伝えてしまいたいの、この気持ち。
 隠してしまいたいの、この本音。
 だけど、だけどと繰り返す乙女。
 その葛藤こそ、幸福の証。
 
 
 
 
 
この背中に、
白い翼は
無いとしても。
2-12:踊る、恋愛模様。
 
 
 
 
 
 これはその。
 つまりは−−絶好のチャンス、というヤツではあるまいか。
 
−−ゆ、遊園地で二人っきりなんて、デート以外の何物でもないとゆーか…!
 
 秋は内心テンパっていた。こんな事考えている場合ではない。瞳子監督の言う
通り、遊びに来たわけではないという事も重々承知している。
 あくまで目的は調査。デートだなんて浮かれたものでは断じてない。ないのだ
が。
 それはそれ。真面目な秋とて女の子。片思いの相手との甘い時間を妄想してし
まうのは、どうしようもないわけで。
 ちらり、と円堂を見る。
 地図を見ながら、どーしようかなー、と考えている様子の彼。その向こうでは
秋と同じくそわそわしている夏未。
 やっぱり考える事は同じだ。今更ながら、何故彼女と同じ人を好きになってし
まったんだか、と思う。夏未は誰もが認める美人だし、素直じゃないけれど根は
優しい。
 おまけに経済力もバッチリとなれば、非の打ち所がない。
 それだけ円堂守という少年が魅力的だという事。好きな人が、たくさんの人に
愛される存在であるのは純粋に嬉しいが。恋愛という意味で、自分に勝算は無い
に等しい。
 それも仕方ない、と最近は諦めつつあるけれど。やっぱりこういうシュチュエ
ーションになると、期待の一つもしてしまうわけで。
 
−−えぇいっ!今勇気を出さないで、いつ出すって言うの!
 
 向こうの夏未と一瞬目があった。別に勝負なんて野暮なものをしているわけで
はないが、このままほっとけば夏未に先を越されるのは目に見えている。
 決断するなら今しかない。
 
「え、円堂くん!」
 
 思い切って、声をかけた。かけたはいいが。
 
「調査、私と一緒に来ない?」
 
「わ、私、あなたと一緒に行ってもいいわよ?」
 
 前者、秋。
 後者、夏未。
 勇気を出した秋の一声は、見事に夏未の言葉と被った。
 
−−さ、さすが夏未さん。誘い文句まで見事なツンデレっぷりだ…。
 
 やや現実逃避気味にそんな事を考えていると。
 
「おーい円堂!一緒に遊園地の中回ろうぜ!!」
 
 塔子、登場。
 
「円堂先輩〜!!私と一緒に調査しませんか〜?」
 
 春奈、登場。
 
「へ?」
 
 四人に立て続けに声をかけられた円堂はきょとんとして目を丸くしている。
 秋は夏未と顔を見合わせた。彼女の顔は、青い。多分自分も似たようなものだ
ろう。
 そして同じ事を思っている。
 
−−こ、これなんてギャルゲー!?
 
 ハーレムだ。円堂守を中心にハーレムが形成されておる。さすが世界一嫁候補
の多い中学生、おそるべし。
 しかし、これはイナズマイレブン、サッカーRPGであってそんな恋愛シュミ
レーションゲームでは無かった筈だが!?
 
