殺してしまえば楽だった。 殺せないから苦しんだ。 僕は君で、君は僕。 掻き毟る頭に、映し鏡。 最期の嘘 と誰かの愛と<三>自分達と敵対するバトルブローラーズ。当初ハイドロンの目的はその手が かりを探り出すことにあった。今は違う。目の前の奴らを消し去り、口を封じる。ブローラーズの仲間で ないにも関わらずここまでの情報を知られているのであれば、それもそれで 危険。あちらも、大量破壊兵器を作ろうとしているハイドロンを逃がすつも りはないようだし、どっちにしろここでケリをつけなければならないだろ う。「俺達爆丸バトラーじゃないのになぁ」ハイドロンが出現させたメカ爆丸、サブテラ・ドリアードを見上げて緑川 が言う。まるで忍者のような風体の鋼の巨人を前にしても、彼らはさほど怯 む様子がない。 そればかりか、皮肉げに笑っている。「こういうのって卑怯って言うんじゃない、ハイドロンとやら」「残念ながらこれが僕らの戦闘手段なんでね。爆丸を持ってなかった事、あ の世で悔やみな!ドリアード!!」 ハイドロンの声に呼応し、ドリアードが拳を打ち下ろした。ついさっきま で緑川とヒロトが立っていた場所がひび割れ、大きく抉れる。「生身で爆丸とリアルファイトとか!鬼!無茶振り!!」 「その割に楽しそうだよね緑川」「誰かさんのお陰で無茶振りには慣れてるもんで!!」 とっさに後ろに大きく飛んだ二人は、わーわーと騒いでいる。見事な反応 速度だ。サッカーをやっていたというだけあって、大した運動能力である。 でも。爆丸に人間が勝てただなんて話は聞いた事もない。増してやドリアード は、生態爆丸を研究して作り出された、強化型メカ爆丸だ。普通の爆丸バト ルだって余裕で勝てるのに、人間たった二人倒せないわけがない。「アビリティ発動!ムラサメブレード!!」 爆丸は、バトラーがガントレットにアビリティカードをセットする事で特 殊能力を発動する事が出来る。基本バトルとは、このアビリティとゲートカ ード、場合によってはバトルギアなどの装備をいかに使うかが鍵となるの だ。ドリアードが背中に隠していた剣を抜く。するりと抜けたそれは、ドリア ードの土属性色(サブテラ、とは土属性を意味する)のオレンジ色に発光し ている。「そいつらを八つ裂きにしろ!」ドリアードが吠え、緑川とヒロトに向かっていく。わー!と大袈裟な悲鳴 を上げてみせる緑川に、ヒロトが肩を竦めた。「騒いでたって解決にならないでしょ。とっとと倒しておしまいにするよ」そのまま−−なんと自らドリアードに向かってきたではないか。その手に なんの武器もない。空手で、剣を持った巨大な敵に立ち向かおうというのか。爆丸はサイズからして段違いだ。ヒロトなど、ドリアードの足首程度まで しかない小人のようなものだというのに。「真・サザンクロスカット…!」ヒロトの手に、紫色の光が集まった。それを振り抜きながら、ドリアード のムラサメブレードをひらりかわすと、一気に加速してドリアードを抜き去 る。一瞬、時が止まったかのような錯覚を覚えた。次の瞬間ドリアードの足下 から十字の爆発が起きる。「マジっ…かよ!」さすがのハイドロンも愕然とした。思いのほかダメージが大きかったの か、ドリアードが膝をつく。馬鹿な、としか言いようがない。あんな力を持 つ生身の人間がいるなんて聞いてない!「まだまだっ!」はっとした先。力を溜めている緑川の姿があった。その足元には黒いサッ カーボールが。「アストロブレイク・V3!!」 ギュルギュル、という音が聞こえてきそうだ。緑川の足下のボールに向け て、圧縮されたオーラが集まっていく。