<警告>*この話には、軽度のグロ&流血&嘔吐描写があります。 ついでに死ネタも有り。この辺りを考慮してR13指定とさせていただきます。 よって“身体年齢”が十三歳に満たない方は閲覧をご遠慮下さい。(精神年齢でなく身体年齢であることに留意。小学生の方は駄目ですよ!!)内容的に苦手だ!という方も即行逃げることを全力でお勧めします。 問題ない方のみ、下へスクロールしてご覧下さい。 闇の中の闇。 死んだのが自分だったら、どれだけマシだっただろう。 その時、世界は喪われた。Lost World 闇が照らす闇。黒の中の黒。悪夢の中の悪夢。佐久間はそんな中にぽつんと立たされていた。何一つ、抗う術も無いままに。 真帝国学園にやって来て。佐久間を支配したのは自分達を捨てた鬼道への憎しみと、彼を見返してやりたいという闘争心。そして暗く淀んだ勝利への渇望。 その全ての欲望を満たす為に、一度は決別した男に再び忠誠を誓い。体を痛めつけてまで禁断の技を学んだ。 あとは奴らが愛媛にやって来るのを待つのみ。試合で鬼道を、雷門を徹底的に叩き潰すだけ。それで自分達の今日までの苦悩は全て報われる。 その筈、だったのに。−−何でこんな事に、なった? 隣には自分と同じように、愕然とした様子で立ち尽くす源田。カラン、と音を立てて金属が地面を転がる。ドス黒い色が柄まで染み込んだナイフが。 薄暗い闇。埃っぽい体育倉庫。闇に慣れた眼は、その姿をはっきり捉えていた−−皮肉なほどに。 跳び箱の影。 打ち捨てられている、細い身体。 明るい茶色の髪はほどけて緩やかなウェーブを描き、地面に散らばっている。滅多に見る事の叶わなかった切れ尾のルビーの瞳は、光を失い、虚ろな眼で天井を見上げている。 いつもマントを翻す背中ばかり見ていたから、気付かなかった。彼はまだまだ幼い、とても小さな子供の身体をしていた。投げ出された手足は考えていたよりずっと華奢で、ほっそりとしたものだった。 その足首はおかしな方向にねじ曲がっている。左手も折れているのが明白で、鬱血し、白い肌を黒く染めている。 何よりも異様なのは、少年の胸や腹や太ももを中心に無数に刻まれた切り傷。肌ごと切りさかれた服はビリビリになり、赤い滴を垂らしながら僅かにまとわりつくのみ。半裸の少年の身体はまるでゴミのように放り出されている。 ズタズタの青いマントも、雷門ユニフォームも、レンズの砕けたゴーグルもトレードマークだったドレッドヘアーも、見る影もない。「……ぁ…」 佐久間の喉からは、掠れたような音しか出なかった。 顔が綺麗なままでなかったら、それが誰か分からずに済んだのに。 いや−−どちらにせよ同じ。自分と源田はこの場にいて全てを見ていたのだから。それどころか荷担した。全ての悲劇に、暴虐に。 自分達が、鬼道有人を殺した。 まるでボロ雑巾のように、打ち捨てられた鬼道の遺体。その死んだ赤い瞳に責め立てられている気がした。 恨まれていない筈がない。彼だってまだ生きたかった筈なのに、自分達がそれを奪い去ったのだから。 さっきまで憎む側だった自分達の立場は、あっという間にひっくり返った。 さっきまで佐久間の胸をあれほど焦がしていた黒い焔が、今は跡形もなく消え去っている。そして消え去って初めて理解した。自分達は鬼道を憎んでいたが、それは殺意ではなかった。 自分達は愛していたからこそ憎んだ。 本当はただ彼とまたサッカーがしたかっただけで−−その想いが強すぎて裏切られたように感じてしまっただけなのだと。 鬼道が死んでしまってから、漸く。「ち…違う…」 みしり、と胸の奥から鳴った音。ずっと気付きながら無視していた音。 歯車が噛み合わずに擦り切れていく、音。「こんな…こんな事したかったわけじゃ…」 源田の呟きが聞こえた。それまそのまま佐久間の心の代弁。 憎しみが消えて今、残っているのは喪失感と恐怖。そして深い深い、絶望。一番の望みを自らの手で断ち切ってしまった、逃げ場のない後悔。 鬼道は喋らない。笑わない。怒らない。もう二度と。「いや…嫌だ…っ」 こんな筈じゃなかった。 ただ鬼道が気付いてくれればそれで良かったのに。