“嘘を吐いたなら 死ぬまで騙し続けてよ 愛してるって聞けたら それが魔法になるから“私は 貴方の マリオネット ウルビダ。 それが新しく、私に与えられた名だった。そこに込められた想いなど知る由もない。大好きな父さんがつけてくれた名なら、何でも良かった。 私にとって、父さんが全て。 顔も知らない両親が、せめてもの情けと言わんばかりに置いていった名前より余程価値があるだろう。彼らは自分をこの世に捨て置いただけで何もしてくれなかった。何かをしてくれたのは父さんだけだ。 親に捨てられたか親戚に見放されたか、あるいは家族と死別したか。お日様園に集まったのはそんな子供達ばかりだ。 正直最初は、私は自分を不幸な子供だと思っていたが−−もっと不幸な子供達がたくさんいる事に驚いた。 私は親に捨てられたが、赤ん坊の時であり、すぐこの園にやってきた。だから酷い目に遭った記憶もないし、大人達の凍りつくような闇も見ていない。 黄緑色髪のあの子は、親に虐待されて保護された。 黒い髪のあの子は、震災で家族を喪った。 赤い髪のあの子は、親に駅に置き去りにされた。 銀髪のあの子は、親戚中をたらい回しにされた。 そして、父さんの死んだ息子によく似ているというあの子は−−記憶喪失になっていた。 世界は残酷だなんてよく言うけれど。彼らほどそれを体現している存在もない。他にも遠い地の戦災孤児やら、スラム出身者やら。その殆どに共通していたのが、生きる事に疲れ絶望しきった顔をしていたこと。 私達は誰もが一人では生きれない、か弱く非力な存在だった。 父さんに出逢うまで、私達はずっと一人ぼっちだった。 父さんが私達を拾ってくれなかったら、おそらく遠くない未来に野垂れ死んでいただろう。 だから−−誰もが薄々行き過ぎていると気付きながらも、父さんに依存し、心酔していたのである。それは私とて例外ではない。「ヒロトばっかりずるい」 そんな子供達の中で。特に可愛がられていたのがヒロトだった。それは傍目からも明らかで、父さんの愛を請う多くの子供達が彼に嫉妬した。 特に一番顕著だったのが晴矢。父さんに頭を撫でられて嬉しそうな顔をしているヒロトを横目に口を尖らせ、私にも愚痴を零すのだ。「俺の方がサッカーだってうまいし!なんであいつばっか誉められるんだ!」 放っておくと駄々をこね始める晴矢を宥めるのは、大抵私と風介の役目だった。 嫉妬したい気持ちは分からないでもない。しかし私達は、ヒロトに嫉妬するのはお門違いである事も知っていたから、そういった感情を抱かなかっただけだ。 むしろヒロトに同情すらしていた。 彼は父さんにとって、亡くした愛息子の身代わり人形でしかないのだ。ヒロト自身がそれを一番よくわかっていて、しかしけして表には出さなかった。「父さんが自分を愛していなくても、自分が父さんを愛していればそれで、いい」 いつだったかヒロトがそんな風にこぼした事があって−−私は酷くいたたまれない気持ちになったものだ。 それは幼い子供に言わせるにはあまりに酷な言葉だった。本当なら−−当たり前のように与えられるべき親の愛。それが得られない現実を、それが不幸である事を気付かないよう、自分を誤魔化す為の言葉。 彼に限った事でもない。誰もが多かれ少なかれ自分を誤魔化してきたのだろう。それが生きていく為の唯一の手段と知っていたから。 それでも私達は幸せだった。父さんと出会い、仲間と出会い、孤独ではなくなったのだから。 その全てが崩れ落ちた瞬間を。一体何人が覚えているだろう。 私は数少ない、真実を理解していた人間の一人。 晴矢はバーンになった。 風介はガゼルになった。 ヒロトはグランになった。 そして私は、ウルビダになった。 私達からすれば始まりは五年前だが、父さんからすれば十年前に全ては始まっていたのだろう。 