<警告>*この話には、暴力&若干の流血描写があります。 グロ度はさほど高くないですが、全体的に真っ暗な話なので、苦手な方は即行逃げることを全力でお勧めします。 問題ない方のみ、下へスクロールしてご覧下さい。 事件が起きたのは−−翌日だった。 見つけたのは立向居。自主連の為に早起きした彼が見たのは、一階の廊下−−階段の下で倒れているリュウジの姿だった。 どうやら階段の踊場から転落したらしい。頭を打っていたので心配だったが、どうやら幸運にも打ち身と脳震盪で済んだらしかった。本人も介抱されてそう幾分も立たないうちに意識を取り戻している。 だから−−鬼道が戦慄したのも皆が困惑したのも、他の理由だ。 リュウジは何故か、“両手首を縛られ”、“目隠しをして”倒れていたのだ。 それも、立向居が起きた朝五時よりも前の時間に、だ。真夜中に、ユニフォーム姿で、正気の沙汰とは思えない格好で。彼は一体、何をしていたというのか。−−いや、よそう。答えはとっくに出てるんだ。 鬼道は強く拳を握りしめる。掌に爪が食い込んで痛かったが、そんなものよりずっと心が痛くて仕方なかった。 リュウジを手当したマネージャー達は驚いていた。彼は全身、痣だらけだったのだ。酷いのは目に見える場所より、服で隠れる胸や腹だった。 それだけならば、転落した時や練習の時についた傷だと思ったかもしれない。だがリュウジの背中や胸には、明らかに別の種類の痕や傷があった。 紐のようなもので縛られたり、殴られた痕。刃物で薄く何回も斬りつけられた痕。 ここまで来るともう、誰しも知らないフリはできない。リュウジは何者かに暴行を受けている。階段から落ちたのも、誰かに突き落とされたのかもしれない。 下手をすれば死んでいた。これは殺人未遂事件かもしれない。 だが、当のリュウジは事件が表沙汰になる事も病院に行く事も頑なに拒んだ。階段から落ちたのも、自分で足を滑らせただけだと言い張る始末だ。「俺が悪いんです。全部、俺のせいだから。ごめんなさい…ごめんなさい」 体を小さく丸めて、ただごめんなさい、ごめんなさいと繰り返す。その姿は、昨日のヒロトと重なるものがあった。 彼らはひたすら誰かに、世界に、仲間に謝り続けているのだ。それ以外に罪を償う方法を知らないから。 昨日。鬼道は、ヒロトの口を割らせていた。彼の言う事が本当に正しいのか、あの時点では判断できなかったけれど。 あの日の晩、精神的にボロボロだった彼を見かねて、部屋に泊まらせたのである。鬼道は小さな物音でも目が覚める質だ。昨晩自分の部屋からヒロトは抜け出してなどいない。 だから、リュウジの現在の惨状、その原因はヒロトではない。 ヒロトは知っていたのだろう。いずれこうなる時が来る。問題は必ず浮上する、と。だが彼には何もする事が出来なかった。立場的に彼は、リュウジと同じ場所にいたから。 リュウジが贖いを望んでいる事を知っていた。ヒロトもまた贖いを求めていた。救われていい筈がないと思っていた。助けを求める権利などないと自分を殺していた。 それでも−−彼らは血の通う人間。人形にはなれやしない。本当は辛かったに違いないのだ。どうすれば終わりになるのか、答えを求めながら、耐え続けるしかなくて。『罪ってさ。…どうやって償えばいいのかな。誰に赦して貰えたらオワリになるのかな』 リュウジは他人から与えられる痛みを享受する事で懺悔しようとした。 ヒロトはそれを見て、自らの両腕を血まみれになるほど切り刻んででも、耐え忍ぼうとした。 いつか必ず限界が来ると、理解していながら。『君なら、分かると思うんだ。少なくとも円堂君よりは僕達に近い場所にいるでしょう?』 ああ、そうなのだ。 ヒロトのあの言葉は、彼なりの精一杯のSOSだったのだ。自分以上に追い詰められてしまっている、リュウジの分まで。 