<警告>*この話には、暴力&若干の流血描写があります。 グロ度はさほど高くないですが、全体的に真っ暗な話なので、苦手な方は即行逃げることを全力でお勧めします。 問題ない方のみ、下へスクロールしてご覧下さい。『…で、最近どうなんだ、リュウジ』「どうも何も。普通だよ」『嘘。…ヒロト様から聴いてるんだから。随分悲惨らしいじゃないか』「悲惨って…また大袈裟だなあ。あ、それと様付けやめなよ。癖なのは分かるけど、本人結構嫌がってるから」『分かったよ。…で、どうする気?リュウジだって、このままでいいとは思ってないだろ?』「うーん…どうかな」『どうかな、じゃないよ。治兄と瞳子姉、驚いてすっとんで来たんだからな?あっちもあっちで忙しいだろうに』「え、何もうそっちまで知れ渡っちゃってるの?」『当然。玲名はカンカンだし、杏や修児は得意な料理で失敗しまくるし、理夢は気付けばリュウジの話ばっかり。みんな心配してる。…僕だって』「……ごめん」『悪いと思うなら、なんとかしようとする気持ちくらい持ちな。忘れるなよ。誰も、お前一人に背負わせようなんて思ってないんだから』「うん。…ありがとう、大夢」 ポチリ、と終話ボタンを押して、リュウジはベッドに寝転んだ。その途端、ズキリと真新しい傷に響いて、顔をしかめる。背中の奥がチリチリと焼かれているようだ。段々と、そんな痛みにも慣れてはきたけれど。 三浦大夢。かつてディアムと呼ばれ、ジェミニストームの副将を務めていた彼は、時折こうして電話をくれた。リュウジの現状を知ってからはさらに頻度が増えた。彼もけして暇ではないだろうに。 心配をかけている。それは申し訳ないと本当に思う。出来ることなら迷惑などかけたくない。でも−−だから具体的にどうすればいいのかなんて、皆目見当もつかないのだ。 何気なく掲げた手。二の腕にはうっすらと線を引く傷跡と、紫色の鬱血が幾つもあった。それらはかつて気にしていた手術痕や注射痕すら掻き消すほどの数に及んでいる。 誤魔化しきれなくなるのも時間の問題。もしバレてしまったらどうなってしまうか。その瞬間を思うだけで、心臓が凍りつきそうになる。 心配されたくない。皆に嘘などつきたくない。それでも−−他に罪償いの方法なんて、知らない。−−俺は、赦されない。赦されちゃ、いけない。 その時、響いたのはノックの音。誰かが部屋のドアを叩いている。一瞬身体を震わせて−−リュウジはゆっくりと上半身を起こした。 ノックは断続的に響く。段々と強く、激しく。 その向こう側にいるであろう人物は、たった一人しかいなかった。罪滅ぼし と免罪符〜〜弐〜〜 ヒロトとリュウジの特訓を見た晩、その翌日。 鬼道と春奈は休みを利用して、近所の商店街に来ていた。二人での買い物、今日はそれ自体が目的だった。もうすぐ春奈の誕生日。何が欲しいかと鬼道が尋ねたところ、モノより時間が欲しいと彼女は言ったのである。 つまり、二人で遊びに行きたい、と。 本音は少しばかり遠出して、遊園地や映画や大型ショッピングモールにでも連れて行ってやりたかった。しかし、残念ながら日本代表の司令塔たる鬼道にとって、休みなどあってないようなもの。丸々一日を娯楽に費やす事は至難の技だった。 それで結局。近くの商店街で買い物、に落ち着いたのである。鬼道としては申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、春奈は充分満足だったようだ。彼女に手を引っ張られるまま此処まで来て、今に至るというわけである。「わあ、可愛いくまさん…!」 目をキラキラさせて、ショーウィンドウに張り付く春奈。「うー…残念。もうちょっと小さかったら部屋に置けるのになあ」「もう少し部屋を整頓したらどうだ?棚の上の雑誌を並べ直すだけでだいぶ効果があると思うが」「分かってるもん!