十年前。遠い地で我が子が無残な殺され方をしたその日から。彼を殺した咎人が大人達の謀略により見逃されたその瞬間から。グランに、息子と同じ名前をつけたその時から。 それでも−−エイリア石なんてものがこの星に墜ちてこなかったなら。父さんの復讐の焔は、その胸の内を焦がすだけで終わったかもしれない。 何故あの石は地球を選んだのか。 神なんてものが在るとしたら何故こんな運命を選びとったのか。 その石を研究する段階から。私達は実験体にも等しい存在になった。 いや、私はまだいい。元々身体能力の高かったメンバー−−後にマスターランクチームに所属する事になる面々−−は、エイリア石そのものの実験からは免れられたのだから。問題はそれ以外の子供達だ。「痛い…痛いよっ…痛いよぉぉ−−っ!」 今でも−−実験室で泣き叫ぶあの子の声が耳から離れない。 外で運動するより、屋内で本を読む事の方が好きな、大人しい子だった。あの子が最初の捨て駒の一人として選ばれてしまったのは、その性格と性質、たったそれだけの事だったにすぎない。 椅子に縛り付けられて血反吐を吐いて泣き叫び、やがてぐったりと動かなくなったあの子。それでも研究者達は容赦なく薬物を投与して、コードに繋いだ。 私はただガタガタ震えて見ているしかなかった。目の前の光景が信じられない。こんな惨い事を、本当にあの優しかった父さんが命じたというのか。 なんで。どうして。 あの子が何をした?彼らが何をした?私達が何をした?「我が名は、レーゼ」 それから暫くして−−久しぶりに見たあの子はすっかり変わってしまっていた。言葉使いも、人格も、記憶に至るまで。人間らしさの消えた暗い瞳は、残された私達の心臓を射抜いた。 彼だけではない。何人もの子供達が実験の果てに洗脳され、自分を失っていく。彼らは自分達が人間であった事も覚えていなかった。エイリアという星の使徒であり、父さんという皇帝陛下に仕える戦士であると信じきっていた。 身も心もねじ曲げられたかつての仲間達を見て、私はようやく理解させられたのだ。やはり、残酷な世界は残酷でしかなかったのだと。自分達は運命に抗う力も無い、無力な子供でしかないのだと。「お父様!こんな事、やめさせて下さい!!」 頭脳明晰で、計算が得意で、皆の良き兄だった彼は。勇敢にもたった一人で父に抗議した。本来ならば、マスターランクチームのいずれかに加えられる筈だったあの子。だけど。 父さんに逆らった結果、レーゼと名乗るようになったあの子と全く同じ末路を辿った。違ったのは彼は自分を失う最後の瞬間まで、涙を流さなかったという事だけ。 デザームと名乗るようになった彼は、その強い正義感を失った。その悲しい姿を見て私達は、彼の代わりに泣いて−−それ以降、涙を流す事をやめたのだ。 泣いても、泣いても、現実は何一つ変わりはしない。ならば、感情など凍らせてしまえばいい。何一つ疑問を持たず、ただ運命に忠実であればいい。 逆らえば皆、デザームと同じ結果が待っているなら。自分達は抵抗を捨て、目の前に在る現実を受け入れていくしかない。 そうだ。何が不幸なものか。 私達ニハ、オ父様ガ、イルジャナイカ。 父さんがエイリア石と復讐にとりつかれたように。 私達は父さんの存在と、与えられる偽物の愛情にとりつかれたのだった。 ジェミニストームやイプシロンとは違う。我々が人間でしかない事も、全ては愛息子を失った父の復讐である事も、最初から最後まで理解していた私達。 だけどある意味、私達も洗脳されていたのかもしれない。あるいは洗脳されていると、思い込もうとしたのだろうか。「お前達は、この世界を変える為に、選ばれた戦士なのです」 父さんが語れば、それが全て真実になる。 まるで危険で甘いドラッグのよう。