疑問符に投げキッス。 片翼の鳥に毒入り紅茶。 有象無象の楽団に顔の無い指揮者。 それが異質と気付いたならば、それならば。 この背中に、白い翼は 無いとしても。0-24:されど、全ては闇へと消えて。 今回の勝負で、雷門を完全に潰すことは赦されていない。 おそらく自分達にはジェミニストームとは違う命令が下されている。ジェミニストームは、雷門をある程度なら潰しにかかる事を許可されていた。が、雷門がジェミニストームを打ち破るほどの力を持った事で−−どうやら上層部は多少考えを変えたらしい。 つまり。出来る限り多く、雷門と戦う機会を儲けよ、と。無論エイリアは勝利以外許されない。だが負傷者が続出するような事態は避け、殊に第一戦はデータ収集に重点を置くようにと言われている。 皇帝が何を考えているのか、デザームには分からない。ただこの戦いが、単なる侵略ではなく、何らかの実験的意味合いを兼ねているだろう事には気付いている。 だが謎だ。雷門の存在を軽視できなくなったのならば、全力で潰しにかかるべきだろうに−−どうしてわざわざ面倒を長引かせようとするのか。−−…よそう。余計な事を考えても仕方ない。正々堂々戦えるのは…私にとって も本望なのだから。 デザームがパスしたボールはモールへ。さらに雷門陣営が包囲するより先に、クリプトへとパスが繋がる。「させるかっ!」 土門がキラースライドで迫るが、クリプトは余裕の表情。ひらり、とジャンプしてかわしていく。そのままドリブルし、雷門陣営を引きつける。「温いな」彼女はニヤリと笑い、FWのゼルへとパスを出す。ペナルティエリアは目前だ。 ゼルはボールを蹴り上げ、両手を構える。「ガニメデプロトン…!」 ゼルの掌にエナジーが集まっていく。収束される紫の光に、警戒心を高める雷門イレブン。 しかし彼らにとってより不幸だったのは、ディフェンスの要である塔子がクリプトに引きつけられていたせいで、ゼルからかなり離れた場所に行ってしまっていた事。あの場所ではシュートブロックは使えまい。 頼みの綱は壁山一人。「行かせないッス!ザ・ウォール!!」 壁山が雄叫びと共に、大柄なその身体をどっしりと構え、通せんぼうをする。その背後にせりあがる巨大な岩壁がシュートコースを防いだ。 けれど。壁山一人でエイリア学園のシュートが止められない事は過去にも実証済みで。ボールを受け止めた岩壁に亀裂が走っていき、やがては粉々に砕いた。壁山の身体が吹っ飛ばされる。「くそっ…」 ガニメデプロトンのスピードに円堂も反応しきれていない。マジン・ザ・ハンドでは間に合わないと判断してか、一段階下の技を構える。「ゴッド・ハンド!!」 金色に輝く神の掌がボールを受け止め−−たかに見えた。イプシロンの誰もが心の中で嘲笑した事だろう−−我らのシュートが、その程度の必殺技で止められるわけもない、と。 次の瞬間、神の手は硝子のような音を立てて砕け散る。円堂はボールと一緒に吹っ飛び、ゴールネットに受け止められた。 ホイッスルが鳴る。イプシロンの先制点。まあ当然だ。ゴールはデサームが守っている。失点する筈もない。 しかし、予想していたよりも手応えは感じている。漫遊寺は殆どまともなサッカーをさせずに勝つ事が出来たのに−−雷門はこちらの連携に怯まず、冷静に対処してくる。 何より、勝とうと足掻く気力が違う。「まだまだ一点!取り返してくぞ!!」 「おうっ!」 体格こそ小柄だが、さすがキャプテンなだけあって鍛え方は半端じゃないのだろう。あれだけ派手に吹っ飛んだにも関わらず、すぐに立ち上がって仲間達に激を飛ばしている円堂。