遊びませう踊りませう。 茶菓子も有るわ、紅茶はいかが? 片足踏んでおみ足跳んで。 貴方と私、彼等と彼女等。 この背中に、白い翼は 無いとしても。2-16:勇猛な、少女達。 なんとまぁ、急展開な。 誰より理解の追いついていない一之瀬。勝手に動いていく周りに取り残され中である。「一之瀬先輩ってモテたんですねぇ」 春奈が感心したように言う。その頭に、ピカピカ光るゴシップアンテナが見えるのは−−気のせいでは、あるまい。 彼女は何やら手帳を取り出し、素晴らしい速度でペンを走らせている。カリカリカリーッと音がする勢い。手帳の表紙に、“いざとなったら脅迫に使えそうな ネタ”と書かれてるのが怖すぎる。 「やる気のある奴は大歓迎じゃないか」 そして円堂は、あっけらかんとしたもの。楽しそうに、グローブを嵌めた手を叩いている。「大阪CCCギャルズ…だっけ。お手並み拝見だな!」 そんな彼は根っからのサッカーバカ。試合できるというだけで楽しくて仕方ないと見える。笑顔のキラキラっぷりが凄い。 雷門イレブンは今、ナニワランドの近くにある河川敷グラウンドに来ていた。イレブンと向かい合って立っているのは、十一人の少女達。 ピンクのキュロットが可愛らしい、しかし中学生というより女子高生のように大人びた雰囲気の彼女達。キャプテンマークをつけた少女−−今回の試合の言い出しっぺであるリカは一之瀬を見て、笑顔で手を振ってきた。雷門イレブンVS大阪CCCギャルズ。 話を整理しよう。この試合の目的は、大阪CCCギャルズキャプテンの浦辺リカの実力を見る事。彼 女の実力が円堂や瞳子の眼鏡に叶うようなら、キャラバンの一員に迎える事である。 つまり、試合自体がリカの入部テストのようなものなのだ。 でもってリカが何故、初対面でイナズマイレブンの仲間入りを切望したかと言えば−−。「リカ、今回の子は何時にも増して子供っぽいなぁ」万博美というMFの少女が、一之瀬の顔を間近で見上げて来る。 「可愛いけどうちの趣味やないわ。男は背ぇ高くてナンボやろ?チビは論外!」「あんたにチビチビ言われたか無いやろけどな」「花子は黙っとき!!」 同じくMFの浪川花子と喧嘩じみた漫才を始めてしまった。関西人はみんなこう なのか、それとも彼女達だけなのか。 リカは一之瀬に惚れた、らしい。らしい、というには未だに合点がいかないせいだ。初対面でいきなり“好きになったからチームに入れて!”と言われても、 正直困る。 確かに自分は、ルックス的には悪くはないと思う。でも、男として残念な事に身長は無いし、悔しい事に“可愛い系”にばかり分類されてしまう。 年上に可愛がられるけど、恋人として見て貰えないタイプ。一之瀬をそう称したのは土門だったか西垣だったか。 つまりは−−異性として、一目惚れされるような外見では無いと思う、のである。−−それに…軽い気持ちで、仲間になられてもな…。 厳しい事を言うようだが、それが本心だった。 彼女はきっと理解しきれていない。自分達雷門イレブンが今、どれだけキリギリの状況に置かれているかなど。 エイリア学園の正体。 二ノ宮蘭子こと魔女アルルネシア。 秘密に近づきすぎるなと警告してきた者達。 無残に殺された鬼道。 今も死に瀕している、佐久間と源田。 そしてあらゆる悲しみの果て、海に沈んだ影山−−。 自分達はもはや、ただサッカーをすればいいだけの存在ではなくなってしまった。自分達がやるのはサッカーであってサッカーではない。手段はそうでも、目的を考えれば戦争にも近いもの。 命の保証すら、ない。そんな場所に今、自分達は立っている。