*ここから先、残酷・グロ・流血描写がやや強めです。 また、間接的にですが、性描写を暗示する表現もあります。 かなり悲惨・救いのない展開が待ってます。欝MAXです。 身体年齢が十五歳に満たない方、苦手な方は閲覧をご遠慮下さい。 耳鳴りが鳴り止まない。 雨音が鳴り止まない。 悲鳴が鳴り止まない。 泣く声は、消えない。 ああ、泣いていたのは、いたのは。この背中に、白い翼は 無いとしても。1-25:噛み千切る、理性。 不慮の事故により、死んだ筈の俺達は。二ノ宮の“魔法”により、生き返る事となる。 目覚めた源田は、既に黒い感情に支配されていた。即ち、自分達を捨てて雷門に行ってしまった、鬼道への憎しみに。それは佐久間も同じ。『悦びなさい。恨みを晴らさせてあげるわ』 二ノ宮はそう言って、自分達を甘く誘った。気付いた時、愛媛にいた筈の自分達は一瞬にして東京の−−帝国学園にいたのである。 これも彼女の魔法なのか。何かをおかしいと感じる心すら、その時の源田には失われていた。 自分達の他に。二ノ宮は男を三人連れていた。黒服姿の、ガッチリした体格の男達だ。彼女の直属の部下だろうか。 二ノ宮と男達と、自分と佐久間。六人で、例の体育倉庫で待っていた。電気もつけず、息を殺して。そして。 鬼道が扉を開けて入って来るやいなや−−男達が素早く彼を中に引きずりこんだ。鬼道には抵抗する間も悲鳴を上げる間も無かっただろう。大人と子供の腕力差体格差は決定的な上、元々鬼道は華奢な部類に入るのだ。 扉は重たい音と共に閉じられ、鍵がかけられる。鬼道が男達に押さえつけられたところで、電気がつけられた。『佐久間…?源田…?これは、一体…!?』『久しぶりだな、鬼道』 戸惑いを隠せない様子の鬼道に、佐久間が淡々と言う。 戸惑い−−そう、あの時の彼は驚愕より戸惑いが大きかった。この見知らぬ男達と女は一体誰なんだ、とか。何故自分はこんな風に拘束されるんだろう、とか。 自分がこれから酷い目に遭わされるとは思ってもいない。源田を、佐久間を、信じきっている人間の−−眼。 それが、酷く苛ついて。『俺達が何で怒ってるかも…分からないのか?鬼道』 じり、と源田は彼の目の前に立ち、ゴーグルをやや乱暴に外した。切れ尾の、ルビーの瞳が露わになる。『うっ…』 目元に僅かに走った痛みと、突然瞳を襲った眩しい光に、鬼道は顔をしかめる。 何故彼がゴーグルをつけるようになったか。それは己の表情を隠す為と−−もう一つ。健常者よりも、光に弱く、ある一定以上の明るさの下では視界が真っ白になってしまうからだと聞いている。 彼がそうなったのは身体的な事ではなく−−影山の虐待によって後天的に、精神的なものが原因だという事も。『全部お前が悪いんだよ』 かつて、その瞳の色が綺麗だと思った。宝石のようだ、隠すなんて勿体無い−−と。 だが。今はその色すらも忌々しい。 込み上げる激情に任せて、源田は彼の腹を蹴り飛ばしていた。『がはっ…!!』 スパイクが、柔らかい腹と堅い肋の感触を知る。そのタイミングで男達が手を離すものだから、痩せっぽっちの鬼道の身体は壁の方まで吹っ飛ばされた。 激しく咳き込みながら、転がる鬼道。その前に佐久間がつかつかと歩み寄り、胸を蹴りつける。『…俺達はずっとずっとお前に尽くして来たんだ。なのに…』 普段よりずっと低い声で呟く佐久間。背を向けた彼の表情は、源田の方からは見えなかったが。 みるみる驚愕に染まる鬼道の顔が、その全てを物語っている。『お前はあっさり俺達を捨てて雷門に行った…!仇討ち?誰がそんな事してくれって頼んだよ、えぇ?お前は強い奴らの仲間になって勝ちたかっただけじゃねぇか。