<警告>*この話には、暴力&若干の流血描写があります。 グロ度はさほど高くないですが、全体的に真っ暗な話なので、苦手な方は即行逃げることを全力でお勧めします。 問題ない方のみ、下へスクロールしてご覧下さい。 多分“ソレ”が起きるのは必然だった。 “ソレ”は起きるべくして起きたのだ。 予想出来なかった筈も無かった。 対策も立てようとすれば立てられた筈だ。 それをしなかったのは自分の油断。自分のミス。 鬼道は後悔する。何故此処まで闇が深くなる前に、気付く事が出来なかったのだと。罪滅ぼし と免罪符〜〜壱〜〜 最近、リュウジは一人で練習しているらしい。偶にヒロトも一緒に。 円堂からその話を聞いた鬼道は、その晩こっそりとグラウンドに出てみた。カタール代表との試合で、緑川は一番最初にスタミナ切れを起こして倒れている。それを本人が酷く気にしている事を鬼道は知っていた。 体力不足を補う為に特訓するのは悪くない。が、それが前向きな姿勢でなければ後々響く。元より彼は無理をしすぎる傾向にあるのだ。無茶をして体を壊しては元も子もない。 代表に選ばれたメンバーで、リュウジは圧倒的にスタミナが無かった。が、それは無理からぬ事だと鬼道は見ている。エイリア石の最初の実験体だったジェミニストーム、そのキャプテン。後遺症が無いとは考えにくい。 多分元々身体があまり丈夫でないのだろう。だからセカンドランクに選ばれたのかもしれない。低い体力を、エイリア石の力で補っていた可能性もある。 今はその、エイリア石がない。どんな方法で彼からエイリア石の影響を取り除いたかは分からないが、もう石の力は殆ど残っていないと聴いている。現在の身体能力やスキルは全て、リュウジが血の滲むような努力で得たものだった。 かつて。レーゼとして現れた彼は雷門をいつも見下していた。何度やっても無駄なのに何故それが分からないのか、と。それは彼らの敬愛する父が用意した台本だったのかもしれないが。本当は誰より努力家な彼はその台詞を、どんな気持ちで読んでいたのだろう?−−頑張れなんて言わないから。 生ぬるい夜風の中、水飲み場の前を通り過ぎる。月が綺麗な晩だ。細い下弦の月が、淡い色の雲にひっそりとした色をつけている。−−頑張りすぎるな、緑川。 それは彼にだけ言いたい台詞でも無かったけれど。 グラウンドに降りていく。暗がりの中ぼんやりとした人影が浮かび上がる。特徴的な緑のポニーテールと、横ハネの赤い髪。内容まではまだよく聞き取れなかったが、時折ヒロトが何か指示を飛ばしているらしかった。 二人がどんな関係であるか、詳しくは知らない。元エイリアといえど、セカンドランクのリュウジとジェネシスの最有力だったヒロトでは、随分処遇に差があった筈だ。 だが、それこそエイリア学園がまだお日さま園だった頃は、違ったのかもしれない。当たり前のように仲良く遊ぶ関係だったのか、あるいはヒロトがリュウジのお兄さんポジションだったのか。「あれ?」 鬼道が声をかけるより先に、ヒロトが振り向いた。「珍しいな。鬼道君も特訓?」 この蒸し暑さの中、何故だか彼はジャージを着ている。まあ腕を出すのすぐ冷えるから、半袖自体を苦手とする冷え症な人も中にはいるが。「珍しいも何も、俺も結構夜中に特訓してるぞ?」「そうなんだ?円堂君みたい」「というか、円堂の影響だな、完全に」「あ、理解」 他愛のない会話をしながら、リュウジを見る。汗一つかいてないヒロトと裏腹に、彼は汗びっしょりだ。随分長いこと走り回っていたのか、疲労の色が濃い。 鬼道は眉を寄せる。実際眼で見てさらに心配になったのだ。「緑川。特訓するのはいいが…少々無茶をし過ぎてないか?明日も早いんだぞ」「へ…平気、だよ」 肩で息をしながら言うリュウジ。「もっともっと強くならなきゃ。ただでさえ俺、みんなのレベルに着いていけてないんだから」 浮かべる笑みにも力がない。