少年の名は基山ヒロト。 少年の名はプリンス・ハイドロン。 父の愛を希求してきた二人が出逢う。 全ては、必然の名の下に。 最期の嘘 と誰かの愛と<一>待ち合わせまで、あと十分。緑川はあれでマメだから、何もなければきっ と五分前には来る事だろう。噴水広場の前で、ヒロトはソフトクリーム片手 に立っていた。今日はじんわりと暑い。こんな時は多少値が張っても、アイ スに手を出したくなってしまう。「暑いなー…」ヒロトは今、鳩留町という町にいる。休日のちょっとした遠出だ。最近出 来た宇宙科学館にどうしても来たいと緑川がごねたのでその付き合いであ る。本当は瞳子に連れてきて貰う筈だったらしいのだが、彼女は急遽仕事が 入って行けなくなってしまったらしい。ヒロトは半ば保護者代わりだった。同い年で保護者も何もと言われそうだ が、実際そうなのだから仕方ない。緑川は危なっかしいのだ。熱中すると周 りが見えなくなって時間も金銭感覚もすっ飛んでしまう。買い物も大好き で、以前ふらふらと裏路地に入ってしまい危ない目に遭った事もあった。ついでに言えば。緑川の中性的で愛らしい容姿(ポニーテールも問題じゃ ないだろうか)は、何やら男のセンサーに引っかかるものがあるらしい。女 の子に間違われてナンパされる事が頻繁にある。そんな時他に誰かがいれば 対応可能なのだが、そうじゃないと半ばパニックになったまま流されてしま うのが緑川だ。フォローが絶対いる。残念ながら。ヒロトはその点、自分で言うのもなんだが完璧だった。瞳子の手伝いで、 孤児院経営の仕事を回したり事務処理したり電話対応したりはお手の物。ト ラブルには非常に強い。悲しい事にヒロト自身も女の子に間違えられてナン パされた経験があったりするが、“丁寧に迅速にお断り”が出来るので面倒 になった事は一度もない。−−できれば此処に来るのも一緒が良かったんだけど。仕事がなー…。瞳子のフォロー及び、エイリア事変の事後対応。それでヒロトこの町の近 くまで来ていたので、午前に仕事を片付けて昼過ぎに落ち合おうという話に なったのだ。元エイリアのメンバーは殆どが同じ家で同居している。その住所から此処 に来るには、電車を二本乗り継いで一時間はかかる。順調に辿り着ければい いのだが。−−ん? その二人組が視界に入ったのは、偶然だった。一見普通の警察官に見えるが、随分と若い。まだ十代−−片方に至っては 十代半ばに見える。銀髪に紫眼の目つきの悪い青年(こちらは二十歳手前と いったところだ)と、淡い金髪に碧眼の爽やかな笑顔を張り付けた青年(こ ちらは十五歳前後だろう)。が、何やら違和感があるのは気のせいだろうか。どちらも整った容姿ではあるが、銀髪男の方はどうも不良じみている。道 を聞いてきた男性がガンつけられて逃げていた−−あれは駄目だろ警察官。 お巡りさんというよりあれじゃあヤクザだ。もう片方の金髪は女の子達にキャーキャー言われて笑顔で手を振ってい た。対応は間違ってないが、なんだかホストみたいだ。まあ世の中警察官に もいろんな人間がいるだろうから、細かなツッコミはしないけれど。彼らを観察してみるのも暇つぶしだ。ヒロトはしゃくり、とソフトクリー ムのコーンをかじる。これももうすぐ食べ終わってしまうだろう。「…なかなか連中、尻尾を出さないね」 ふと、その声が耳に飛び込んできた。発したのは金髪の青年だ。「何処に籠城してるんだか。早く探し出さないと父上のご機嫌を損ねてしま う」−−父上?さっきの爽やかな笑顔から一転、青年はイライラした様子で髪を弄くって いる。恐らく無意識にやってしまう癖なのだろう。