたかもしれないのだ。
 今だから分かる。これが赤司にとって一番救いようのない事態であったとい
うことが。
 
「全部が動き出したのは八時になってからだ。僕達は玄関ホールに集まってい
た。しかし既にこの時、紫原と伊月さんは行方不明だった」
 
 【黄瀬が一番最初の犠牲者ではない。】これは赤で確定されている。ならば、
紫原と伊月のどちらか片方、あるいは両方が、黄瀬の遺体発見以前に死亡して
いたことになる。
 本来ならどちらが死亡していたか生存していたかは赤で確定させてしまいた
いが。恐らくこれを要求したところで、アルルネシアもさすがに赤でペラペラ
と喋ってはくれないだろう。
 
「八時二十分くらいだったか。僕達は三つに班分けして、一階探索を始めた。
僕と青峰と高尾は風呂場や書庫、外への鉄扉がある右廊下。日向さんと相田さ
んと黄瀬は玄関ホール待機。そして黒子と緑間と火神は左廊下探索組だった。
そこでだ」
 
 だから要求するのは別のことだ。
 
「アルルネシアに復唱要求!“日向さんと相田さんは僕らが一階探索から戻る
八時五十分までの間、一度も玄関ホールを離れていない!”加えて“同じ時黒
子、緑間、火神は一階左廊下ゾーンから離れていない!”もちろん黒子達の場
合、玄関ホールに集合した時は除くよ」
 
 初っ端から賭だった。この復唱要求が通るか否か。そして−−実は“全て通
ってしまうと困るのは赤司の方”である。
 そんな赤司の思惑を知ってか知らずか、アルルネシアはニヤニヤ笑いを崩さ
ない。
「そうね、半分だけ応じてあげるわ」
「半分?」
「ええ。【第一夜にて。日向順平、相田リコの二人は一階探索時一度も玄関ホ
ールを離れてないわ。】ついでだから教えてあげるけど【一階探索時の日向順
平及び相田リコの証言にも嘘はないわね。】そしてもう一つの黒子ちゃん達の
方だけど…こちらは復唱拒否させて貰うわよ」
「…言えないってことか?」
「さぁ?どうかしらねぇ」
 復唱拒否をする理由は大まかに分けて二つあるだろう。一つは本当に言うこ
とが出来なかった場合。もし黒子、緑間、火神のいずれか一人でも左廊下エリ
アから抜けていた場合、この赤は成立しない。だから、言えない。この可能性
が一つ。
 もう一つは、わざと言わないことで赤司のミスリードを誘い、土壇場でひっ
くり返す切り札として隠し持つ場合だ。残念ながら今の赤司にはアルルネシア
の意図がどちらであるかを図ることは出来ない。しかし。
 
 もし前者ならば。赤司の今描いている推理は−−破綻せずに済む。
 
 そしてついでにもう一つ、アルルネシアは予想外の赤を恵んでくれた。【玄
関ホール待機時についての日向とリコの証言に嘘はない。】つまり彼らが喧嘩
したのも、二階で物音を聴いたのも、黄瀬が自らの意志で単身二階に調べに行
ったのも全て真実ということになる。これは大きな収穫だ。二階に何らかの罠
でも仕掛けてなければ、少なくとも黄瀬殺しに関して二人はシロということに
なるのだから。
 
「…次だ。九時から二階の探索が始まった。青峰、緑間、相田さん、黒子の四
人が二階を調べ、残りのメンバー全員が玄関ホールに待機した。ここで言う残
りのメンバーとは僕、日向さん、高尾、火神の四人を指す。この時行方不明は
伊月さん紫原黄瀬の三人だった」
 
 さて、ここで青峰達四人が全員犯人側として結託してないと信じたいところ。
彼らは二階で、生きた人間も遺体も見ていないと証言しているが。
 
「復唱要求。“二階探索が始まった九時から黄瀬発見までの間、探索班以外で
二階に隠れ潜んでいた人間はいない”それともう一つ。“黄瀬は黒子が遺体を
発見時には死亡していた”言えるか?」
 
 二階にもし誰かが隠れていたなら、犯行可能な人間はまた増えてしまう。そ
して探索もまた無意味なものになる。
 
「いいわ、応じてあげる。【二階探索時、黄瀬君が発見されるまでの間二階に
いたのは青峰大輝、緑間真太郎、相田リコ、黒子テツヤの四人のみよ】そして
【黄瀬君は黒子君が見つけた時既に死亡していたわ】。ふふ、さてどうかしら?」
 
 アルルネシアはまだまだ機嫌がいいままだ。魔女のゲームにおいてヒントの
多発は身を滅ぼすと分からないはずもないのに−−ひたすらひたすら、赤司の
狙うまま赤を連発してくれる。
 油断しているのか。あるいは赤司を罠に嵌める為の策なのだろうか。
 
−−第一発見者は疑えという法則がある。しかしさすがに考え過ぎだったか。
黒子が見つけた時に黄瀬が既に死んでいたなら、黄瀬に最初に駆け寄った人間
が刺したという可能性は消える。そもそも【遺体として外に出たのは黄瀬涼太
のみである】という赤がある以上潜るのは難しかったんだけども・・・。
 
 あといくつアルルネシアが赤をサービスしてくれるかは分からない。質問も
慎重に選ぶべきか。赤司は思考をめまぐるしく回転させる。
 もし自分の考えている者達が犯人ならば。どうしてもクリアされなければな
らない条件がいくつもある。その為に要求必須な赤は。
 
