語りきれない事実と。 騙りきれない真実と。 手探りの闇の中、もがく手は何処にある? 紅炎と砂礫、全ては愚かなパズルゲーム。 この背中に、白い翼は 無いとしても。0-27:きみの、て。 デザームは一人、研究所の廊下を歩いていた。向かっているのは、マスターランクの三幹部の居場所だ。 本当は皇帝に直接訊きたいところだが、自分の地位では簡単には謁見を許されない。最低でもその前に、マスターランクリーダーの誰かを通し許可を貰う必要があった。 まあ、致し方ない事ではある。それにデザームはこのシステムにさほど不便さは感じていない。エイリアを動かす三人はなんだかんだで面倒見が良いし、上に立つに充分な実力もある。 たまに感情任せに不機嫌になったり三人で揉める事はあったが、個人的には彼らのそんな人間くささは嫌いじゃない。たまに喧嘩に部下達を巻き込む(主にバーンが)のだけは勘弁して欲しかったが。 やがて辿り着いたのはグランの私室。三幹部の中でグランが一番発言力がある。何より今この時間帯、ガイアのメンバーが揃って休憩中である事をデザームは知っていた。「グランならいねぇぞ」 ノックをするより早く、後ろから声をかけられる。 振り向くとバーンが立っていた。タオルで汗を吹いているあたり、彼もトレーニングを終えて戻ってきたところなのだろう。「何処行ったかは知らね。ついでに言えばガゼルはどこぞの魔女サマに呼び出しくらってて、こっちもいつ戻るか分かんねー。…用件なら俺が聞くけど?」 熱血元気キャラのイメージが強いバーンだが頭の回転は早い。瞬時にデザームの用を見抜くあたりさすがである。 口調こそぶっきらぼうだが、さりげなく配慮もみせる。彼が部下達から慕われる理由も分かるというもの。「お気遣いありがとうございます、バーン様。…僭越ながら申し上げます。バー ン様は我々イプシロンと雷門の試合は、ご覧になられましたか?」「ああ、ガゼルが割り込んで水入りになったヤツな。…やっぱその件か」 「…ええ」 バーンも気になってはいただろう。 彼がどこまで事実を把握しているかは分からない。自分達よりはずっと内情に詳しいだろうが、それが“真実”と言える域かどうかは不明だ。 確かなのは。あの段階でガゼルを登場させる予定など、当初の計画には無かったという事。マスターランクの出番はイプシロンが万が一負けるか、計画が最終段階に入ってからの筈だった。 少なくともイプシロンは試合に勝っていたし、終了のホイッスルも鳴っていない。にも関わらずあまりに不自然な形で自分達を撤退させたガゼル。そのガゼルに指示を出したのは、二ノ宮蘭子。 二ノ宮に指示を出したのが陛下であったかどうかは−−分かっていない。「ガゼル様が試合を中止させたのは…鬼道有人の言葉が原因とみて間違いない。 …奴が我々を偽情報で混乱させるのを防ごうとした…という見方も可能です」 決定的な事を話す前に、話を強制的に終わらせた。それは確かだろう。 問題は、鬼道の言葉の真偽。そしてマスターランクの三人はどこまで知っているかという事。「自分達はあの方に騙されてるんじゃないか…そう疑ったか?」 自分より小柄なバーンに下から睨むように見上げられ、反射的に首を振る。 あの方を疑うなんて、考える事も赦されない。疑問を持ったのは確かだが、皇帝を疑えばそのまま自分達の存在理由が崩壊する。「…疑う事など、我々には赦されない。同時にイプシロンのリーダーとして…仲 間に不安が広がるのは避けるべき事態と考えます」「お前はエイリアの鑑だねぇ」 顔に本心、出てるけどな、と。くつくつと笑うバーンに思わずドキリとする。「…ただ。もし…この現状が陛下の御意志に背くものならば。私には戦士として 、真実を明らかにし、陛下をお護りする義務があります」 自分達は、皇帝から直接指示を貰う事は殆ど無い。大抵は二ノ宮や研崎、バーン達三幹部を通す。 つまり−−彼らの誰かならば、皇帝の指示を捏造するのも可能ということ。「私は陛下の事は疑えませんが…それ以外の人物は疑います。…二ノ宮様のこと も」 彼女の事は好きではないが、能力があるのは認めている。 ただ二ノ宮蘭子というのが偽名であるらしい事は皆噂しているし、どういう経緯で今の地位に上り詰めたかも怪しい。研崎にも似たような事は言えるが、彼の方がまだ自分達とも付き合いが長いのだ。「バーン様。何かご存知でしたら私にも教えて頂きたい。私達は…何の為に戦う のか。私達は本当に…」 「デザーム」 有無を言わさぬ声。気圧されて、デザームは言いかけた言葉を飲み込む。「ガゼルにも忠告されたんだろが。…やめとけ。正直二ノ宮の事は俺も嫌いだし 疑ってるが…あの女の力は今はまだ必要だ」 どうやら本当に嫌ってるらしい。バーンはすぐ顔に出る。「それに…奴は得体が知れない。下手に嗅ぎ回ってるのがバレてみろ、いくらお 前でも…」 その言葉は中途半端に止められる。何かを言いかけて、しかし相応しい言葉を考えあぐねているような。消される、というのか。確かにエイリアの体制からすれば自分の立場など“所 詮”ファーストランクチームのキャプテン。代わりなどいくらでもいる。 実際、消された実例はあるのだ。なんせ手を下したのは他ならぬデザーム自身なのだから。「…バーン様。私が…私が追放したジェミニストームのメンバーは…どうなった のです?」 日本の何処かに飛ばされただけだと信じたかった。