まるでブラックホールだ。あれを食らったらドリアードとてただでは済むまい−−ドリアードがな ければ自分は丸腰。戦う手段がないわけではないが、こんなトンデモな能力 者達相手に渡り合える筈がない。ハイドロンは冷や汗を掻いて、アビリティ カードをセットした。「あ…アビリティ発動!マルスシールド!!」 アビリティ発動を受け、ドリアードが防御態勢に入った。丸い橙の光がド リアードを覆う。バリアが張られた直後、もはやシュートと呼ぶのもおこが ましい強烈な一撃が、ドリアードへと放たれた。オーラとオーラがぶつかり合い、激しくスパークする。ドリアードはなん とか持ちこたえていたが、バリアに力を注いでる分足の踏ん張りがきかない のだろう。じりじりと後退し、やがて吹っ飛ばされた。その体はビルの壁に 激突し、その向こうまで突き抜ける。「ぐあっ…!」ビル全体が軋みを上げた。爆風と飛んできた様々な破片が、ハイドロンの 体を傷つける。ガラス片が腕を掠め、血が肘まで伝った。両腕でガードしな ければ顔や首にも傷を負っていただろう。幸い、まだ掠り傷レベルだ。ハイドロンは痛みに顔を歪めながらも、ドリ アードが吹っ飛ばされたビルの外へ走る。此処が一階だったのが幸いと言う べきか。「緑川…ちょっと派手にやりすぎじゃないかなぁ」「ウルサいな!外が空き地なの知ってたもん!あと爆丸バトル中はフィー ルドが外の空間から隔絶されるから、すぐ騒ぎになる事はない…でしょ?」「まあそこまで知ってたなら問題ないけどさ」ドリアードに駆け寄ってすぐ、後ろから歩いてくる話し声がした。ハイド ロンはキッと彼らを睨みすえる。ドリアードのダメージは着々と蓄積されて いる。所詮機械の爆丸だが、こうも一方的なのは面白くない。「…サッカー選手、だって?とんだ大嘘つきだね君達は。ただのスポーツマ ンがこんな特殊能力持ってる訳ないじゃない」ハイドロンが言うと二人は顔を見合わせ−−何故か揃って微妙な顔をし た。何だ。自分はそんなおかしな事を言っただろうか。「あー…そっかアンタ異世界の人間だっけ。サッカーの試合、見た事ない の?」「は?」「どうでもいいけどさ。機会があったら見てみてよ。ビックリするから」 緑川は頭を掻きながら、苦笑いをする。「ま。アンタが生きて帰れたら、の話だけどね?爆丸バトラーって、爆丸に 全部任せっきりで自分は戦わないの?なんだかなぁって感じ」ぞくり、と背中に冷たいものが走る。こいつらは自分を殺す気か。あるい は捕まえて尋問する気か。どっちも冗談じゃない。−−此処は一気にたたみかけてケリをつける…!長引かせたらどんどん不 利になるだけだ。「お前達バケモノと同じ基準で考えるな…!僕等は爆丸に頼るしか戦う術 なんてないんだから…!!」 自分でそう言ってしまい、ハイドロンは自分の言葉に傷ついた。爆丸がな ければ何もできない。何も、ない。その事実に唖然とする。自分達は爆丸の恩恵を受けて戦争し、侵略し、何かを壊して作る。だが父 はBTシステムを使ってワンダーレボリューションの爆丸を全て死滅させ、 地球もヴェスターもその他異世界も皆手中に収めるという。その仮定で邪魔 する者、要らなくなった者を悉く切り捨てながら。しかしそうなった時、父 の世界に残るモノはあるんだろうか。 そう−−要らなくなった者。 もしかしたら、いずれ自分も?−−駄目だ、駄目だ、駄目!!考えるな。考えるな考えるな考えるな考えるな考えるなかんがえるなかん がえるなかんがえるなかんがえるなカンガエルナカンガエルナカンガエル ナ!! 自分はちゃんと。 