酔いしれて、酔いつぶれて、角砂糖のようにとろけるような幻想を見せてくれる。 そしてもっと、欲しくなる。「愛していますよ。お前達は、私の誇りです」 語りかける声は優しい。昔と何一つ変わらないかのように。 実際はその細められた眼の奥には、澱んで歪んだ陰が潜むというのに。あの頃確かにあった筈の光は、もはや何処にも見えないというのに。「さあ…ジェネシス計画の始まりです」 逆らわなかったのは、逆らえなかったからだけじゃない。 仲間達があれだけ酷い目に遭わされるのを見ていながら、それでも私達は父さんを愛していたからだ。それでもまだ愛されていたかったからだ。 なんて自分勝手で、自己中心的なのだろう。「我々は遠き星、エイリアからこの地に舞い降りた…星の使徒である」 後はもう、墜ちていくだけ。墜ちても墜ちても闇には底が見えない。 優しかったあの子が“レーゼ”として、瓦礫の上から宣戦布告した。その光景を遠くで見ながら、グランが空虚に呟いた。 もうこれで、戻れなくなったね、と。 私は聞こえないフリをして耳を塞いだ。揺らされてはいけない。何かを感じてはいけない。人間達に同情などしてはいけない。人並みの幸せに焦がれてはならない。 戒めて戒めて。私達は愛する人のマリオネットになる。 エイリア学園となったお日様園の子供達の手で繰り返される破壊。それを止めようと足掻き倒れる者達。それでも尚立ち上がる稲妻の戦士達。 ジェミニストームの子供達が記憶を消されて捨てられた。 イプシロンが本来の目的より、雷門との試合を楽しみ始めた。 ガゼルとバーンがジェネシスの座を巡って争いだした。 グランが時折ふらりと姿を消して、ヒロトの格好で戻って来る事があった。 変わってゆく世界の流れから置き去りにされようとも、私はかの人に尽くすのみ。それ以外にもはや道などありはしない。だけど。「もうすぐ円堂君達が来るよ」 何処か愉しげに、何処か切なげにグランが語った時−−もしかしたら私はとうに終末を予見していたのかもしれなかった。 グランは父さんを敬愛しながらも、別の場所を見るようになっていた。自分のやっている事の正当性を疑うようになった。無意識に終わりを望み始めた。 なんと妬ましい事か。全て、私には考えようの無い事だというのに。偽りとはいえあれだけ私達が焦がれた父さんの寵愛を受けておいて、何故。 だから私は、グランが嫌いなのだ。この感情をそう結論づける他なかった。一体誰への嫉妬であるかも語れないまま。「ふざけるな…っ」 私達の世界が音を立てて砕け散る。 ホイッスルが齎したのは緩やかな絶望。 勝ちたかった。お父様の為に。そう涙を零す私達の目の前で、貴方はなんと言った? “ジェネシス計画そのものが、間違いだった”? では私達は何の為に? 私達の今日までの苦しみと悲しみは何処へ逝けばいい?「これ程愛し!尽くしてきた私達を…よりによって貴方が否定するなぁぁぁぁ−−ッ!!」 愛していたのです。 愛されたかったのです。 力任せに蹴りつけたボールには、殺意と同等の愛があった。End |
私は貴方の操るマリオネットだから 壊れるまでその糸を離さずに握っていて。。
62話のウルビダ嬢を見、そして長編設定を踏まえて突発的に書いた話です;;
ネタバレと捏造がごっちゃですみません。レーゼはことわざの好きな大人しい子で、デザ様は正義漢だったと思うのです…。
私の中でエイリアは、マスターランク以外は洗脳されていたことになってます。
ゲームでレーゼが記憶を消されていたあたり、ありえない話でもないんじゃないかと…。
ウルビダ嬢もグランも切なすぎます。本当はみんな、素直ないい子達だったんだろうな…まだ中学生だよ…?
彼らが救済される事を願ってやみません。でもレーゼちゃんとデザ様とバンガゼコンビも忘れないでー!