あまりに余裕のないその姿は、かつて見た誰かによく似ていた。 ずっと後悔していた事がある。あの時はこれ以上皆の士気を下げてなるものかと、ネガティブな事は殆ど口に出来なかったけれど。 エイリア学園との戦いの最中。徐々に心のバランスを崩していった吹雪は、ナニワ練習場で無茶な特訓ばかり繰り返していた。強くならなければ。完璧にならなければ存在価値がなくなると、そう畏れて。 最終的にはデザームにエターナルブリザードを完璧に止められて。彼の精神は崩壊してしまった。あの時の吹雪の姿は、痛々しくてとても見てられるものではなかった。 風丸も同じだ。世界を救う為なら、神のアクアに縋ってもいいじゃないか−−円堂にそう漏らした時から、予兆はあったのだろう。スピードというお株を吹雪に奪われ、戦いの中自信を打ち砕かれ続け。 最後は力を求めすぎて、闇に墜ちた。エイリア石に頼るほど彼が追い詰められていたのだと、気付いた時には全てが遅かった。 結果的に彼らが己のサッカーと吟持を取り戻せたからいいようなものの。過程には反省すべき事が山ほどあった。もう少し早く、彼らの悩みに気づいていたら、相談に乗れていたなら。あんな事にはならなかったかもしれないのに、と。「緑川。…何故そんなに焦るんだ。お前は充分戦力になっている。誰もお前がお荷物だなんて思ってないのに」 嫌なほど、だぶる光景。 今のリュウジは、そっくりそのまま吹雪や風丸と同じルートを辿っている。そうとしか見えない。 だから、鬼道は言った。思ったままを。「以前の風丸や吹雪と…今のお前は似すぎてる。俺にはそう見える。だから…焦らないでくれ。力ばかり求めて、良い事なんか何もないんだ」 一瞬。 そう、一瞬。 リュウジとヒロトの空気が凍りついたような気配があったのは、気のせいだろうか。「……そう、だね」 どこか悲しげに眼を伏せて、リュウジが言う。ふらり、とサッカーボールを持って歩き出した。「ごめん。もうちょっと、もうちょっとだけやったら戻るから…」「お、おい緑川!」 よろけ、倒れかけたリュウジの腕を慌てて掴む。なんとか派手に転倒する事は免れたようだが−−どうやら彼は気を失ってしまったようだ。明らかに過労と睡眠不足が原因である。 言わんこっちゃない。特訓のしすぎで、デザートライオン戦で倒れたというのに。頭は悪くないのに、そういった学習能力はないのか。あるいは一種の自虐なのか。 さらに驚いた事は、触れた腕の感触だった。元々体格的には華奢なメンバーが多いイナズマジャパンで、リュウジも例に漏れないが。あまりにもその細い腕は、妙にざらついていた。 なんだ、この“線”は−−と思った次の瞬間、息を呑む。暗くてよく見えないがそれは傷痕だった。まるで、鋭利な刃物で切られたような。「鬼道君」 凍りついた空気を、ヒロトの声が静かに破く。「戻ってて、いいよ。緑川は俺が部屋まで連れて行くから」 振り向いた先。ヒロトの顔からは一切の感情が消え失せていて、気圧された。まるで心を無理矢理殺したような表情。突き放すわけでも拒絶するでもなく、ただ諦めて受け入れたような−−そんな顔だ。 気圧される鬼道から静かにリュウジを奪って、ヒロトは歩き出そうとする。が、緑川がけして大柄でないとはいえ、ヒロトよりは背が高いのだ。加えてヒロトも腕力はさほどない。 そうでなくとも気を失った人間を運ぶのは苦労する。手間取っているヒロトを見かねて、鬼道も肩を貸した。自分も頼りになるほど力はないが、一人で運ぶよりずっと楽な筈だ。「……ありがと。ごめんね」「謝る必要はないだろう」 緑川を真ん中にして、二人で肩を貸す形で宿舎に向かう。「…何かあったのか」 躊躇いながらも、尋ねる。言いながら内心、そうじゃないだろう、と己を叱りつけていた。 何かあったのか?じゃない。 何があったのか、だ。 彼らの身に、自分の知らない何かが起きている。あるいは起きていた。