しかし、もし違ったなら。酷い目に遭わされていたら、あるいは殺されていたら。 知るのを恐れていたゆえ、避けていた質問。だけど。『デザーム様…よろしいですか?』 自分を慕って、よく勉学を教えてくれとせがんだ小さな少年。レーゼという名の、微かな記憶の中の彼は大人しい子供にすぎなかった。本当は率先して誰かや何かを傷つけるなんて真似のできる子ではなかった筈だ。 それが、いつの間にか−−変わって。それこそ強くなった証と陛下も二ノ宮も言ったけれど。「…それは……」 バーンは、黙り込む。沈黙は長く続いた。それでもデザームは静かに、返事が返るのを待った。 とりあえず、漫遊寺の代わりに不審者を捜すことになったわけだが。 ハッキリ言って手がかりが少なすぎるのである。これは安請け合いだったんじゃないかと内心染岡は思う。−−時間は夕方や夜が出現率が高くて。身長は多分円堂くらいで多分木暮よりは大きいっぽい…って言われてもなぁ。 分かっていることも曖昧なのだ。性別も不明。容姿なんて論外。そもそも目撃された不審者が本当に全て同一人物かも怪しい。正直捜しようがない。 ただ気になるのは、瞳子が不審者がエイリアと関係あるかもしれないと言い出したこと。何を根拠にそんなことを?彼女の秘密主義は前からだが、最低限語るべき内容があるのではないか。「RPGの基本は情報収集なのです!」 困り顔のイレブンでただ一人、輝いてるのが目金。「ここは雷門の名探偵と名高いこの僕にお任せあれ!不審者だろうがエイリアだろうがきっちり捕まえてご覧にいれますっ!」「初めて聞いたぞそんなの…。ってか元気だなお前」 「補欠で試合に出てなかったしね」「こういう時オタクって強いよな」 土門に夏未に木暮。グサグサと言葉の矢でつっこまれ、目金は一気に萎む。さらにすぐに復活するのも分かっているのでみんなで放置。地味に酷い。「体格からして、とりあえずは子供と見ていいんじゃないか?」 おふざけモードに突入しかけたのを、引き締めたのは、塔子。「最近見慣れない子供が彷徨いてないか、聞いて回ってみようよ。あと最近変わったこと…万引きが増えたとか誰かがいなくなったとか引っ越してきたとか…も 」「目撃者はいるのに誰も顔を見てない…。となると、相手は顔を見られないよう に逃げ回っている可能性があるな。何もしていないのに逃げるのは妙だ。考えられるのは隠れて犯罪行為を行っているか、既にお尋ね者として顔が割れているか…」 「あたしもそう思う」 塔子と鬼道の会話に、誰もが感嘆の溜め息を漏らす。さすが元SPと天才ゲームメーカー。頭の回転が早い。 とりあえずはやはり町の人に話を聞いて回るしかない。その結論に誰も異論は無かった。「鬼道君」 不意に、照美が口を開く。「さっきは…ありがとう。私を仲間として認めてくれて。鬼道君だけじゃない。 雷門のみんなに…本当に感謝してる」 「構わないさ。大事なのは未来。過去はあくまで、未来の為に存在すべきものなんだ。そうだろう?」 そうそう、と円堂も頷いている。 自分に言われているわけではないが。どこか深い言葉だと染岡は噛み締める。 豪炎寺のことを過去として片付けるつもりは毛頭無い。しかし、過去は未来の為にあり、逆であってはならない。過去の為に未来を犠牲にしてはならないし、今を否定するのも虚しいだけだ。 だから自分は、吹雪と共に戦う道を選んだ。 いつか豪炎寺が帰って来る、その日という未来の為に。「同じユニフォームを着たら、心は一つ!お前も木暮も、もう立派な仲間だ!」 ニカッと笑う円堂。その隣で木暮が、俺も?と目を丸くしている。「お前も!勿論だろ!!」 みんなを太陽のごとく照らして導く光。これが円堂の魅力なんだなぁと改めて実感する。そんな彼に惹かれて、自分達は同じ場所に集ったのだ。 証拠にあのひねくれ坊主がすっかり大人しくなっている。ここ何時間はイタズラもして来ないあたり素晴らしい。 円堂は日本一嫁候補の多い中学生かも−−と彼を評したのは土門だったか目金だったか。「円堂君は凄いなぁ」 小さく笑みを浮かべて、吹雪。そういえば少し前まであんなに邪険にしていたのに−−いつの間にか吹雪の定位置は染岡の隣になっている。「照美君のこともそうだし…正直…あのままイプシロンと戦ってたら僕達負けて たよ。風丸君の気持ちも分かるんだ。…その上、新しい敵も出て来て…落ち込ん だって仕方ないのに」 もう立ち直ってるなんて、凄いや。 吹雪の呟きはなんだか寂しくて、空虚だった。「お前…落ち込んでるのか」 見れば分かるだろ、と染岡の中でもう一人の自分が言う。「ちょっとだけ…ね。ヘコんだかも。ごめんね、エラそうなこと言ったくせにシ ュート…決められなくて」 そういう事か。 確かに今日のイプシロン戦、吹雪のエターナルブリザードは止められた。どうやらそれが相当尾を引いてるらしい。彼の表情が悔しげに歪む。「…落ち込むなとは言わねーけどよ」 こういう時、自分はそう多くの言葉を持っていないと気付く。ただ、吹雪の落ち込んだ顔を見るのは辛い。 やっと自分にも、彼の力の凄さが分かってきたところなのだから。「円堂見てると、お前にも分かるぜきっと。勝ちっぱなしより…一回負けて立ち 上がった奴のが…強くなれるってな」 「…うん」 ぽん、と染岡は小さな頭に手を乗せる。吹雪はなんだか、ほっとしたように笑った。 NEXT |
何度でも、何度でも、立ち上がり、呼ぶ声。