大したダメージもないようだ。 仲間達もその声に応える。簡単に挫けるほどヤワじゃない、とその眼が言っている。 試合再開。吹雪からパスを受け取り、染岡が駆け上がっていく。そのままドリブルを許すほどこちらも馬鹿じゃない。ゼルとメトロンが素早くチェックをかける。「吹雪っ!」 ボールを奪われる前に、染岡は吹雪にパスを出す。「任せろ!」 ギラリ、と金色の眼を輝かせて、吹雪が前線を駆け上がっていく。邪魔する者は蹴散らしてでも進んでやる、といった勢いだ。 スオームがタックルに行けば、疾風ダッシュを繰り出し華麗にかわしていく。 奴を上がらせると面倒だ。イプシロンメンバーもジェミニの試合は見ているし、吹雪のシュートの破壊力も知っている。残ったディフェンス全員で吹雪を止めに走る。 さすがに今度はかわしきるのは困難と悟ったか。まだゴールまで遠かったが、吹雪はシュート体制に入った。「エターナルブリザード!…おおおおっ!」 吹き荒れる雪嵐。ボールを中心に、凍てついた一撃がこちらに迫って来る。シュートブロックをしようとしたタイタンが失敗し弾き飛ばされるのを見て、デサームが感じたのは喜悦だった。 面白い。自分達にここまで抗う事ができるとは。この距離でこれだけの威力のシュートをくらわせてくれるとは。 デザームのワームホールが、ほぼ完璧にエターナルブリザードを止める。悔しげに舌打ちする吹雪。彼は気付いていないようだ。エターナルブリザードの威力に、鉄壁のディフェンスを誇るデザームがゴール側に押し出されていた事を。 無論それはゴールラインを割るには至らなかったが。「楽しいな…!お前達のサッカーは実に面白い!!」 ああ、本来の目的を忘れてしまいそうだ。忘れられたら幸せなのかもしれないとすら、一瞬思った。そんな事は赦されないのに。自分達はいずれ雷門を潰さなければならないだろうに。 カウンターアタック。パスを受け、マキュアが攻め上がる。栗松と鬼道が二人で止めに来たが、その程度のタックルで彼女は止まらない。「メテオシャワー!!」 「うわああっ!」 降り注ぐ隕石の雨霰。あれはくらえば相当ダメージを受ける。直撃した鬼道達は地面に這って呻き、すぐには立ち上がれない。 マキュアは再びゼルにパスを出す。行け、とデザームは声に出した。ガニメデプロトンをもう一発叩き込んでやれ、と。ゼルもそれを理解して、再び両手を構えエネルギーを集中させる。「ガニメデプロトン…!」 紫の光が、真っ直ぐゴールに伸びていく。壁山がザ・ウォールで、塔子がザ・タワーで止めに来るが、パワーはこちらが上。二人は無残に吹っ飛ばされる。あとはGKの円堂だけ−−な筈だった。そこにもう一つの人影が現れるまでは。 「お…俺だって…俺だって−っ!」 今まで悲鳴を上げながらフィールドを逃げ回っていた子供−−木暮だった。ジェミニストーム戦にいなかった選手。その臆病っぷりに、早々にマークを外していたのだが−−。 どうやらその判断は間違いだったらしいと悟る。一見自棄になってシュートに突っ込んで来ているようにも見えたが。木暮は地面に両手をつき−−シュートコースを塞ぐように逆立ちした。「旋風陣っ!はああああっ!!」 少年は逆立ちしたまま、両足を振り回すように身体を回転させた。その膝元にまるで吸い寄せられるがごとくボールが巻き取られる。 最も唖然としたのはシュートを打ったゼル本人だっただろう。少年が回転を止めてポーズを決めた時、その足首の上にはボールが乗っていた。そう、彼はガニメデプロトンを止め、さらにはボールを奪ってみせたのである。 