鬼道もかつては闇の中にいた。大人達の道具にさえ、呪縛に囚われ、罪を犯して。だから分かる気がするのである。がむしゃらに贖いを求めている、彼らの心が。−−俺なら、救える? いや。違う、と。鬼道は自問自答する。−−俺が、救うんだ。 綺麗なだけの手ではないから。 出来る事がある筈だ。ヒロトとリュウジを光の中へ引っ張り上げること。 そして、もう一人を助ける事も。罪滅ぼし と免罪符〜〜参〜〜 何がいけなかったのかなど、もはや分からない。もしかしたら間違ってるのは自分の方かもしれない。仲間達はきっとそう言う。 それでも風丸は、己の“過ち”を正す気は毛頭無かった。誰にどう糾弾されようと、全ては己の正義に基づく事だったから。 目の前のドアをノックする。最初は普通に、段々と激しく。部屋の主−−緑川リュウジがベッドから起き上がるのも辛い身体である事を承知で。 やがて開かれるドア。憔悴しきった顔のリュウジに、風丸は色の無い瞳を向ける。「偉かったなぁ、レーゼ」 風丸はわざとその名でリュウジを呼んだ。「よく言わなかったな?お前を…突き落としたのが俺だって」 偉い偉い、と頭を撫でながら部屋に押し入る。撫でられている間ずっとリュウジは震えていた。怯えている。それが爽快で仕方ない。 こいつは。こいつらは裁かれなければならない。 誰が許しても自分が彼らを赦さない。「分かってるんだよな?悪いのが、誰なのか」「…はい」「響木監督や久遠監督が選んだんだから仕方ないけど。本当はお前に日本の代表を背負って戦う資格なんかない。そうだよな」「…はい」「あれだけたくさんの学校を壊して、たくさんの人を傷つけて、迷惑かけて、絶望させて。その償いはしないといけない。そうだろう?」「…はい……その通り、です…」 絶望。そう−−エイリア学園は自分にとって、まさしく絶望そのものだった。特にリュウジ。レーゼとしての彼とジェミニストームに植え付けられた傷はあまりに大きなもので。 自分は元々陸上部。サッカー歴が長いとはとても言えない。しかしだからこそ誰より努力は怠らなかったつもりだ。その自信を裏打ちしたのがあのフットボールフロンティア優勝という栄冠だった。 その全てを破壊したのが、エイリア学園。圧倒的なスピードとテクニック。超人的ともいえる身体能力。その横暴なまでの力を前に、一体何人が涙を流した事だろう。 自分だってその一人だ。人前では泣かなかったけれど、本当はずっと泣きたかった。強くならなければ。勝たなければ悪夢は終わらない。切迫感。責任感。追い詰められて逃げられなくてそして−−全ての想いは、墜落して。「全部全部、お前の、お前達のせいなんだ」 たくさんの人が傷ついたのも。 自分が闇に墜ちたのも。「だから俺が、罰を与えてやる」 がしり、と緑色の髪を掴んだ。小さく悲鳴を上げるリュウジ。ゴムが千切れポニーテールがほどけて、セミロングの髪が散らばる。 こいつさえいなければ。 こいつらさえ、いなかったなら。「俺はずっと…あの時のままサッカーを楽しめていたのに」 赦さない。あんな事をしておいて。あんな酷い真似をしておいて。 のうのうと“楽しいサッカー”を求めるお前達は、その存在そのものが罪。「−−ッ!」 風丸は、髪を掴んだ手を振り回す。壁に勢いよく叩きつけられ、リュウジは呻く。机の角が胸と腕に当たり、苦痛の声を噛み殺した。 足りない。風丸の中の、暴力的な何かが叫ぶ。 足りない。こんな程度で収まる怒りではない、と。 リュウジは抵抗しない。いつもそう。初めて風丸が、己の憎悪をぶちまけたその日からそうだ。お前が憎い。憎くて堪らない。そう怒鳴った風丸にリュウジはただ一言、静かに言ったのだ。『そっか。…そうだよね』 そう。 先に風丸の手を握り、導いたのは−−リュウジの方。『じゃあ、好きにしていいよ。俺は全部、受け止めるから。