貴方の為に何が出来るだろうと。 考えて考えて、此処まで来ました。 無力でも非力でも、ただ傍にいたいのです。 だって、貴方が大好きだから。 この背中に、白い翼は 無いとしても。0-28:風のように、鳥のように。 我ながら無茶をしてると思う。ついでに言った事とやってる事が合致してない。 自分はあれほど彼を陸上部に引き戻そうとしたのに−−今も彼の帰りを待っている事は変わりないのに。あの時とは真逆の事をしようとしている。その為にたった一人で京都にまでやって来てしまった。 だが、けして後悔はしていない。考えに考え抜いて出した結論。陸上部の先輩達も背中を押してくれた−−風丸を助けて来い、と。 宮坂了。雷門中陸上部の一年生にして風丸一郎太の元後輩は、現在京都駅にいた。−−…早く漫遊寺中に行かないと…イナズマキャラバンが出発しちゃう…! 何分初めての場所である。そもそも関東から殆ど脱出した事の無い宮坂だ。方向音痴とからかわれるほど酷くはないが、それでも迷いそうになるのはどうしようもない。 出口が山ほどある上、その場所の名前が地図から消えてたりする東京駅よりはマシな筈だ(余談だが管理人は東京駅で迷子になるのが得意技である。駄目じゃん)。 とりあえず近くの案内板を探す事にする。できれば詳細なガイドマップもあればいいのだが。−−驚くだろうなぁ…風丸さん。 口をぽかん、と開けた彼の様子が容易く想像できて、つい吹き出してしまう。−−僕なんか…一緒にいても役立たずかもしれない。でも…ただ見てるだけなん て、嫌なんだ。 雷門中とエイリアの戦いは、全国ネットでテレビ中継されている。全ての試合を宮坂もチェックしていた。最初は尊敬する風丸を目で追っていただけだが、次第に心から彼らを応援するようになった。 実は。風丸をサッカー部に連れて行ってしまった彼らを、特に円堂を、宮坂は快く思っていなかったのである。最終的には風丸の意志を尊重して激励してみせたが、わだかまりは完全には消えていなかった。 彼らが悪いわけではない。だけど円堂達さえいなければ、陸上部は風丸を失わずに済んだのに。そう恨みがましく思ってしまう瞬間があるのも確かなのだ。 今も全て吹っ切れたわけではない。だが、雷門イレブンはあれだけ怪我人を出してなお、世界の為に戦ってくれている。校舎を破壊されて尚何もできなかった自分達の無念を晴らそうとしてくれている。 テレビの中。宮坂の大好きな先輩は、傷だらけで何度でも立ち上がった。円堂の声が、仲間達の声が彼を強くするのが見えるよう。 ほんの少し、嫉妬して。羨望を抱いて。 そして−−考える。自分にも何か、出来る事はないだろうか、と。−−僕はサッカーなんて、体育の授業くらいでしかやった事ない。これから先サッカー部に入ろうとも思わない。…でも。 これは、ただのスポーツではない。世界の命運をかけた戦いなのだ。風丸はその重荷を必死で背負ってそこにいる。 自分にも、少しでもその重さを軽くする事ができるなら。−−やってみよう…サッカーを。 自分はズブの素人。もしかしたらあの気難しい監督のお眼鏡に叶わず門前払いされるかもしれない。いずれ陸上に戻る気でいる自分なんて、キャラバンのメンバーに受け入れて貰えなくても仕方ない。 だけど今は雷門の疾風ディフェンダーと名高い風丸だって、ほんの少し前までは初心者だったのだ。根気さえあれば出来ない事はないと、既に彼が証明済み。 だから、やってみよう。 自分は体格もテクニックもないけど、脚とスタミナにだけは自信がある。陸上部での練習を怠った事はけしてない。身体能力だけ見ればそうそう引けはとらない筈だ。「僕もできる事があるなら、やりたい…!」 自分の為に。風丸の為に。雷門の為に。 宮坂は小さくガッツポーズして気合いを入れる。見つけた案内板を確認し位置を確かめる。 幸い出口は遠くない。宮坂はナップザックを背負い直して歩きだした。 駄菓子屋のおばさんが、最近見知らぬ子供の世話をしているらしい。町人にそんな噂を聞いた雷門イレブンは、早速話をうかがう事にした。円堂が見上げた先にあるのは、年季の入った“篠田文具”の看板。 本来は文房具屋で駄菓子はおまけ程度だったのだが、今ではすっかり立場が逆転しているという。文房具を買いに来たついでに駄菓子も買う、という子供達も多いのだとか。 稲妻町にある行きつけの駄菓子屋さんを思い出し、頬が緩む。なんだか懐かしい。あの店のぼんやり顔のお婆さんは元気にしてるだろうか。「…ええ。来ますよ、ここ数日の事ですがね。可愛い顔した男の子が」 店のお婆さんは、目に皺を寄せて語る。「世話をしてるといっても、あたしゃご飯をご馳走してるくらいです。朝になるといなくなって、また夕方か夜戻って来るもんで」「どんな子なんですか?」「あんたらと同じくらいの年…かねぇ。あたしも詳しくは知らないんですよ。た だ心配でね…あんな小さな子がお金もなしに町をうろつくなんて。せめて探し物 が見つかるといいんだけど」 どんな子か、という円堂の質問には、容姿を尋ねる意味もあったのだが。お婆さんのが一枚上手で、のらりくらりとかわされてしまう。 それだけに、何か隠している感が否めない。「町の不審者騒ぎはご存知でしょう。危ないじゃないですか。その子を警察に相談して保護して貰うべきではないのですか?」 何かある、と感じ取ってか鬼道がたたみかける。