愛されて。「ゲートカード・オープン!」 悲鳴のように、叫んだ。「サブテラ・バトル・オーディエンス!!」 雑草と廃材だらけの空き地が、砂と石の荒涼とした大地に変わった。サブ テラ・バトル・オーディエンス。サブテラ属性専用のゲートカードだ。オー プンすると土属性爆丸のパワーを上げると同時に、力を発揮できる最適のフ ィールドへと作りかえる。 しかもそれだけでは、ない。「!消えた…!?」 緑川が驚きの声を上げる。ドリアードの姿がまるで陽炎のように揺らめ き、消えてしまったせいだ。土属性フィールドは、ドリアードの庭も同然。その空間に溶け込み、姿を 隠す事が出来るのだ。いくら彼らが強力な必殺技を持っていようとも、当た らなければ意味がない。「まさか生身の人間相手に、このカードまで使う羽目になるとは思わなかっ たよ」本来ならばゲートカードは、対戦者が交互にセットする権利を得る。しか し今回は爆丸バトルであってバトルに非ず。なんせあちらは爆丸バトラーで すらないのだ。つまりゲートカードはハイドロンの専売特許という事にな る。「やれ、ドリアード!」ハイドロンの声と共に、緑川が悲鳴を上げて吹っ飛んだ。ドリアードの不 意打ちを食らったのだ。姿が見えなければ避けようもあるまい。次にはヒロ トがドリアードの拳を食らって転がった。さっきまでの展開が嘘のよう。い い気味である。自分の邪魔をする方が悪い。可哀想だと思う気持ちがないわけでもない が、これもまた戦いの真理というもの。せめてなぶりものにはせず、一撃の 元終わらせてやろう。「アビリティ発動…!」ハイドロンには、ドリアードの姿が見えている。アビリティの力を受け、 ドリアードの光剣が輝きを増し、リーチを伸ばした。「裂・ライトニング!」威力を増した剣を振り回し、ドリアードが走り出す。まずはヒロト、お前 から始末してやる。まあ向こうはねらわれてる様すら分からないのだろう が。 立ち上がったヒロトはハイドロンを見て−−言った。「姿の見えない敵への攻略法、案外あるもんだよ」「何?」「例えば。気配やオーラといった不可視のものを感じ取る。これは俺達みた いに戦闘訓練をつんでなきゃ難しい」「戦闘訓練だって?」やはりコイツ、ただのサッカー選手ではなかったのか。ではまさかその気 配でドリアードの位置が分かるとでも?「次に。ドリアード自体の姿は消せても、抉れる地面や壁は見える。それら が発生した位置からドリアードのスピードを計算し、所在を予測する事も可 能」「なっ…」「さらに。ドリアードの姿はアビリティ発動者の君には見えてるんだろ?な ら君の視線を辿った先にドリアードはいるよねぇ」まさか、と思った時。ヒロトは見えない筈のドリアードの攻撃をかわして いた。「でも一番簡単なのは」ヒロトの周りに、赤いオーラが集まった。そんな馬鹿な。ハイドロンは声 に出して叫んでいた。こいつらは人間の筈だ。どんなに訓練を積んでいたっ て、人間がメカ爆丸にかなう訳が。「この状況を作り出している装置……この場合はゲートカードを破壊する 事!いくよ…シザーズボム!!」 ヒロトの足元から爆発が起こった。彼は華麗に宙を舞い着地する。バリバ リと硝子が割れる音がした。いや違う。割れたのは硝子じゃない−−地面に設置していた、ゲートカー ドだ。「俺達の方が一枚上手だったね」 ヒロトが妖艶な笑みを浮かべる。「さあ次はどうするのかな?」 ハイドロンは戦慄した。もう認める他ない。自分は怖れている。爆丸バトラーでもなんでもない−−このサッカー少年 達を。 NEXT |
壊れかけの、ユメを見ていた。