その程度なんだよなぁ、お前にとって仲間なんて…!!』 鬼道の胸倉を掴み、持ち上げる佐久間。佐久間の方が鬼道よりも背が高いので、目線を合わせようとすると鬼道の踵が浮く形になる。 憤りに憎悪。暗い感情で震えている佐久間の背中。『ふざけんな…!!これほど敬い、尽くしてきた俺達をお前は否定したんだ…っ。この裏切り者がぁぁっ!!』 叫び、彼は思い切り鬼道の身体を地面に叩きつけた。肩口から落下した鬼道に、更に何度も蹴りを食らわせる。 そのたびに上がる呻き声。だが、源田は気付いた。鬼道がまるで抵抗らしい抵抗をしていない事に。 頭にすっかり血が上っている佐久間を押さえこみ、源田は一歩前に出た。『鬼道。…どうして抵抗しない?』 まだ、少なくとも足は無事な筈。逃げようと思えば逃げる体力はある筈だ。なのに、何故。 暴力から僅かばかり解放され、咳き込みながら。掠れた息で、鬼道は言った。『……すまなかった』 紅い眼は、朧気にしか自分達を映していないだろうが。しかしハッキリと眼があったのを源田は感じ取った。『すまなかった。俺の勝手で…お前達を傷つけてしまって。自分の都合だけで行動して…本当に、すまない』 命乞いではなかった。心からの謝罪だったと後になってみれば分かる。『俺はお前達にずっと感謝していた。お前達がいたから、どんな場所でもずっと戦って来れたんだ。その恩に報いるつもりが…あだで返す結果になって…謝っても、謝りきれない』 でもそんなしおらしい態度すら。『俺にぶつける事で…お前達の気が済むなら。…それでいい。全部、ぶつけてくれ』 苛立ちを増す要素にしか−−ならなくて。『だったら…望み通りにしてやるよ!!』 鬼道は、理解していない。天才ゲームメーカーとして、フィールドの上で周りの動きを読むのは得意中の得意なのに−−自分に向けられる好意に対してあまりに鈍感すぎる。 自分はどんな状況にいても、他者に惜しみなく愛情を注ぐのに。自分に注がれている愛情にはまるで気付けない。 それは幼くして両親を失い、“自分が守らなければ”という切迫感の中で妹を護り続けてきた事。そして父にも等しい存在である筈の影山から、暴力による歪んだ愛を受け続けてきたせいなのだろう。 己に愛される資格など無いとすら、思っているのかもしれない。 だから、見えない。自分がどれほど周りに想われているのかも、自分がどれほど周りに影響しているのかも。 鬼道は謝った。確かに、謝った。 でもそれは、『自分達を置いて雷門へ行った事』であって。『自分達の愛情にあまりにも鈍かった事』への謝罪ではないのだ。『お前は何も分かっちゃいない…分かってない分かってない分かってないっ!!』 横たわる鬼道の身体を、佐久間と二人がかりで何度も何度殴り、蹴った。 悔しくて仕方ない。どうして解らない?どうして気付かない? 自分達がどれほど鬼道を信じてきたか。どれほど想ってきたか。『お前のせいで何もかも滅茶苦茶だ!!帝国も…俺達のサッカーもっ!!』 嫌な音が複数回。多分、肋骨や鎖骨がイカれたのだろう。 手首をスパイクで思い切り踏みにじってやったら、脚の下に鈍い感触があった。手首も砕けたのか。それでも鬼道はずっと、悲鳴を喉の奥で殺していた。『…それで気は済んだかしら?』 やがて。ずっとニヤニヤしながらリンチを見ていた二ノ宮が口を開く。 気が済んだ?済んだ筈がない。殴れば殴るほど、胸の奥のドス黒い炎は増すばかりだ。『貴方達、やる事が大人しすぎるわ。まぁそれはそれで一興なんだけど。どうせなら…その子が一番苦しむ事をやっておあげなさいな』 一番苦しむ事? 戸惑う源田をよそに、女は証明の一部を落とした。薄暗くなる室内。