「六属性エネルギーの入手…ってな。地球くんだりまで来て面倒くさいぜ ぇ」「そう言ってくれるなシャドウ。全部入手しないとBTシステム起動しない って言うし。まあ科学者じゃない僕に分かることも少ないんだけど」「ヒャヒャヒャ、プリンス・ハイドロン様にも分かんねぇ事があるとはな ぁ!」「大丈夫だよ。少なくとも君より脳みその容量はあるからね」「あぁ!?」 金髪はハイドロン、不良というかヤクザのような銀髪がシャドウ、という らしい。何やら雲行きの怪しい会話だ。六属性エネルギー?BTシステム? いやそれよりも、“地球まで来た”って?−−こいつら異世界の人間か?世界はとても狭く、知覚できる範囲などたかが知れているが。それを知る 者にとっては世界は一つじゃない−−即ち、並行世界乱立論。または多次元 世界説。ヒロトも論文を読んだ事がある。なかなか興味深い学説だった。世界がいくつもあるなんて、馬鹿げてる。今までそう言って切り捨てられ てきた論だったが、ある出来事をきっかけに事実である事が証明された。そ れが一年前の、“爆丸騒動”である。この騒ぎについて説明する為にはまず、 “爆丸”というイキモノについて話をしなければならない。一年前の冬。空からたくさんのカードが降ってくるという、不思議な現象 が起きた。カードを拾ったのは一部の大人と大多数の子供達。大人は得体の 知れぬカードに、殆ど興味を示さなかったのだ。カードから現れたのは、不思議なモンスターだった。普段は丸い球の形を しているが、条件を満たすと実体化するモンスターである。その生き物達を、 球になる形状から“爆丸”と呼び、子供は慣れ親しんだ。爆丸でバトルゲームを作ったら面白いのではないか。そう考えてコミュニ ティーを立ち上げ、爆丸バトルの公式ルールを作った子供達がいた。バトル ブローラーズ。十歳から十四歳の少年少女六人組である。−−爆丸バトルは世界中で流行した。お日様園にもカードは落ちてきたけど …誰も拾わなかったんじゃないかな。あの頃は一年後の計画に向けて、最終調整でピリピリしていた。娯楽なん てもってのほか。毎日生体実験とサッカー訓練に明け暮れていた頃だ。ぶっ ちゃけ、世間の騒動についてもテレビで見た僅かな知識しかない。爆丸の正体は、異世界−−ワンダーレボリューションを生きるモンスター 達だった。どうやらその異世界で事件が起き、爆丸達が地球に弾き出された 結果、カード化して空から降ってくる事態になったそうだ。爆丸の能力は実体化する。無闇にバトルを行えば、その地域一帯が焼け野 原になりかねない。異世界トラブルから始まった事件は地球にも及び、実際 日本にも被害が及んだ。最終的にはバトルブローラーズの子供達が、爆丸バ トルを広めた責任をとって−−かは知らないが、自ら事の収拾に奔走したそ うだ。それが一年前の爆丸騒動である。その後。地球にいる爆丸達の数は相当減ったと聞いている。バトルの危険 性も考慮し、大多数をワンダーレボリューションズに帰した結果だそうだ。 バトルブローラーズだけはまだ爆丸を所持しているという噂もあるが、真偽 のほどは確かではない。−−まあ何にせよ。あの騒ぎのおかげでみんなが知った訳だ。異界は確かに 存在する…ってね。こちらから異世界に渡る技術はまだ開発されていない。少なくとも表向き に発表されたものはまだない。しかし、異世界からこちらに渡る技術のある 者がいても不思議ではないだろう。−−つまりあいつらは異世界から来て、警官に成りすましてる…と。そりゃ 言動もおかしくなるよねぇ。ヒロトはぶしつけにならない程度に、観察を続ける。