それで君の気が済むなら…君が楽になれるなら、本望だから』 それは甘く、危険な罠。麻薬のような誘惑。それが分かっていながら風丸はリュウジに手を上げた。それ以外にこの鬱屈した気持ちを発散する方法を知らなかったから。 自分はきっと、リュウジを殺してしまう。 そこまでの事は望んでいなかった筈だ。しかし一度始まってしまった歪みはもう、風丸自身にも止められなくて。「お前最近、夜中に特訓してるらしいな?一丁前に危機感感じてるわけだ。そうだよな、お前の実力なんて他の奴らに比べたらお粗末なもんだからな…!」 違う。こんな事を言いたかったわけじゃない。こんな事にまでケチをつけるだなんて、他人の努力を嗤うだなんて−−そんなみっともない真似。少し前までの自分ならしなかったのに。 胸を思い切り蹴り上げ、踏みにじる。げほげほど咳込むリュウジを引き倒し、脚を押さえつける。 いつの間にかカッターはポケットに常備するようになっていた。押さえ込んだリュウジの太ももを何度も浅く、わざとゆっくり斬りつける。痛みが長引くように。 紅い線が引かれていくのを、もはや苦痛の色さえ見せずじっと見つめる。その、死んだような眼が気に入らなくて、ついつい顔を殴った。いけない、顔に傷はつけないようにしようと思っていたのに、またやってしまった。「どうして此処にいるか分からない!自分が何の役に立つのかも分からない!…そうだろ!?」 肩口に刃が食い込み、血が滲む。捲れたシャツの下は青あざだらけだ。それでもリュウジはただされるがまま風丸に殴られ続けている。 何故此処にいる?自分が何の役に立つ?ああ、そうだ。それはエイリアとの戦いでずっと風丸が思ってきたこと。 本当は分かってる。今のリュウジに対しこんなに苛立つ訳。 かつて自分にあれほどの絶望を与えた相手だというのに。あまりにも重なるからだ。必死で、がむしゃらになって練習するしかなかったあの頃の風丸自身に。「お前さえいなければ俺はっ…俺は−−ッ!」 大きく振り上げた拳が、リュウジの胸の中心に叩き込まれ。手に伝わった鈍い感触。リュウジが眼を見開いた。そして一つ大きく咳をして−−血を吐いた。「……!」 かくん、と。真っ青な顔が力なく垂れる。瞼が閉じられる。急にぐったりと動かなくなった緑川を見て、風丸の中の熱が急激に冷めていくのが分かった。「み…緑、川…?」 まさか。 まさか、そんな。 殺し、て。「緑川!風丸!!」 突然ドアが開いて、人影が飛び込んできた。円堂と鬼道だ。ああ、ついに見つかってしまった。白く塗られ始めた意識の中、ぼんやりと思った。まるで他人事のように。 リュウジを揺すり起こそうとする円堂を、鬼道が止めている。その鬼道が救急車を呼んでいる。そして。「風丸」 その静かな声が、聴覚を打った。「これでお前は、救われたか?幸せか?」 その意味が。ゆるゆると風丸の胸の底に影を落とす。「あ…」 ああ、分かってた。分かってたんだ。「あああああっ!!」 風丸は泣き崩れる。 気付いてしまったから。自分はずっと救われたかったのだと。NEXT |
世界が朽ちる音がする。
罪滅ぼしと免罪符、第三話になります。あと一話で完結!ヤンデレ欝丸が誰の趣味かって?勿論私のしゅ(ダークフェニックス)
エイリア組が、普通に日本代表としてやっていくには、本来ものすごい葛藤があったと思うのです。
多分事件の後、リュウジやヒロトは裏で学校破壊の被害者達に糾弾されたり殴られたりくらいしたんじゃないかと。
まぁ、アニメは一応子供向けに作ってあるものですから、そんな生々しい描写はできなかったんだと思いますが。
風丸も。ダークエンペラーに堕ちる経緯と堕ちた結果。吹っ切るのは相当難しかったはずなんです。
そのうちなんらかの形で、エイリア事変からの三ヶ月間も書いてみるかもしれません。