手を伸ばす背中に近づきたくて。 叫んでも叫んでも遠ざかる背中の理由。 理解した時やっと分かった。 背負わせてしまったのは他でもなく。 この背中に、白い翼は 無いとしても。0-2:捜し続くは、幸福の在処。 自分達は間違っていたのかもしれない。過ちに気付きながら、気付かないフリでごまかしてきたのかもしれない−−豪炎寺がいなくなってから、鬼道はずっとそんな事を考えていた。「俺達はきっと、変わるべきなんだと思う。こう言っては何だが、いい機会かもしれない」 鬼道が言うと、話が見えないらしい円堂と塔子は揃って首を傾げる。 その仕草があまりにそっくりだったので、つい笑みがこぼれた。塔子が影で“女版円堂だ”と言われる理由の一端。二人はいろんな意味で似ているのだ。外見 ではなく、もっと根っこの部分が。「雷門に来て、感じていた事がある。俺達はずっと豪炎寺に頼りっきりだった。必殺技一つとってもそう。豪炎寺の手を借りなければ打てない技のオンパレードじゃないか」「う…言われてみれば」 イナズマ落とし。炎の風見鶏。イナズマブレイク。雷門の誇る強力な必殺技の殆どを豪炎寺が担っていた。雷門というチームはかなりの面で、彼の技術力に頼りきっていたのである。 確かに元々弱小のチームだったのだから、最初のうちは仕方なかったかもしれない。しかし今や雷門は日本の中学校で一番強いチーム。いつまでもその体制のままでいい筈がない。 これでは去年の木戸川清修の二の舞だ。彼らは技術的にも精神的にも豪炎寺におんぶにだっこだった。ゆえに豪炎寺が妹の事故で試合に出られなくなった途端、帝国に惨敗したのだから。「精神面でもそう。…豪炎寺さえいたら勝てる、とか。こんな時豪炎寺がいてく れたら…とか。そんな風に考えるのが当たり前になってないか。俺達のそんな考 え方が、あいつの負担になっていなかったとは思えない」 誰か一人に頼りきって、甘えているようなチームでは駄目なのだ。もしかしたら豪炎寺自身も重圧を感じていたかもしれない。それで、悩んでいても誰かに相談できる状況になかったのかもしれない。 彼を追い詰めたのはエイリアだけでは無かったのではないか。本人はきっと否定するだろうが、それでも思わずにはいられない。 最たる悪は誰だったのかと。「豪炎寺も、入院している連中もきっと戻って来る。そう信じているなら…奴ら が戻って来た時、あいつらが安心して身を置けるようなチームになっているべきだと、そう思う」 彼らの席は、いつでも自分達の心にある。だけど彼らが居た場所を、大きな空白のままにしておくのは違う。 いつまでも崇高な記憶のまま、美化の限りを尽くされた豪炎寺の背中を追うなど論外だ。彼らが戻って来た時、彼らの隣に立てる“仲間”になっていること。 誰が上でも下でもない。 並んで走ることができる。それこそが目指すべき最強のチーム、なのではないだろうか。「…そうだな。うん」 さすがに、ショックは受けたのだろう。それでも否定せず事実を受け止めた様子の円堂に、鬼道は内心で安堵する。 どんなシュートが来ても、逃げずに受け止めるGK。それはサッカーに限った話ではない。だからこそ自分達は彼についてきた。彼と共に歩む道を選んだ。 それが、円堂守だからだ。「ありがとう、鬼道。言ってくれなきゃ多分気付かなかった。豪炎寺と離れたことが、無駄になるとこだった」 俺もまだまだだぁ、と円堂は頭を掻く。「仲間って、そういうもんなんだよな。誰が上とか下とか…それは違う。俺、無 意識に、豪炎寺を高い場所に見て頼ってた。豪炎寺の代わりは確かにいない。