その仲間になるという事がどれほどの危険を伴うか、分かっていない人間をチームに加えるわけにはいかない。−−どうしてもチームに入りたいなら。俺を…説得してみろ、浦辺リカ。 言葉ではない。そのプレイで説得してみろ、と。 それができなければ、それまでだ。これまで通り大阪でサッカーをしていた方が、彼女の為である。「時に一之瀬。大真面目な話なんだけど」 塔子が声をかけてきた。手に持っている紙とペン。それだけで用件には予想がつく。「大阪CCCギャルズとやらの力は分からないけどさ。ハッキリ言ってあたし達、油 断できる状況に無いぜ。真帝国学園の試合のせいで怪我人だらけだし」「あー…」 確かに。次のイプシロン戦までには調整するとしても、今日の試合では休ませておきたい選手だらけだ。染岡に至っては完全離脱。圧倒的にFW不足である。 唯一の救いは木暮の回復力が予想以上であった事と、レーゼが結構オールラウンダーとして使えそうだという事か。「いつもみたく、ガンガン攻めて前線キープ!は無理っぽいよなぁ」 円堂も気付いていたらしい。うーん、と首を捻っている。 雷門は守備型のサッカーには向いてない。となれば、カウンター主体で攻めていくしかないだろう。 一之瀬は受け取った紙にペンを走らせる。バスの中でもずっと考えていた。不測の事態を想定したフォーメーション。皆の精神面を鍛える意味では、いい機会と言えるかもしれない。「とりあえず、俺の提案はこんな感じだ」 一ノ瀬は円堂と塔子に、書いた紙を見せた。FW 緑川 MF 一之瀬 木暮 宮坂 風丸 春奈 小鳥遊DF 栗松 壁山 塔子 GK 円堂 「俺はもう大丈夫だって言っただろ!?」 土門は不満顔だ。その彼の背中をペシリとはたく一之瀬。「この間の試合、途中でブッ倒れといて何言ってんだよ」 彼を抜かすと、確かに守備力はがくっと下がる。が、土門には何としてもイプシロン戦で頑張って貰わなくてはならない。大事をとって今はベンチで大人しくしておいて貰う。 また入院一歩手前だった吹雪と照美もだ。彼らに無理をさせて体を壊されては話にならない。その為、実質FW要員が全員ベンチという異例の事態になってしまったわけだ。 レーゼがいなければ、多分照美あたりに無理をさせるしか無かっただろう。「FWは慣れてないと思うけど…頼むよ、リュウ」 やや緊張した様子で、頷くレーゼ。攻撃は彼と、一之瀬を要にして頑張るしかない。あとは、隙を突いてロングシュートを決められるかどうか。 配置もそれに適したものを選んだつもりだ。フォーメーション名はボー&アロー。シュートを打たせて取り、カウンターを狙うシステムである。 また、宮坂をトップ下にしたのは必殺技の都合であったりする。また彼には、敵の中央突破をシューティングスターで確実に止めて貰わなくてはならない。 新入りには荷が重いかもしれないが、それだけ彼に期待している証拠でもある。真帝国戦でハッキリした。彼は十二分に戦力になると。「よし。一之瀬の案で行こう。土門達を休ませるのは賛成だ。これ以上、怪我人を出さない為にも」 円堂がみんなに気合いを入れる。すると塔子が何やらメラメラと闘志を燃やし始めた。「だからって手は抜くなよみんな!特に女だらけのチームに負けたくねぇ…!」 「同感だね!!」 「負けませんっ!!」 そこに便乗して気炎を上げる小鳥遊と春奈。女って怖ぇ、とぼそっと呟く風丸。ああ、確かに。「見せろ、稲妻魂!!」 「「「おーっ!!」」」 円堂のかけ声と共に、メンバーがフィールドに散っていく。高らかに鳴るホイッスル。 