異世界から来たエイ リアンが、この星に一体何の用だと言うのだろう。「ヒロトーお待たせっ!遅れてごめんね」パタパタと足音を立て、緑川が走ってきた。きっかり五分前。にも関わら ず“遅れた”と表現するのが緑川らしい。ヒロトの律儀さを知ってるからこ その発言だろう。「大丈夫だよ緑川。丁度ソフトクリーム食べきったとこ」「あー、いいなぁ俺もほしー」「お小遣い貰ってるでしょ。自腹でどうぞ何千円でも買っておくれ」「……俺が超甘党なの知っててそれ言う?」膨れっ面な緑川。たが事実だ。緑川と吹雪と風丸に甘いモノを奢ると地獄 を見る。イナズマジャパンの暗黙の了解である。彼らをスイパラに放り込ん だらエラい事になったのは記憶に新しい。もう帰ってくれなんて店長に土下座される事になるなんて、一体どんだけ 凄まじいんだと言いたい。「?何見てるのヒロト」「リアルエイリアン」「……まじ?」緑川は眼をぱちくり。やっぱり可愛いんだよなコイツ、と思うヒロトであ る。俗に言う“弟にしたいタイプ”だ。砂木沼に可愛がられるのが分かる気 がする。「あの二人の会話、現在進行形で立ち聞き中。特にあの銀髪の彼は声がデカ い」ちょいちょい、と指であちらを差し示す。そうこうしている間に、あちら さんは口論になっていた。シャドウがほぼ一方的に怒鳴っている。こちらの 視線にも気付く気配がない。「シャー!だーかーらお前のやり方はまだるっこしいんだよ!いいじゃね ぇか、このへんの街適当にぶっ壊してあぶり出せば!」「相変わらず君はやり方が下品だね!そんな事して目立って、地球人どもに 警戒されたら厄介じゃないか!」「そしたら片っ端から!皆殺しにしてやらぁ話は終わりだろぉ!?」 皆殺し。その単語に思わずぎょっとして顔を見合わせる。その直後、ヒロ トの脳にあるビジョンが叩きつけられた。 広い荒野のド真ん中。バリアに守られた黒い卵形の機械。 逃げ惑うのは、球になった爆丸達。 機械から放たれる光。 爆丸達が次々消し飛んで−−。「ぐっ…」「ヒロト!?」 突然頭を押さえて呻いたヒロトに、緑川が心配そうな声を上げる。ヒロトには、不思議な力があった。人の心を読み、悟り、操る力。超能力 の分野ではESP−−サイコメトリだとかマインドコントロールに分類されるらしいが詳しくは知らない。ただこの力が異能である事は知っていて、あまり使わないようにはしてい る。京都では邪魔をしてきた子供を穏便に退かす為、やむを得ず使っただけ だ。ヒロトの意志できちんとコントロール出来るようになるまで、何年かか った事か。それでも稀に、強すぎる感情や残留思念は意図せずにして流れこんでく る。今のはまさにそれだ。「何?何か見えたの、ヒロト?」緑川はヒロトの力を知っている。ヒロトが突然頭痛を訴えた時は、なんら かのビジョンに当てられた可能性が高い事も。「…全ての爆丸の抹殺。そして全次元世界の支配。父上の望みを確実に叶え る為に…計画は慎重に運ばなければ」ハイドロンは静かに、しかしどこか歪んだ声で意志を示した。もう間違い ない。「…尾けるよ、緑川」シャドウがまた何かを喚き、大股でどこかに歩き去った。ハイドロンは呆 れた様子で逆方向へ。チャンスだ。「あいつら…とんでもない兵器を造る気だ」 自分達は爆丸に愛着はないけれど。でもこの世界は、違う。やっと楽しいサッカーが出来るようになったのに、それを何処の誰とも分 からぬエイリアンに滅茶苦茶にされてたまるものか。「…仕方ないなぁ、もう」その緑川の言葉は、同意だった。二人は頷き合い、ハイドロンの尾行を始 めたのだった。 NEXT |
私は生きてるの?一体ダイジョウブ?