でもそれは、“豪炎寺がいなきゃ何もできない”って事じゃない…ってうまく言え ないけど」 本人も段々何を言ってるか分からなくなってきてるのだろう。うーんうーんと頭を抱えて悩む円堂に、不謹慎ながら塔子と顔を見合わせて笑ってしまう鬼道。 自分達は、変わらなければならない。きっと豪炎寺や、フットボールフロンティアで戦い抜いてきた仲間達との別れは、その為に必要な事だったのだ。 この世界に、偶然など無いのだから。「豪炎寺だけじゃない。…チーム全体で、俺達は円堂、お前にも頼りきっている 。依存するのと共に立ち向かうのは違うから」 円堂を真っ直ぐに見る。まだ幼い、大きな瞳と眼があった。「改めて言うぞ。お前も一人で背負いこむな。…仲間を信じてると言うのなら」 「…ありがとな」 突然、背中に温もり。少し身を強ばらせた鬼道はすぐ、その正体に思い至って安堵する。そうだ、自分がナーバスになったのを感じると、彼女はよくこうして抱きついてきたな、と。「ははっ…鬼道はやっぱ鬼道だな。昔も今もカッコよすぎて妬けるぜ!」 はぐはぐ、ぎゅー!と塔子は背中から抱きついてくる。恥ずかしいからやめろ、と言いつつ、ほっとしている自分がいるのも確か。 塔子と共に過ごすのはこれで三度目。二度目に出会った時、自分は相当精神的に参っていて−−彼女の優しさについ甘えてしまった。甘えは赦されない。鬼道家の跡取りに隙などあってはならない。そう教え込まれていたにも関わらず。 そうだ、あの約束をしたのもあの頃だった。塔子は覚えているだろうか。懐かしくて恥ずかしくて−−だけどどんなに追い詰められても、あの約束があったから自分は生きて来れた。誰かに助けを求める事なく。 もう忘れられてしまっていても仕方ないくらい昔だけど。「仲がいいんだなーお前ら!いいなぁ幼なじみって」 何やら見当違い−−いや自分達に限り間違いでもないが、普通男女が仲良くくっついてたら別の勘ぐりをするもんじゃなかろうか−−に感心する円堂。「円堂には風丸がいるじゃんか。幼なじみって聞いたぞ?」「風丸は俺が抱きつくと怒るんだもんー昔はだっこさせてくれたし逆におんぶもしてくれたのにー」「ははは…」 鈍すぎる円堂に、鬼道は笑うしかない。ここがアメリカなら許されたかもしれないスキンシップも日本、しかも中学生じゃあキツイという事だろう。サッカー中ならまだしも普段のじゃれ合いじゃなぁ…と思う自分は多分マトモだ。 「お前らなー!今何時だと思ってんだよー?」「い?」 階下から声。見ればキャラバンの脇に立ち、こちらを見上げている少年の姿が。 青みがかった黒髪に、つばを逆さに被った蒼いキャップ。中性的な顔立ちに、群青色の瞳。雷門中三年、サッカー部のMF(FW)、桜美聖也。フットボールフロンティア開 催期間中に雷門中に転校して来て、サッカー部に入部した人物である。一ノ瀬より早くから在籍しているのでそこそこ付き合いは長い、が。 地区大会での帝国学園との試合にて。降ってきた鉄骨から豪炎寺を庇って怪我をし。殆ど試合に出る事なく長い間ベンチ生活を余儀なくされた不遇の人物でもあった。 いや、下敷きになりかけたくせに、怪我で済んだ&ごく短期間の入院で済んだあたり、頑丈すぎると思わないでもないが。 三年だが、敬語を使う関係を彼は嫌った。元々脳天気で明るい性格からチームに馴染むのも早く、年長者であることからよく仲間からの相談相手にもなっているようだ。鬼道も嫌いではない。彼と塔子が結構馬が合うらしい事に、多少複雑な想いが無いわけではないが。「ごめんごめん、そろそろ寝る。でもそういう聖也は何で起きてんだよ?」 塔子の問いに、聖也はうーんと伸びをして。