「うわあああっ!!」 血の匂い。死んだ人間の血と肌の感触。責め立てる赤い眼、眼、眼。 喉が潰れるほど絶叫して頭をかきむしって−−佐久間の意識はブラックアウトした。「嫌だぁぁぁっ!!」「佐久間っ!?」 瞬間、世界は反転していた。さっきまであんなに暗い場所にいたというのに−−辺りは真白い光に満ちている。 そして一番最初に目があった源田は、夢の中より髪が短くて、何より困惑した眼で自分を見ていた。「あ…」 混乱の波が過ぎ去っていく。佐久間は呆然としたまま、周りを見回した。 漂っていたのは生臭い鉄錆の匂いではなく、病室特有の薬くさい空気。自分のユニフォームをうっすら汚しているのは血ではなく、見慣れた土と砂。 どうやら自分が帝国学園の保健室にいて、そのベッドに寝かされているらしい事を理解する。−−さっきのは…夢?あれが…? まだ心臓が煩いくらいバクバクと鳴っている。現実を認識したというのに、未だに信じられなかった。 それくらいあの黒い景色には、リアリティがありすぎた。「だ、大丈夫か佐久間?滅茶苦茶魘されてたぞ」 心配そうに自分を覗きこんでくる源田。「覚えてるか?お前、練習中に熱射病で倒れたんだ。水分補給もしないで無茶するから」 源田の声が、遠い。全身を冷たい汗が濡らしていた。頭がガンガンと痛む。本当なら夢で良かったとほっとするべきなのに−−喜ぶどころか未だに恐怖が拭い去れない。 気持ちが、悪い。「……佐久間?」 真正面から源田の顔を見て。その眼が虚ろに開いた鬼道の遺体、その赤い瞳と重なって−−。 ハッキリと、全てを思い出してしまった。「−−−ッ!!」 口元を抑えて、ベッドから飛び降りた。腹の底から突き上げる感覚。保健室を飛び出して、走り出す。 辿り着いた一番近い水場で、強かに吐いた。胃には殆ど何もなくて(昼食前だから当然と言えば当然か)、こみ上げるのは酸っぱい胃液ばかりだったが。 えずくたびに涙が溢れ、視界を滲ませた。頭の痛みは酷くなるばかりだ。ふと背中に温かな感触があって、振り向くと源田が立っていた。「ゆっくり息をしろ。とりあえず、落ち着け」 背中をさする手が温かくて、別の涙が溢れそうになる。背中をゆっくりさすられて、頭痛と吐き気が少しずつなりを潜めていく。「……悪い、源田」「構わないさ。困った時はお互い様だ」 たかが夢。そう笑い飛ばせない自分が惨めで、虚しくて、苦しかった。 しばらくの時間をえて。気持ちが落ち着くのと同時に、動悸もあらゆる苦痛も遠ざかっていった。源田に支えられながら、保健室へ戻る佐久間。「…あんな酷い夢、初めてだったんだ」 源田には、話さなければならない気がした。単に不調の面倒を見て貰ったからだけではなくて。 彼はその最低最悪の悪夢の登場人物で。あの時の痛みを唯一共有できる人間だったから。 帝国で、共に墜ちた事があるのは彼だけだ。「真帝国学園の時の夢だ。…雷門と戦う為に、俺達ずっと愛媛で特訓してただろ」「……ああ」 源田も思い出したくない話だろう。やや眉をよせて、佐久間の話を聞いている。「ある時な。…俺達、帝国学園に連れてかれるんだ。で、グラウンド横の体育倉庫ってあるだろ。あそこに入ったら…そこで鬼道が一人で待ってて」 誰に連れて行かれたがよく思い出せない。影山ではなかった気がする。ただ、がっしりした三人の男達が一緒にいたのは確かだ。「俺達…怒りに任せて、鬼道に暴力を振るうんだ。何度も殴ったし、何度も蹴り飛ばした。なのに…鬼道は全然抵抗しなくて」 覚えてる。覚えているのだ。 手首を折られても肋骨を砕かれても、夢の中の鬼道は悲鳴一つ上げなかった事を。 その上で謝るのだ。自分のせいで苦しめてすまなかった、と。どんなに殴られても恨み言一つ言わないで。「それが面白くなかったのかな。一緒にいた男達が、ナイフを出してきて…それで鬼道を…」 鬼道の体を滅茶苦茶に斬りつけた。さらに身体中の骨を打ち砕いた。血まみれになった鬼道に代わる代わる乱暴した。 あらゆる苦痛に涙を流しながらも鬼道は最期まで自分達を責めず、謝り続けた。自分達はただそれを見ていた。「気がついた時には、俺達の前には…鬼道がボロボロになって…死んでた」 自分で口にした言葉が、胸を引き裂いた。