雷門のキックオフで試合開始だ。 レーゼがバックパスで、木暮にボールを出す。木暮が頷き、高くボールを蹴り上げた。「くらえっ彗星シュート!!」 本来彼はDFだが。今回はロングシュート要員もかねて、MFに起用した。彗星シ ュートを覚えさせといて正解だったなと思う。青く尾を引いて、流れ星のようなシュートが大阪CCCギャルズのゴールへ向かう 。「その程度、甘いんだわさ!!」 GK、土州恋。女相撲チャンプだという巨漢の彼女は、その手を大きく振り上げ る。彼女の指先から延びた紫色の爪が、ボールに向けて振り下ろされた。「スラッシュネイル!!」 げ、と口の中で呟く。鋭く光る爪のオーラが、ボールをまるで林檎のように八つ裂きにしていた。 またなんて恐ろしい技。女の子の本気、というヤツなのか。「のっこ!!」 ボールは恋から、MFの蛸屋紀子へ。そのまま上がっていく紀子を、止めに行く 木暮。しかし木暮がスライディングするより先に、ボールはリカへと回っていた。「さぁ、うちのターンやでぇっ!!」 リカが鋭く中央へ切り込んで来る。それを阻止したのが、今回ボランチを任せた小鳥遊だった。「行かせないよ!!サイクロン!!」 小鳥遊の足を中心に、強い竜巻が巻き起こる。彼女が足を振り下ろすと、文字通りサイクロンがリカへと襲いかかった。 吹っ飛ばされなかったものの、ボールは小鳥遊へと渡る。「なんや、強い女の子もおるやんけ」「アンタもね」 ニッと笑い、小鳥遊はボールを風丸にパスする。風丸はそのスピードを生かし、サイドを神風のように駆け上がっていく。そこに向かってきたのが、大阪CCCギャルズの副将・御堂麗華だ。 「な、何だこの匂いは…?」 周囲にふわりと漂う甘い香りに、風丸がふらつく。まずい、と思った時には、膝をついた彼から麗華がボールを奪い取っていた。「必殺ブロック、グッドスメルやで。眠っときや!!」 まずい。シュートコースが空いてしまっている上、いつの間にか再びリカが前線に走り込んでいる。 必殺技が来る。ゴール前の円堂が、身構えるのが分かった。「行くでリカ!!」 「おうよ!!」 麗華とリカが手を繋ぎジャンプ。キラキラと鱗粉が散る。美しいアゲハ蝶が、二人の背中で大きく羽根を広げた。「バタフライドリーム!!」 虹色に輝くシュートが、雷門ゴールへ迫る。しかし円堂に届く前に、壁山がゴールを死守した。「行かせないっす!ザ・ウォール!!」 壁山の気合いと共に、大きな岩壁が地面からせり上がる。シュートはその壁に弾かれ、サイドラインを割っていった。「あちゃぁ…すみませんっす、キャプテン」 「いいって!気にすんな!!防いでくれて助かったぜ!!」 円堂が壁山の背中をパンパンと叩く。コーナーキックをとられてしまったが、ここは死守するしかない。どちらもまだ点がないこの状況。やはりこの試合、一点勝負になるだろう。−−ちょっと、油断してたかな。 一之瀬は再びリカを見る。自分達が不調である事を差し引いても、彼女も彼女のチームも予想以上の実力を持っている。−−いいよ。認める。君の実力は、ね。「守りきれーみんなー!!」 ベンチから聖也が叫ぶ。目金やマネージャー達からも応援の声が飛ぶ。 ゴールを守りきる。そして必ず勝ってみせる。−−だけどリカ。君の覚悟を試すのは、ここからだよ。 自分達は最強を名乗る。その為には相応しい強さを見せつける事が絶対条件なのだ。 プレッシャーはある。それでも今、一之瀬はワクワクしているのだ。サッカーを本気でやれる。それ以上に楽しい事は無いのだから。NEXT |
これも運命じゃないか。