確かに、塔子と壁山のダブルディフェンスで勢いは弱まっていた。それでも円堂以外の人間が、ああも鮮やかにボールを止めてみせるとは予想外。意外なところに、さらに意外な伏兵がいたものだ。ますます面白くなってきた。 そこへ、前半終了を知らせるホイッスルが。「デザーム」 僅かばかりの休憩時間の終わり。鬼道が声をかけてきた。ああ、あの話の続きが来たか、と思う。「サッカー、楽しいか?」 何の意図あっての問いかは分からない。しかしデザームは純粋に、感じたままを答えた。「さぁな。お前達にとっては納得できぬだろうが、我らにとってサッカーは破壊の道具にすぎん」 分かりやすく、雷門の何人かが不快感を露わにしてこちらを睨んでくる。本当の本当に、彼らはサッカーを愛しているのだ。 たかがスポーツ。たかが勝敗をつける為の一手段。なのに彼らは、そんなサッカーが命を賭けるにも値すると考えているようだ。 不思議に思う。けれど今−−それがまったく理解できないとは、思わない。「だが…お前達とやるサッカーは悪くない」 ゼルがやや驚いたようにこちらを見た。無意識に笑みが零れていたらしい。 何だろう。この感覚は知らない。この感情をなんと呼ぶべきかが分からない。 そんなデザームを、どこか切なげな眼で見て−−鬼道はついに確信に近い一言を放つ。「…お前達は何の為に戦うんだ。お前達の黒幕…ああ、レーゼはエイリア皇帝陛 下と言っていたな。その人物の為か?」 皇帝の存在が知られている。デザームは記憶の糸を手繰り寄せた−−どうやらレーゼは消滅の直前に、失言していたらしい。 たが死ぬかもしれないという一瞬。敬愛する人を讃える言葉を口にしたい気持ちは、分からないでもない。「そうだ。…我々エイリアの戦士は、あの方の為に戦い、あの方の為に生き、あ の方の為に死ぬ事こそ本望。そして存在理由にして証明…!」 かの人の夢を叶える事こそ自分達の夢。かの人の願いは自分達の願いだ。「あの方が望むならどんな非道も厭わぬ。この命に代えても全うする。あの方が死ねと命じれば我らは皆喜んで命を捧げるだろう」「そんな…」 そんなの、なんか変だ、と。円堂が愕然とした様子で呟く。なるほど、彼ら人間の常識で考えれば自分達の信念は何かが歪んでいるかもしれない。 それはさながら、無神論者達が宗教に生きる信者達を解せない事によく似ている。「死すら厭わない…か」 何を思ったか。鬼道は嘆きを隠すように俯く。「それでも戦うのか?たとえ…最終的に…自分達が人殺しの道具にさせられても …?その全てが、お前達の信じる人の意志ですらなくても…か!?」 その言葉に。 世界が、凍った。「な…に?」 イプシロンのメンバーも。雷門のメンバーも。皆凍りついた顔で鬼道を見た。 人殺しの道具? 信じる人の意志では無い? なんだ、何の話をしているのだ。この少年は一体何を知っているのか。「かの人物が妙な研究を始めたのは…五年前からだろう?身元不明の妙な女が男 に仕えだしたのも同じくらいの時期じゃないか?」 デザームは混乱し始めた頭で必死に考える。五年前?妙な研究?女? いやそもそも五年前−−自分は何をしていた?何故思い出せない。側近の女−−と言われて思い当たる人間は一人しかいない。 だがまさか。あの女が−−。「そこまでだ」 突然だった。突然、凍えそうな冷たい嵐が吹き荒れ−−風が収まった時、そこに彼は存在していた。「私の名は、マスターランクチーム、ダイヤモンドダストのキャプテン、ガゼル」 青い眼の少年は冷え切った眼差しを向ける。「この勝負、預からせて貰おう」 NEXT |
予定調和は今、崩れ始めた。