でも片付けた端からつい散らかしちゃうのよね…はぁぁ」 意外と思われそうだが、春奈は整理整頓が苦手だ。昔からそうだった。モノを片付けるのが苦手なのに、ついつい新しい品を買い足していってしまう。さらには散らかしたものを戻すのをつい忘れるらしい。 FF開催時。妹と和解して割とすぐ、鬼道は春奈の部屋に招かれていた。そしてあまりの雑然とした様に愕然とさせられたものだ。ベッドの上まで物置と化しているのだから、まったく笑えない。 そんな状態で、大きなぬいぐるみを購入するなど自殺行為。さすがに彼女も理解しているらしかった。「もっと小さいのを…そうだな、自分の部屋じゃなくて部室にでも置いてみたらどうだ?もしくはキーホルダーにしてカバンにつけるとか」 雷門の部室の掃除は鬼道や秋、風丸といった綺麗好きのメンバーで毎日やっている。前は相当汚れていたのだが、エイリア襲撃後改築してからはかなりの清潔さが保たれている。 あの場所なら置いてもなくなることはあるまい。それに改築して多少広くなったのでスペースも余っていた筈だ。 またキーホルダーにできるくらいの小ささで我慢すれば、無くなる率もぐっと下がる。妥当な線ではなかろうか。「いいアイディアって言いたいとこだけど、抱き枕にして寝るのが一番楽しいんだよね…駄目かな?」「ベッドの周りがジャングルじゃなくなったら買ってやる」「…やっぱり」 苦笑した春奈は、もう一度ショーウィンドウを覗きこみ−−不意に振り返った。「どうした?」 尋ねると彼女は、あれ、と指を指す。「見慣れた人がガラスに映ったからもしやと思ったら…うん、やっぱり。あれ、緑川さんとヒロトさんと風丸先輩だよね?」 鬼道がそちらを見れば確かに、緑赤青とカラフルな三人の頭が見えた。道路の反対側だ。向こうはまだこちらに気付いていないようだが−−。 何やら、雲行きが怪しい。会話の内容までは聞き取れないが、何やら言い争っているようだ。まるでリュウジを庇うように、自分の後ろに引き寄せている風丸。されるがまま俯いているリュウジと、苦い顔で二人を見るヒロト。 主に風丸が一方的に怒鳴っているようだ。普段わりと冷静な彼がとんでもなく激怒している。珍しいどころの話ではない。ヒロトが時折反論して、さらに彼の怒りを買っているらしかった。リュウジは殆ど蚊帳の外に見える。 プライベートでの揉め事かもしれないが、どちらにせよ良い事だとは思えなかった。少々気が進まないながらも、鬼道は春奈を連れて道路を渡る。「お前にそんな事言う権利は無いっ!」 ある程度近付いてくれば、少なくとも怒鳴り散らす風丸の言葉はハッキリと聞こえてくるようになる。「分かってるのか…自分が何をやったか!!」 風丸以上に、ヒロトは温厚だ。しかしそれでも、堪忍袋の尾が切れかけているらしい。何か言おうと口を開きかけ−−どうやら鬼道と春奈に気付いたようだ。 言葉を紡ぎかけた唇が、中途半端に閉ざされる。「何を揉めているんだ」 声をかけると、ヒロト以外の二人も振り向いた。激しい憤怒からつり上がっていた風丸の眼が、急速に元に戻る。さすがに自分達の前でも不機嫌をぶつけるべきじゃないと思ったのか。 だが鬼道が何より驚いたのは、あまりに酷いリュウジの顔だった。まるで殴られたように、額には青痣があり、唇の端が切れている。何より、眼が完全に光を失い、虚ろになっていた。 まるで全てを諦めてしまったかのように。「緑川…?その怪我は…」「何でもない」 言いかけた鬼道の言葉は、淡々としたリュウジの声に遮られる。「何でもないから」 そう言って、リュウジは一人、風丸の手も振り切って逃げ去ってしまった。反射的に追いかけようとした春奈を止めたのは風丸だった。「悪いけど、音無。…ほっといてやってくれないか。多分あいつも今は一人になりたいと思うから」「風丸先輩…?」 