−−そして円堂君の性格を考えると、この場合結末は…。
 
 うーん、とちょっとだけ悩んだ円堂は。それはそれは潔く明るく言い放ったの
だった。
 
「よし、じゃあみんなで行こうぜ!」
 
 あああ、やっぱり。
 素晴らしいまでの笑顔が眩しい。秋はただただ苦笑いする他ない。普通これだ
け女の子に声をかけられたら、さすがに気付くだろうに。
 
−−まあ、それが円堂君なんだけどね…。
 
 我らがキャプテンの恋愛に関する鈍さは神クラスだ。なんたって脳みその代わ
りにはサッカーボールが詰まっているのではと言われるほどのサッカーバカなの
だから。
 まあ、塔子と春奈はそんなつもりで円堂を誘ったわけではないだろうが。
 実際円堂はかなりモテるのである。バレンタインデーは義理も本命もとんでも
ない数のチョコを貰っている。チョコ好きな本人は“今日はいい日だよな!”く
らいにしか思ってないのがまた切ない。
 一般的なイケメンではないし、身体も小さいけれど。円堂の顔立ちは可愛い系
としてならイケてるし、サッカーをやっている姿は本当にカッコイイ。
 長く一緒にいる自分はまた別の理由もあるのだが。表向きの姿だけ見ても、ぐ
らっと来る女の子は多い筈だ。
 モテる人間に惚れてしまった自分が負けか。秋はあっさりとチャンスを諦めた
。こうなる事も、予想の範疇ではあった。それに元より勝ち目の無い恋をしてい
るのである。
 しかし。
 
「あ、でもさー。この人数でゾロゾロ回るのって、非効率的だよな」
 
 まとまりかけた空気を、塔子が盛大にぶっ壊した。
 いやいやいや、確かに正論ではあるのだが!!
「あたしと春奈、西側から見て回るよ。三人は東側からお願いしてもいいかな?
」
「そうですね。そっちの方がはかどりそうです」
 塔子の提案に乗っかる春奈。ちょっと待て、この三人で放置されるのはかなり
気まずいのだが!?
 そもそもあんたら、狙ってやってるんじゃなかろうな!?
 
「分かった。じゃあそうしようぜ」
 
 そして彼女達のしごく真っ当な提案を、円堂が断る筈もない。分かる。分かる
が本音は空気を読んで欲しい!!
「じゃ、またな〜」
「あ…う、うん。また、ね…」
 笑顔で春奈と去っていく塔子を見て。秋と夏未は引きつり笑いを浮かべながら
手を振っていた。
 そしてまた顔を見合わせる。
 どうすんのコレ、とお互いの顔に書いてある。
 
「秋!夏未!!どうした〜?」
 
 円堂はまるっきり分かっていない顔で手招きしている。困った状況。ある種修
羅場の一歩手前。
 にも関わらずその顔が本気で可愛いと思ってしまう自分は、相当末期だと思っ
た。
 
 
 
 
 
 
 
 瞳子の一括に、ビビッたフリして堪えてない奴ら。
 風丸は彼らをそう解釈した。視線の先では、土産物屋の前でハマりこんでいる
宮坂とレーゼがいる。
「リュウさん見て見て!これスッゴい可愛いですよ!!」
「ほ、本当だ…。ペンギンが選り取り見取り…」
「僕はやっぱり青いヤツかな…こう、ちょこんと手を挙げてるのがいいんだよね
…」
「こっちのは駄目かな、宮坂?赤ペンギンの玉乗りピエロ」
「それもいいですよね〜。あーどっち買おうかなぁ」
 何やら、ペンギンのストラップが気になって仕方ないらしい。きゃいきゃいと
花を飛ばして黄色い声を上げている。
 
−−探索開始五分で主旨忘れてるよあいつら…。
 
 風丸は、頭が痛い。
 宮坂もレーゼも、雷門ジャージにサブバック姿。けしてカジュアルな格好では
ない。
 しかし元が元。二人揃って小柄で少女のように可愛い顔立ちをしているのだ。
しかもセミロングの髪型の宮坂に、ポニーテールのレーゼ。会話の内容もあって
、とても男子中学生の二人組には見えない。
 ちなみにレーゼは、髪型と服装を変えるだけで随分印象が変わった。
 多分、ジェミニのキャプテンとして出てきた時は、多少無理して威厳のある話
し方をしていたと思われる。記憶がない今の彼はあの時より、口調は柔らかいし
声も高い。
 今のあの緑川リュウジ=レーゼだとは誰も分からないだろう。そう判断し、愛
媛を発ってからは顔を隠すのをやめていた。
 
−−俺、こいつらについて来て良かったかも。非常〜に不本意だけど。
 
 ため息をつく風丸。
 一緒に行きましょうよ〜と宮坂と宮坂にひっついているレーゼに誘われた自分
。まあ、保護者は必要だろうと、軽い気持ちでOKしたら。
 まさか本当に、保護者をやる羽目になるとは思わなかった。宮坂の買い物好き
と可愛い物コレクターっぷりは知っていたが。まさかレーゼも同類だとは。
 彼らだけで放っておいたらいつまでもショッピングできゃっきゃしてそうであ
る。
 