あの瞬間の恐怖が蘇り、ガチガチと奥歯が音を立てて鳴った。 あの後がどうなったかなど考えたくもない。ただ間違いなく自分達は、本物の絶望というものを思い知ったのだ。 最悪な過ちを悟っても、全ては後の祭りで。「……どんなに恐ろしい内容だったとしても」 その光景を想像してか、源田の顔も青ざめている。それでもしっかりとした口調で佐久間に言う。「所詮夢なんだ、現実じゃない。…実際、そんな悲劇は起きちゃいないだろう」「分かってる。分かってんだ…でも」 ガラガラと保健室のドアを開ける源田。風に揺れる白いカーテン、窓の向こうには澄んだ青空が見える。「一歩間違えれば…ああなってた。ああなっててもおかしくないって気付いたんだ…っ!あの時の俺はどうかしてた。何であんなに鬼道が憎かったのか分からないんだ…」 自分もみんなも。こんなに鬼道の事が大好きなのに。失う事など誰一人望んでいないのに。 それでも冷静になった今ならば。あの時の自分達の未来がどれだけ危うい均衡の上に立っていたかが理解出来るのだ。あと一歩憎しみに我を忘れていたなら、本当に自分は鬼道を殺してしまっていたかもしれない。 そして完全に後戻りができなくなっていたかもしれないのだ。「でも…い…今だって!今だって、心のどこかで俺は鬼道を取り戻したがってる。雷門を妬んでる。この気持ちがもしまたあんな…あんな風に歪んだら…!!」 怖い。怖くてたまらない。まだこの手の中には夢の中の、恐ろしいほどリアルな感触が残っている。 耐えられない。あんな悪夢がもし現実になったなら。「…平行世界ってのが、あるらしいんだ」「え?」 唐突に源田が言い出したことに、佐久間は目を見開く。「本で読んだんだ。…俺達が何か一つ決断するたび、世界は枝分かれしていくつも存在してるんだと。…だからもしかしたら……どこかの世界では起きたのかもな。お前が見た悪夢のような、惨劇が」 ベッドに佐久間を下ろし、源田は微笑む。「悲劇的な未来の俺達が…佐久間に教えてくれたんじゃないか?悲しい過ちを、俺達が犯す事のないように」 そうなのだろうか。確かにあの夢は、ただの夢とは思えぬほどリアルで。それを見た自分は絶対にそんな事が起こらないようにと、心から今祈ってるけど。「…そうか」 だとしたら。感謝しなくてはならない。悲劇を見せてくれた、どこかの世界の自分に。「大丈夫さ。俺達はもう、気づいてる」「…うん」 回避されたのかもしれない一つの悲劇。その先の自分達は今、ありきたりな毎日を送っている。 喪われなかった世界の中で、きっと自分達は真剣に考えるべきなのだ。本当の幸せとは、一体何であるのかを。 幸運にも自分達も彼らも、こうして生きているのだから。END |
血まみれの自分が、夢の世界で泣いている。
某MADの影響で、ヤンデレ(?)佐久間を妄想してしまい、勢いだけで書いてしまいました…あばば。
実はこれ、異説で活動なさってるレモンライム様のサイトの設定を一部前提にしております。
あとはすばせかとかXXX Holicとかひぐらしとか。選択肢一つで変わる世界。それらは数多く、無限に存在する。
で、この世界の佐久間(一応アニメ設定)が選ばずに済んだ選択肢の一つが、“鬼道を憎みきって殺す”ことで。
もしそうなっていたらどんな悲劇が起きていたか。この原作設定の佐久間がそれを夢に見た、というファンタジーであります。
ひぐらしをご存知の方なら分かるかと。祭囃し編でレナがやけにリアルな“リナを殺す夢”を見て悩んだのと同じです。
真帝国の後、佐久間と源田はものすごく悩んでたんじゃないかと。その後に三期の佐久間のあの不動への態度があるんじゃないかと。
佐久間達が鬼道に対してあれだけキレてた本当の理由は、自分達を差し置いて世宇子に行ったから、ではない気がします。
「自分達はこれだけ鬼道を尊敬・崇拝してるのに、鬼道はその好意に鈍感すぎる」。それが彼らの闇堕ち原因だったのではないでしょうか。
こっそりネタバレしますと、この原作佐久間が夢見たパラレルワールドの世界というのは…白翼シリーズの未来だったりします…。