憎悪を知るから愛を知る。 心一つで世界は変わる。 あと少しだけ、届いたのなら。 あと少しだけ、触れたなら。 最期の嘘 と誰かの愛と<四>超次元サッカープレイヤーをナメんなよ、といったところか。爆発に吹 っ飛ばされるわ氷づけにされるわ焔に巻かれるわは日常茶飯事なのだ。まし てやヒロトと緑川は元エイリア学園である。最終的には戦場に駆り出される 為にソルジャー訓練を受けていたわけで。この程度の修羅場をくぐり抜ける など造作もない事なのだ。 ついでに言えば。エイリア石の効果がなくなったとはいえ、こちとら50キロ超のサッカーボールで、五階建ての校舎を破壊して回っていたのであ る。いくら爆丸といえモンスター一体相手にするくらい訳もない。−−爆丸のルールは一応把握してる。ヒロトが実情を知ったのは、エイリア学園訓練も爆丸騒動もひとしきり落 ち着いた頃だったが。いつか爆丸バトラーを敵に戦う日が来るかもしれない という事で、ある程度の知識は与えられていたのである。爆丸は一定以上のダメージを受けると、球になる事でそれを強制回復でき るが次にシュートできるまで多少時間を要す事。連中の切り札の一つであるゲートカードは、オープン&セットされている 間は新たなカードをセットできない。また、破壊されて暫くの間もセットは 不可能。−−あとは爆丸の装備であるバトルギア、ナノパック、バトルスーツ、そし て爆丸とバトラーがエネルギーを放出して召喚するメクトガン…。知識として知りうる限りの、爆丸バトラーの切り札を挙げてみる。しかし 今それらが出てくるとは思えない。何故なら相手はメカ爆丸。バトルギアやバトルスーツは生体爆丸の遺伝子 データから作られるので、遺伝子のないメカ爆丸では生成自体が不可能。ナ ノパックはまだ電子データ上でしか応用可能ではない筈だし、メクトガンも やはり生成爆丸でなければ召喚不可能。結論。ハイドロンに残された手は、ドリアードのアビリティのみ。そのア ビリティカードが尽きたら奴は完全に手詰まりだ。−−まあそれまで待ってやる気もないけどね。アビリティを封じるスキルがこちらにあれば話は早かったが。残念ながら 爆丸バトラーでない自分達には、アビリティを無効果する手段まではない。 地面に直接設置されるゲートカードとは違うのだ。「…どこまでも人をコケにしやがって……!ゴミくずどもが!!」 爽やかでおとなしそうに見えたハイドロンが、罵りの言葉を吐いてこちら を睨む。「こんな世界、守ったところで何になるんだ!人は結局自分勝手だ…自分の 事しか考えてねぇクズばっかなんだよ!当たり前のように愛されて、平々 凡々生きてる奴と…どんなに頑張っても光に触る事さえ出来ない奴と!!そんな格差で溢れた醜い世界なんだ…っ!!」 ハイドロンの言葉と共に、ヒロトの中へ流れこんでくるビジョン。それは 綺麗に飾られた寝室で、いかにも王族といった姿の男に殴り飛ばされる少年 の姿だった。少年は金色の髪をしている。まだ幼い、ハイドロンだと分かっ た。ハイドロンの唇が動く。ごめんなさい。ごめんなさい、と。だが男は無情 に、部下へと命じた。部下が引っ張ってきたのは数体のロボット。それらが 少年を羽交い締めにして、身体に鋭い電流を流し始めた。 幼いハイドロンが泣き叫ぶ。痛い。痛い。やめてやめて、お父様−−と。短い映像だったが、ヒロトが理解するには充分だった。ハイドロンが何に 絶望し、何に怒り、何を願って世界を壊そうとしているのかを。「お前らがそうやって頑張ったところで!誰も誉めてやくれない…愛して くれない。どんなにボロボロになるまで努力したって、強大な力の前には全 てが無力だ!!」 心を鎖で縛られた、僕らは操り人形。 私は父<アナタ>の装飾品。 もっと輝け、輝け、壊れて朽ちるまで。「結局世界にボロボロに使われて、捨てられるのがオチなんだよ!だったら さっさと諦めちまえ!!