もうまともに動けない状態の鬼道を、二人の男達が左右から押さえつける。 眼が暗さに慣れない。それでもチカチカする景色の中、源田は確かに見た。 先程まで僅かに苦痛の色を滲ませるばかりだった鬼道の顔が−−恐怖に彩られたのを。『あ…ああ…』 男の太い指が、少年の髪を乱暴に掴む。髪留めがちぎれ、ドレッドヘアーがほどけた。もう一人の男の手には−−ナイフ。『お前が悪い子だからいけないんだよ』 三人目の男が、鬼道の耳元で囁く。『だからこれは、お仕置きなんだ』 何故この男を二ノ宮が選んだか、気がついた。声が似ているのだ−−あの人に−−影山に。 鬼道の頬を、涙が伝った。そして、言った。『ごめんなさい…』 流石に、ぞっとする。今まで見た事もない、怯えた子供の顔。鬼道はまるで壊れた機械のように言葉を紡ぐ。『ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさ…』 鬼道の心に深く刻まれた心の傷を。二ノ宮は嬉々として抉ってみせたのだ。影山に虐待されていた時とよく似た状況を作り出す事によって。 今、鬼道には男の姿が影山に見えている。フラッシュバックに、現実が見えなくなっているのだ。『おやりなさいな』 二ノ宮が高らかに命じた。男の手に持ったナイフが振り下ろされる。何度も、何度も。肌を切り裂く音。上がる悲鳴。しかし男達に押さえつけられている鬼道は逃げられない。 精神的な苦痛と肉体的な苦痛で、錯乱状態になっている筈だ。 血の匂いが強くなる。肌と一緒にビリビリに引き裂かれて、赤黒く染まったマントが地面に落ちた。さらに暴力は別の方向へも向かう。 まさしく鬼道が今まで影山にされてきた全てを再現するように。 ころん、と鬼道の折れた足首から運動靴が脱げ落ちた。靴下もとうにビリビリで本来の用途を果たしていない。 色の白い素足を、血が何本も筋を引いて伝い落ちていく。『ほらもっともっと泣き叫びなさいな!!あたしを楽しませて頂戴!!』 二ノ宮が笑う。笑う。笑う。源田も佐久間も動けないまま、ただ目の前の凄惨な現場を見ていた。 ボロボロにされていく自分達の元リーダーから、目を離す事が出来ない。『ち…違う…』 みしり、と胸の奥から鳴った音。ずっと気付きながら無視していた音。 歯車が噛み合わずに擦り切れていく、音。『こんな…こんな事したかったわけじゃ…』 源田の呟きに、二ノ宮が振り返る。心底蔑むような眼で。『あら、今更何言ってるの。貴方達、鬼道クンが憎くてたまらないんでしょ?鬼道クンに復讐してやりたかったんでしょ?』『でも…ここまでやる必要はっ…』『散々殴ったんだから、貴方達もとっくに共犯。今更被害者ぶらないで頂戴』 男達に代わる代わるのしかかられる鬼道と、眼があった。源田の顔を映したせいか、少しだけ正気の色が見えて。『すまな、かった…』 消え入りそうな声。彼はまだ、自分達へ謝り続けていた。こんな悲惨な目に遭わされているのに。『ありが、とう…』 どうして。 本当に裏切ったのは鬼道じゃない。自分達の方だと言うのに。 どれくらい時間が経ったか。男達がまるでゴミのように、鬼道の身体を投げ捨てた。全身を血で真っ赤に染め上げ、ビリビリの服が僅かに肌に纏わりついているだけの−−ボロ雑巾のような姿。 それでもまだ、生きている。虚ろな眼で宙を見ながら。『さあ…トドメを刺しなさい』 二ノ宮にナイフを握らされた。鬼道の血がべったりついた、ナイフを。『いや…嫌だ…っ』 こんな筈じゃなかった。 ただ鬼道が気付いてくれればそれで良かったのに。『うわあああっ!!』 ナイフを投げ捨て。そこで源田は、ショックで気を失ったのだった。NEXT |
もう、取り返しの、つかない。