「…復唱要求。“黄瀬、黒子、緑間の三人は全員他殺である。”加えて“第一
夜のブレーカーは犯人自らがその場にいてその手で落とした”」
 
 さて、どう来る。
 
「前半の復唱は拒否するわ」
 
 向こうでラムダデルタとベルンカステルが何やらひそひそと喋っている。そ
れを一瞥し、アルルネシアは妖艶に唇を動かした。
「後半の要求は【認めてあげる。ブレーカーに小細工なんかしてないわよ、犯
人がふつーにその場にいて落としたんだからね。】さぁ、そろそろいいかしら?
第一夜に関する復唱サービスは締め切らせて貰うわよ。貴方の推理を聴かせて
頂戴な」
「…いいだろう」
 まだ訊きたいことはあったが、まぁいい。これからこちらが青き真実で突き
刺していけば、否が応でもあちらは赤で返さざるをえなくなるのだから。
 
「第一夜、まずはその結論から言おうか」
 
 赤司の手に、金の柄に紫色の宝石が嵌まった杖が現れた。黄瀬の魔術武器が
スピアであるように、赤司の魔術武器はこの杖である。赤司は良くも悪くも魔
術師らしい魔術師だった。武力よりも言霊で呪いをかける方を得意としている。
 それは赤き真実と青き真実のぶつけあいにも同様で。
 
「天命の魔術師、赤司征十郎の名において青き真実を宣言する」
 
 青き真実とは魔女を打ち破る仮説の剣。防ぐには魔女サイドも赤き真実の剣
で応戦する他ない。
 赤司は一つ息を吸い込み、そして。
 
「僕は…《第一夜にて。緑間真太郎、黒子テツヤ、火神大我犯人説を主張する!》
 
 一気に、抜刀した。
 
 
 
 ***
 
 
 
 
 
843:ねぇあたし、トイレの名無しさん
 
844:ねぇあたし、トイレの名無しさん
は、犯人まさかの三人だと…!?
 
845:ねぇあたし、トイレの名無しさん
緑間と黒子と火が犯人!?え、なんで!?
 
846:E監督
実は俺も緑間のことはだいぶ疑ってたんだけど…そうきたか赤司
みんな、赤司が上げた三人の共通点が分かるか?
この三人は一番最初の一階探索時…つまり黄瀬がいなくなった頃だな
左廊下を探索していた三人なんだ
 
847:ねぇあたし、トイレの名無しさん
ああ!
 
848:進化するまとめ班
俺急いで第一夜に適用される既出赤字と復唱拒否まとめた!
 
【犯人は人間に化けた魔女である。】
【この洋館のいる人数は十一人以下である。】
【魔女は人間のトリックと力で犯行を行う。装飾された幻想の裏側に真実はあ
る。】
【十一人全員生きた状態で、誰か一人でも屋敷の外に出たのは一階探索時の赤
司、青峰、高尾。及び黄瀬の遺体を発見した時のみである】
 
【遺体として外に出たのは黄瀬涼太のみである】
【一番最初の犠牲者は黄瀬涼太ではない】
【伊月俊は他殺である】
【緑間真太郎は黒子テツヤを殺していない】
【零時にて全ての夜は幕切れとなる】
【午前零時を過ぎた時点で、屋敷内で生き残っていた人間はいない。午前零時
まで生き残っていたのは赤司、青峰、火神の三人のみである。他の人間はそれ
以前に死亡している】
 
 
長くなったから一端切る
 
 
849:進化するまとめ班
 
続き
 
【魔女を見つけ出さない限り、誰一人現実に帰還することはできず、零時には
必ず全員が死亡する】
【全ての夜、全ての事件はノックス十戒に背かない】
【探偵は赤司征十郎であり、赤司は一切の殺人を犯さず意図的に手を貸すこと
もない】
 
【全ての夜、事件においてピッキングによる密室工作は全て無効である】
【全て夜において、部屋の外から密室を作り出すことは不可能である】
 
【第一夜にて。日向順平、相田リコの二人は一階探索時一度も玄関ホールを離
れてない。】
【一階探索時の日向順平及び相田リコの証言にも嘘はない】
【二階探索時、黄瀬君が発見されるまでの間二階にいたのは青峰大輝、緑間真
太郎、相田リコ、黒子テツヤの四人のみ】
【黄瀬君は黒子君が見つけた時既に死亡していた】
【ブレーカーに小細工なんかしてない、犯人がその場にいて落としたんた】
 
これが第一夜の赤字の全部だ
んでもってアルルネシアが復唱拒否したのは
 
“黒子、火神、緑間の三人は一階左廊下エリアから離れてない”
“黄瀬、黒子、緑間は他殺である”
 
の二つだな
 
850:ねぇあたし、トイレの名無しさん
まとめ班は進化したのか!乙!
 
851:ねぇあたし、トイレの名無しさん
しかし、確かにまとめで見ると緑間はだいぶ怪しいよな
黒子殺しの犯人にはなれないけど…あ。
 
852:指揮者
なるほど
確かに緑間さんは黒子さんを殺せません。【緑間さんは黒子さんを殺してない】
という赤がある以上有り得ないです
だけど
 
緑間さんが黒子さんの自殺を見逃したなら
あるいは協力しただけならその赤は潜れる
つまりそういうことですね?
 
 
 
NEXT
 

 

捕縛して捕殺せよ。