無駄な努力なんかしないでさぁっ!!」 誰の為に生きてるの? 自分の為だと言いたいのに、言えなくて。 もう何もかも嫌になる前に 誰か愛して 僕を愛して。「君は…」現実世界の、ハイドロンの心の叫びが。ヒロトにはとても他人事だと思え なかった。隣の緑川が泣き出しそうな顔でハイドロンを見つめている。きっ と自分も、同じ顔をしているのだろう。「君は父さんに…愛されたかったんだね。だからボロボロに頑張って頑張っ て…でも認めて貰えなくて。痛めつけられるばかりで。そんな現実に、絶望 した」「なっ…!!」 「俺には人の心が見える。勝手に覗いて、ごめんね」驚愕するハイドロンに、ヒロトはなんとか微笑んでみせた。でも、上手に 笑えたかは分からない。「俺達ね。…家族、いないんだ。俺は物心ついた時にはもう捨て子だったし、 緑川は虐待されて施設に来た子供だった」 声が震えた。あの頃を思い出していた。エイリア学園で、過酷な生体実験と訓練を繰り返し、誰もが傷だらけにな りながらひたすらに−−父の愛を求めていた、あの頃を。「施設の園長先生が優しい人でさ。その人を父さんって呼んでみんなが慕っ てた。その父さんは段々と道を踏み外していったんだけど…愛される為なら 僕等は何でもやったし何にも耐えたよ。生体実験のモルモットにされる事も ……人を殺す事も」 寂しい子供達の成れの果て。 届かない向こうの色、恋い焦がれて。 重なる声と声を混ぜ合わせて、頭を掻き毟る日々。「…頑張って頑張って。それでも何かを変える事は出来なかった。当たり前 に家族がいて愛されて…そんな世界の子供達を、恨んだりもした」 問題ない、大丈夫。まだ頑張れる。 そう呟いて、言葉はまた殺された。 もうどうだっていい、間違いだって犯してしまえ。 それ以外に、生きていく方法なんてありはしないんだから。「こんな世界、壊れてしまえ。みんなみんな呪われてしまえ。滅んでしまえ。 救いなんかありはしない」 もう一回。モウイッカイ。 僕らは今日も転がって転がり落ちる。 子供達は言う。繰り返す。言葉に意味を奏でながら。 「もういいかい?」と尋ねても、「まだまだ駄目」と責められるだけ。 まだまだ先は見えなくて、口を塞ぐ。 この息が止まってしまえば、終われるのかと。「でもね、いたんだよ」 そんな時。自分達を救ってくれたのは、たった一人の少年だった。「救世主は、いたんだ。世界はまだ僕らを見捨ててはいなかった」誰の為に生きればいいの?問いかけたヒロトに、円堂は教えてくれた。答 えは目の前にある、と。 お前の未来を誰かに奪う権利なんてない。だから。もう、何もかも嫌になる前に鎖の鍵を解いて抜け出そう。自分達が手伝う から、と。「…世界は残酷かもしれない。でも諦めた時、僕らは本当に絶望に負けてし まう」 呆然と佇むハイドロンに、ヒロトは手を差し出した。「君が自分で風を起こそうとするなら…僕達は力になるよ。大した事は出来 ないかもしれないけど…でも」 一人である事と、独りである事は違うから。「……地球人って、どいつもこいつもお人好しだね」 ハイドロンは失笑して、柔らかくヒロトの手を払った。「悪いけど。無力なくせに嘘ばっかり吐く奴らはごまんといる。僕には君の ように心を読む力なんてないから…君の言葉が真実か否かは分からない」否定する内容だったが。さっきよりも穏やかで優しい口調だった。何もか も響いたわけではないかもしれないが、何かは届いたのかもしれない。そう 思わせる、声だった。「君に力はあるのか?全ての悲しい事を…悪い夢を終わらせる力が。力があ るなら…見せてみなよ。これで、最後だ」ハイドロンがガントレットを構える。ヒロトは緑川を振り返った。緑川は 目を潤ませてそこに立っている。彼にはさっきのビジョンは見えなかっただ ろうに−−人の心に敏感な、優しい子だ。そして誰かの為に涙を流せる者だけが。