「ちょっと気晴らしに散歩でもして来ようかと☆」 見事に星をつけてのたまった。 いやいやいや、何時だと思ってんだとか此処は平原のド真ん中だぞとか一人で彷徨くのがそもそも問題だとか。ツッコミどころは多々あるがそれ以上に。「「「絶対駄目!!」」」 鬼道と塔子、円堂の声が見事にハモった。 この聖也という少年、頭が弱い事やパワー馬鹿すぎて物をすぐ壊すこと、コントロール下手な事など様々な弱点を抱えているが。一番の問題は、方向音痴。どんな場所でも迷う。一人で放置すると一分経たずに迷子になっている。 転校初日に校舎内で迷子になり、マックスに救出されたのは記憶に新しい。あげくとんでもない遅刻と忘れ物ラッシュをやらかしたのだからどうしようもない。「お前…いい加減学習したらどうだ?シカ公園で迷子になってスミスさんに多大 な迷惑かけたのは何処の誰だ?」「き、鬼道様、目が笑ってません…」 いつもより三割り増し低い声を出すと、聖也はビビって超高速でキャラバンの影に隠れた。ジェミニストームも真っ青なスピードだ。頼むから試合に生かしてくれと切に願う。「…寝るぞ。さっさと寝るぞ。聖也は散歩に行きたいなら勝手にしろ。喜んで放 置してやる」「えー助けてよー」「だったら迷子にならない努力をしろ!!」 隣で円堂と塔子が、万歳コンビできるんじゃね?と囁きあっているのは見事に聞こえないフリをする。こいつと万歳なんて死んでもごめんだ。面倒みきれない。 梯子を降りて、キャラバンの中に入る。まだ眠くないよーと騒いだ聖也は、塔子に一発くらって伸びていた。そのままかつがれてバスの中にポイされる。哀れだが同情の余地はないので無視だ。 寝る前に明日以降の予定を確認する。 やりたい事もやるべき事も山積みだ。バスは今、北海道に向けて移動中である。その間の時間を無為に過ごすつもりはない。鬼道財閥のネットワークに加え、SPフィクサーズの塔子が仲間になってくれたのが心強い。調べられる範囲がぐんと広がった。−−今回の宇宙人襲来事件。何か、裏があるような気がしてならない。 奴らは何故財前総理を拉致したか。そればかりマスコミで騒がれているが、疑問に思うべき点はそれ以前にもある気がしてならないのか。 何故奴らは日本に降り立ったのか?世界の支配を目論むなら、頂点であるアメリカを叩くのがてっとり早いのではないか? 勿論奴らがたまたま降り立ったのが日本で、この地球の力関係を把握していない可能性もある。が、少なくともあのレーゼとやらは随分地球の事に詳しいようだったし、それを見せびらかしたがっていた。この世界を実質的に統べている大国の存在に気付いてないとは考えにくい。−−いや、待った。それより前にもとんでもない見落としをしているぞ、俺達は。 雷門にやってきた宇宙人と名乗る連中は−−随分流暢に日本語を話していたではないか。あれは一体どういう事だ。エイリアの科学文明では、言語翻訳の技術も格段に進んでいる−−と解釈できないわけではないが。 最初から奴らが日本だけにターゲットを定めていたとしたらどうだろう。少なくとも最初は日本で何かしなければならない事があって、雷門に降り立ったとしたら。 疑問は山積みだ。奴らは何故支配の手段にサッカーを選んだ?あんな回りくどい方法をとった?そしてサッカーはサッカーでも、プロではなく中学サッカー界ばかり挑発してくる理由は? そして肝心のエイリア学園が子供ばかりで構成されている訳とは。−−知恵比べか。…いいだろう。 受けて立ってやろうではないか。 天才ゲームメーカー、鬼道有人の名にかけて。NEXT |
未だ未来は、霧深く。