どうして、と眼で訴える春奈に、風丸は静かに首を振る。それはこれ以上の質問には答えない、という彼の意思表示でもあった。「…分かりました。分かりましたけど風丸先輩にヒロト先輩。一体何があったんです?喧嘩は良くないですよ」 躊躇いがちに言う春奈。すると風丸は一つ大きく息を吐いた。 それが感情を殺す為である事は、すぐに分かった。「俺は、こんなヤツとはプレー出来ない。こいつは日本代表に相応しくない。こんな…酷い奴」 風丸は吐き捨てる。こんなヤツ、というのがヒロトの事なのはすぐに分かった。ヒロトは無表情で、ただ風丸の言葉を聞いている。 酷い?ヒロトが?一体何の話だろう。困惑している間に、風丸は背を向けた。「…悪い。ちょっと俺も、一人になりたい。八つ当たりしたくないからな」 そのまま有無を言わさず、早足で立ち去ってしまった。リュウジがいなくなったのとは逆方向だ。 残されたのは事態の掴めぬ鬼道と春奈、そしてヒロトの三人だった。「風丸と、何があった?緑川が原因なのか?」 昨晩の彼とリュウジの様子を思い出す。下手すれば昨夜よりやつれているように見える。 何がそんなにも彼を追い詰めているのか。彼は何故、罪の贖い方なんてものを鬼道に求めたのか。「……ごめん。言えない」「何故言えない?」「それも……言えない」「ヒロト」 さりげなく、逃げ道を探しているように見える。だが逃がす訳にもいかなかった。言えない、ならせめて言えない理由だけでも知らなければ。 きっと何かを解決させる事なんて、できやしない。「頼む。教えてくれなきゃ、分からないんだ。お前達が何に苦しんでるのかなんて」 逃げようとしたヒロトの腕に、自然と手が伸びた。 推測があった。リュウジの怪我は、明らかに何者かの暴力によるもの。それも断続的に、現在進行形で行われている。 殴ったのはヒロトではないだろうか。それを見て風丸が激怒し、リュウジを庇ったのではないか。さっきの様子はそんな風に見えた。 もしこの予測が違うのであれば、ヒロト本人の口から否定して欲しい。仲間が仲間を傷つけているかもしれないなんて、そんな事本当は考えたくもないのだ。「リュウジに暴力を振るったのは、お前かヒロト?」 細い手首をやや強めに握った瞬間。ヒロトの顔が苦痛に歪められた。「うぁっ…!」 鬼道は驚き、慌てて手を離す。ヒロトは手首を押さえて、脂汗を流していた。何だ。何が起きたのだ。そんなに強く握った覚えはないのに。 答えはすぐに出た。 ヒロトのジャージの長袖。押さえる手の下からじわりと赤が滲んでいたから。「……っ!見せろ!!」 鬼道は有無を言わさず、ヒロトのジャージの袖を捲り上げた。そして息を呑む。ヒロトの両腕に巻かれた、血の滲む包帯に。その出血量に。「お前っ…これは一体…!?」「罰なんだ」 ぽつり、と。青ざめた顔で、ヒロトは言う。「罰が要るんだ。俺にも…緑川にも」「待てヒロト、一体何の話をして…」「ごめんなさい」 うずくまり、ヒロトは嗚咽を漏らす。「辛いなんて思っちゃいけない。いけないのに…」 鬼道と春奈はただただ顔を見合わせる他なかった。そこにいたのは、自分達が知るより遙かに弱く儚い少年だったのだから。NEXT |
上手な自分の繕い方。
罪滅ぼしと免罪符、第二話になります。風丸と春奈は誰の趣味かって?勿論私の趣味です(断言)
この話にせよなんにせよ、一番ズタボロになっているのがヒロトのような。精神的に。
辛いなんて思っちゃいけない。苦しいなんて思っちゃいけない。そんな資格なんかない。
エイリアの子達は多かれ少なかれそう思って自分を責めてそうです。まだ中学生なのになぁ・・・。
ちなみに冒頭の緑川の電話。こっそりエイリアっ子達の本名をネタバレしております(笑)
怜名=ウルビダ、修児=アイキュー、杏=レアン、理夢=リーム、大夢=ディアムですね。