きっと誰かを救う事も出来るのだ ろう。「緑川。あれ、行くよ。久しぶりだけどね」「…うん」 誰かの優しさに救われた自分達だから。一度は闇に堕ちた自分達だから。 出来る事もあると、信じたい。「ダブルアビリティ発動!フュージョンアビリティ、激・ラストデビル!!翔・ドラゴンフライ!!」 「ユニバースブラスト・V3!!」 ドリアードの剣が紫色に光輝き。その巨体が凄まじいジャンプ力で空へと 舞い上がった。同時に、ヒロトと緑川は黒いサッカーボールを、二人同時に蹴り上げる。 天に射止められたボールは宇宙の力を放出し、凄まじいエナジーが収束され る。「行け−−ッ!!」 ドリアードの一撃と必殺シュートが、空中でぶつかり合った。大爆発。粉 塵の中、ドリアードがオレンジ色に輝き、球に戻ったのが見えた。しかしヒ ロトと緑川の身体も吹き飛ばされる。地面に叩きつけられてはたまらない。なんとか体制を整えて、着地した。 緑川は、と見ると、彼もどうやら無事だった様子。着地した後によろめいて、 尻餅をついてはいたが。「何も見えないよー…俺達ってば勝ったの?」キョロキョロする緑川。砂塵が段々と晴れてきて、空き地の全容が見えて くる。ヒロトは目を見開いた。ハイドロンの姿がない。「うわぉ、逃げられちゃったバージョン?」「…みたいだね」まあ予想出来なかった展開ではない。自分達もいっぱいいっぱいだった し、結局勝負はつかなかったも同然だ。仕方ない事だが、少し残念ではある。自分達は結局、何かを変えられたのだろうか。それでもただ無意味なだけ だったのだろうか。次彼に逢う手段はない。その結果を、知る術も、ない。「ねぇヒロト…さっきの彼って…」「……うん」 緑川の問いに、ヒロトは遠い眼で答えた。「あの頃の俺達と、同じ眼をしてたよ」世界は悲しい。どんな場所にいても、どんな環境であっても、報われない 子供は溢れてやまない。その反面、幸せを幸せと気付く事もなく笑って過ご せる子供もいる。平等なんてない。世界には、理不尽な事だらけだ。でも。そこから救われた時、人は空の青さを知る。世界が美しいと心から 思えたら、それ以上に幸福な事があるだろうか。「努力は必ず報われるなんて言えないけどね」自らの手をじっと見る。汚れたこの手で奪ってきたもの。失ったもの。そ の全てが自分自身と、今なら胸を張って言える。 円堂が、今の仲間達が、教えてくれた。「願い続ければ…可能性の道は繋がる。諦めない事で奇跡を起こしてきた円 堂君達のように」その後。ヒロトと緑川がハイドロンに再会する事はかったが。後にブロー ラーズと関わる機会があり、彼らからハイドロンの末路を聞かされる事とな る。異世界で彼が父親と共に、爆死したという事を。彼は最期に、どんな景色を見たのだろうか。その人生に幸せな瞬間はあっ たのだろうか。生まれ変わったなら、もっと近い場所で出会いたい。ヒロトは空に、祈る。 そうしたら今度こそ、本当の友達になりたい。円堂が自分達を、救ってくれたように。 END |
もういいよ、おつかれさん。
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稲妻のヒロトと爆丸のハイドロンって立場が似てるよね、と思ってつい書いてしまいました。
爆丸の知名度がもう少し高ければなぁ…!面白いので見て!と言いつつもうすぐアニメが終わる悲劇。
個人的には三期兼四期ラスボスのバリオディウスも似てるのかも。父への歪んだ執着という意味では。
ヒロトは円堂に出会って、父とも和解することができましたが、ハイドロンはそうはなりませんでした。
最期は父を道連れに自爆し、自らが殺してしまった仲間に償う道を選ぶという結末に。
ヒロトがもう少し爆丸の物語に絡んだら、もしくはハイドロンを救ってくれる円堂のような存在がいたら。
何かは変わったかもしれない。そう思うとどうしてもいたたまれません。