−−まったくもう…。
 
 そろそろ、声をかけるべきか。そう考えた、まさしくそのタイミングで事件は
起きた。
 
「ね、君達。そーゆーストラップとか、好きなの?」
 
 高校生くらいの、金髪と茶髪の二人組男が。宮坂とレーゼに、声をかけている
。いかにもちゃらけた雰囲気で、穴の空いたジーンズやラフなジャケットを着こ
なしている。
 これはもしや。いや、もしかしなくても。
「中学生?部活の合宿かなんか?ジャージ着ててもこんなに可愛いコ、そうそう
いないよ」
「え…えっと…?」
「二人だけ?良かったら俺達と来ない?お昼おごるよ?」
「あ、あの…」
 戸惑う宮坂とレーゼの肩に、馴れ馴れしく手を置く男達。
 これはその−−よくあるナンパ、というヤツではあるまいか。なんてお約束な
!しかも男を女と間違えるとか−−なんつー腐女子の妄想的展開!!
 しかも当の宮坂達は、まるで状況が飲み込めてないと見える。
 
「あのっ!すみません!!」
 
 ここは自分が何とかするしかない。穏便に誤解を解かなくては。風丸は慌てて
宮坂とレーゼの前に立った。
 
「俺達、遊びに来てるわけじゃないですから。それに…」
 
 その先を言う前に。風丸は満面の笑顔で、金髪男に手を握られた。
「わあ、なんだよ三人組だったの!?君も可愛いじゃん!!」
「あっちの子達はカワイイ系だけど、君は美人系だよね。そう言われない?」
「いいっ!?」
 風丸最大の誤算。
 宮坂とレーゼは確かに、愛らしい容姿をしている。あの二人は女の子に勘違い
されても仕方ない、それは正しい。
 だが。ここに風丸が加わっても、結果は同じだった。風丸も充分誤解される容
姿と声なのである。事実今まで女に勘違いされた事は何度かあったが−−風丸は
それを、まるっきり自覚していなかった。
 まさか。んな馬鹿な。
 自分までナンパの対象に入ってしまった事に硬直する風丸をよそに、男達は勝
手に話を進めていく。
 
「遠慮しなくていいよ!可愛い娘は何人いても大歓迎なんだから!!三人ともご馳
走してあげるって〜」
 
 ようやく状況を理解したのか。やや冷や汗をかいて固まっているレーゼの手を
、茶髪男が握る。ひっ、と小さく上がる声に−−風丸の中でブチリと何かがキレ
た。
「…ふっざけてんじゃねぇぞコラ…」
「え゛?」
 何だこれは。何の羞恥プレイだ。なんて屈辱的な。
 突然ドスのきいた声を出した目の前の“美少女”に、今度は男達が固まる番だ
った。
 
 
 
「俺達全員!!男だっつってんだよ−−!!」
 
 
 
 サッカーボールを蹴る勇ましい足で、男をまとめて蹴り飛ばした。
 
「ぐはぁぁっ!!」
 
 みぞおちを思い切り蹴られた金髪男は吹っ飛び、茶髪男に激突。二人してコン
クリートの地面に倒れ、泡を吹いて悶絶した。
 思い知ったかこのヤロウ。風丸はフン、と鼻を鳴らす。サッカー日本一は伊達
じゃないのだ。
 
「か…カッコイイです風丸さん!」
 
 振り向けば宮坂がキラキラした眼でこちらを見ている。
「ナンパされたのには驚きましたけど。風丸さんの勇ましさにはさらに驚きまし
た!!フィールドの外ででも強いんですね!!」
「凄いなぁ…」
 何やらレーゼにまで尊敬の眼差しを向けられてしまい、居心地が悪くなってし
まう。
 
「…さっさと行くぞ。俺達、土産物探しに来たんじゃないんだからな」
 
 気恥ずかしさを隠すように言い放つと、えー、という不満そうな声がハモった
。
「まだあっちのコーナーが…それにこのペンギンさんのお会計が!!」
「アホか!!」
 全然こりてない二人に、風丸は今度こそ頭を抱えたくなった。
 
 
 
 
NEXT
 

 

小さく、お祭り。