隠したい事を無理矢理暴くべきではないが、そうでないなら知るべき事だ。 もう、何も分からないまま時が流れるのは嫌だから。「不動、か?」 不動とリュウジの間ではトラブルが頻発していた。代表に選ばれてすぐは特に酷くて。 自分はその現場を直には見て無いが。不動がリュウジの首を締めていたところを、偶々通りがかった円堂と風丸が止めた事もあったそうだ。あの後しばらく不動は半乱狂になっていた。リュウジを殺していてもおかしくなかったらしい。「……違うよ」 ヒロトは静かに首を振った。「偶に喧嘩はするみたいだけど。不動君は…関係ないから」 不動“は”? その言葉に引っかかりを覚える。誰ならば関係があると言うのだろう。「ねぇ、鬼道君。一つ訊いてもいいかな」「…何だ」 質問をさらに重ねようとして、出鼻を挫かれる。ヒロトはじっとこちらを見て、少し−−ほんの少し、苦しそうな声で言葉を紡いだ。「罪ってさ。…どうやって償えばいいのかな。誰に赦して貰えたらオワリになるのかな」 ざわり、と背中を撫でていく風。鬼道は答える事が出来なかった。唐突すぎる質問に思考が追い付かなかったのもある。だがそれ以上に−−ヒロトの声が、言葉があまりに空虚で。 胸を射抜かれた。 罪。その漢字一文字が否が応でも思い出させる。 ああ、そうだった。償わなければならないとずっと思っていたのは他でもなく。「君なら、分かると思うんだ。少なくとも円堂君よりは僕達に近い場所にいるでしょう?」 ヒロトにも、贖いたいものがあるのか。その内容にはすぐ思い当たったが。 今になって彼がそこまで追い詰められる理由が分からなくて。「ごめんね。傲慢なのは分かってるんだ。だけど…」 そうこうしているうちに、緑川の部屋に着いてしまった。リュウジをベッドに寝かせ、シーツをかけるヒロトの手つきは、慈しみに満ちている。 それだけに、どうすればいいか分からなくなった。今自分達も彼らも幸せな筈だ。その筈だと思っていたのに。「次の時までに答え、用意しといてくれる?」 部屋を出て、ヒロトは小さく手を振って背を向けた。「待ってるから、ね」 暗がりに溶けていく背中を、鬼道は呆然と見送った。振った袖口から、ちらりと覗いたヒロトの手首には、白い包帯が巻かれていたから。 疑惑は静かに確信に変わる。 自分の知らないところで、確実に何かが起きているのだ。−−天才司令塔、なんて。天才ゲームメーカー、なんて。 名前負けもいいところだ。仲間が本当悩んでいる時、苦しんでいる時、力になってやるどころかその中身を知る事も出来ないなんて。−−…いや。後悔ならもう、し尽くした筈だ。 振り向き、嘆き、地に伏す時間はとうに過ぎた。ならばもう前に進む他ない。 考えるのだ。緑川の傷。ヒロトの傷。彼らの言葉の意味。その先の真実。−−もう、仲間が傷つくのはたくさんなんだ。 その日はそのまま、自室に戻った鬼道。だからその先を知る事は無かった。 真夜中に人知れず、緑川リュウジの部屋の明かりがついた事も。 そこで何が起きたのかも。NEXT |
上手な罪の償い方。
書くたびにドス暗くなっていくエイリア話第四弾。Liar game、青空はまだ遠すぎて、の続編です。
こちらは風雅クウ様の相互記念リクエスト『緑川と鬼道が絡む話』から執筆させていただきました。
もうほんと、大変遅くなってしまってすみません…!リク頂いたの三月二十八日だというのにににに!!
しかもしかも、緑川と鬼道中心の筈が、うっかりヒロトやら風丸やらが出張る予感がひしひしと。うぼあ!!
ついでにうっかり三部作以上の長さになることが決定。構成力なさすぎるから長くなるんだよほんと…。
そしてどうにも私がエイリア組を書くと暗い話ばっかりになりがち。今回もドス暗さ満点でお送りいたします。
名探偵鬼道さんが大好きなので、なんとなくサスペンスちっく?イナズマジャパンの暴力・自傷話が苦手な方、ダッシュでお逃げ下さいませ!!