すると老女はふう、と息を一つ吐いて言った。「あの子は悪い子じゃないですよ。年寄りにはね、目を見れば分かるんです。…あの子は誰かに騙される事はあっても、自分から誰かを傷つける事なんて絶対やりゃしませんよ」 −−それ以上の事は何も聞けなかった。老女はこれ以上口を割りそうにない。結局殆ど新しい手がかりが得られず、円堂は内心肩を落とした。 一堂は彼女に礼を言って、ぞろぞろと店を出る。「そうでもないよ」 落ち込む円堂の肩を叩き、塔子が言う。「あたし達、不審者を捕まえる気だともその子が例の不審者かもしれないとも言 ってない。鬼道はただ“警察に保護して貰ったらどうか”って提案しただけ」 確かに。身元不明の子供が一文無しでうろついてるなんて、訳ありとしか思えない。家出、にしてもおかしい。 普通は警察に相談するものではないだろうか。「よく思い出せよ円堂。あの婆さんの答えはどう考えてもおかしいだろ」 言われてうーん、と考えこむ円堂。 よくよく考えてみれば−−なんだか町の不審者騒ぎや警察の話を出した途端、あのお婆さんの目つきが変わった気がする。まるで自分達が子供を捕まえに来たと断定するような。 悪い子じゃない、と言った老女。自分の可愛がっている子供を説明するというより、まるで弁護するような口ぶりだ。「…警察に相談しなかったんじゃなくて…できなかった?」 はっとしたように一ノ瀬が呟く。「子供は既に、別件でお尋ね者になっていて顔が割れている。だから警察の手は借りられない。彼女はそれを知っているが、子供に罪があるとは思っていないゆえ、こっそり匿うような真似をしている…。俺にはそういう風にしか聞こえなか ったがな」 鬼道のため息。円堂もやっと理解する。 ただそうなると、ますますエイリアがらみの線が強まったような。タイミングもタイミングだ。 この場所で、子供がやって来るまで張り込むべきだろうか。しかしあのお婆さんに見つかると厄介だ。もめ事も避けたい。「…あれ?守?」 不意に名前を呼ぶ声がして振り返る。自分を下の名前で呼ぶ人間はそう多くはない。円堂は目を見開く。「ヒロト!」 特徴的な赤いサラサラ髪に整った顔立ち。先日、夜中に一緒にサッカーをやった基山ヒロトが、きょとん顔で立っていた。「誰だ?円堂の知り合いか?」「うん。友達」 土門の声に、円堂はにっこりと返す。気のせいかその一言に、ヒロトの顔が綻んだ気がした。「出て来れるようになったんだ。良かったなヒロト」「まだ制限つきだけどね。…えっとそっちの子達が、雷門のみんなか」 京都の円堂の友達、になんだか興味津々な視線を送ってきていた仲間達に、ヒロトは笑いかける。「初めまして。基山ヒロトです」 ペコリとお辞儀をするヒロト。なんか育ちが良さそう、と塔子が呟く。「みんなの事はよく知ってるよ。地上最強チームになるんだって。頑張ってね」「有名人なんすね俺達!」「そりゃもう。応援してるよ」 壁山と栗松が顔を輝かせる。有名になったという実感が湧く上、応援して貰えるのはやっぱり嬉しいのだろう。 そんな中−−鬼道だけが、どこか厳しい表情をしていたのだが−−円堂はその時気付かなかった。「ところで…そんなとこで集まってみんなして何してるんだい?何か困り事?」 ヒロトは確か、親の仕事の都合で京都に来ているだけだと言っていた。となれば町の事に関してもそう明るくはないだろう。「…最近この近辺に不審者が出て困ってるらしい…って話、聞いてないか?」 それでも一応、話はしてみる。「捕まえてくれないかって頼まれちゃってさ。で、みんなで作戦会議中だったわけ」「不審者…かぁ。そういえば…」 何か考えこむ様子のヒロト。「噂を聞いたよ。この間目撃情報があった時、不審者がペンダントを落としていったって。場所は西の裏通り。とりあえず警察で預かっているらしいけど…」 「本当か!?」 「う、うん。本当」 つい円堂が肩を掴んでしまい、びっくりした様子で頷くヒロト。 もしそのペンダントが、不審者にとって大事な物なら。西の裏通りに、探しに戻って来るかもしれない。 そういえば駄菓子屋のお婆さんは言っていた。探し物が見つかればいい−−と。もし子供が探しているのがそのペンダントだとしたら。「…警察の人に交渉してみよう。ペンダントを貸して貰えるかどうか」 もし相手が凶悪犯罪者ならそうもいかなかっただろうが。幸いまだ“不審者” 程度の扱いで済んでいる。相手がエイリアの誰かだとしても、まだ警察はその顔を把握していないなら。 うまく口八丁手八丁で誤魔化せるかも−−と思ってつい鬼道を見る。その手の事が一番得意なのは彼だ。 鬼道もよく分かっているのか、苦笑して肩を竦める。「仕方ない。…やってみるさ」 とりあえずこれで確定だ。急いでペンダントを借りて、西の裏通りに張り込む。あまり多人数だと姿を現さないかもしれないから、何人かで分けるべきだろうが。 自分も協力する、とヒロトが言ってくれた。多分自分達よりは町に詳しいだろう。「えっ!?」 突然、風丸が声を上げた。携帯の画面を凝視している。「どうした、風丸?」 風丸はびっくり顔のまま、円堂を見て言った。掲げた携帯はメール画面を表示してるって。「陸上部の部長から…メール。宮坂が京都に来てて…イナズマキャラバンに参加 したがってるって…」 「ええっ!?」 宮坂の事を知る雷門の初期メンバーが、一斉に驚きの声を上げた。NEXT |
嘆かないで、カトレア。